睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療法として広く行われているCPAP(シーパップ)療法。
「CPAPを始めたのに、かえって眠れない」「熟睡できない」「機器に慣れない」といった悩みを抱えている方も少なくありません。
CPAPはSASによる無呼吸や低呼吸を防ぎ、睡眠の質や日中の症状を改善させるために大変有効な治療法ですが、慣れるまでには時間がかかる場合もあります。
この記事ではCPAP使用中に眠れない、熟睡できないと感じる場合の主な原因と、それぞれの具体的な対処方法について詳しく解説します。
CPAP治療を快適に続け、より良い睡眠を手に入れるための参考にしてください。
CPAP療法とは
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)療法は睡眠時無呼吸症候群、特に閉塞性睡眠時無呼吸タイプに対する主要な治療法です。
専用の装置からチューブとマスクを介して空気を送り込み、寝ている間の気道の閉塞を防ぎます。
CPAPの基本的な役割
CPAP装置は設定された一定の圧力を気道にかけ続けます。この陽圧によって睡眠中に舌の付け根や喉の周りの組織が落ち込み、気道が狭くなったり塞がったりするのを物理的に防ぎます。
これにより無呼吸や低呼吸の発生を抑制し、体内の酸素レベルの低下や睡眠の分断を防ぎます。
SAS治療におけるCPAPの重要性
CPAP療法は中等症から重症の睡眠時無呼吸症候群に対して最も効果的な治療法として世界的に確立されています。
適切に使用すれば無呼吸や低呼吸の回数を大幅に減らし、いびきを解消し、日中の眠気を改善させます。
また、SASが原因で引き起こされる高血圧や心血管疾患などのリスクを低減する上でも重要です。
CPAPで期待できる効果
CPAP療法を継続することで以下のような様々な効果が期待できます。
- 無呼吸・低呼吸の回数の減少
- いびきの解消
- 日中の眠気や倦怠感の改善
- 集中力や注意力の向上
- 夜間の頻尿の改善
- 血圧の安定
- 心血管疾患リスクの低減
これらの効果は治療を継続することでより実感しやすくなります。
CPAPを使っても眠れない原因
CPAP療法は効果的な治療法ですが、使い始めの頃や使用中に「眠れない」「熟睡できない」と感じる方もいます。
これにはいくつかの原因が考えられます。
機器やマスクの不適合
CPAP装置やマスクがご自身に合っていない場合、快適な睡眠を妨げることがあります。
マスクのサイズが合わない、装着感が悪い、空気漏れがあるなどが原因で不快感が生じ、眠りを妨げます。
圧力が合っていない
CPAP装置から送られる空気の圧力が適切でない場合も眠りを妨げる原因となります。
圧力が低すぎると無呼吸が十分に抑えられず、高すぎると息苦しさや不快感を感じることがあります。
CPAP使用中の不快感の原因
原因 | 具体的な症状 | 備考 |
---|---|---|
マスク不適合 | 空気漏れ、顔の圧迫 | サイズや種類の確認 |
圧力不適切 | 息苦しさ、圧迫感 | 医師への相談が必要 |
乾燥 | 鼻や喉の乾燥 | 加湿器の使用を検討 |
鼻や喉の乾燥、鼻詰まり
CPAPから送られる空気によって鼻や喉が乾燥することがあります。特に冬場など空気が乾燥している時期や、鼻炎などで鼻詰まりがある場合に起こりやすい症状です。
乾燥や鼻詰まりは不快感や息苦しさを引き起こし、眠りを妨げる原因になります。
精神的な慣れの問題
新しい機器を装着して眠ること自体に精神的な抵抗や不安を感じ、眠りに入りにくい場合があります。これはCPAP治療を開始したばかりの方によく見られる問題です。
慣れるまでには時間が必要な場合があります。
機器・マスクの調整と選び方
CPAP使用中の不快感を軽減し、快適な睡眠を得るためには機器やマスクの適切な調整と選択が重要です。
マスクの種類と特徴
CPAPマスクにはいくつかの種類があります。
- 鼻マスク:鼻を覆うタイプ
- 鼻ピローマスク:鼻孔に挿入するタイプ
- フルフェイスマスク:鼻と口を覆うタイプ
それぞれに特徴があり、寝相や口呼吸の有無など患者さんの状態によって適したマスクが異なります。
マスクのフィッティング調整
マスクが顔にしっかりフィットしているかを確認することは大切です。
サイズが合っているか、ストラップの締め付けは適切かなどを確認し、空気漏れがないように調整します。
ただし、締め付けすぎると顔に跡がついたり、痛みが生じたりするので注意が必要です。
マスク選びと調整のポイント
項目 | ポイント | 備考 |
---|---|---|
マスクの種類 | 寝相や口呼吸の有無で選択 | 医師やスタッフに相談 |
サイズ | 顔にフィットするものを選ぶ | 試着が重要 |
フィッティング | 空気漏れがないか確認 | 締め付けすぎに注意 |
機器の設定確認
CPAP装置の圧力設定が適切であるかを確認します。圧力が高すぎる、または低すぎる場合は医師に相談して調整してもらいます。
また、ランプ機能(徐々に圧力が上がる機能)や加湿器機能など快適な睡眠をサポートする設定がある場合は活用を検討します。
鼻や喉のトラブルへの対処
CPAP使用中に鼻や喉の乾燥、鼻詰まりといった症状が出た場合、適切な対処を行うことで不快感を軽減できます。
加湿器の使用
CPAP装置に加湿器機能がついている場合は積極的に使用することをおすすめします。
加湿器を使うことで送られる空気に湿り気を与え、鼻や喉の乾燥を防ぎます。加湿レベルは調整できるので、ご自身が快適と感じる湿度に設定してください。
鼻腔ケア
鼻うがいや点鼻薬の使用も鼻や喉の乾燥、鼻詰まりの症状緩和に役立つことがあります。
ただし、使用する際は医師に相談し、適切な方法で行ってください。
鼻や喉のトラブル対策
症状 | 対処法 | 備考 |
---|---|---|
乾燥 | 加湿器の使用 | 適切な湿度に調整 |
鼻詰まり | 鼻腔ケア、点鼻薬 | 医師に相談 |
口呼吸 | フルフェイスマスク検討 | またはチンストラップ |
鼻詰まりへの対応
慢性的な鼻炎や副鼻腔炎などによる鼻詰まりがある場合は耳鼻咽喉科での治療が必要なこともあります。
鼻詰まりが改善すれば、CPAP使用時の不快感が軽減され、より快適に眠れるようになります。CPAP治療と並行して鼻の治療も検討することが大切です。
CPAPに慣れるための工夫
CPAP治療を始めたばかりの頃は機器の装着や空気圧に違和感があり、なかなか眠れないと感じることがあります。
CPAPに慣れるためには、いくつかの工夫を試してみましょう。
短時間からの使用
最初から一晩中装着するのが難しい場合は日中のリラックスしている時間や、眠りにつく前の短時間だけ装着することから始めてみましょう。
機器やマスクに慣れることを目的に、徐々に装着時間を長くしていきます。
リラックスできる環境作り
寝室の環境を整え、リラックスして眠りにつけるように工夫することも大切です。
適切な室温や湿度、静かで暗い環境はCPAP使用の有無にかかわらず、質の良い睡眠のために必要です。
CPAP慣れのためのヒント
工夫 | 具体的な方法 | 期待できる効果 |
---|---|---|
短時間使用 | 日中や寝る前に装着 | 機器への抵抗感を減らす |
環境整備 | 寝室を快適に | リラックスして入眠 |
日中の眠気対策 | 仮眠を適切に | 夜間の入眠をスムーズに |
日中の眠気を軽減する
CPAP治療を継続することで日中の眠気は改善されるはずですが、治療開始初期にはまだ眠気が残っている場合があります。
日中の強い眠気があると夜間にCPAPを装着して眠りにつくのが難しくなることもあります。
適切な仮眠をとるなどして日中の眠気をコントロールすることも、夜間のCPAP使用につながります。
他の治療法や併用について
CPAP療法が合わない場合や、症状の程度によっては、他の治療法を検討したり、CPAP療法と他の治療法を組み合わせたりすることもあります。
マウスピース
軽症から中等症のSASに対しては、マウスピース(口腔内装置)が有効な場合があります。マウスピースは下顎を前方に突き出すように固定し、気道を広げることで無呼吸やいびきを軽減します。
CPAPが合わない場合の選択肢の一つとなります。
生活習慣の改善
肥満がある場合は減量、喫煙習慣がある場合は禁煙、過度の飲酒がある場合は飲酒量を減らすなど、生活習慣の改善はSAS治療の基本であり、CPAP療法と並行して行うことが大切です。
生活習慣の改善によってCPAPの必要とする圧力が下がったり、治療効果が高まったりすることがあります。
CPAP以外の治療選択肢
治療法 | 概要 | 備考 |
---|---|---|
マウスピース | 下顎を前進 | 軽症〜中等症向け |
減量 | 体重を減らす | 肥満が原因の場合に有効 |
禁煙・節酒 | 習慣を見直す | 全身の健康にも良い |
減量
特に肥満がSASの主な原因である場合、体重を減らすことは症状の改善に非常に効果的です。
CPAP療法を行いながら減量に取り組むことでCPAPの効果を高めたり、将来的にはCPAPが不要になったりする可能性もあります。
健康的な減量方法については医師や管理栄養士に相談することをおすすめします。
医療機関への相談の重要性
CPAP使用中に眠れない、熟睡できないといった悩みがある場合は、一人で抱え込まずに必ず医療機関に相談してください。
専門家のアドバイスやサポートを受けることが治療を継続する上で大変重要です。
いつ相談すべきか
以下のような場合は早めに医療機関に相談することをおすすめします。
- CPAP使用開始から数週間経っても慣れない
- マスクの不快感や空気漏れが改善しない
- 鼻や喉の乾燥、鼻詰まりがひどい
- CPAPを使っているのに日中の眠気が改善しない
- 機器の調子が悪いと感じる
- CPAP治療を続けられるか不安がある
医師ができること
医師は患者さんのCPAPの使用状況や睡眠の状態を詳しく聞き取り、原因を探ります。機器のデータを確認したり、必要に応じて設定を変更したり、マスクの種類やサイズを再検討したりします。
また、鼻や喉の症状に対して適切な処置や投薬を行うこともあります。
医療機関への相談内容
相談内容 | 医療機関の対応 | 備考 |
---|---|---|
眠れない・慣れない | 原因の特定、アドバイス | 使用状況を確認 |
マスクの不具合 | 調整、交換の検討 | フィッティング指導 |
鼻・喉の症状 | 加湿設定、投薬など | 耳鼻科連携も |
継続的なサポート
CPAP療法は長期にわたる治療となることが一般的です。当クリニックでは定期的な受診を通じて、CPAPの使用状況を確認し、困っていることや不安なことについて相談に応じます。
機器のメンテナンスや交換のサポートも行い、患者さんが安心して治療を継続できるようサポート体制を整えています。
CPAP治療に関する疑問や悩みはどんなことでもお気軽にご相談ください。
よくある質問
Q.CPAPに慣れるまでどのくらいかかりますか?
A. CPAPに慣れるまでの期間には個人差があります。多くの方は数日から数週間で慣れてきますが、中には1ヶ月以上かかる方もいます。大切なのは、諦めずに毎日使用を続けることです。
短時間からの使用やマスク・機器の調整、加湿器の利用など様々な工夫を試しながら徐々に慣れていくことが大切です。
Q. CPAPの圧力を自分で調整できますか?
A. CPAP装置の圧力設定は患者さんの睡眠時無呼吸の状態に基づいて医師が決定します。自己判断で圧力を変更することはできません。
圧力が合っていないと感じる場合や息苦しさなどの症状がある場合は、必ず医師に相談してください。医師が機器のデータを評価し、必要に応じて適切な圧力に調整を行います。
Q. CPAP使用中に口呼吸をしてしまいますが大丈夫ですか?
A. CPAP使用中に口呼吸をしてしまうと空気が口から漏れてしまい、十分な圧力が気道にかからず治療効果が低下する可能性があります。また、口や喉の乾燥の原因にもなります。
口呼吸が改善しない場合は鼻と口を覆うフルフェイスマスクの使用を検討したり、口が開かないようにチンストラップを使用したりする方法があります。
医師に相談し、適切な対処法を見つけましょう。
以上
参考にした論文
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