SGLT2阻害薬を飲んでいる間は、陰部をやさしく洗って乾いた状態に保ち、持病に合った範囲で水分をとり、痛みやかゆみに早く気づくことが感染予防の基本です。トイレの回数が増えたときは、排尿時の痛みや陰部の赤みがないかにも目を向けましょう。
この薬で増えやすいのは主に性器のカンジダ感染で、膀胱炎などの尿路感染とは起こる場所も症状も違います。清潔にしていても感染は起こりうるので、毎日の予防と、症状が出たときの連絡や受診を組み合わせて備えます。
この記事では、毎日の陰部のケアと水分のとり方、感染しやすい条件、受診を急ぐ症状、感染したあとに薬を続けるかどうかの判断を解説します。
毎日の感染対策はやさしい洗浄と清潔な状態から
陰部に残った尿や汚れをやさしく落とし、洗ったあとは水気を残さず整えるのが日々のケアです。洗う強さや回数を増やすより、皮膚を傷つけず続けられる方法を選びます。
排尿後は外側の汚れを落とす
排尿のあとに洗うのは、尿が触れる陰部の外側です。水やぬるま湯でさっと流し、清潔なタオルなどで押さえるように水分を取り除きます。
外出先で毎回洗えないときは、尿をやさしく拭き取り、帰宅後の入浴などで清潔を保つ形が続けやすいでしょう。次の習慣を、洗える場所や日常の予定に合わせて組み合わせます。
- 排尿後のケア … 残った尿をやさしく拭き、洗えるときは外側をさっと洗浄
- 入浴時のケア … 陰部をこすりすぎず、洗ったあとの水気を除去
- 下着の管理 … 汗や尿で湿った下着の交換
- 飲水と排尿 … 指示された範囲での水分補給と、尿意を我慢し続けない習慣
かゆみや痛みが出ているときは、洗う回数を増やすより先に、感染の診察を受けましょう。
排尿後の洗浄で性器感染が減った報告
ダパグリフロジン(商品名フォシーガ)を飲む中国の心不全の男性1,337人を対象に、排尿後に外陰部を洗う群と通常の生活を送る群を比べた試験では、1年間の性器の真菌感染は0.75%対3.14%で、洗う群で少なかったと報告されています1)。真菌はカビの仲間で、カンジダもその一種です。
中国の心不全の男性を対象にした結果ですが、排尿後にやさしく洗う習慣は、日常の清潔ケアとして取り入れやすい方法です。洗っていても感染は起こりうるので、症状に早く気づく習慣と組み合わせましょう。
洗いすぎや強い刺激は避ける
陰部は皮膚や粘膜が刺激を受けやすく、強くこすると洗浄そのものでヒリヒリする原因になります。目標は汚れを落として清潔に保つことなので、消毒液や強い水流に頼らず、ぬるま湯でやさしく流せば足ります。
女性は外陰部という体の外側に見える部分を洗い、腟の内部まで洗浄しない方法が基本です。男性は亀頭という陰茎の先端と、それを覆う包皮の周囲をやさしく洗い、皮が動きにくいときに無理に引っ張るのは避けます。
SGLT2阻害薬で尿に糖が出ると陰部の環境が変わる
SGLT2阻害薬は糖を尿へ出す作用があり、尿が触れる陰部では菌やカビが増えやすくなります。薬の作用で変わるのは尿の中身なので、感染しても、清潔にできていなかったせいとは限りません。
腎臓で糖を体に戻す働きを抑える
腎臓は血液から尿のもとを作り、その中の糖の多くを体に戻しています。SGLT2阻害薬はこの糖を戻す働きの一部を抑えるため、通常より多くの糖が尿に含まれて体の外へ出ます。
尿に糖が出るのは薬の働きによる変化です。感染の有無は服用中の尿糖の結果だけでは分からないため、症状や診察、必要に応じた尿の検査を合わせて判断します。
尿が触れる場所と尿の通り道を分ける
糖を含む尿が外陰部に残ると、そこにいるカンジダなどが増えやすい環境になります。外側を清潔に保つケアは、この局所の環境を整えるために行います。
| 場所 | 起きる変化 | 日常で意識する点 |
|---|---|---|
| 腎臓で作られる尿 | 薬の作用で糖が尿に出る | 尿糖だけで感染と判断しない |
| 尿が触れる外陰部 | 菌やカビが増えやすい環境 | 尿や汚れをやさしく落とす |
| 膀胱など尿の通り道 | 細菌による感染が起こりうる | 排尿時の痛みや発熱に注意 |
尿に糖があるという共通点だけで、性器の感染と尿路感染が同じ割合で増えるとはいえません。起こる場所を分けると、清潔ケアで対応する部分と、症状に応じて受診する部分が整理できます。
糖尿病がなくても陰部の変化に注意する
心不全や慢性腎臓病のために服用している人でも、性器や尿路の感染が増える可能性があります。糖尿病の診断がなくても、服用後にかゆみや排尿時の痛みが出たら処方元に伝えましょう。
診察時には薬の名前に加え、心不全や腎臓病のために処方されていることも伝えると、飲水や服薬の判断につながります。感染の症状は、糖尿病を診ている医療機関に限らず、ふだんの処方元へ連絡して対応を確認できます。
SGLT2阻害薬で増えやすいのは性器のカンジダ感染
感染のうち、薬によって増えやすいのは主に性器のカンジダ感染です。尿路感染は全体として明確な増加がみられておらず、2つをまとめて同じ危険度と捉えると実際の注意点がぼやけます。
かゆみや赤みは性器感染の症状
カンジダ感染では、陰部のかゆみや赤み、ヒリヒリ感が現れます。女性では外陰部や腟に、男性では亀頭や包皮に炎症が起こり、白い付着物などに気づくこともあります。
ただし、かゆみがあればすべてカンジダというわけではありません。洗浄剤による刺激や別の病気でも似た症状が出るため、診断がついていない状態で薬を選ぶと原因に合わない治療になるおそれがあります。
排尿の痛みは尿路感染を疑うきっかけ
尿路感染は、尿の通り道で細菌などが増えて炎症を起こす病気です。尿をためる膀胱で起これば膀胱炎となり、尿をするときの痛みや、出し終わっても尿が残った感じなどが現れます。
| 感染の種類 | SGLT2阻害薬との関係 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 性器のカンジダ感染 | 起こりやすくなる | 陰部のかゆみ、赤み、白い付着物 |
| 膀胱炎などの尿路感染 | 全体では明確な増加はみられない | 排尿時の痛み、残尿感、頻尿 |
| 腎臓に及ぶ尿路感染 | 重い感染として注意が必要 | 発熱、寒気、腰や背中の痛み |
性器の炎症があると尿が触れてしみる場合もあり、痛む場所だけでは見分けにくいため、症状が重なるときも診察を受けます。
重い尿路感染は増加の有無と受診を分ける
重い尿路感染がSGLT2阻害薬によって一律に増えるとはいえません。集団での増え方と、自分に感染が起きたときの対処は、分けて考えます。
ジャディアンス錠とフォシーガ錠の電子添文(添付文書)は、薬を使う際の注意事項をまとめた文書で、尿路感染や性器感染が重い感染症に進むおそれを示しています。感染が腎臓や全身へ広がったときは、発熱などの症状に応じた迅速な治療が必要です。
そのため、排尿の痛みや発熱があるときは、全体で増えていないという情報とは切り離して、処方元に受診を相談してください。
女性と性器感染を経験した人は小さな変化に注意
性器の感染は、女性と以前に同じ感染を経験した人で起こりやすくなります。過去の症状を処方元に伝えておくと、飲み始める前の対策や再発したときの対応を具体的に決めやすくなります。
以前のカンジダ感染は服用前に伝える
以前にカンジダ感染の治療を受けた人は、感染した部位と繰り返したかどうかを処方元に伝えましょう。治療した時期や使った薬が分かれば、それも役立つ情報です。
特に、治療しても繰り返した経過や、痛みが強く生活に支障が出た経験は、薬を続ける判断に関わります。診断名を覚えていなくても、かゆみが続いて塗り薬を使ったなど、覚えている範囲を説明できます。
自分に当てはまる条件を整理する
感染しやすさを見るときは、性別だけでなく過去の感染を合わせて捉えるのが基本です。男性でも感染は起こるため、日々の清潔ケアは男女を問わず続けましょう。
| 当てはまる条件 | 特に気をつけたい変化 | 診察で伝えたい内容 |
|---|---|---|
| 女性 | 外陰部のかゆみ、赤み、おりものの変化 | 以前の性器感染の有無 |
| 性器感染の経験がある人 | 以前と似た症状の再発 | 治療内容と繰り返した経過 |
| 男性 | 亀頭や包皮の赤み、痛み、腫れ | 洗いにくさや皮の動かしにくさ |
| すでに感染の症状がある人 | 痛みやかゆみの持続・悪化 | 症状が始まった時期と現在の治療 |
表に当てはまるだけで服用を避けると決まるわけではなく、過去の感染の重さや現在の状態を踏まえて処方が判断されます。
服用前からある症状を薬のせいと決めつけない
すでに尿路感染や性器感染がある状態では、服用によって症状が悪化するおそれがあります。薬をすすめられた時点で痛みやかゆみがある人は、服用後に新しく出た症状と区別できるよう、始まった時期を記録しておくと役立ちます。
陰部の症状は話しづらく、受診をためらう気持ちもあるでしょう。清潔にしていても起こる副作用なので、伝えづらければ「薬を飲んでいて陰部がかゆい」と短く話したり、メモを見せたりする方法で十分です。
水分は切らさず、飲む量は持病に合わせる
水分補給は、尿量が増える薬を安全に使ううえで必要な日常の対応です。ただ、水を多く飲むほど感染を防げるわけではないため、飲む量は持病に合わせて決めます。
尿量が増える分を意識して補う
SGLT2阻害薬で尿へ出る糖が増えると、水分も一緒に尿へ出やすくなります。トイレが近くなったからといって飲水を極端に減らすと、体の水分が足りなくなる方向に働きます。
ジャディアンス錠とフォシーガ錠の電子添文(添付文書)でも、尿量や排尿回数が増えることに伴い、適度な水分補給が必要とされています。食事や外出などの生活場面で、無理なく水分をとれる機会を確保するのが基本です。
心不全や腎臓病の飲水指示を優先する
心不全や腎臓病で飲水量の指示がある人は、その範囲を守って水分をとります。基準になるのは、持病に合わせて決められた飲水量です。感染予防のためという理由だけで、水のペットボトルを追加して飲み切る必要はありません。
薬を始める前の指示を続けてよいか迷うときは、SGLT2阻害薬を飲み始めたことを伝え、処方元に普段の飲水量を確認しましょう。尿量が増えたという理由だけで一律に量を決めると、心臓や腎臓の状態に合わなくなるおそれがあります。
水分と洗浄だけで症状の様子を見続けない
水分を補う習慣は、感染が起きたあとの治療の代わりにはなりません。排尿時に痛む状態で水を増やして待ったり、陰部がかゆい状態で洗浄だけを繰り返したりすると、必要な診察が遅れます。
水分は体の状態を保つため、洗浄は外側の清潔を保つために行うものです。症状が出たときは、飲水量や洗い方を調整する前に、いつからどの部位に変化があるかを整理すると受診時に伝えやすくなります。
排尿の痛み・発熱・陰部の腫れで受診の急ぎ方が変わる
排尿の痛みや新しい陰部のかゆみは当日中に処方元へ連絡し、発熱を伴う腰の痛みや陰部の激しい痛みは受診を急ぎます。症状があるときは、次の定期受診まで待つより、まず連絡して受診先と時期を決める対応が安全です。
排尿痛やかゆみが出たら当日中に連絡する
尿をするときに痛む、陰部が赤くなってかゆい、おりものが普段と違うといった変化は、処方元に当日中に伝えてください。連絡先が休診なら、診療中の内科や泌尿器科、女性の陰部の症状なら婦人科も受診先になります。
たとえば、服用中の人が朝のトイレで排尿時の痛みに気づいたら、体温を測り、腰や背中にも痛みがないかを見てから処方元へ連絡します。熱や痛みの場所を伝えると、当日の診察が必要か判断してもらいやすくなります。
トイレの回数が増えただけなら薬の作用も考えられますが、排尿痛や発熱が加わったときは別の変化として連絡します。
発熱と腰・背中の痛みは腎臓への感染を疑う
腎盂腎炎は、尿路の感染が腎臓に及ぶ病気で、発熱や寒気、腰から背中の痛みなどが現れます。これらが重なるときは当日中に受診し、震えるほどの寒気や嘔吐、立っていられないほどの具合の悪さがあれば直ちに受診してください。
| 症状 | 考えられる状態 | 受診・連絡の目安 |
|---|---|---|
| 陰部のかゆみ、赤み、排尿時の痛み | 性器感染や膀胱炎など | 当日中に処方元へ連絡し受診時期を決定 |
| 発熱と腰・背中の痛み | 腎盂腎炎など | 当日中に受診。震える寒気や嘔吐があれば直ちに受診 |
| 陰部の強い痛み、腫れ、広がる赤み | 重い性器・会陰部の感染 | 発熱の有無にかかわらず直ちに受診 |
| 症状はなく、清潔ケアの方法に迷う | 日常の予防についての疑問 | 次の定期受診で相談 |
意識がぼんやりする、反応が鈍い、自力で移動できない状態なら、本人や家族から救急要請が必要です。
陰部の強い痛みや急な腫れは直ちに受診する
フルニエ壊疽は、陰部や肛門との間にある会陰部で、皮膚の下の組織が壊れていく重い感染症です。まれですが、陰部の強い痛みや腫れ、発熱があるときには疑う必要があり、外見の赤みが小さくても放置は危険です。
座れないほど痛む、触れただけで強く痛む、赤みや腫れが周囲へ広がるときは、夜間でも直ちに救急外来を受診してください。熱がないという理由で待たず、SGLT2阻害薬を服用していることを受付や診察で伝えます。
重い感染は、感染への反応によって全身の臓器の働きが損なわれる敗血症に進むおそれがあるため、洗浄や市販薬ではなく医療機関での治療が要ります。
感染後のSGLT2阻害薬は重さと再発歴に応じて判断する
軽い性器のカンジダ感染なら、治療を受けながらSGLT2阻害薬を続けられることが多いです。感染の種類や重さを診察で確かめ、休薬や再開は主治医の判断に従います。
軽いカンジダ感染は治療しながら続けられることが多い
カンジダによる感染は、カビに効く抗真菌薬という薬で治療します。塗り薬や内服薬などから症状に合った治療が選ばれ、症状が軽ければSGLT2阻害薬を続けながら治療できる場合が多いです。
治療は、かゆみの原因を確かめてから始めます。以前の残りの薬を使う前に受診し、処方された薬は症状が落ち着いたあとも指示された方法で使います。
重い感染や繰り返す感染では服薬を見直す
重い尿路感染や重い性器感染では、感染の治療と合わせて休薬などが検討されます。軽い感染なら続けられるという説明は、発熱や急な腫れがない場合の話です。
また、治療しても繰り返す感染や、日常生活に支障が出る症状が続くときは、SGLT2阻害薬を使う利点と感染の負担を改めて検討します。自己判断で中止と再開を繰り返すのではなく、感染の経過を伝えたうえで主治医と服薬方針を相談しましょう。
受診時は薬の名前と症状の経過を伝える
受診にはお薬手帳を持参し、いつからどんな症状が出たかを短く伝えると診察が進みやすくなります。伝える内容の中心は、服薬状況と感染を疑う変化です。
- 薬の情報 … SGLT2阻害薬の商品名、飲み始めた時期、最後に飲んだ時刻
- 症状の経過 … 痛む部位、発熱の有無、赤みや腫れの広がり
- 過去の感染 … 同じ症状を繰り返したか、以前の治療内容
- 持病と指示 … 心不全や腎臓病の有無、飲水について受けている指示
強い痛みや具合の悪さがあるときは、記録をそろえるために受診を遅らせず、薬の名前が分かるものだけでも持って受診します。
よくある質問
- Q排尿のたびに陰部を洗えないと、感染してしまいますか?
- A
毎回洗えないからといって、必ず感染するわけではありません。外出先では尿をやさしく拭き取り、洗えるときに外側を洗って水気を除くなど、生活の中で続けられる清潔ケアが基本です。
- Q陰部がかゆくなったら、市販の薬を使ってもよいですか?
- A
初めての症状や原因が分からないかゆみでは、自己判断で市販薬を選ぶ前に診察を受けましょう。カンジダ以外の感染や、洗浄剤による刺激などでもかゆみが出るため、見た目だけでの判断は難しいものです。
当日中に処方元へ連絡し、SGLT2阻害薬の服用中に症状が出たと伝えてください。強い痛みや急な腫れがあるときは、市販薬で待たず直ちに受診します。
- Q水をたくさん飲めば、尿路感染を防げますか?
- A
水を多く飲むほど尿路感染を防げるとはいえず、普段の水分補給は体の状態に合った量で行います。心不全や腎臓病で飲水量を指示されている人は、その指示が優先です。
排尿の痛みや発熱があるときは、水分を増やして様子を見続けず処方元へ連絡します。水分補給と感染の治療は、それぞれ必要な対応です。
- Qカンジダ感染になったら、SGLT2阻害薬はやめるのですか?
- A
軽いカンジダ感染なら、治療しながら服用を続けられることが多く、中止するかは診察で判断されます。まず感染の診断を受け、薬を続けるか休むかを主治医に確認してください。
重い感染や治療しても繰り返す感染では、服薬方針を見直します。中止した場合の再開も、症状が軽くなったという本人の判断だけで決めず、主治医の指示に従います。


