DPP-4阻害薬を飲んでいて、かゆみが続いたり張りのある水ぶくれができたりしたら、水疱性類天疱瘡(すいほうせいるいてんぽうそう)という副作用を考えて皮膚科へ相談しましょう。まれな副作用ですが、赤みの少ない皮膚にも現れ、長年飲んでいる薬が関係することもあります。

薬の中止や変更は、皮膚科と糖尿病の主治医が連携して判断します。水ぶくれに気づいたら、まずは今飲んでいる薬の名前と皮膚の変化を伝えるところから始めます。

この記事では、DPP-4阻害薬と水疱性類天疱瘡の関係、見逃したくない初期症状、受診の目安と検査・治療を解説します。

目次

水疱性類天疱瘡は皮膚に張りのある水ぶくれができる病気

水疱性類天疱瘡は、体を守る免疫の働きが自分の皮膚を傷つけ、水ぶくれやかゆみを起こす病気です。主に高齢の方にみられ、水ぶくれが出る前から皮膚の異常が続く場合もあります。

皮膚の表面と内側をつなぐ部分が傷つく

皮膚の外側の薄い層を「表皮」、その下で皮膚を支える層を「真皮」と呼びます。この病気では、その境目をつなぐたんぱく質に対して自己抗体ができ、表皮が内側から離れて水分がたまります。

自己抗体とは、本来は異物から体を守る抗体が、自分の体の一部に反応するようになったものです。水ぶくれのある場所だけの傷というより、皮膚をつなぎとめる部分に免疫の反応が起きているため、離れた場所にも症状が現れます。

強いかゆみと、破れた後のただれに注意

水ぶくれは皮膚の表面がぴんと張った形になり、周りに赤みを伴うものも、赤みの乏しいものもあります。かゆみが強いと眠りが妨げられ、日中の生活にも負担が及びます。

水ぶくれが破れて皮膚の表面がむけた状態が「びらん」で、見た目には赤く湿ったただれです。受診時には水ぶくれが残っておらず、ただれやかき傷が中心になっていても、それまでの経過が診断に役立ちます。

虫刺され・やけど・湿疹との見た目の違い

水ぶくれやかゆみは、虫刺されなどでも起こるため、外見だけでは病名を決められません。出始めた状況と、その後に新しい場所へ広がったかを合わせて見ていきます。

皮膚の変化見分ける際に伝えたい状況
水疱性類天疱瘡が疑われる変化張りのある水ぶくれ、続くかゆみ、繰り返し出るただれ
虫刺され虫に触れた覚え、屋外で過ごした後の発疹
やけど熱い物などが触れた場所と、水ぶくれの場所の一致
湿疹赤みやかさつき、かき傷が続く経過

虫に刺された覚えがあるという理由だけで、繰り返す水ぶくれを同じ原因と決めつけず、薬の名前も含めて皮膚科へ伝えましょう。

DPP-4阻害薬で起こる頻度は低くても、皮膚の変化に注意

DPP-4阻害薬による水疱性類天疱瘡はまれですが、服用していない場合に比べて起こりやすくなります。頻度が低くても、出ている症状は早めに確かめます。

SU薬との比較では発症が多かった

DPP-4阻害薬を始めた人では、類天疱瘡の発症自体はまれでも、別系統の糖尿病薬であるSU薬を始めた人より起こりやすく、特に65歳以上で差が大きいという結果です(米国の約166万人の保険データに基づく比較)1)。

「起こりやすくなる」という比較は、飲んだ人の大半に水ぶくれが出るという意味ではありません。薬を選ぶ際の注意点と、実際に症状が出たときの対応は、分けて考えます。

電子添文の「頻度不明」が示すもの

ジャヌビア錠の電子添文(医療者向けの添付文書)では、類天疱瘡は「重大な副作用」の欄に頻度不明として記載されています。エクア錠やトラゼンタ錠、テネリア錠にも記載があり、水ぶくれやびらんが現れた場合は、皮膚科と相談し、中止などの処置を行うとされています。

頻度不明は、発症する割合を正確に示せる数字がないという表示です。副作用として受け付けられた報告の件数は、薬を飲んだ全員を追跡した数値とは集め方が違うため、発症率とは分けて読みます。

症状がなければ服薬を自己判断で変えない

薬の注意書きを読んで心配になっても、皮膚に異常がない段階では処方どおりの服用を続けます。治療を選ぶときは、皮膚の症状の有無を含め、血糖の状態に合う薬かどうかを判断します。

一方、かゆみや水ぶくれが現れた後は、定期受診までそのまま待つ対応では遅れるおそれがあります。長く服用できていたかどうかより、現在の皮膚の変化を優先して処方元へ連絡しましょう。

入浴や着替えの際は、いつもと違うかゆみや水ぶくれがないかを見ておくと役立ちます。家族が薬を管理している場合も、服薬だけでなく皮膚の変化を共有できると、受診のきっかけにつながります。

DPP-4阻害薬の種類や年齢・性別による違い

薬の種類によって発症との関係に差があり、特に高齢の方は皮膚症状に目を向けておきます。男性で目立つ傾向はあるものの、女性にも起こります。

エクアとトラゼンタで発症との関係が強い傾向

日本の後期高齢者33,241人の医療データでは、エクア(ビルダグリプチン)とトラゼンタ(リナグリプチン)で、類天疱瘡が起こりやすかったという結果が得られています2)。この2剤を飲んでいる方は、かゆみや水ぶくれを受診時に伝えるとき、薬の名前も一緒に伝えましょう。

ただし、ジャヌビア・グラクティブ(シタグリプチン)やテネリア(テネリグリプチン)でも、類天疱瘡は注意すべき副作用です。どの薬を飲んでいる場合も、皮膚の変化には同じように目を向けます。

高齢の方を中心に、男女ともに起こりうる

複数の研究をまとめた解析では、男性にも女性にもDPP-4阻害薬と類天疱瘡の関連がみられています3)。年齢や性別は注意を向ける材料で、その条件に当てはまらない人にも起こります。

  • 65歳以上の方 … SU薬との比較で発症の差が大きかった集団
  • 後期高齢者でエクア・トラゼンタを飲んでいる方 … 日本の医療データで発症との関係が目立った集団
  • 男性 … 日本のDPP-4阻害薬に関係する類天疱瘡で多くみられる傾向

女性や比較的若い方でも、水ぶくれが繰り返すときは、年齢・性別より症状の経過を優先して受診を判断します。

飲み始めから数年後にも発症する

医薬品の安全性情報を扱う医薬品医療機器総合機構(PMDA)の注意喚起(2023年7月)では、発症までの期間は服用開始後の早期から数年まで幅広いとされています。初期の皮膚の異常が出た後も投与が続き、悪化して入院に至った報告を踏まえた注意喚起です。

そのため、最近薬を替えていない方でも、続くかゆみを「長く飲んでいるから薬とは無関係」と判断せず、薬の開始時期と症状が出た時期を伝えましょう。以前からの薬も分かるお薬手帳があれば、処方の記録から時期をたどれます。

かゆみから水ぶくれへ、受診を急ぎたい変化

水疱性類天疱瘡は、水ぶくれができる前にかゆみや赤みから始まる場合があります。睡眠を妨げるかゆみや、原因の分からない水ぶくれを繰り返すときは、皮膚科への受診を先延ばしにしないでください。

かゆみや、じんましんのような盛り上がりが先に出る

初期には皮膚が赤くなったり、じんましんのように少し盛り上がった発疹が出たりして、水ぶくれが見当たらないことがあります。乾燥や湿疹だと思っている間に症状が続き、後から水ぶくれが現れる経過もあります。

水ぶくれがない時期に伝えたいのは、かゆみが始まった場所、眠れるかどうか、赤みが続いているかという具体的な変化です。市販の塗り薬で一時的に楽になっても、繰り返す場合は使用した薬と経過を診察時に伝えましょう。

水ぶくれの増加や食事への影響は当日の相談を

受診の急ぎ方は、水ぶくれの大きさだけでなく、増える速さと体全体への影響で変わります。特に優先したいのは、水分を飲めるか、皮膚のただれが広がっていないかという点。皮膚の一部分の見た目だけでなく、全身の様子も含めて受診の急ぎ方を決めます。

見られる変化対応の目安
続くかゆみ、赤み、盛り上がった発疹定期受診を待たず皮膚科へ相談
新しい水ぶくれ、繰り返す水ぶくれやただれ気づいた時点で皮膚科か処方元へ連絡
水ぶくれが急に増える、広くただれる、発熱を伴う当日中に受診先へ連絡して診察
口の痛みで飲めない、食べられない当日中に受診し、水分や食事への影響を説明

この目安は、病名を決めるためではなく、連絡を急ぐ症状を整理したものです。水分がとれずぐったりしているなど全身状態が悪いときは、通常の予約を待たず救急の受診が必要です。

入浴や着替えの場面で見つけたら経過を記録

たとえば、DPP-4阻害薬を飲んでいる方が入浴後、かゆかった太ももに新しい水ぶくれを見つけたら、スマートフォンでその場所を撮影し、薬の名前を手元に置いて受診先へ連絡します。日付が分かる写真があれば、受診までに水ぶくれが破れても、最初の形を伝えられます。

また、家族が着替えを手伝う場面では、本人が見えにくい背中などの皮膚にも目を向けると、変化に気づきやすくなります。写真と併せて伝えたいのは、夜に眠れたかなど、かゆみや痛みが生活に及ぼす影響です。

赤みが乏しい水ぶくれや、口の中のただれも見逃さない

赤く腫れていない皮膚にも、水疱性類天疱瘡の水ぶくれはできます。DPP-4阻害薬に関係するものは赤みが乏しいタイプもあるため、皮膚の色だけでなく、水ぶくれの広がりも見ていきます。

普段に近い色の皮膚に水ぶくれが出る

日本では、DPP-4阻害薬に関係する類天疱瘡に、周囲の赤みが少ないタイプが多くみられます。皮膚の色が大きく変わらなくても、表面が持ち上がって中に液体がたまる変化があれば、受診のきっかけになります。

見た目が穏やかだと、衣服のこすれや小さな傷として受け止めやすくなります。水ぶくれが離れた場所にも出るか、一度引いてまた出るかまで含めて経過を見ると、診察時に症状を具体的に説明できます。

赤みの強さより、繰り返しと広がりを見る

赤みの強いタイプと少ないタイプでは皮膚の色の変化の目立ち方が違いますが、どちらの見た目でも、新しい水ぶくれが続くなら検査の対象になります。

見た目のタイプ気づきやすい変化見落としやすい点
赤みが強いタイプ赤い発疹や盛り上がり、かゆみ湿疹やじんましんと思って経過を見続ける
赤みが目立たないタイプ普段に近い色の皮膚にできる水ぶくれ赤くないため薬との関連を考えにくい

ただし、薬が原因かどうかは、この2つの見た目だけでは判定できません。薬の服用歴と皮膚・血液の検査を合わせて、病名や薬との関係が判断されます。

口の痛みや食べにくさも診察時に伝える

DPP-4阻害薬に関係する類天疱瘡では、口の中などの粘膜にも症状が出ることがあります。粘膜とは口の内側などを覆う湿った薄い組織で、水ぶくれやただれができると、食べ物がしみたり食事が進みにくくなったりします。

皮膚のかゆみと口の痛みが同じ時期に出たら、別々の受診で済ませず、皮膚科にも両方の症状を伝えてください。類天疱瘡かどうかは、口の中の症状と皮膚の変化を合わせて診察します。

皮膚科では皮膚の一部と血液を調べて診断

疑わしい症状があるときは、見た目に加えて、皮膚の一部を採取する検査や血液の抗体検査で診断します。薬を飲んでいるという事実だけで、副作用と決めるわけではありません。

診察で確認するのは症状の順番と服薬歴

かゆみが先だったのか、水ぶくれが先だったのか、どの場所から広がったのかが、診察で確認されます。今ある皮膚症状に加え、赤みだけの時期の写真や、使った塗り薬の名前も診断に役立ちます。

糖尿病の薬以外も含めた服薬歴を見たうえで、DPP-4阻害薬を始めた時期と皮膚の変化の時期が照らし合わされます。薬の袋やお薬手帳があれば、販売名や成分の情報を正確に伝えられます。

皮膚の検査と抗体検査は調べる対象が違う

皮膚の一部を採取して調べる検査を「皮膚生検」と呼び、水ぶくれができている層や、免疫の反応が起きている場所を確認します。採取する場所は皮膚の状態に合わせて選ばれるため、診察で検査の方法と採取後の手当ての説明を受けます。

検査・診察調べる内容
皮膚と口の中の診察水ぶくれ・赤み・ただれの形と広がり
皮膚生検皮膚のどの層で変化が起きているか
採取した皮膚の免疫の検査皮膚の境目などに抗体が付着しているか
血液の抗体検査皮膚に反応する自己抗体の有無など

血液の検査と皮膚の検査では調べる対象が異なるため、採血の数値だけで受診を終えず、皮膚の診察結果と合わせて説明を受けましょう。

検査中も水ぶくれが増えたら連絡する

診断が確定する前でも、症状が広がったり、食事や睡眠が妨げられたりすれば、対応を見直します。検査結果の説明日が決まっていても、悪化したらその日を待たずに連絡できます。

受診の際には、結果を聞く日と、どの変化があればそれより前に連絡するかを確認しましょう。連絡先が皮膚科なのか処方元なのかが決まっていると、検査を待つ間に症状が変わったときも動きやすくなります。

DPP-4阻害薬の中止と皮膚の治療を一緒に進める

薬との関係が疑われる場合は、DPP-4阻害薬の中止などが検討され、必要に応じて皮膚の治療が加わります。中止後の経過は、皮膚の広がりや炎症がどれだけ続くかによって違います。

薬をやめた後に落ち着く人と、治療を要する人

日本の類天疱瘡の患者さんを調べた観察研究では、DPP-4阻害薬を中止した一部の患者さんは、ステロイドの飲み薬を使わずに症状が治まっています4)。薬を中止するときは、皮膚科と糖尿病の主治医が症状や検査の情報を共有します。

一方、中止しても水ぶくれやただれが続けば、皮膚の治療を受けながら経過を見ていきます。「何日やめれば終わる」と一律に区切るのではなく、新しい水ぶくれが止まったか、傷んだ皮膚が回復してきたかを診察で見ていきます。

ステロイドなどの治療は症状の範囲に応じて選ぶ

ステロイドなどの治療は、皮膚の炎症を抑えるためのものです。塗り薬や飲み薬のどれを使うかは、水ぶくれの範囲や全身の状態を踏まえて皮膚科で決まります。水ぶくれが急速に増える場合や、ただれが広く食事にも支障がある場合には、入院での対応が必要になることもあります。

塗り薬を続けても改善せず新しい水ぶくれが増えているときは、同じ対処を繰り返さず受診先へ連絡してください。

皮膚の症状が出ると、糖尿病の薬まで続けてよいのか不安になると思います。DPP-4阻害薬を中止する場合も、血糖の治療は主治医が別の薬に切り替えるなどして続けます。

受診時の情報が、皮膚科と処方元をつなぐ

受診時にそろえたいのは、薬の名前と、皮膚症状が変わってきた順番です。家族が付き添う場合も、本人の感じるかゆみや食べづらさと、家族が見た皮膚の変化を分けて伝えると状況が伝わりやすくなります。

  • 薬の名前 … お薬手帳、薬の袋、ほかの医療機関で処方された薬
  • 服用の開始時期 … 分かる範囲の年月と、途中で薬が変わった時期
  • 皮膚症状の経過 … かゆみ・赤み・水ぶくれの出た順番と写真
  • 生活への影響 … 眠りや食事、水分摂取に支障があるか

開始時期を正確に思い出せなくても、症状が出ているときは記録探しより受診を優先します。処方元と皮膚科の間で中止・変更の方針を共有し、皮膚の改善を見ながら治療を続ける流れになります。

よくある質問

Q
DPP-4阻害薬を飲んでいて、かゆみだけでも皮膚科を受診したほうがよいですか?
A

かゆみが続く場合や、赤み・盛り上がった発疹を伴う場合は、水ぶくれがなくても皮膚科へ相談しましょう。類天疱瘡はかゆみから始まる場合があり、水ぶくれが出そろうまで待つ必要はありません。

受診時には、糖尿病の薬の名前と、いつからかゆく、眠りに影響しているかを伝えてください。かゆみだけで薬の副作用とは決まらないため、服薬の変更は診察を踏まえて判断されます。

Q
ジャヌビアを何年も飲んでいますが、今から水疱性類天疱瘡になることはありますか?
A

あります。発症までの期間は服用開始後の早期から数年まで幅があり、長く飲めていたという理由だけでは薬との関係を除外できません。

新しい水ぶくれや繰り返すただれが出たら、皮膚科か処方元へ連絡してください。受診には以前の薬も分かるお薬手帳を持参すると、長期の服用歴を確認できます。

Q
水ぶくれができたら、次のDPP-4阻害薬を自分で休んでもよいですか?
A

自分だけで服用を変更せず、次の服用をどうするか処方元へ速やかに連絡して指示を受けてください。類天疱瘡が疑われる場合は中止などが検討されるため、飲み続けるかどうかも症状を伝えたうえで決めます。

連絡時は、薬の名前、水ぶくれが出た時期、増えているかを伝えます。急に広がる、発熱を伴う、口の痛みで飲めないなどの状態なら、当日中の受診が必要です。

Q
赤くない水ぶくれや、口の中のただれも類天疱瘡の症状ですか?
A

どちらも類天疱瘡で現れうる症状です。DPP-4阻害薬に関係するものには赤みが乏しいタイプがあり、口の中にも症状が出る場合があります。皮膚と口の症状が同じ時期に出たなら、両方を皮膚科に伝えましょう。

参考にした文献