「最近、異常にのどが渇いて水分をたくさん摂ってしまう」「トイレに行く回数が多く、尿の量も増えた気がする」このような症状に心当たりはありませんか。
それは「多飲」「多尿」と呼ばれる状態かもしれません。これらは一時的なものである場合もありますが、背景に糖尿病などの病気が隠れている可能性も考えられます。
この記事では、多飲・多尿とはどのような状態か、その主な原因となる病気、そして医療機関でどのような検査を行うのかを詳しく解説します。
多飲・多尿とは?基本的な知識
多飲と多尿は、しばしば一緒に現れる症状です。どちらか一方だけが気になる場合もあれば、両方の症状を自覚する場合もあります。
まずは、それぞれの定義と両者の関係について理解を深めましょう。
多飲の定義
多飲とは、過剰に水分を摂取してしまう状態を指します。明確な基準はありませんが、一般的には1日に3リットル以上の水分を継続的に摂取している場合に多飲を考えます。
のどの渇き(口渇感)が強いために、無意識のうちに水分摂取量が増えていることが多いです。
ただし、夏場の暑い日や激しい運動後など、発汗によって水分が多く失われる状況での水分摂取は、生理的な反応であり、多飲とは区別します。
多尿の定義
多尿は、1日の尿量が異常に多い状態です。健康な成人の1日の平均尿量は1.0〜1.5リットル程度ですが、多尿の基準は一般的に3リットル以上とされています。
頻繁にトイレに行く「頻尿」とは少し意味が異なり、頻尿は1回の尿量が少なくても回数が多い状態を指すのに対し、多尿は1回の尿量も全体の尿量も多いのが特徴です。
多飲と多尿の一般的な基準
| 症状 | 状態 | 1日の目安量 |
|---|---|---|
| 多飲 | 過剰な水分摂取 | 3リットル以上 |
| 多尿 | 過剰な尿の排出 | 3リットル以上 |
多飲と多尿の関係性
多飲と多尿は密接に関係しています。体内の水分バランスは、脳の下垂体から分泌される抗利尿ホルモン(ADH)によって調節されています。
何らかの原因で尿が過剰に作られる(多尿)と、体は水分不足(脱水)に陥ります。その結果、体は水分を補おうとして強いのどの渇きを感じ、水分を多く摂る(多飲)ようになります。
逆に、精神的な要因などで水分を過剰に摂取する(多飲)と、体は余分な水分を排出しようとして尿の量が増え(多尿)、結果として両方の症状が現れます。
多飲・多尿の主な原因
多飲・多尿を引き起こす原因は一つではありません。いくつかの病気が考えられ、その中でも特に頻度が高いものを解説します。ご自身の状態を理解するための参考にしてください。
糖尿病(最も頻度が高い)
多飲・多尿の最も一般的な原因は糖尿病です。糖尿病は、血糖値を下げるインスリンというホルモンの働きが不十分になることで、血液中の糖分(血糖)が多くなる病気です。
血糖値が高くなると、尿中にも糖が排出されるようになります。このとき、糖は水分と一緒に排出される性質があるため、尿の量が増加し多尿になります。
体内の水分が失われるため、強いのどの渇きを感じ、多飲につながります。
糖尿病の代表的な症状
| 症状 | 説明 | 関連 |
|---|---|---|
| 多飲・多尿 | のどが渇き、尿量が増える | 初期から見られる |
| 体重減少 | 食べているのに痩せる | エネルギー不足 |
| 全身の倦怠感 | 疲れやすく、だるい | エネルギー不足 |
尿崩症
尿崩症は、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が不足したり、ホルモンが腎臓で正常に機能しなくなったりすることで、尿を濃縮できなくなる病気です。
その結果、薄い尿が大量に排出され、激しい多尿と、それを補うための強い口渇感・多飲が起こります。
尿崩症には、脳の下垂体や視床下部の異常が原因の「中枢性尿崩症」と、腎臓がADHに反応しないことが原因の「腎性尿崩症」があります。
尿崩症の主な種類
| 種類 | 原因 | 特徴 |
|---|---|---|
| 中枢性尿崩症 | 抗利尿ホルモンの分泌低下 | 脳腫瘍、頭部外傷などがきっかけになることも |
| 腎性尿崩症 | 腎臓が抗利尿ホルモンに反応しない | 薬剤の影響や遺伝的な要因も考えられる |
心因性多飲症
心因性多飲症は、体に明らかな異常がないにもかかわらず、精神的なストレスや不安から過剰に水分を摂取してしまう状態です。
水を飲む行為が精神的な安定につながっている場合があります。
大量に水分を摂るため、結果として尿量も増えます。他の病気との区別が重要で、精神科や心療内科での対応が必要になることもあります。
高カルシウム血症
血液中のカルシウム濃度が異常に高くなる状態を高カルシウム血症と呼びます。カルシウムは腎臓での尿の濃縮機能を妨げる働きがあるため、血中カルシウム濃度が高いと多尿になります。
そして、脱水状態を補うために多飲が起こります。高カルシウム血症の原因としては、副甲状腺の機能が過剰になる副甲状腺機能亢進症や、特定のがんなどが考えられます。
- 副甲状腺機能亢進症
- 悪性腫瘍(がん)
- ビタミンDの過剰摂取
- 特定の薬剤
薬剤性多尿
服用している薬の副作用として多飲・多尿が起こることがあります。特に、利尿薬は尿量を増やす目的で使用しますが、それ以外の薬剤でも影響が出ることがあります。
例えば、一部の精神疾患治療薬や、喘息の治療薬、漢方薬などが原因となる可能性があります。
新しい薬を飲み始めてから症状が現れた場合は、薬剤性の可能性を考え、処方した医師や薬剤師に相談することが大切です。
多尿を引き起こす可能性のある薬剤の例
| 薬剤の種類 | 主な用途 |
|---|---|
| 利尿薬 | 高血圧、心不全、むくみ |
| リチウム製剤 | 双極性障害 |
| SGLT2阻害薬 | 糖尿病 |
慢性腎臓病
腎臓は、血液をろ過して老廃物を尿として排出する重要な臓器です。慢性腎臓病(CKD)が進行し、腎機能が低下すると、尿を濃縮する能力が衰えてきます。
その結果、薄い尿が多く作られるようになり、多尿の症状が現れることがあります。ただし、病状がさらに進行して末期になると、逆に尿がほとんど作られなくなる(無尿)こともあります。
- 糖尿病性腎症
- 慢性糸球体腎炎
- 腎硬化症
医療機関での検査
多飲・多尿の症状で医療機関を受診した場合、原因を特定するためにいくつかの検査を行います。診察の流れを事前に知っておくことで、安心して検査に臨むことができるでしょう。
問診
診察の第一歩は、医師による詳しい問診です。症状について具体的に伝えることで、診断の重要な手がかりとなります。
どのようなことを、いつから、どのくらいの量飲んでいるか、尿の回数や量はどうかなど、できるだけ詳しく説明することが求められます。
問診で尋ねられる内容の例
| 項目 | 質問の例 | 伝えるべきポイント |
|---|---|---|
| 症状の始まり | 「いつから症状が気になり始めましたか?」 | 急に始まったか、徐々に始まったか |
| 水分摂取量 | 「1日にどのくらいの水分を摂りますか?」 | 具体的な量(例:2Lペットボトル2本分) |
| 尿の状態 | 「夜中にトイレで何回起きますか?」 | 回数、量、色、泡立ちなど |
| 既往歴・服薬歴 | 「現在治療中の病気や飲んでいる薬はありますか?」 | お薬手帳を持参するとスムーズ |
身体診察
問診に続いて、身体診察を行います。体重や血圧の測定、むくみ(浮腫)の有無、脱水の兆候(皮膚の乾燥、脈拍の上昇など)を確認します。
これにより、全身の状態を把握し、原因疾患の手がかりを探します。
基本的な検査
問診と身体診察の後、血液検査と尿検査を行うのが一般的です。これらは多飲・多尿の原因を調べる上で非常に重要な基本の検査です。
血液検査
血液検査では、血糖値や腎機能、電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)のバランスを調べます。
糖尿病が疑われる場合は血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値を、腎臓の病気が疑われる場合はクレアチニンやeGFRの値を、高カルシウム血症が疑われる場合はカルシウムの値などを重点的に確認します。
血液検査で確認する主な項目
| 検査項目 | 何がわかるか |
|---|---|
| 血糖値、HbA1c | 糖尿病の可能性 |
| 電解質(Na, K, Cl, Ca) | 体内のミネラルバランス、高カルシウム血症など |
| 腎機能(BUN, Cre, eGFR) | 腎臓の働き |
尿検査
尿検査では、尿の中に糖やタンパクが出ているか、尿の濃さ(比重や浸透圧)などを調べます。尿に糖が出ている場合は糖尿病の可能性が高まります。
尿が異常に薄い(比重が低い)場合は、尿崩症や心因性多飲症などが考えられます。
尿検査で確認する主な項目
| 検査項目 | 何がわかるか |
|---|---|
| 尿糖 | 糖尿病の可能性 |
| 尿比重、尿浸透圧 | 尿の濃縮能力、尿崩症の可能性 |
| 尿蛋白 | 腎臓の障害 |
糖尿病の診断検査
血液検査で血糖値が高い場合、糖尿病の確定診断のためにさらに詳しい検査を行います。具体的には、空腹時血糖値の測定や、75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)などがあります。
これらの検査結果を総合的に判断して、糖尿病かどうかを診断します。
尿崩症の診断検査
尿崩症が疑われる場合、確定診断のために「水制限試験」や「高張食塩水負荷試験」といった専門的な検査を行うことがあります。
これらは、体に水分摂取を制限したり、意図的に脱水状態にしたりして、抗利尿ホルモンが正常に分泌・機能しているかを確認する検査です。入院して慎重に行う必要があります。
画像検査
原因によっては、画像検査が必要になることもあります。例えば、中枢性尿崩症が疑われる場合には、脳下垂体周辺に腫瘍などがないかを確認するために頭部のMRI検査を行います。
また、腎臓の形や大きさを調べるために、腹部の超音波(エコー)検査やCT検査を行うこともあります。
- 頭部MRI検査
- 腹部超音波検査
- 腹部CT検査
よくある質問(Q&A)
多飲・多尿に関して、多くの方が抱く疑問についてお答えします。
- Qどのくらいの水分量・尿量から「多飲多尿」と判断されますか?
- A
一般的に、1日の尿量が3リットル以上の場合を多尿、水分摂取量が3リットル以上の場合を多飲と判断します。
ただし、個人差や気候、活動量によっても変動するため、普段と比べて明らかに増えたと感じる場合は医療機関への相談をおすすめします。
- Q多飲多尿の原因となる主な病気は何ですか?
- A
糖尿病が最も代表的ですが、その他に尿崩症、慢性腎臓病、高カルシウム血症、薬剤性(利尿薬など)、精神的な要因(心因性多飲症)などが原因となることがあります。
原因によって治療法が異なるため、適切な検査で原因を特定することが重要です。
- Q多飲多尿で病院を受診すると、どのような検査を受けますか?
- A
まず血液検査(血糖値、電解質、腎機能など)と尿検査を行います。必要に応じて、水制限試験、画像検査(CT・MRI)、ホルモン検査(抗利尿ホルモンなど)を追加することもあります。
症状の程度や疑われる疾患によって、検査内容は医師が判断します。
- Q多飲多尿の症状が出たら、すぐに病院に行くべきですか?
- A
急激な体重減少、極度の疲労感、意識障害を伴う場合は緊急受診が必要です。
そうでない場合も、症状が1〜2週間続く、日常生活に支障が出る、夜間頻尿で睡眠が妨げられるといった状況では、早めに内科または泌尿器科を受診することをおすすめします。
