メトホルミンだけ、またはDPP-4阻害薬だけでは検査値が目標に届かないとき、2剤の併用は低血糖や体重増加を抑えながら血糖を下げやすい組み合わせです。肝臓で作られる糖を抑える働きと、食事に応じたインスリンの分泌を助ける働きが重なるためです。
もう1剤をすすめられて、薬が増えることに不安を感じている人もいるでしょう。期待できる下がり方と、下痢や発熱で飲めない日の対応を知っておくと、併用を落ち着いて続けやすくなります。
この記事では、2剤が補い合う仕組み、血糖改善の目安、ほかの追加薬との比較、配合剤の違いと併用中の注意点を解説します。
メトホルミンとDPP-4阻害薬の併用で期待できる効果
1剤で目標に届かないとき、働きの違う薬を加えると血糖をさらに下げられます。この組み合わせは、血糖を下げる力と日常生活での続けやすさを両立させたいときに検討される治療です。
単独で足りない働きをもう1剤で補う
メトホルミンにDPP-4阻害薬を加える方法だけでなく、DPP-4阻害薬を服用中にメトホルミンを加える方法もあります。どちらを先に飲んでいたかより、現在の血糖値と追加する薬を安全に使える体の状態が判断の中心です。
2型糖尿病の人でジャヌビアなどの成分であるシタグリプチンとメトホルミンを最初から併用した試験では、それぞれ単独で使うより血糖がよく下がり、低血糖も少なかったと報告されています1)。
- 血糖の改善 … 1剤では補いきれない働きを追加
- 低血糖への配慮 … 血糖が下がりすぎる危険を抑えた組み合わせ
- 体重への配慮 … 薬による体重増加が起こりにくい組み合わせ
期待する効果が得られるかは、服用前の血糖の高さだけでなく、使えるメトホルミンの量にも左右されます。
血糖が下がりすぎにくい組み合わせ
メトホルミンは膵臓にインスリンを強く出させる薬ではなく、DPP-4阻害薬は血糖が高いときにインスリンの分泌を助けます。インスリンは、血液中の糖を筋肉などへ取り込ませて血糖を下げるホルモンです。
ただし、低血糖の危険がゼロになるわけではありません。ジャヌビア錠の電子添文(添付文書)では、とくにインスリンやSU薬などをさらに併用すると危険が増すため、処方内容全体を見て減量の検討が必要とされています。
体重を増やさずに血糖改善を目指す
メトホルミンとDPP-4阻害薬は、一般に体重を増やしにくい薬の組み合わせです。体重の増加を避けたい人にとって、血糖値だけでなく体重の推移も見ながら続けやすい特徴があります。
一方、体重を大きく減らす目的で選ぶ組み合わせではありません。食事量が増えれば体重は増えるため、薬が追加された後も食事療法と無理のない運動を治療の土台に据えます。
肝臓と腸に働きかける2剤が補い合う仕組み
2剤の相性のよさは、糖が作られる量を抑える働きと、血糖に応じたホルモンの働きを支える作用が重なる点にあります。腸から出るGLP-1への作用も、組み合わせを支える理由の1つです。
メトホルミンは肝臓から出る糖を抑える
肝臓は、食事をしていない時間にも糖を作って血液中へ送り出しています。2型糖尿病ではその量が過剰になり、朝食前など空腹時の血糖が高くなる一因になります。
メトホルミンは肝臓で糖が作られるのを抑え、筋肉などでインスリンが働きにくい状態の改善にも関わる薬です。食べた糖だけを対象にするわけではないため、食後以外の時間帯も含めた血糖管理につながります。
DPP-4阻害薬は腸のホルモンを長持ちさせる
GLP-1は、食事が腸に届くと分泌され、血糖が高いときに膵臓からインスリンが出るのを助けるホルモンです。膵臓は胃の後ろ側にある臓器で、血糖の調節にも関わっています。
DPP-4はGLP-1などを分解する酵素で、DPP-4阻害薬はその働きを抑えます。体内で分泌されたホルモンが長く働けるようになり、食事に伴う血糖の上昇を抑える助けになります。
| 薬 | 主な働きかけ | 血糖管理へのつながり |
|---|---|---|
| メトホルミン | 肝臓での糖の産生を抑える | 空腹時を含む血糖の改善 |
| DPP-4阻害薬 | GLP-1などの分解を抑える | 食事に応じたインスリン分泌の補助 |
GLP-1を増やす作用と保つ作用が重なる
メトホルミンは肝臓だけでなく腸にも作用し、腸からのGLP-1を増やします。そこに分解を抑える薬が加わるため、「増やす働き」と「長持ちさせる働き」が組み合わさります。
この補い合いは、1種類の薬を増量する方法とは異なる利点です。効果は薬の量を2倍にしたときのように単純計算できないため、実際の改善は検査で追っていきます。
DPP-4阻害薬を加えた後の血糖の下がり方
日本人を対象とした試験では、メトホルミンにDPP-4阻害薬を追加してHbA1cが改善しています。下がり幅は、開始前の値と治療内容をそろえたうえで読み比べます。
日本人の試験では12週でHbA1cが改善
HbA1cは、血液中のヘモグロビンに糖が結びついた割合で、過去1〜2か月程度の血糖の状態を反映する検査値です。採血した瞬間の血糖値とは意味が異なり、治療を続けた結果を評価するために使います。
メトホルミンを服用している日本人の2型糖尿病の人に、ネシーナの成分であるアログリプチンを追加した試験では、12週でHbA1cが0.55〜0.64ポイント下がり、低血糖は増えなかったと報告されています2)。
0.6ポイントの低下とは、たとえば8.0%から7.4%への変化に相当します。これは数値の読み方の例で、実際の下がり幅は人によって変わります。
開始前の値と服用量で改善の幅が変わる
すでに目標に近い人と、目標を大きく超えている人では、追加後に見込む変化も異なります。メトホルミンを十分に使えているか、お腹の症状や腎臓の働きのために量が限られているかも、治療を選ぶ際の条件です。
また、飲み忘れが続いている状態では、薬そのものの効果と実際に飲めた量の影響が重なります。検査値が高かったという理由だけで薬の効き目を判断せず、処方どおりに飲めた日がどの程度あったかも振り返りましょう。
効果は目標値までの距離と体調で評価する
追加後の評価では、HbA1cが何ポイント下がったかに加えて、自分の目標に届いたか、低血糖や食欲低下がなかったかを見ます。数値を下げることだけに偏ると、食べられていないために血糖が下がった変化を見逃しかねません。
受診時には、追加前と追加後の検査結果を並べ、体重や食事量の変化も一緒に主治医と確かめましょう。採血までの期間や目標値は、年齢や併用薬、体の状態に合わせて設定されます。
早期からの併用で良好な血糖を長く保つ
診断されて早い時期から2剤を使うと、メトホルミン単独から始めるより、血糖が目標内にとどまる期間が長くなるという結果があります。薬の数は、今の血糖値だけでなく、その状態をどう保つかという点からも選ばれます。
5年間の試験で治療効果の持続を比較
早期併用の持続性を調べたVERIFY試験では、診断されたばかりの2型糖尿病の人2,001人を5年間追跡し、血糖が目標から外れた割合は、エクアの成分であるビルダグリプチンとメトホルミンで始めた群で43.6%、メトホルミン単独から始めた群で62.1%でした3)。
早いうちに2つの働きを補う治療には、良好な血糖を長く保つ利点が期待できます。後から薬を追加する方法との違いは、治療を始める時点で目標達成を支える働きをそろえる点です。
追加の提案は重症化だけを意味しない
薬が増えると、病気が悪くなったようで心配になることもあるでしょう。目標に届くための働きを補い、その状態を長く維持する目的で追加される場合もあるため、薬の数だけで糖尿病の重さは決まりません。
東アジアの人では、比較的体格が小さくてもインスリンを出す力が弱い傾向があり、早期からの2剤治療が検討されます。体格だけで薬を選ぶのではなく、これまでの検査値の推移と治療への反応を合わせて判断します。
最初から2剤が適するかは体の状態で決まる
1剤で目標に達して安定している人と、開始時から目標との差が大きい人では、追加を急ぐ理由が異なります。メトホルミンを使える腎臓の状態か、服用後の下痢などが生活を妨げていないかも判断に関わる項目です。
「2剤を早く始める」という治療方針と、2成分を1錠にした配合剤を最初から処方する判断は、分けて考えます。エクメット・イニシンク・メトアナは、治療の開始時にまず選ぶ薬を意味する「第一選択薬」としては使わないと定められています。
ほかの追加薬と比べたDPP-4阻害薬の利点
低血糖と体重増加を避けたいとき、DPP-4阻害薬は使いやすい候補です。より大きな血糖低下や体重減少を求めるときには、ほかの種類の薬が候補になります。
SU薬を加える方法より低血糖が少ない
SU薬は、膵臓からインスリンを出すよう促して血糖を下げる飲み薬です。メトホルミンにDPP-4阻害薬を足す治療はSU薬を足す治療に比べ、低血糖が大きく少なく、体重も増えにくいという結果が、36件の比較試験をまとめた解析で示されています4)。
血糖が改善しても、冷や汗や手の震えを繰り返す治療では日常生活に負担が生じます。追加する薬は、下がり幅と日々の安全性の2つを踏まえて、自分の生活に合うものを選びましょう。
体重を減らしたいときは別の候補もある
SGLT2阻害薬は、腎臓で糖が血液へ戻るのを抑えて尿へ排出させる薬です。メトホルミンに加えると体重減少が期待でき、血糖がそれほど高くない人ではDPP-4阻害薬も同程度の効果を示します。
ただし、SGLT2阻害薬では性器の感染に注意が必要です。体重の変化だけで選ばず、起こりやすい不調も含めて継続できるかを判断します。
GLP-1受容体作動薬は、GLP-1の信号を受け取る部分に直接作用する薬です。メトホルミンに追加したとき、長く効く製剤はDPP-4阻害薬より血糖を下げる幅が大きいとされています。
| メトホルミンに足す薬 | 血糖を下げる働き | 低血糖・体重の傾向 |
|---|---|---|
| DPP-4阻害薬 | 血糖に応じたホルモン作用を補助 | 低血糖は起こりにくい・体重は概ね維持 |
| SU薬 | インスリンの分泌を促す | 低血糖が多い・体重は増加方向 |
| SGLT2阻害薬 | 糖を尿へ排出 | 低血糖は起こりにくい・体重は減少方向 |
| GLP-1受容体作動薬 | 長く効く製剤は下げ幅が大きい | 低血糖は起こりにくい・体重は減少方向 |
検査値と生活の負担を合わせて選ぶ
この比較は、メトホルミンに追加する候補を並べたものです。表に並ぶ薬は、今の処方に補う候補として見比べます。
選ぶ際の軸は、目標の血糖値までの差、体重を維持するか減らすか、低血糖を避ける必要度です。体重を落とす必要が乏しい人にとっては、減量効果の大きさよりも食事を保ちやすい治療が優先されます。
受診時には「血糖をどこまで下げたいか」に加えて、低血糖への不安や体重の希望も主治医に伝えましょう。
エクメット・イニシンク・メトアナの使い分け
配合剤は、2種類の有効成分を1錠にまとめた薬です。メトホルミンとDPP-4阻害薬の配合剤では、含まれる成分量と飲む回数が製品ごとに決まっています。
含まれる成分と1日の服用回数
エクメット配合錠、イニシンク配合錠、メトアナ配合錠の電子添文(添付文書)は、承認された使い方と安全上の注意を示す文書です。それぞれの用法・用量は次のとおりで、成分の量は1錠あたりを示します。
| 配合剤の販売名 | 1錠の成分と量 | 通常の飲み方 |
|---|---|---|
| エクメット配合錠LD/HD | ビルダグリプチン50mg+メトホルミン塩酸塩250mg/500mg | 1回1錠、1日2回、朝・夕 |
| イニシンク配合錠 | アログリプチン25mg+メトホルミン塩酸塩500mg | 1回1錠、1日1回、食直前または食後 |
| メトアナ配合錠LD/HD | アナグリプチン100mg+メトホルミン塩酸塩250mg/500mg | 1回1錠、1日2回、朝・夕 |
LDとHDでは、メトホルミンの含有量が異なります。たとえば1錠中500mgでも、1日1回なら1日量は500mg、1日2回なら1000mgとなり、錠剤の数だけでは成分量を比べられません。
安定した併用からの変更や効果不足時に検討
配合剤は、各成分を別々に飲んで状態が安定している場合や、定められた単剤治療などで効果が足りない場合に検討されます。どの処方から変更できるかは製品とLD・HDの規格で異なるため、今飲んでいる成分と1日量に合う規格を選びます。
たとえばエクアの成分であるビルダグリプチンを1回50mg、1日2回飲んでいて効果が足りない場合、エクメットではLDからの開始とされています。薬の選択や増量は処方で決まるため、手元の薬は処方どおりの組み合わせで飲みましょう。
日本人の2型糖尿病の人で、イニシンクに相当するアログリプチン・メトホルミン配合剤と、エクメットに相当するビルダグリプチン・メトホルミン配合剤を12週比較した試験では、1日1回と1日2回の両群で同程度に血糖が下がりました5)。
腎臓の働きが低下したときは製品別に判断
eGFRは、腎臓が血液をろ過する働きを推定した数値です。検査票のeGFRが30以上60未満(単位はmL/min/1.73m²)の場合、エクメットとイニシンクは使用せず、成分ごとに量を調整できる単剤の併用が検討されます。
メトアナでは同じ範囲でも扱いが異なり、各単剤での併用より適するかを慎重に判断します。とくに30以上45未満では有益性が危険性を上回る場合に限られ、メトホルミン単剤の1日最高量の目安750mgも踏まえて処方が決まります。
エクメット・イニシンクを飲んでいて腎機能の低下を指摘された人は単剤への変更を、メトアナを飲んでいる人は現在の規格と1日量が検査値に合うかを主治医に確認しましょう。変更の指示を受けるまでは自己判断で別の糖尿病薬に置き換えず、体調が悪いときは次の服用前に処方元へ連絡します。
併用中はお腹の症状と脱水に注意する
安全に併用を続けるために、血糖だけでなく、お腹の症状や水分のとり方、腎臓の働きも見ていきます。薬が増えた日から、体調を崩した日の連絡方法まで準備しておくと対応しやすくなります。
下痢や食欲低下は程度を伝える
メトホルミンを追加した後に下痢や吐き気が出たら、症状の始まった日と、飲食が普段どおりできるかを確かめましょう。飲み続けるかどうかは、血糖値だけでなくお腹の不調の程度も合わせて決めます。
軽い症状でも続いて生活に支障があれば、食事との関係や服用量の見直しが検討されます。連絡時に役立つのは、薬の名前、追加・増量した日、下痢の回数、水分が飲めているかの4点です。
飲めない日や発熱時は服用前に連絡する
嘔吐や下痢が続くとき、水分が取れないときは、脱水によってメトホルミンを安全に使える条件が変わります。メトホルミンによる乳酸アシドーシスは、乳酸がたまり血液が酸性に傾く重い副作用で、死亡例も報告されています。
| 気をつけたい場面 | 注意する理由 | 対応 |
|---|---|---|
| 下痢・嘔吐で水分が取れない | 脱水が進むおそれ | メトホルミンを含む薬を一時休薬し、当日中に連絡 |
| 発熱や食欲低下が続く | 水分不足や体の状態の変化 | 次の服用前に処方元へ連絡 |
| 腎機能の低下を指摘された | 成分量や配合剤の見直しが必要 | 検査値と薬の規格を基に処方の確認 |
たとえば朝、自宅で下痢が続き水も飲めないと気づいたら、メトホルミンを含む薬は一時休薬し、その日のうちに処方元へ連絡してください。配合剤では錠剤全体を休むことになるため、薬袋の名前を伝え、ほかの薬の扱いと再開時期も指示を受けます。
急ぐ症状と定期検査を分けて備える
強いだるさや呼吸の異常、意識の変化を伴うときは、通常の診察日まで待たずに受診が必要です。症状が強く自分で移動できないときや意識がはっきりしないときは、救急要請をしてください。
- 呼吸が速い・息苦しい … 強いだるさなどを伴う変化
- 意識がはっきりしない … 呼びかけへの反応が普段と違う状態
- 水分が取れず尿が少ない … 下痢や嘔吐に伴う脱水の疑い
症状が1つだけでも、程度が強ければ受診を急ぎます。
体調が安定していても、腎臓と肝臓の働きを定期的に調べ、75歳以上では服用を続けてよいかを慎重に評価します。造影剤を使う検査の予定や飲酒の習慣があれば、メトホルミンを含む薬を飲んでいることと合わせて受診時に伝えましょう。
よくある質問
- QDPP-4阻害薬を飲んでいても、メトホルミンを追加できますか?
- A
2型糖尿病で今の治療だけでは目標に届かず、メトホルミンを安全に使える体の状態であれば、追加が検討されます。先にDPP-4阻害薬を飲んでいたという順序そのものは、併用を妨げる理由にはなりません。
腎機能や飲食の状態によって使える量が変わるため、主治医の処方で開始します。手元に残っている薬を自己判断で追加することは避けてください。
- QHbA1cが下がったら、どちらか1剤をやめられますか?
- A
目標に達して安定し、体の状態やほかの治療との関係から減薬が適切と判断されれば、処方を見直せます。数値の改善が2剤の作用で保たれている場合には、片方をやめると再び上がることもあります。
減薬を希望するときは、改善後の検査値の推移と体重・食事量の変化を主治医に伝えましょう。低血糖の疑いがあるときは、定期受診を待たずに連絡します。
- Q配合剤にすると、もとの薬も一緒に飲み続けますか?
- A
配合剤へ変更したときは、もとの成分を重ねて飲むかどうかも含め、変更後の処方に従います。新しい薬に同じ成分が含まれているため、以前の薬をそのまま追加すると重複するおそれがあります。
薬を受け取る際に、続ける薬と中止する薬を薬袋やお薬手帳で分けて確認しましょう。名前だけで分かりにくいときは、配合剤の成分と以前の処方を薬剤師に照らし合わせてもらえます。
- Q1日1回のイニシンクは、1日2回の配合剤より弱いのですか?
- A
服用回数だけで血糖を下げる強さは決まりません。イニシンクとエクメット・メトアナでは、DPP-4阻害薬の成分やメトホルミンの1日量が異なるため、回数の少なさだけを理由に変更せず、現在の血糖値と処方の成分量に合わせて選びます。


