睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療に欠かせないCPAP(シーパップ)療法。
多の方にとって有効な治療法ですが、「CPAP装置の音がうるさくて眠れない」「ゴーという音が気になる」といった騒音に関する悩みを抱えている方もいらっしゃいます。
CPAP装置は空気を送り出すためにどうしても音が発生しますが、その音を軽減し、より快適に治療を続けるための対策があります。
この記事ではCPAP使用時に発生する音の原因と種類、そして騒音を和らげるための具体的な方法について詳しく解説します。CPAPの音でお悩みの方はぜひ参考にしてください。
CPAP装置の音について知る
CPAP装置は内部のポンプが空気を送り出すことで動作します。この動作に伴い、物理的に音が発生します。
多くの現代のCPAP装置は静音設計が進んでいますが、それでも人によっては音が気になってしまうことがあります。
CPAP装置から出る音の種類
CPAP装置から発生する音には主にいくつかの種類があります。
- 装置本体の動作音(モーター音、空気の吸引音)
- マスクやチューブからの空気漏れによる音(シューシュー、ヒューヒューという音)
- 加湿器の水がポコポコ鳴る音
- フィルターの目詰まりによる音
音が「うるさい」と感じる場合、これらのいずれか、あるいは複数の音が原因となっている可能性があります。
なぜ音が出るのか
CPAP装置が音を出すのは空気を圧縮して一定の圧力を保つためにポンプが稼働するためです。このポンプの振動や空気が装置内を流れる際の摩擦などによって音が発生します。
また、マスクからの空気漏れは、圧力がかかった空気が漏れる際に特有の音を立てます。
CPAP騒音の主な発生源
発生源 | 音の種類 | 備考 |
---|---|---|
装置本体 | モーター音、吸引音 | 内部のポンプ動作 |
マスク/チューブ | 空気漏れ音 | フィッティング不良など |
加湿器 | 水の音 | 水位や設置状況 |
音が気になることの影響
CPAPの音が気になると入眠を妨げられたり、睡眠中に目が覚めてしまったりすることがあります。
このような影響がでてしまうとCPAP治療を継続することが難しくなったり、治療効果が十分に得られなかったりする可能性があります。
快適な睡眠のためには騒音対策が重要です。
CPAPの騒音の主な原因
CPAP使用時の騒音には装置そのものに起因するものと、使用方法や環境に起因するものがあります。原因を特定することが、適切な対策を講じる第一歩です。
装置本体からの音
装置本体から発生する音は主に内部のポンプの動作音です。新しい機種ほど静音設計が進んでいますが、ある程度の音は避けられません。
設置場所や周囲の環境によって、音が響きやすく気になることがあります。
マスクやチューブからの音漏れ
最も一般的な騒音の原因の一つが、マスクからの空気漏れです。マスクが顔にしっかりフィットしていないと、そこから空気が漏れて「シューシュー」という音が発生します。
チューブとマスクの接続部分が緩んでいる場合も同様の音が出ることがあります。
加湿器やフィルターの問題
加湿器を使用している場合、水が少なくなっていたり、加湿器の設置状態が悪かったりすると、「ポコポコ」という水の音が気になることがあります。
また、空気を取り込む部分のフィルターが汚れて目詰まりしていると、空気を吸い込む際に異音が発生することがあります。
騒音の原因と対策の方向性
原因 | 対策の方向性 | 備考 |
---|---|---|
本体音 | 設置場所、防音 | 機器自体の音量 |
空気漏れ | マスク調整、交換 | 最も多い原因 |
加湿器/フィルター | 手入れ、交換 | メンテナンス |
装置本体の音を軽減する方法
装置本体から出る音自体を完全に消すことは難しいですが、設置場所の工夫や簡単な対策で音を軽減できます。
設置場所の工夫
CPAP装置を設置する場所を変えるだけで音が響きにくくなることがあります。
- ベッドから少し離れた場所に置く
- 硬い床や壁から離し、カーペットや布の上に置く
- 安定した場所に置く(振動を抑える)
音が反響しやすい場所を避け、吸音性のあるものの近くに置くと効果的です。
防音対策グッズの利用
市販の防音対策グッズを活用することも有効です。
- 装置の下に防振マットや厚手の布を敷く
- 装置を囲むように簡易的な防音カバーや箱を設置する(ただし、通気性を確保することが重要)
ただし、装置の吸気口や排気口を塞がないように十分注意してください。
装置のメンテナンス
装置内部にホコリが溜まったり部品が劣化したりすると、動作音が大きくなることがあります。
定期的に医療機関で装置の点検やメンテナンスを受けることで騒音の悪化を防ぎ、安心して使用できます。
マスクやチューブからの音漏れ対策
マスクからの空気漏れによる音はCPAPの騒音の最も一般的な原因です。適切な対策で大幅に軽減できます。
マスクのフィッティング調整
マスクが顔にしっかりフィットしているか確認し、調整します。
- マスクのサイズが合っているか確認する
- ヘッドギアのストラップを適切に調整する(締め付けすぎも緩すぎも良くない)
- 寝る前にマスクを装着し、空気漏れがないか確認する
空気漏れしやすい箇所(鼻の付け根、頬など)を重点的に確認します。
マスクの種類を見直す
現在のマスクの種類がご自身の顔の形や寝相に合っていない場合、別の種類のマスクを試すことで空気漏れが改善し、騒音が軽減されることがあります。
鼻マスク、鼻ピローマスク、フルフェイスマスクなど様々なタイプがあります。医療機関で相談し、試着してみることをおすすめします。
マスクの種類と空気漏れ
マスクの種類 | 特徴 | 空気漏れしやすい箇所 |
---|---|---|
鼻マスク | 鼻を覆う | 鼻の付け根、頬 |
鼻ピローマスク | 鼻孔に挿入 | 鼻孔周り |
フルフェイスマスク | 鼻と口を覆う | 顔全体 |
チューブの取り扱い
チューブとマスク、またはチューブと装置の接続部分が緩んでいると、そこから空気が漏れて音が出ることがあります。接続部分がしっかり固定されているか確認しましょう。
また、チューブが寝具などに擦れる音も気になることがあるため、チューブの位置を調整したり、チューブカバーを使用したりするのも有効です。
加湿器やフィルター関連の対策
CPAP装置の加湿器やフィルターに関連する音も適切な手入れや交換で軽減できます。
加湿器の手入れ
加湿器の水位が低すぎるとポンプが空気を吸い込む際に「ポコポコ」という音が大きくなることがあります。適切な水位を保つようにしましょう。
また、加湿器の水タンクにミネラル分などが溜まると異音の原因となることがあるため、定期的に清掃し、清潔に保つことが大切です。
フィルターの交換
CPAP装置の空気取り込み口にあるフィルターがホコリなどで目詰まりすると空気を吸い込む際に抵抗が生じ、異音が発生することがあります。フィルターは定期的に清掃または交換が必要です。
交換時期については装置の取扱説明書を確認するか、医療機関に問い合わせてください。
メンテナンスによる騒音対策
部品 | 手入れ/交換 | 期待できる効果 |
---|---|---|
加湿器 | 水位調整、清掃 | 水の音軽減 |
フィルター | 清掃、交換 | 吸気音の改善 |
チューブ | 清掃、確認 | 異音や空気漏れ防止 |
水位の確認
加湿器を使用する際は毎晩適切な量の水を補給し、水位が極端に低くならないように注意しましょう。
これにより水の音の問題を防ぎやすくなります。
騒音以外のCPAP使用時の問題
CPAP使用時には騒音以外にもいくつかの問題が発生することがあります。これらの問題もCPAP治療の継続に影響するため、適切に対処することが大切です。
乾燥や鼻詰まり
CPAPから送られる空気によって鼻や喉が乾燥したり、鼻詰まりを起こしたりすることがあります。
加湿器の使用や鼻腔ケア、必要に応じて耳鼻咽喉科での治療を検討します。
マスクの不快感
マスクの圧迫感やかゆみ、肌荒れなどが生じることがあります。
マスクのフィッティングを調整したり、肌に優しい素材のマスクを試したり、スキンケアを行ったりすることで改善できる場合があります。
慣れの問題
新しい機器を装着して眠ること自体に慣れない、という方もいます。
短時間からの使用やリラックスできる環境作り、日中の眠気対策などが有効です。
CPAP使用時のその他の問題
問題 | 主な原因 | 対策 |
---|---|---|
乾燥/鼻詰まり | 空気、鼻炎など | 加湿、鼻腔ケア |
マスク不快感 | フィッティング、素材 | 調整、マスク変更 |
慣れない | 精神的抵抗 | 短時間使用、環境整備 |
医療機関への相談の重要性
CPAP使用時の騒音やその他の問題で悩んでいる場合は一人で解決しようとせず、必ず医療機関に相談してください。
専門家のアドバイスやサポートを受けることが治療を快適に継続するために重要です。
いつ相談すべきか
以下のような場合は早めに医療機関に相談することをおすすめします。
- CPAPの音が気になって眠れない日が続いている
- 自分で対策を試しても騒音が改善しない
- マスクからの空気漏れがひどい
- 装置から異音が出ているように感じる
- 騒音以外にもCPAP使用で困っていることがある
医師ができること
医師やCPAPの専門スタッフは騒音の原因を特定するためにCPAP装置のデータを確認したり、マスクのフィッティングをチェックしたりします。
必要に応じて装置の設定を変更したり、別の種類のマスクを提案したり、メンテナンスの必要性を判断したりします。
また、騒音以外の問題についても相談に応じ、適切な対処法を提案します。
クリニックでのサポート
当クリニックではCPAP治療を安心して継続できるよう、様々なサポートを行っています。
CPAP装置の貸し出しやメンテナンス、マスクのフィッティング調整、使用に関するアドバイスなど、患者さんの困りごとに寄り添い、解決をサポートします。C
PAPの騒音や使用に関する疑問、不安があればどんなことでもお気軽にご相談ください。
よくある質問
CPAP装置の音は故障ですか?
CPAP装置は構造上、動作音が多少発生します。そのため、音がすること自体が必ずしも故障を示すわけではありません。
しかし、いつもと違う大きな音や異音(ガタガタ、キュルキュルなど)がする場合は装置の異常や故障の可能性も考えられます。
そのような場合は使用を中止し、速やかに医療機関に連絡して点検を受けてください。
新しいCPAP装置は静かですか?
CPAP装置は年々改良が進んでおり、新しい機種ほど静音設計がされている傾向があります。
もし現在使用している装置の音が特に気になる場合は、新しい機種への変更について医療機関に相談してみるのも一つの方法です。ただし、機種変更には医師の判断や手続きが必要です。
家族がCPAPの音で眠れないと言います。どうすればいいですか?
ご自身のCPAPの音がご家族の睡眠を妨げている場合、まずはご自身の騒音対策(設置場所の工夫、マスクの調整、メンテナンスなど)をしっかり行いましょう。
それでも改善しない場合はご家族にも協力してもらい、寝室の環境を見直したり、耳栓の使用を検討したりすることも有効です。
また、医療機関に相談し、より静かな機種がないか、他の対策がないかなどを相談することも大切です。
以上
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