SGLT2阻害薬を飲むと、腎臓の働きが落ちる速さがゆるやかになり、透析が必要になる段階へ進む危険を減らす効果が期待できます。尿のタンパクを指摘された人や、血糖は落ち着いているのに薬をすすめられた人にとっては、将来の腎臓を守るための治療です。
透析をどこまで遠ざけられるかは、腎臓の状態によって人それぞれです。飲み始めには腎臓の検査値が一時的に下がる場合もあるので、尿検査と血液検査を組み合わせて経過を見ていきます。
この記事では、SGLT2阻害薬の腎保護効果とその限界、タンパク尿が減る仕組み、飲み始めのeGFR低下の受け止め方、服用中に見る検査値と薬ごとの使用条件を解説します。
SGLT2阻害薬で腎臓の働きの低下をゆるめる
腎保護とは、腎臓にかかる負担を減らし、残っている働きを長く保つことです。治療の評価では、その日の数値だけでなく、時間がたつにつれて腎機能がどう変わるかを重視します。
腎臓が血液をろ過する力を長く保つ
腎臓は血液から老廃物や余分な水分を取り除き、尿として体の外へ出す臓器です。腎臓の障害や働きの低下が続く慢性腎臓病では、体調に変化を感じなくても、検査で異常が見つかることがあります。
SGLT2阻害薬は、腎臓の中で血液をろ過する部分にかかる圧を調節し、長い期間の機能低下をゆるやかにします。今ある腎機能を保つことが治療目標なので、効き目は服用後に検査値が正常域へ戻るかどうかだけでなく、その後の推移で見ます。
期待する変化は尿と血液の検査に表れる
腎臓を守る効果には、検査で捉える変化と、将来の生活に関わる変化があります。次の項目は、それぞれ異なる面から治療の経過を表しています。
- 尿アルブミンの減少 … 尿へ漏れるタンパクの量が減る変化
- 腎機能低下の抑制 … 血液をろ過する力が落ちる速さをゆるめる効果
- 腎不全への進行リスクの低下 … 腎臓だけで体の状態を保つのが難しい段階へ進む危険の減少
尿の値が先に改善しても、将来の腎機能は血液検査で引き続き追っていきます。
正常値への回復だけを治療の目標にしない
eGFRは、血液検査などから推算した、腎臓が血液をろ過する力の目安です。低い数値から急に高くなることだけを期待するよりも、治療前後で低下の速さがどう変わったかを見るほうが、腎保護の目的に合っています。
腎臓を守る治療は、塩分を控える食事や血圧の管理などと組み合わせて続けます。薬を始めた日と過去の検査結果を同じ記録に残しておくと、診察で経過を共有しやすくなるでしょう。
人工透析につながる腎臓病の進行を減らす根拠
腎臓病のある人を対象にした臨床試験では、SGLT2阻害薬によって重い腎機能低下や腎不全へ進む人が減っています。「透析を防ぐ」という言葉は、この危険を下げる効果を指しています。
腎不全へ進む危険が下がった人の条件
人工透析は、腎臓の働きが大きく低下したときに、老廃物や余分な水分を取り除く働きを補う治療です。透析の開始は将来の重要な出来事ですが、研究では、その手前の大きな腎機能低下も含めて治療効果を調べます。
アルブミン尿のある慢性腎臓病を合併した2型糖尿病の人4,401人を対象にした臨床試験では、カナグリフロジン(商品名カナグル)を服用した群で、プラセボという有効成分を含まない薬の群より、透析が必要になる段階へ進む人が減りました1)。
このような国際的な試験の結果を日本で治療に生かすときは、糖尿病の有無に加え、尿アルブミン量や治療開始時のeGFRが、試験に参加した人と自分でどのくらい近いかを見ます。
腎臓の悪化と透析の開始を区別して読む
効果を示す「腎臓の悪化」という言葉には、いくつかの出来事が含まれます。心臓と腎臓は血液循環を介して影響し合うため、心臓に関する出来事もあわせて調べられています。
| 調べた出来事 | 結果の受け止め方 |
|---|---|
| 大きな腎機能低下 | ろ過する力が大幅に落ちる人が減ったという評価 |
| 末期腎不全 | 透析や移植が必要な状態、または極めて低いeGFRへの進行を含む評価 |
| 透析の開始 | 腎不全の評価項目の一部であり、複数の出来事をまとめた結果とは区別 |
| 心臓や血管に関わる死亡 | 減少が見られた試験があるが、腎臓の評価項目とは異なる結果 |
複数の出来事をまとめた評価で危険が減っていても、その減少幅は「透析になる確率の減少幅」とは別の数字として読みます。
元の危険が高い人ほど利益が大きくなりやすい
糖尿病の有無が異なる人を含む13件の大規模試験、計90,409人の結果をまとめた解析でも、SGLT2阻害薬によって腎臓病の進行と急性腎障害が減るという結果が得られています2)。急性腎障害とは、腎臓の働きが短い期間で急に落ちる状態です。
もともと腎不全へ進む危険が高い人と低い人では、治療によって減らせる出来事の数が違います。尿アルブミンが多い人や腎機能が低下している人では、進行を抑える利益をより大きく見込める一方、危険が低い人では腎不全を減らす利益は小さくなります。
薬の効果を自分の治療に当てはめるときは、研究の見出しにある数字に加えて、これまでの腎機能の推移をあわせて見ます。透析を何年先に延ばせるかは、服用したかどうかだけでは決まらず、一人ひとりの経過によって変わります。
タンパク尿が減るのはろ過の圧が下がるため
SGLT2阻害薬は、腎臓のろ過装置にかかる圧を下げる方向に働き、尿へのタンパクの漏れを減らします。尿の変化を理解するには、血液をろ過したあとに糖や塩分を回収する経路まで見るとつながりが分かります。
尿アルブミンはろ過装置から漏れるタンパク
糸球体は、腎臓の中に多数ある、細い血管が丸く集まったろ過装置です。血液をふるいにかけるように尿のもとを作りますが、本来は体に必要なタンパクを血液側へ残します。
アルブミン尿とは、血液に含まれるタンパクの1つであるアルブミンが尿に漏れた状態です。尿タンパクは尿中のタンパク全体を表す言葉で、尿アルブミンの検査は、その一部を詳しく測っています。
漏れる量が増えているかどうかは、ろ過装置への負担や障害を評価する手がかりになります。血液検査のeGFRが保たれていても尿側に異常が出るため、腎臓の評価には両方の検査を使います。
糖と塩分の回収を抑えて圧を調節する
糸球体を通った尿のもとは、尿細管という細い管へ進み、必要な糖や塩分が体へ回収されます。SGLT2はこの管の初めのほうにある運び手で、糖とナトリウムという塩分の成分を一緒に取り込みます。
SGLT2阻害薬で回収が抑えられると、管の先へ届くナトリウムが増え、それを感知した腎臓が血管の働きを調節します。ろ過の圧を下げるこの調節は尿細管糸球体フィードバックと呼ばれ、アルブミンの漏れを減らす仕組みの1つです。
| 腎臓の中の場所 | 負担がかかる状態 | 服用後に期待する変化 |
|---|---|---|
| 尿細管 | 糖とナトリウムの回収が増え、先へ届く量が減る | 回収を抑え、先へナトリウムを届ける |
| 糸球体の血管 | ろ過する部分に高い圧がかかる | 血管の調節を介してろ過の圧が下がる |
| ろ過装置 | アルブミンが尿へ漏れる | 圧の負担が軽くなり、漏れが減る方向に働く |
この表が示すのは圧による負担を減らす流れで、すでに傷んだろ過装置を元の状態へ戻す働きとは分けて考えます。
尿の値が改善しても検査は続ける
尿アルブミンが減るのは、腎臓への負担が軽くなる方向の変化です。見るのは、尿への漏れと血液をろ過する力という2つの指標。尿の値が下がっても、eGFRの経過をあわせて追います。
尿の泡立ちが気になっても、アルブミンがどれだけ出ているかは尿検査で測ります。見た目の印象と検査で測る量を区別して、治療前と服用後の結果を比べましょう。
SGLT2阻害薬の開始後にeGFRが下がったとき
飲み始めのeGFR低下には、ろ過の圧が調節された結果として起こる一時的な変化があります。低下した事実だけで薬が腎臓を傷めたと決めず、下がり方とその後の推移、体調をあわせて判断します。
初期の低下と長期の悪化では意味が違う
ろ過の圧が下がると、血液をろ過する量もいったん減り、eGFRが以前より低く出ることがあります。この初期の変化と、その後も続く腎機能の悪化は分けて評価します。
台湾でSGLT2阻害薬を始めた2型糖尿病の人8,310人を調べた研究では、開始3か月で尿アルブミンが30%より多く減った人は初期のeGFR低下がやや大きく、その後の重い腎臓の出来事は少ないという関連が見られました3)。
この関連は、服用後の経過を観察した研究で見られたものです。自分の値を見るときは、eGFRの下がり幅や尿の変化の割合よりも、処方前からの推移と照らして評価しましょう。
低下が続くときは原因を確かめる
eGFRが下がったときの対応には、服用後の経過と体調の情報も必要です。少し下がったあとに安定しているか、測るたびに下がるかによって、その後の検査や治療の判断が変わります。
| 検査や体調の変化 | 対応の目安 |
|---|---|
| 開始後に少し低下し、その後は安定 | 予定された再検査で経過を追い、自己判断で中止しない |
| 検査のたびに低下が続く、前回からの変化が目立つ | 結果が分かった時点で処方元に連絡し、再検査の時期を確認 |
| 普段より明らかに尿量が少ない | 当日中に処方元へ連絡 |
| ほとんど尿が出ず、息苦しさや意識の変化を伴う | 直ちに受診 |
表の症状がある場合は、次の定期採血を待たずに対応してください。
検査結果が下がった不安を診察につなげる
腎臓を守るために飲み始めた薬なのに数値が下がると、不安になるのは自然です。初期の反応なのか、治療の見直しが必要な低下なのかを分ければ、数値だけを見て服用をやめる前に、必要な対応を選べます。
たとえば、開始後の診察で検査票のeGFRが以前より低いと気づいたら、服用開始日と前回の結果を示して、次の採血をいつ受けるかを確かめましょう。食事や水分が取れない日があった場合は、その経過も判断材料になり、薬を休むかどうかは主治医が決めます。
糖尿病がなくても腎保護の対象になる
糖尿病がない慢性腎臓病でも、SGLT2阻害薬による治療の対象になります。血糖の高さだけでなく、腎臓病の診断や進行する危険に応じて処方が検討されます。
慢性腎臓病そのものを治療する処方
糖尿病の有無を問わず、eGFRが25〜75でアルブミン尿のある慢性腎臓病の人4,304人を対象にした試験では、ダパグリフロジン(商品名フォシーガ)によって、腎臓の悪化や死亡をまとめた出来事が減りました4)。
より幅広い腎機能の人でも腎臓病の進行を抑える効果が認められており、糖尿病の治療薬として始まった薬が、慢性腎臓病の治療にも使われています。処方の目的が腎保護であれば、血糖が高くなくても、腎臓の状態に応じて治療を継続します。
血糖が落ち着いている人にも治療の意味がある
HbA1cは、過去の一定期間の血糖の状態を反映する血液検査の値です。血糖の管理が良い人でも、尿アルブミンが残っていたり腎機能が低下していたりすれば、腎臓を守る治療を続ける意味があります。
アルブミン尿のある慢性腎臓病を合併した2型糖尿病の試験を追加解析すると、血糖が比較的良い人でも、カナグリフロジンによって腎機能の落ち方がゆるやかになり、尿アルブミンが減っていました5)。
一方、腎臓に対する効果の大きさは血糖の管理状態によって異なり、血糖が比較的良い人と管理が不十分な人では分けて考えます。血糖が目標に近づいたあとも、腎臓の検査結果に沿って継続の判断を受けます。
腎臓病の診断と薬の使用条件がそろうかを見る
腎臓病の原因や治療開始時の検査値は、糖尿病のない人が服用を始める場合にも確認する項目です。日本では、慢性腎臓病に使える薬の中にも、2型糖尿病の合併を条件にする製品があります。
糖尿病がなく処方の理由が分からないときは、次の受診で処方元に、どの腎臓の異常を治療する薬なのかを確かめましょう。尿の異常やeGFRの低下があって治療を受けていない人は、検査結果を持って内科や腎臓内科で診断と治療の適否を相談できます。
腎機能が低いときは薬ごとの使用条件を確認する
腎機能が低下していても、腎保護を目的に使える範囲があります。使い始められるか、すでに服用中なら続けられるかは、薬の種類と処方の目的で判断が変わります。
慢性腎臓病に使う薬とeGFRの条件
慢性腎臓病に対する用量や腎機能の条件は、フォシーガ錠、ジャディアンス錠、カナグル錠の電子添文(添付文書)で確認できます。エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)を含め、次の3剤では条件に違いがあります。
| 薬と慢性腎臓病の対象 | 通常の成人用量 | 腎機能が低い場合の条件 |
|---|---|---|
| フォシーガ … 慢性腎臓病 | 10mgを1日1回 | eGFR 25未満は使用の必要性を慎重に判断 |
| ジャディアンス … 慢性腎臓病 | 10mgを1日1回 | eGFR 20未満は使用の必要性を慎重に判断 |
| カナグル … 2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 | 100mgを1日1回 | eGFR 30未満では新たに開始せず、服用中に低下した場合は継続を慎重に判断 |
表のeGFRの単位はmL/min/1.73m²で、体の大きさを標準化して示す値です。いずれの薬も末期腎不全や透析中の患者さんは慢性腎臓病の効能の対象から除かれており、服用の可否は数値だけでなく腎臓の状態全体から判断します。
血糖を下げる目的と腎保護では判断が変わる
腎機能が落ちると、SGLT2阻害薬の血糖を下げる作用は弱くなります。そのため、血糖がどれだけ下がるかと、腎保護のために使い続けるかは、目的を区別して評価します。
フォシーガ錠とジャディアンス錠の電子添文では、血糖の改善を目的に服用し、eGFRが継続的に45未満へ低下した場合は中止を検討するとされています。この記載は血糖の改善を目的にした場合の目安で、腎保護目的の服用では45未満でも一律に中止する扱いにはなりません。
自分の検査値が境目に近いときは、お薬手帳と検査結果を示して、処方の目的と次の判断時期を主治医に確認しましょう。開始や中止、再開は、腎機能の経過を踏まえた判断を受けて行います。
透析中は慢性腎臓病の効能の対象外
透析中の患者さんに、腎臓の働きを取り戻す目的でSGLT2阻害薬を追加する治療は、上の3剤の慢性腎臓病の効能には含まれていません。透析を始める前に進行を抑える治療と、透析開始後の治療は状況が異なります。
透析導入が決まった場合は、現在の処方を透析担当医と共有し、SGLT2阻害薬の扱いを含めて処方を調整してもらいましょう。腎臓病が進んだときほど、以前の処方をそのまま続ける前提にせず、診療の引き継ぎで薬の整理を受けます。
服用中は尿アルブミンとeGFRを並べて追う
定期診察で中心になるのは、尿へのタンパクの漏れと、血液をろ過する力の推移です。血糖が安定していても、腎保護の評価には尿検査と血液検査の両方を続けます。
定期検査で見る項目
尿と血液では、腎臓の違う面を調べています。診察で見比べるのは、治療前後の変化と複数回の推移。1回の検査結果だけで判断せず、将来の腎機能や薬の効き目は推移から見ていきましょう。
- 尿アルブミン・尿タンパク … ろ過装置からのタンパクの漏れ
- eGFR … 血液をろ過する力の推算値
- 血清クレアチニン … eGFRの計算にも使う血液中の老廃物の値
- 血圧や体重の経過 … 検査値とあわせて把握する体の状態
体重が変わった場合も、腎保護の効果は尿アルブミンとeGFRの経過から評価します。
検査票は日付と開始前の値をそろえる
検査結果は、服用開始前、開始後の早い時期、その後の経過が分かるように日付を添えて残します。初期の低下と長い期間の低下を混同しないためには、薬を始めた時点を記録上で示せると便利です。
尿アルブミンと尿タンパクは名前が似ていても、測定している対象が違います。前の検査と今回の検査を見比べるときは、項目名や単位が同じかを見て、同じ項目どうしで数字を比べましょう。
次の採血と採尿の予定を持って帰る
検査の間隔は、開始時の腎機能や服用後の変化に応じて設定されます。腎機能が低い人や値が下がり続ける人では、安定している人より注意深く経過を追います。
診察の終わりに、次の採血と採尿の予定、早く連絡すべき変化を確かめましょう。普段の尿量や体調に変化があれば、検査結果と一緒に伝えることで、予定を早めるべきか判断を受けやすくなります。
よくある質問
- Q尿タンパクが減ったらSGLT2阻害薬をやめてもよいですか?
- A
尿タンパクの改善だけで中止を決めず、処方どおりの服用を続けます。尿の漏れが減る変化と、長い期間にわたり腎機能を保つ治療は、あわせて評価する必要があるためです。
中止を希望するときは、改善した尿検査の結果を主治医に示して相談しましょう。eGFRの経過や処方の目的を踏まえ、継続の扱いが判断されます。
- Q服用後にeGFRが下がったら腎臓が悪くなったのでしょうか?
- A
飲み始めの一時的な低下であれば、ろ過の圧が下がった反応として説明できることがあります。薬を始める前の値と、その後の複数回の結果を比べて判断します。
低下が続くときは、結果が分かった時点で処方元に連絡してください。ほとんど尿が出ず息苦しさもある場合は、定期診察を待たず直ちに受診する必要があります。
- Q糖尿病がなくてもSGLT2阻害薬を処方されるのですか?
- A
はい、慢性腎臓病があれば、糖尿病がなくても腎保護を目的に処方されます。対象になるかは腎臓病の診断と薬ごとの使用条件によって決まり、フォシーガやジャディアンスは糖尿病のない慢性腎臓病にも使用できます。
- QeGFRが45未満なら服用を中止するのでしょうか?
- A
腎保護が目的の場合、eGFRが45未満という理由だけで一律に中止する扱いではありません。フォシーガとジャディアンスの45という記載は、血糖改善を目的とした使用で、継続的に低下したときに中止を検討する条件です。
検査票の数値に加えて、薬の名前と処方の目的を処方元に確認しましょう。カナグルでは30未満で新たに始める場合と、服用中に30未満へ低下した場合でも扱いが異なります。


