睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療でCPAP(シーパップ)療法を始める際、CPAP装置(機械・機器)とともに重要になるのが「マスク」です。
CPAPマスクは装置から送られる空気を顔に届け、気道を広げるための大切な接点。しかし種類が多く、「どれを選べばいいの?」「どうやって着ければいいの?」と戸惑う方も少なくありません。
この記事ではCPAPマスクの種類とそれぞれの特徴、自分に合ったマスクの選び方、そして快適な睡眠を得るための正しい装着方法について詳しく解説します。
CPAP療法とマスクの役割
まず、CPAP療法におけるマスクの基本的な役割と、なぜ適切なマスク選びが重要なのかを確認しましょう。
CPAP療法とは
CPAP療法は睡眠中に持続的に陽圧の空気を送り込むことで喉の奥(上気道)が塞がるのを防ぎ、無呼吸や低呼吸を改善する治療法です。
この治療法を行うことで睡眠の質を高め、日中の眠気や合併症のリスクを軽減します。
なぜマスクが重要なのか
CPAPマスクはCPAP装置本体と患者さんをつなぐ唯一の接点です。
マスクが顔にぴったり合っていないと、せっかく装置から送られた空気が隙間から漏れてしまい(エアリーク)、治療効果が十分に得られません。
また、マスクによる不快感や痛みは治療を継続する上での大きな妨げとなります。
つまり適切なマスクを選ぶことは、CPAP療法の効果と継続性の両方にとって極めて重要です。
マスクが合わないとどうなるか
マスクの選択や装着が不適切な場合、以下のような問題が生じやすくなります。
マスク不適合による主な問題
問題点 | 主な原因 | 影響 |
---|---|---|
エアリーク(空気漏れ) | サイズ・形状不適合、装着不良、劣化 | 治療効果低下、騒音、目の乾燥・不快感 |
痛み・圧迫感 | 締めすぎ、サイズ・形状不適合 | 不快感、皮膚への跡、睡眠妨害 |
皮膚トラブル | 素材、圧迫、汚れ、汗 | 赤み、かぶれ、ニキビ、痒み |
これらの問題は治療意欲の低下につながりかねません。
CPAPマスクの主な種類
CPAPマスクには主に顔のどの部分を覆うかによっていくつかのタイプがあります。それぞれの特徴を知り、自分に合いそうなものをイメージしてみましょう。
ネーザルピローマスク
鼻の穴(鼻孔)に直接、または鼻孔の入り口に、シリコン製の小さなクッション(ピロー)を当てて空気を送り込むタイプです。「鼻ピローマスク」とも呼ばれます。
- 長所: 顔に触れる面積が最も小さく、圧迫感が少ない。視界が広く、眼鏡をかけたまま装着したり、寝る前に読書したりしやすい。寝返りも比較的打ちやすい。
- 短所: 鼻の穴に直接当てるため、鼻孔への刺激を感じることがある。鼻詰まりがある場合や高い圧力が必要な場合には空気漏れが起きやすかったり、不快感が出たりすることがある。
ネーザルマスク
一般的に「鼻マスク」と呼ばれるタイプで、鼻全体を三角形やドーム状のクッションで覆います。最も標準的なタイプの一つです。
- 長所: 鼻全体を覆うため安定感があり、ネーザルピローよりも高い圧力に対応しやすい。様々な形状やサイズの製品があり、多くの人の顔に合わせやすい。
- 短所: 鼻梁(鼻筋)部分に圧力がかかりやすく、痛みや跡が残ることがある。ネーザルピローに比べると視界がやや狭くなる。
ネーザルマスクの形状例
形状タイプ | 特徴 |
---|---|
標準タイプ | 鼻全体を覆う三角形に近い形状 |
額当て付きタイプ | 額に支えがあり、安定性が高い |
額当てなしタイプ | 額当てがなく、視界が広い |
フルフェイスマスク
鼻と口の両方を同時に覆う、顔全体を覆うような大きめのマスクです。「口腔鼻マスク」とも呼ばれます。
- 長所: 睡眠中に口を開けてしまう癖がある方(口呼吸)や、重度の鼻詰まりがある方でも使用できる。高い圧力にも対応しやすい。
- 短所: 顔に接触する面積が最も大きく、圧迫感や閉塞感を感じやすい。エアリーク(特に口周り)が起こりやすい。装着したままでは飲食や会話ができない。
マスクタイプの選択目安
マスクタイプ | 主な適応 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
ネーザルピロー | 鼻呼吸主体、圧迫感が苦手な方 | 接触面積小、視界広い | 鼻詰まり・高圧に弱い傾向 |
ネーザルマスク | 鼻呼吸主体、標準的な選択肢 | 安定性、適合性高い | 鼻梁への圧迫、視界制限 |
フルフェイスマスク | 口呼吸、重度鼻閉、高圧 | 口呼吸・鼻閉に対応 | 接触面積大、圧迫感、リークしやすい |
自分に合ったマスクを選ぶポイント
多様なマスクの中から自分にとって最適なものを選ぶためにはいくつかの要素を考慮する必要があります。
医療スタッフと相談しながらじっくり選びましょう。
顔の形とサイズ
マスクが顔の曲線に沿って隙間なくフィットすることが最も重要です。
鼻の高さ、頬骨の張り具合、顎の形などは人それぞれ異なります。マスクには複数のサイズ(S, M, Lなど)が用意されているので、自分の顔に合ったサイズを選びます。
小さすぎると圧迫感が強く、大きすぎるとエアリークの原因になります。
呼吸の仕方(鼻呼吸か口呼吸か)
普段から鼻呼吸が問題なくできている方はネーザルピローかネーザルマスクが適しています。
しかし、寝ている間に無意識に口が開いてしまう方やアレルギー性鼻炎などで鼻詰まりが頻繁にある方は、鼻からの空気だけでは治療効果が得られにくいため、フルフェイスマスクが必要となる場合があります。
また、口呼吸対策としてチンストラップ(顎紐)を併用し、ネーザル系マスクを使用する方法もあります。
CPAPの圧力設定
処方されるCPAPの圧力(治療圧)の高さも考慮します。
一般的に高い圧力が必要な場合は、エアリークが起こりにくく安定性の高いネーザルマスクやフルフェイスマスクが適しているとされます。
ネーザルピローは高圧になると鼻孔への刺激や漏れが問題になることがあります。
ライフスタイルと好み
個人の感覚や生活習慣も選択のポイントです。
- 閉所恐怖感: 閉塞感が苦手な方は顔を覆う面積が小さいネーザルピローが良いかもしれません
- 寝相: 寝返りが多い方はチューブ接続部が回転するなど動きに対応しやすい構造のマスクを選びます
- 皮膚の敏感さ: 肌が弱い方はシリコン素材の種類や接触面積の少ないマスクを試してみるとよいでしょう
- 眼鏡の使用・読書: 就寝前に眼鏡をかけて読書などをしたい場合は額当てのないネーザルマスクやネーザルピローが便利です
マスク選びの自己チェック項目
チェック項目 | 自分の状況は? |
---|---|
顔の特徴 | 鼻は高い/低い? 頬骨は張っている? 顎は小さい? |
呼吸 | 主に鼻呼吸? 口呼吸の癖がある? 鼻詰まりは? |
感覚 | 圧迫感は苦手? 閉所恐怖感は? 肌は敏感? |
生活習慣 | 寝相は良い/悪い? 寝る前に読書する? 眼鏡は? |
正しいCPAPマスクの装着方法
自分に合ったマスクを選んだら、次は正しく装着することが重要です。適切な装着がエアリークを防ぎ、快適な治療につながります。
装着前の準備
毎晩マスクを装着する前に顔を洗い、皮脂や化粧品などを落として清潔にしておくと、マスクの密着性が高まり、皮膚トラブルの予防にもなります。
マスクのクッション部分も清潔にしておきましょう。
ヘッドギア(ベルト)の調整
マスクはヘッドギアと呼ばれる伸縮性のあるベルトで頭部に固定します。このヘッドギアの締め具合が非常に重要です。
- まず、マスクを顔の正しい位置(鼻や鼻と口)に当てます。
- ヘッドギアを頭にかぶり、上下左右のベルトを均等に、緩すぎず締めすぎず調整します。
- CPAP装置の電源を入れ、空気が送られている状態で最終調整します。
ポイント: 締めすぎは痛みや圧迫痕の原因となり、緩すぎはエアリークの原因となります。「エアリークしない範囲で、できるだけ緩めに」調整するのがコツです。
指が1~2本、ベルトと顔の間に入る程度の締め付けを目安にすることが多いですが、マスクの種類によっても異なります。
エアリーク(空気漏れ)のチェック方法
CPAP装置を作動させた状態でマスクの周りから「シュー」という空気の漏れる音がしないか、漏れた空気が目などに当たらないかを確認します。
特に寝返りを打った時など、姿勢を変えても漏れにくいかチェックします。
漏れがある場合はマスクの位置を微調整したり、ヘッドギアの締め具合を少しだけ調整したりします。
エアリークしやすい箇所と対策
漏れやすい箇所 | 主な原因 | 対策例 |
---|---|---|
鼻梁(鼻筋) | マスク形状と鼻の形が合わない | マスク位置調整、パッド使用、マスク変更 |
頬の横 | ヘッドギア下側ベルトの緩み、サイズ不適合 | ベルト調整、サイズ確認 |
口周り(フルフェイス) | 口の動き、顎の形との不適合 | マスク位置調整、サイズ確認、マスク変更 |
装着時の快適性を高めるコツ
マスク装着時の不快感を軽減するための工夫もあります。
- マスクライナー/パッド: マスクと肌の間に挟む布製のライナーやジェルパッドなどがあり、圧迫感を和らげたり皮膚を保護したりするのに役立ちます
- 皮膚保護剤: 特に圧迫されやすい部分にあらかじめ保護テープやワセリンなどを塗っておくことで、皮膚トラブルを予防できる場合があります
- 加湿器の使用: 鼻や口の乾燥を防ぎ、快適性を向上させます
これらの工夫については、医療機関で相談してみましょう。
CPAPマスクのフィッティングと調整
最適なマスクを見つけ、正しく装着するためには、医療機関での専門的なフィッティングと継続的な調整が大切です。
医療機関での試着の重要性
CPAP療法を開始する際には必ず医療機関で複数の種類のマスクを試着させてもらいましょう。パンフレットや見た目だけでは、実際のフィット感や快適性は分かりません。
専門スタッフのアドバイスを受けながら様々なタイプ、サイズを試すことが、最適なマスク選びへの近道です。
フィッティング時の確認事項
試着の際には以下の点を確認しましょう。
- 密閉性: 顔に当ててみて、大きな隙間がないか。CPAP装置をつないで圧力をかけた状態でエアリークがないか。
- 快適性: 強い圧迫感や痛みを感じる部分はないか。
- 安定性: 少し顔を動かしたり、寝返りを打つような姿勢をとったりしてもマスクがずれにくいか。
- 視界や閉塞感: 装着した時の視界はどうか、閉塞感は耐えられそうか。
定期的な見直しと再調整
一度選んだマスクがずっと最適とは限りません。
体重の変化、肌の状態の変化、マスク自体の劣化などによって、フィット感が変わってくることがあります。また、新しいタイプのマスクが登場することもあります。
定期的な診察の際にマスクの状態や使用感について医師やスタッフに伝え、必要であればマスクの種類やサイズの変更、ヘッドギアの調整などを検討しましょう。
CPAPマスクの日常的な手入れとメンテナンス
CPAPマスクを清潔に保ち、良い状態を維持することは快適な治療の継続と感染予防のために重要です。
なぜ手入れが必要なのか
マスクには皮脂、汗、呼気中の湿気などが付着します。これらを放置すると雑菌が繁殖し、皮膚トラブルや感染症の原因となる可能性があります。
また、汚れや劣化はマスクの密閉性を低下させ、エアリークの原因にもなります。
毎日の洗浄方法
顔に直接触れるマスクのクッション部分は、毎朝使用後に洗浄するのが基本です。
- マスクをヘッドギアから取り外します(可能なタイプの場合)
- 中性洗剤を少量溶かしたぬるま湯でクッション部分を指で優しくこすり洗いします
- 洗剤が残らないように流水で十分にすすぎます
- 清潔なタオルで水気を軽く拭き取り、直射日光の当たらない場所で自然乾燥させます
※アルコールや漂白剤、強い洗剤の使用は素材を傷める可能性があるので避けてください
定期的な洗浄(ヘッドギア・チューブ)
マスクのヘッドギアやエアチューブも週に1回程度を目安に洗浄します。マスククッションと同様に中性洗剤を入れたぬるま湯で手洗いし、よくすすいで陰干しします。
チューブ内は完全に乾かしてから使用してください。
マスク関連部品の手入れ頻度目安
部品 | 手入れ頻度 | 方法 |
---|---|---|
マスククッション | 毎日 | 中性洗剤で洗浄 |
ヘッドギア | 週1回程度 | 中性洗剤で洗浄 |
エアチューブ | 週1回程度 | 中性洗剤で洗浄 |
※詳細な手入れ方法は使用しているマスクや装置の取扱説明書に従ってください
消耗品の交換時期の目安
マスクやその部品は消耗品です。使用とともに劣化し、フィット感や密閉性が低下します。
交換時期の目安は製品によって異なりますが、一般的には以下の通りです。
- マスククッション: 3ヶ月~半年ごと
- マスク本体・ヘッドギア: 半年~1年ごと
- エアチューブ: 1年ごと
傷、ひび割れ、変形、変色、著しい汚れなどが見られる場合は目安の時期より早くても交換が必要です。
保険適用のレンタルの場合、定期的に交換品が供給されることが多いですが、交換時期については医療機関やレンタル業者に確認しましょう。
よくある質問
Q1. マスクから空気が漏れるのですが、どうすればよいですか?
A1. まず、マスクが顔の正しい位置にあるか、ヘッドギアのベルトが均等に締まっているかを確認し、微調整してみてください。締めすぎも緩すぎもリークの原因になります。
それでも漏れる場合はマスクのサイズや種類が合っていない、あるいはマスク自体が劣化している可能性があります。
自己判断せず、早めに医療機関に相談し、フィッティングの再確認やマスクの変更を検討しましょう。
Q2. マスクの跡が顔に残ります。対策はありますか?
A2. ヘッドギアを締めすぎていないか確認してください。エアリークしない範囲で、できるだけ緩めるのが基本です。
それでも跡が残る場合はマスクと肌の間に挟む専用のパッドやライナーを使用したり、圧迫されやすい部分に保護テープを貼ったりする方法があります。
また、顔に当たる部分の形状が異なる他のマスクを試してみるのも有効です。医療機関で相談してみましょう。
Q3. 鼻詰まりがある場合、どのマスクが良いですか?
A3. 鼻詰まりが頻繁にある方や重度の方は、鼻と口の両方を覆うフルフェイスマスクが適していることが多いです。
ネーザルマスクやネーザルピローは鼻呼吸ができないと空気がうまく気道に届きません。
ただし、軽度の鼻詰まりであれば、CPAPの加湿機能を使ったり、点鼻薬を併用したりすることで、ネーザル系マスクが使用できる場合もあります。まずは医師に鼻の状態を相談することが重要です。
Q4. マスクの種類は自由に変更できますか?
A4. CPAP療法中にマスクが合わないと感じた場合、医療機関に相談すれば他の種類やサイズのマスクに変更することは可能です。
保険適用のレンタルの場合でも、通常、複数の選択肢の中から変更できます(ただし、医療機関やレンタル業者が扱っている製品に限られます)。
快適な治療のためには自分に合ったマスクを見つけることが大切ですので、不快感を我慢せず、遠慮なく相談してください。
以上
参考にした論文
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