DPP-4阻害薬の主要10種類は、先発品の販売名で数えると10製品、成分で数えると9種類です。どの薬も血糖を下げる働きは共通で、製品ごとの効果の差は小さいため、選ぶときは飲む回数や体から出ていく経路、心臓の病歴や併用薬との関係を見ます。
薬袋に「ジャヌビア」「トラゼンタ」と書かれていても、ほかの薬と何が違うのかは分かりにくいものです。名前が違っても成分が同じ製品があり、量の数字の大きさでは強さを比べられません。
この記事では、国内の主要製品の成分と通常の飲み方を一覧で比べ、効果の差、週に一度飲む製品の特徴、生活に合う薬を選ぶ視点を解説します。
DPP-4阻害薬の10製品と9成分
名前が違っても、含まれる有効成分が同じ製品があります。ジャヌビアとグラクティブはともにシタグリプチンを含むため、10製品を比べるときは販売名と成分名を分けて読むと整理できます。
薬袋の販売名と成分名の違い
販売名は製品につけられた名前、成分名は血糖を下げる働きを担う物質の名前です。薬袋の名前と説明書の成分名を対応させると、別の薬のように見える2製品が同じ成分かどうかを判別できます。
比較の出発点は、いま飲んでいる薬の販売名と成分名。成分名の末尾につく「水和物」なども正式名称の一部ですが、その長さで効果の強さが決まるわけではありません。
先発品の販売名・成分・製造販売元
国内の主要な先発品を、各錠剤の電子添文(添付文書)に記載された名称で並べました。電子添文は、承認された使い道や用法などを記した医薬品の文書です。
| 販売名 | 成分名(一般的名称) | 製造販売元 |
|---|---|---|
| ジャヌビア | シタグリプチンリン酸塩水和物 | MSD株式会社 |
| グラクティブ | シタグリプチンリン酸塩水和物 | 小野薬品工業株式会社 |
| エクア | ビルダグリプチン | ノバルティスファーマ株式会社 |
| ネシーナ | アログリプチン安息香酸塩 | 帝人ファーマ株式会社 |
| トラゼンタ | リナグリプチン | 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 |
| テネリア | テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物 | 田辺ファーマ株式会社 |
| スイニー | アナグリプチン | 株式会社三和化学研究所 |
| オングリザ | サキサグリプチン水和物 | 協和キリン株式会社 |
| ザファテック | トレラグリプチンコハク酸塩 | 帝人ファーマ株式会社 |
| マリゼブ | オマリグリプチン | キッセイ薬品工業株式会社 |
この一覧は電子添文に基づく先発品の単剤、つまり有効成分を1種類含む製品の比較です。以下では、成分名をシタグリプチンなどの短い呼び方で示します。
同じ成分でも処方の名前は異なる
ジャヌビアとグラクティブは成分だけでなく、通常の成人用量も同じです。販売名は別々でも中身は同じ働きの薬で、異なる働きを組み合わせる2剤とは違います。
メトホルミンなど、別の働きの成分とDPP-4阻害薬を1錠に含む配合剤もあります。手持ちの薬が一覧に見当たらないときは、薬の説明書にある成分欄も判断材料になります。
DPP-4阻害薬の働きと血糖を下げる力
どの成分も、食事で腸から出るホルモンの働きを長持ちさせて血糖を下げます。薬ごとの差は小さく、どの製品が合うかは、飲み方や体の状態、自分の検査の経過をもとに決まります。
食後のホルモンを長く働かせる
インクレチンは、食事が入ると腸から出て、血糖を調整するホルモンの総称です。その仲間のGLP-1やGIPを分解するDPP-4という酵素の働きを抑えるのが、この薬の共通した作用です。
ホルモンの働きが続くと、胃の後ろにある膵臓から血糖を下げるインスリンが出やすくなり、血糖を上げるグルカゴンの分泌も抑えられます。食事に伴う体の反応を助けるため、血糖の状態に応じて作用します。
- 食事に伴う作用 … 腸から出るホルモンの分解を抑制
- 血糖に応じた作用 … 単独使用では血糖が下がりすぎる低血糖を起こしにくい
- 体重の変化 … 一般に体重を増やしにくい性質
これらは薬の種類に共通する性質で、どの製品が強く効くかを並べる基準とは異なります。
HbA1cと空腹時血糖では比較の結果が変わる
HbA1cは、採血で調べる最近の血糖の状態を反映した値です。食事前の血糖を示す空腹時血糖とは評価する範囲が違うため、薬を比べるときも同じ指標どうしで見比べます。
2型糖尿病の成人21,332人を含む58試験の間接比較では、HbA1cはテネリグリプチン、空腹時血糖はビルダグリプチンで下げ幅が大きい傾向がありました1)。間接比較とは、条件の異なる複数の試験を共通の対照薬などを介して比べる方法です。
この順位は別々の試験をつないで比べた結果で、今の薬を替えるかどうかは自分の検査の経過で判断します。開始時の血糖や一緒に使う薬が違えば、下げ幅の受け止め方も変わります。
アジアの人を多く含む試験での効き方
55試験をまとめた解析では、アジアの人を多く含む試験で血糖の下げ幅が大きく、BMIという身長と体重から求める体格の指標が低いほど、効きやすい傾向がありました2)。
自分への効き方は、日本人かどうかよりも、処方後の検査の結果で確かめます。血液検査で実際の反応を追い、自分の血糖が治療目標へ近づいているかを判断します。
薬の強さは自分の検査経過で判断する
同じ薬を飲んでも、服用前の血糖が高い人と目標に近い人では、期待できる下げ幅が異なります。別の患者さんの検査値より、薬を始めた時期と自分の検査結果を対応させるほうが、治療の評価に役立ちます。
効き目が弱いように感じるときは、飲み忘れた日や食事の変化も含めて、主治医と検査の推移を確かめましょう。薬の変更や増量は、その情報を踏まえて判断されます。
毎日の服用回数と1回量
毎日飲む製品には1日1回と1日2回があり、エクアとスイニーの通常の飲み方は朝・夕の2回です。量の数字は成分ごとに決められているため、5mgの薬と50mgの薬を数字だけで強弱に分けることはできません。
1日1回の製品は処方された時刻に服用
次の量は、ジャヌビア錠・グラクティブ錠など、各製品の電子添文(添付文書)にある成人の通常用量です。個々の患者さんに合う量は診察で判断されるため、服用時は処方された量に従います。
| 販売名 | 通常の1回量 | 回数・タイミング |
|---|---|---|
| ジャヌビア/グラクティブ | 50mg | 1日1回 |
| ネシーナ | 25mg | 1日1回 |
| トラゼンタ | 5mg | 1日1回 |
| テネリア | 20mg | 1日1回 |
| オングリザ | 5mg | 1日1回 |
これらの用法・用量欄には朝・夕の指定がなく、実際には薬袋に記された服用時刻に従います。服用時刻は、ほかの薬も含めた処方全体に合わせて決まります。
朝と夕に分けて飲む2製品
エクアとスイニーは、朝と夕に分ける飲み方が基本です。エクア錠・スイニー錠の電子添文(添付文書)では、次のように1回量と回数が定められています。
| 販売名 | 通常の1回量 | 回数・タイミング |
|---|---|---|
| エクア | 50mg | 1日2回、朝・夕 |
| スイニー | 100mg | 1日2回、朝・夕 |
エクアは患者さんの状態に応じて50mgを1日1回朝に服用する用法もあります。スイニーは効果が不十分なとき、経過を十分に観察しながら1回200mgまで増量できる薬です。
服用回数は、薬の作用が続く時間も踏まえて決められています。
夕方に飲むのを忘れるからといって、朝に2回分をまとめる使い方には変更しないでください。
通常量と処方量が違う理由
ジャヌビアとグラクティブは1日100mgまで、テネリアは1日40mgへ、効果が不十分な場合に経過を見ながら増量できる用法があります。オングリザは患者さんの状態に応じて1日2.5mgで使う用法も記載されています。
処方量は、現在の血糖だけでなく体の状態を含めて決まります。表より量が少なくても効果不足と決めつけず、1回量と1日の総量を区別すると、処方の説明を読み取りやすくなります。
週1回の薬と毎日の薬の使い分け
服用回数を減らしたいときは、ザファテックとマリゼブが週1回の選択肢になります。回数が少ないほど続けやすいとは限らず、曜日を覚える生活と毎日の習慣に組み込む生活のどちらが合うかで選び方が変わります。
ザファテックとマリゼブの通常量
週1回の製品は、1回の服用で作用が長く続くように使う薬です。ザファテック錠・マリゼブ錠の電子添文(添付文書)では、いずれも毎週同じ曜日に服用すると定められています。
| 販売名 | 成人の通常の1回量 | 回数・タイミング |
|---|---|---|
| ザファテック | 100mg | 週1回、同じ曜日 |
| マリゼブ | 25mg | 週1回、同じ曜日 |
服用日の間隔が空くのは、その薬に決められた用法です。毎日飲む製品の量を増やして週1回にまとめたり、週1回の製品を毎日飲んだりせず、処方どおりの間隔で飲みましょう。
血糖を下げる効果は毎日の薬と同程度
2型糖尿病の人5,709人を含む15試験をまとめた比較では、週1回のDPP-4阻害薬は毎日飲む製品と同程度に血糖を下げました3)。飲む日が少ないという理由だけで、効果の弱い薬と捉える必要はありません。
一方、服用の手間はほかの薬の有無でも変わります。毎日飲む薬が残る人と、この薬だけを管理する人では、週1回への変更で減る負担も違ってきます。
飲み忘れた場合の決まりと管理方法
ザファテック錠の電子添文(添付文書)では、忘れたときは気づいた時点で決められた量だけを飲み、その後は元の曜日に戻します。マリゼブ錠も気づいた時点で1回分を飲んで元の曜日に戻しますが、同じ日に2回分を飲まない決まりです。
| 比較する点 | 毎日飲む薬 | 週1回の薬 |
|---|---|---|
| 飲み方 | 毎日、処方された回数 | 毎週、決めた曜日に1回 |
| 飲み忘れ時 | 製品ごとの指示に従う | 上記の製品別の決まりに従う |
| 続けるための工夫 | 毎日の服薬習慣と対応 | 曜日と服用済みの記録を対応 |
たとえば、朝に薬を整理するとき、カレンダーの服用日に印がないと気づいたら、まず薬の名前と飲んだ記録を照合します。
飲んだかどうか自体が分からないときは、追加する前に薬剤師へ確認してください。
DPP-4阻害薬が体から出る経路と作用の持続
薬の働きが共通でも、体から出ていく経路や作用が続く時間は成分によって違います。この違いは、服用回数や体の状態に合わせた処方に関係します。
尿への排出と胆汁を介した排出
薬が体の外へ出る道筋には、腎臓を通って尿へ出る経路と、肝臓から出る胆汁を介して便へ出る経路があります。胆汁は、肝臓で作られて腸へ流れる液体です。
| 主な排出経路 | 体の外へ出る道筋 | 比較するときの視点 |
|---|---|---|
| 腎臓からの排出が中心 | 腎臓を通って尿へ | 腎臓の働きと処方量の関係 |
| 胆汁を介する排出 | 胆汁を通って腸・便へ | 尿への排出とは異なる性質 |
トラゼンタは電子添文の薬効分類にも「胆汁排泄型」と記載された製品です。同じDPP-4阻害薬でも、排出経路は成分ごとに異なります。
体から消える時間と効き目の長さ
体内に残る時間に加え、DPP-4という酵素の働きをどれくらい抑え続けるかも、薬の作用に関係します。1日2回の製品と週1回の製品では、このような性質を踏まえて服用間隔が決められています。
長く作用する薬にも、朝・夕に分ける薬にも、それぞれ定められた用法があります。持続時間だけを見て優劣をつけるより、処方どおり飲んだときの血糖と続けやすさを合わせて評価します。
腎臓の検査と薬の量の関係
腎臓の働きに応じて量を減らす薬と、減量を要しない薬があります。どの薬でも腎臓の検査結果は処方を決める情報になるため、通常量の一覧だけで自分の量を変更せず、検査結果に沿った処方を受けます。
心臓や血管への影響で区別したい点
心筋梗塞などの発症が増えるかどうかと、心不全による入院が増えるかどうかは、別々に見ていきます。DPP-4阻害薬では大規模な試験で心臓や血管への影響が調べられており、サキサグリプチンの心不全には注意すべき違いがあります。
血糖の改善と心臓の病気への効果
血糖を下げる効果と心臓の病気を減らす効果は、別々に評価されます。薬の評価では、血糖の検査値に加えて、心筋梗塞や脳卒中などが実際に起きたかも調べます。
心筋梗塞は心臓の筋肉へ血液が届かなくなる病気、脳卒中は脳の血管が詰まったり破れたりする病気の総称です。こうした出来事が増えなかったという結果は、薬が心臓を守る効果とは分けて受け止めます。
オングリザで報告された心不全による入院
心臓や血管の病気があるか、その危険が高い2型糖尿病の人では、サキサグリプチンは偽薬と比べて心血管死・心筋梗塞・脳卒中をまとめた発生を増減させず、心不全による入院は増えました4)。偽薬は有効成分を含まない比較用の薬です。
心不全は、心臓が血液を送り出す働きなどが低下して体に必要な循環を保ちにくくなる状態です。心筋梗塞とは別の病気で、オングリザを選ぶかどうかを考える材料になります。
心臓の病歴によって薬の選択を調整
心筋梗塞などを起こしたばかりの2型糖尿病の人5,380人を対象とした試験では、アログリプチンによって心臓や血管の大きな出来事は増えませんでした5)。薬の成分と調べられた患者さんの条件を対応させて、結果を受け止める必要があります。
心臓への影響は、成分ごとに調べられた結果を基に判断します。
心不全や心筋梗塞で治療を受けた経験がある人は、その病歴を主治医と共有し、薬の継続や変更について相談しましょう。
生活に合う処方を選ぶための判断材料
自分に合う薬は、血糖の推移に加えて、飲める回数や併用薬、体の状態を組み合わせて選ばれます。同じ成分を続けるか別の製品に替えるかは、日常で困っている場面を具体的にするほど判断しやすくなります。
朝・夕・曜日のどれなら管理しやすいか
朝は毎日薬を飲めても、夕方は外出が重なって忘れる人では、1日2回のうち夕方の服用が課題になります。毎日の習慣は保てる一方、曜日の感覚が曖昧になりやすい生活なら、週1回への変更だけで管理が簡単になるとは限りません。
飲む回数が多いと負担に感じるのは自然です。無理に覚えようとするだけでなく、食事や外出の予定にどの飲み方なら合わせられるかを言葉にすると、処方について話しやすくなります。
薬の組み合わせと検査値を一緒に見る
薬を替えたい理由が、血糖なのか服用の手間なのかで、見直す内容が変わります。ほかの糖尿病薬に加え、別の病気で飲んでいる薬も、処方を選ぶ際の判断材料です。
- 検査の経過 … 薬を始める前後のHbA1cや血糖
- 服用の実際 … 飲み忘れやすい時間帯とその場面
- 体の状態 … 腎臓の検査結果や心臓の病歴
- 併用薬 … ほかの診療科を含めた現在の薬
この中で、困りごとに直結する情報を先に話すと、薬を替える目的を共有しやすくなります。
診察では実際に困った場面を伝える
「もっと強い薬がよい」という希望だけでは、血糖を下げたいのか、飲み忘れを減らしたいのかが伝わりにくくなります。お薬手帳と検査結果をそろえ、夕方だけ忘れる、曜日が分からなくなるなどの具体的な場面を主治医に伝えましょう。
切り替えが決まったときは、以前の薬を終える日と新しい薬を始める日を明確にして処方を受けます。特に毎日から週1回へ変更すると、回数だけでなく管理する単位も変わるため、薬袋の指示と服用予定を照らし合わせましょう。
よくある質問
- Qジャヌビアとグラクティブは同じ薬ですか?
- A
有効成分はどちらもシタグリプチンで、通常の成人用量も同じです。販売名と製造販売元が異なります。
- Qトラゼンタ5mgはジャヌビア50mgより弱い薬ですか?
- A
mgの数字だけでは強さを比べられません。成分が異なるため、それぞれに必要な量が決められています。
効果が気になるときは量の数字で替える薬を決めず、処方を続けたうえで、服用前後のHbA1cの推移を主治医と確認しましょう。
- Qエクアを朝だけ飲む処方は間違いですか?
- A
エクアには、患者さんの状態に応じて50mgを1日1回朝に飲む用法もあります。通常の朝・夕の2回と、状態に応じた朝だけの用法の両方が認められています。
薬袋が朝だけの指示なら、その処方に従います。以前の説明と食い違うときは、自分で夕方の分を追加せず、処方元か薬局へ確認してください。
- Q毎日の薬をマリゼブに替えると楽になりますか?
- A
毎日この薬を飲む手間は減りますが、週1回の曜日を管理する手間が加わります。ほかに毎日飲む薬がある人では、服薬全体の回数は残ります。
朝・夕の管理と曜日の管理のどちらに困っているかを主治医に伝えると、変更が生活に合うかを検討できます。切り替えは処方された開始日と服用曜日に従って行います。


