夏にSGLT2阻害薬を飲むときは、ふだんの水分補給に汗で失う分を足して補い、食事や水分がとれない日は休薬について処方元へ連絡するのが基本です。
暑い日にトイレが近くなり、外出先では水分を控えがちという人は、飲めている量と体調を一緒に見直しましょう。口の渇きだけでは脱水に気づきにくいため、ふらつきやだるさにも目を向けます。
この記事では、夏の水分補給の目安、脱水の気づき方、SGLT2阻害薬を休む条件と再開までの判断を解説します。
夏のSGLT2阻害薬服用では汗と尿の両方から水分が減る
夏は汗で水分を失ううえに、薬によって尿へ出る水分も増えるため、補給が追いつかないと脱水につながります。脱水とは、体の働きを保つために必要な水分が不足した状態です。
尿に糖が出ると水分も一緒に出る
SGLT2阻害薬は、腎臓でいったん尿の側へ移った糖を血液へ戻す働きを抑え、糖を尿へ排出する薬です。エンパグリフロジン(ジャディアンス)やダパグリフロジン(フォシーガ)が含まれます。
尿の中に糖が増えると、その糖に伴って水分も尿へ移り、塩分の排出も増えます。この尿を増やす働きが利尿作用で、飲む量が失う量に追いつかないと体内の水分が減っていきます。
暑さと飲み控えが重なると補給が追いつきにくい
汗の量が増える夏は、薬を飲む前と同じ飲水量では不足する日があります。トイレを避けようと水分を控えると、体から出る量は増えているのに入る量が減り、差が広がります。
| きっかけ | 体で起きる変化 | 暮らしでの対応 |
|---|---|---|
| 暑い場所での活動 | 汗から水分と塩分を失う | 涼しい場所で休み、補給する |
| SGLT2阻害薬の服用 | 糖とともに尿へ出る水分が増える | 尿の変化と飲めた量を見る |
| 外出時の飲み控え | 失った水分を補いにくくなる | 飲み物と休憩場所を用意する |
そのため、飲み物を増やすだけでなく、暑い時間の外出をずらして汗で失う量を減らす工夫も役立ちます。
電子添文が求める水分補給と異常時の対応
ジャディアンス錠とフォシーガ錠の電子添文(添付文書)は、薬の使い方や安全上の注意をまとめた文書です。尿量の増加に伴う体内の水分減少、適度な水分補給、脱水や血圧低下が起きた際の休薬・補液が記載されています。
補液とは、点滴などで不足した水分や塩分を補う治療です。尿が増えたという変化だけで脱水と決まるわけではなく、飲食の状況やふらつきなどを合わせて対応が判断されます。
水分補給はふだんの量を土台に汗の量で調整する
飲水量の目安は、あまり体を動かさない成人で1日1.5 L程度です。これはふだんの飲み水の目安で、SGLT2阻害薬を飲む人も、ここから汗の量や体調に合わせて調整します。
1日1.5 L程度を出発点にする
水分の必要量は、気温や運動量、食事の内容によって変わります。汗をかく日はふだんより多く補い、食事量が落ちた日は食事から入る水分も減るため、その分も飲み物で補います。
ただし、心不全や腎臓病で水分量を制限されている人は、この目安を当てはめず主治医の指示を優先してください。
1.5 Lは、薬のために毎日さらに上乗せする量でもありません。現在の飲水量が分からないときは、コップやボトルの容量から、ふだん飲めている量を把握すると調整しやすくなります。
のどが渇く前に、生活の区切りで少しずつ飲む
水分は一度にまとめず、起床後や食事の合間など、生活の区切りに分けて補います。忙しさで忘れやすい人には、飲み物を手の届く場所に置き、外出前から用意しておく方法が向いています。
高齢になるとのどの渇きを感じにくくなるため、「渇いたら飲む」だけでは不足に気づくのが遅れます。目につく場所に飲み物を置き、飲む時間を決めておくと習慣にしやすくなります。家族と暮らしている場合は、食事の間にも飲めているかを一緒に見ておくと安心です。
汗をかく日と食事がとれない日を分ける
汗をかいても飲食できる日は補給と休憩で対応し、飲食自体が難しい日は薬の扱いまで含めて対応を変えます。飲んだ水分を吐かずに保てる状態かが分かれ目です。
| その日の状態 | 水分のとり方 | 次の対応 |
|---|---|---|
| ふだんどおり食べられる日 | 日中に分けて、ふだんの量を補給 | 飲み忘れる時間を減らす |
| 汗をかく日 | ふだんの量に汗で失う分を加える | 涼しい場所で休憩する |
| 食事がとれない日 | 飲めるか、飲んでも吐くかを見る | 当日中に処方元へ連絡する |
気温だけから「何mL追加」とは決められないため、外で動く時間や汗のかき方に合わせて補います。飲んでも吐くときは、量の調整より受診を優先する状態です。
脱水のサインは口の渇きだけで判断しない
口が渇かなくても、いつもより飲めず、ふらつきやだるさが出ていれば脱水を疑います。特に高齢の人では、口の渇きや尿の色だけで水分不足の有無を判断するのは難しいためです。
ふだんと違う体調をいくつか合わせて見る
体調の変化と、暑さにさらされた時間や飲めた量を合わせて見ると、脱水を疑う場面が具体的になります。症状だけでは別の病気との区別も難しいため、次の変化が重なるときは脱水を疑いましょう。
- 口やのどの渇き … いつもより乾く、飲みたい感じが続く
- 立ち上がったときのふらつき … 座り直す、支えが必要になる
- だるさや元気の低下 … いつもの家事や移動がつらい
- 尿の変化 … ふだんより出方が変わり、飲めた量も少ない
尿の色は、薄くても濃くても、それだけでは脱水かどうかを決められません。
飲めた量を記録すると変化を伝えやすい
飲み物の量を簡単に記録しておくと、忙しくて飲めなかった日や、食事の間の補給が抜けた時間を振り返れます。本人の渇きの感覚だけに頼らず、実際に飲めた量を見られる利点があります。
記録は、体調の変化を処方元に具体的に伝えるために使います。「今日は少ない」だけより、朝からどの容器で何回飲めたかを示すほうが、状況を具体的に共有できます。
ふらついたら涼しい場所で休み、続くなら当日連絡
たとえば、買い物から帰って立ち上がるとふらつき、朝からあまり飲んでいなかったと気づいたとします。まず涼しい場所に座り、意識がはっきりして飲み込める状態なら少しずつ水分を補います。
休んでもふらつきが続く、飲めない、いつもより明らかに尿が少ないときは、当日中に処方元へ連絡してください。連絡時には薬の名前と、その日に服用したかも伝えると判断に役立ちます。
自力で立てない、受け答えがおかしい場合は緊急対応が必要です。本人だけで移動しようとせず、周囲の人が救急要請してください。
SGLT2阻害薬の飲み始めと高齢の人は変化に注意する
脱水への注意を強めたいのは、飲み始めの時期、高齢の人、利尿薬を併用している人です。年齢や併用薬だけでやめるのではなく、水分を補える生活か、体調の変化に気づけるかを見ていきます。
飲み始めの1か月は飲水と体調を一緒に見る
日本の65歳以上の2型糖尿病の人を対象に、イプラグリフロジン(スーグラ)の使用後を調べた調査では、体内の水分減少が多い副作用の1つで、副作用は飲み始めの1か月に集まりやすいと報告されています1)。
この時期はトイレの回数に加えて、飲水が追いついているか、外出後にだるくならないかも見ていきます。夏に飲み始めたときは、暑さと薬による変化が重なっていないかが注意点です。
高齢の人は渇きの自覚を待たずに補給する
高齢の人では、水分が減っていても渇きの自覚が遅れ、飲む量が少ないまま過ごすおそれがあります。飲み物を取りに行くのが負担な場合には、置き場所の工夫も補給を続ける助けになります。
家族は「のどが渇くか」だけでなく、食事の合間に飲めているか、いつもより動きが少ないかを見ます。本人が元気だと答えていても、コップが減らず、ふらつきが重なるときは、当日中に処方元へ連絡してください。
利尿薬の併用や腎機能の低下がある人の注意点
利尿薬は尿を増やす薬で、SGLT2阻害薬と一緒に使う人では、水分がさらに失われやすくなります。腎機能の低下は、腎臓が血液から不要な物質や余分な水分を除く働きが弱くなった状態を指します。
安全上の注意を記したジャディアンス錠とフォシーガ錠の電子添文(添付文書)でも、高齢の人や腎機能が低下した人、利尿薬を使う人への注意が示されています。脱水が疑われるときは、併用薬も含めて調整します。
症状のない定期受診では薬の一覧を示し、暑い日の飲水量と連絡する症状を主治医と確認しておきましょう。自己判断で薬を増減すると、治療中の病気に影響するおそれがあります。
体調不良や手術でSGLT2阻害薬を休むときは処方元の指示に沿う
食事や水分が十分にとれないとき、下痢・嘔吐や高い熱があるときは、休薬について当日中に処方元へ連絡します。休薬とは、体調や治療上の理由で薬の服用を一時的に休むことをいいます。
食べられない、飲めない日の服用は事前の指示に沿う
発熱や下痢などで体調を崩し、いつもどおりの飲食が難しくなる日をシックデイと呼びます。水分を失う量が増えるうえに補う量が減り、脱水が進みやすくなります。
- 食事や水分の不足 … 体調不良でふだんどおりにとれない状態
- 下痢や嘔吐 … 水分を繰り返し失う状態
- 高い熱 … 発汗などが増え、飲水も追いつきにくい状態
- 手術の前後や重い感染症 … 服用を続けるのが適さない状況
すでに主治医から休薬条件を聞いていて、その条件に当てはまる場合は指示に従い、休んだことを処方元に伝えます。指示がなければ、当日中に連絡して、次の服用をどうするか判断を受けましょう。
飲水だけで様子を見るのが難しい状態
吐いて水分を保てない状態では、飲む量を増やそうとしても不足を補えず、点滴などの治療が必要になることがあります。薬を休めば十分と考えず、尿の減少やふらつきも含めて受診の急ぎ方を決めます。
食事がとれず脱水も重なると、ケトアシドーシスが起こりやすくなります。これは体内に酸性の物質が増え、血液が酸性に傾く重い状態で、血糖が高くなくても起こりえます。家庭での血糖値だけで服用を続けてよいと判断しないでください。
手術の予定が決まったら服用日程を調整する
手術前後はSGLT2阻害薬の服用が適さないため、前もって休薬の日程を決めておきます。いつから休むかは薬や手術の状況に合わせて決まるため、当日に初めて伝えると調整が間に合わないおそれがあります。
手術の予定が決まった時点で、処方元と手術を受ける医療機関の両方に服用中であることを伝えてください。最終服用日と再開の指示を書き留めておくと、入院前後の対応を共有しやすくなります。
休薬と再開の条件は主治医と事前に決めておく
休薬と再開は、主治医の判断に沿って行います。急な体調不良に備えて条件を決めておけば、自宅でもその指示に従って対応でき、連絡がつくまで迷い続ける状況を減らせます。
休む条件・連絡先・再開の目安をひとまとめにする
薬を休むと血糖や持病が悪くなるのではと、不安になるかもしれません。休薬はその時点の体調に合わせた対応であり、戻す条件まで決めておくと、必要な治療へつなぎ直しやすくなります。
| 事前に決める項目 | 書き留める内容 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 休む条件 | 飲食量の低下、下痢や嘔吐、発熱時の指示 | 次の服用前に体調が崩れたとき |
| 連絡先 | 処方元の連絡先と時間外の相談先 | 当日中の判断が必要なとき |
| 再開の目安 | 飲食の回復状態と再開を決める相手 | 体調が戻ってきたとき |
次の定期受診で、この3点を主治医と相談しておきましょう。指示のメモを薬の名前と一緒に置き、家族も見られるようにしておくと、本人がつらいときの連絡に使えます。
連絡では飲食量と最後に飲んだ時刻を伝える
連絡時には、体調不良が始まった時期、食事と水分の量、下痢や嘔吐の有無を伝えます。薬の名前と最後に飲んだ時刻も分かると、次の服用や受診の判断につながります。
電話の前に、すべての情報をそろえる必要はありません。飲めない、歩けないなど急ぐ症状があるときは、その症状を先に伝え、不明な項目は分かる範囲で答える形で十分です。
体調が戻ったら再開の判断まで受ける
食事と水分がとれるようになり、下痢や嘔吐が落ち着いたら、主治医の指示に沿って再開します。熱が下がったという1点だけでは、体内の水分や腎臓の働きまで回復したとは判断できません。
休薬中に受診した場合は、その診察や検査の結果も再開の判断に関わります。事前の再開条件が曖昧なままなら、自己判断で飲み直さず、処方元に連絡しましょう。
一方、体調が戻った後も休んだままにすると、治療の中断が長引きます。再開の指示を受けた日を記録し、次の診察でも休んだ期間を伝えると経過を共有しやすくなります。
脱水が進む前に受診し、熱中症では体を冷やす
脱水が進むと腎臓の働きが落ち、暑さによる体調不良は命に関わる熱中症へ進むおそれがあります。飲水で様子を見る範囲を超えた症状では、受診と体を冷やす対応を急ぎます。
腎臓への血流が減ると急に働きが落ちる
体の水分が大きく減ると腎臓に届く血液が不足し、急性腎障害という、短期間に腎臓の働きが落ちる状態を起こすおそれがあります。脱水に続いて、血管を詰まらせる血の塊である血栓が生じた例も報告されています。
ケトアシドーシスが疑われる吐き気や腹痛、息苦しさ、意識の変化があるときは、直ちに医療機関を受診してください。
脱水かどうかを自宅で確定させてから受診する必要はなく、普段との違いと飲食の状況が判断材料になります。受診時に薬の一覧も持参すると、服用状況を伝えるのに役立ちます。
暑さで具合が悪くなったときの急ぎ方
熱中症は、暑さで体温の調節がうまくいかなくなり、体にさまざまな不調が出る状態です。涼しい環境と水分補給で危険を減らし、具合が悪くなったら冷却と症状に応じた受診を行います。
| 見えている症状 | その場での対応 | 受診の急ぎ方 |
|---|---|---|
| 意識ははっきりし、軽いめまいがある | 涼しい場所へ移動し、飲めるなら補給 | 休んでも改善しなければ当日中に連絡 |
| 吐いて飲めない、だるくて動けない | 活動をやめ、体を冷やす | 速やかに医療機関を受診 |
| 受け答えがおかしい、自力で立てない | 周囲が救急要請し、体を冷やす | 直ちに119番 |
意識がおかしい人には無理に飲ませず、救急車を待つ間も涼しい場所で衣服を緩め、体を冷やしてください。症状が表の順番に進むとは限らないため、受け答えの異常があれば、その時点で重い状態として対応します。
腎障害への不安だけで普段の治療を中断しない
心不全、2型糖尿病、慢性腎臓病の人を含む大規模試験をまとめた解析では、SGLT2阻害薬を使った群で急性腎障害がむしろ少ないと報告されています2)。
ただし、脱水や下痢の最中も服用を続けてよいという意味ではありません。体調が安定しているときの治療と、飲食できず水分を失っているときの対応は、体の状態に合わせて切り替えます。
夏という季節だけを理由に中断せず、日々の補給を続け、体調不良には決めておいた休薬条件で対応します。休む判断だけで終わらせず、回復後の再開まで処方元と相談して決めます。
よくある質問
- QSGLT2阻害薬を飲んでいれば、夏は必ず多めに水を飲むべきですか?
- A
汗をかく日はふだんより補給が必要ですが、全員が同じ量を上乗せする決まりはありません。1日1.5 L程度という飲水量は、あまり体を動かさない成人のふだんの目安で、暑さや活動量に合わせて調整します。
- QSGLT2阻害薬は、暑い日だけ自分で休んでもよいですか?
- A
暑いという理由だけで休まず、主治医と決めた体調の条件に沿って判断します。ふだんどおり飲食できる日は、水分補給と暑さを避ける工夫を続けるのが基本です。
食べられない、下痢や嘔吐がある場合は、事前の休薬指示に従って処方元へ連絡してください。指示がなければ、当日中に次の服用をどうするかの判断を求めます。
- QSGLT2阻害薬を朝に飲んだ後で下痢が始まったら、どうすればよいですか?
- A
次の服用の扱いと受診の必要性について、当日中に処方元へ連絡します。飲んだ時刻、下痢が始まった時期、現在飲めている量を伝えると、状態を説明しやすくなります。
飲んでも吐くときは速やかに受診し、自力で立てない・受け答えがおかしいときは直ちに119番で救急要請してください。翌日の服用まで待つ状況ではありません。
- QSGLT2阻害薬の再開は、食事が1回とれたら決めてよいですか?
- A
1回食べられたことだけでは決めず、主治医から示された再開条件に従います。その後も水分と食事をとれるか、下痢や嘔吐が続いていないかも判断に関わります。
再開条件が分からない場合は、回復した内容を処方元に伝えて指示を受けます。休薬が続いたままにならないよう、体調が戻った時点で連絡しましょう。


