「最近、異常に喉が渇いて水分をたくさん摂ってしまう」「トイレに行く回数や尿の量が明らかに増えた」と感じていませんか。それは「多飲・多尿」という体のサインかもしれません。

一時的なものであれば心配ないこともありますが、背後に病気が隠れている可能性もあります。

この記事では、多飲・多尿の基本的な知識から、その原因となる主な病気、そして子どもから高齢者、妊娠中の方まで、年齢や状況による特徴を詳しく解説します。

多飲・多尿とは何か

多飲・多尿は、単に「水分を多く飲み、尿が多く出ること」と捉えられがちですが、医学的には体内の水分バランスが崩れていることを示す重要な兆候です。

これらは別々の現象ではなく、多くの場合、互いに深く関連しています。どちらか一方の症状から始まり、もう一方の症状を引き起こすという関係性を持っています。

多飲・多尿の基本的な理解

まず、どのくらいの量から「多飲」「多尿」と判断するのか、具体的な目安を知ることが大切です。

健康な成人の場合、1日の飲水量は食事に含まれる水分と合わせて約2.5リットル、尿量は約1.5リットルが平均的です。

これに対し、「多飲」は、明らかに過剰な水分を摂取する状態で、一般的に1日の飲水量が3.5リットル以上続く場合を指します。一方、「多尿」は、1日の尿量が3リットル以上になる状態をいいます。

ただし、これらはあくまで目安です。気温が高い日や運動後など、汗を多くかいた日は自然と飲水量が増えますし、利尿作用のあるカフェインやアルコールを摂取すれば一時的に尿量が増えます。

問題となるのは、そうした特別な理由がないにもかかわらず、多飲・多尿の状態が続く場合です。

多飲・多尿の発生要因による分類

多飲・多尿がなぜ起こるのか、その発生要因によって大きく3つのタイプに分類できます。原因を考える上で、この分類の理解はとても重要です。

浸透圧利尿

血液中のブドウ糖やナトリウムといった物質(溶質)の濃度が高くなると、体はそれを薄めようとして喉の渇きを感じ、水分を多く摂取します(多飲)。

同時に、腎臓は血液中から余分な溶質を尿として排泄しようと働きます。このとき、溶質と一緒に水分も尿として排出されるため、尿量が増加します(多尿)。

この状態を「浸透圧利尿」と呼びます。最も代表的な原因は、血糖値が高くなる糖尿病です。

水利尿

私たちの体には、腎臓での水分再吸収を促し、尿量を調節する「抗利尿ホルモン(バソプレシン)」というホルモンがあります。

このホルモンの分泌が不足したり、ホルモンは分泌されていても腎臓がうまく反応しなくなったりすると、水分が再吸収されずにそのまま尿として大量に排出されてしまいます。

これが「水利尿」です。体は常に水分不足の状態になるため、激しい喉の渇きを覚え、大量の水分を補給しようとします。この状態を引き起こす代表的な病気が尿崩症です。

心因性多飲

上記の2つとは異なり、体の生理的な異常が直接の原因ではなく、精神的なストレスや不安、統合失調症などの精神疾患が背景となって、強迫的に水分を過剰摂取してしまう状態です。

これを「心因性多飲(または原発性多飲症)」と呼びます。大量に水分を摂る結果として、二次的に尿量も増加します。

この場合、体が必要とする以上の水分を摂取しているため、血液中のナトリウム濃度が低下し、水中毒という危険な状態に陥ることもあります。

多飲・多尿の主な発生タイプ

分類主な原因体の状態
浸透圧利尿糖尿病などによる高血糖血液中の物質濃度が高く、それを排泄するために尿量が増加する。
水利尿抗利尿ホルモンの作用不足(尿崩症)腎臓での水分再吸収ができず、薄い尿が大量に出る。
心因性多飲精神的な要因喉の渇きではなく、強迫的に水分を摂取した結果、尿量が増加する。

多飲・多尿を引き起こす主な疾患

多飲・多尿は、さまざまな病気のサインとして現れます。ここでは、その中でも特に頻度の高い代表的な疾患について解説します。

糖尿病による多飲・多尿

多飲・多尿の症状で医療機関を訪れる際に、最も多く見られる原因疾患が糖尿病です。

糖尿病は、インスリンという血糖値を下げるホルモンの作用が不足し、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高い状態が続く病気です。

血糖値が一定以上に高くなると、腎臓が血液中からブドウ糖を再吸収しきれなくなり、尿の中に糖が漏れ出てきます(尿糖)。

このとき、先に説明した「浸透圧利尿」の働きによって、ブドウ糖と一緒に水分も尿として大量に排出されます。これが糖尿病における多尿です。

体内の水分が失われるため、体は脱水状態となり、強い喉の渇きを感じて水分を多く摂るようになります。これが多飲です。

糖尿病の初期には自覚症状がほとんどありませんが、多飲・多尿は比較的早い段階で現れることのある重要なサインです。その他、体重減少、全身の倦怠感、食欲の異常なども伴うことがあります。

尿崩症による多飲・多尿

尿崩症は、抗利尿ホルモンの異常によって「水利尿」が起こる病気です。糖尿病のように尿に糖が出ることはありませんが、薄い尿が大量に出るという特徴があります。

尿崩症は、その原因によって「中枢性尿崩症」と「腎性尿崩症」の2つに大別されます。

中枢性尿崩症

脳の下垂体や視床下部といった部位に問題が生じ、抗利尿ホルモンの分泌自体が減少または停止してしまうタイプです。

原因としては、脳腫瘍、頭部の外傷、脳外科手術の後遺症などがありますが、原因が特定できない特発性の場合も少なくありません。

症状は、突然始まる激しい喉の渇きと、それに伴う多飲・多尿です。特に冷たい水を好んで飲む傾向があります。

腎性尿崩症

抗利尿ホルモンは正常に分泌されているにもかかわらず、そのホルモンが作用する腎臓の尿細管がうまく反応できなくなっている状態です。

遺伝的な要因のほか、特定の薬剤(リチウムなど)の長期服用や、腎臓自体の病気、電解質異常(高カルシウム血症、低カリウム血症)などが原因で起こります。

その他の原因疾患

糖尿病や尿崩症以外にも、多飲・多尿を引き起こす可能性のある病態や疾患が存在します。

  • 高カルシウム血症
  • 低カリウム血症
  • 慢性腎不全
  • 薬剤性

血液中のカルシウム濃度が異常に高くなる高カルシウム血症や、カリウム濃度が低くなる低カリウム血症は、腎臓の尿濃縮機能を低下させ、多尿を引き起こすことがあります。

また、腎臓の機能が低下する慢性腎不全の初期段階でも、尿を濃縮する力が弱まり、多尿が見られることがあります(進行すると逆に尿量が減少します)。

さらに、高血圧の治療などに使う利尿薬の作用で尿量が増え、結果として飲水量が増えることも薬剤性の多飲・多尿として考えられます。

年齢や性別による特徴

多飲・多尿は、年齢や性別、ライフステージによっても現れ方や注意すべき点が異なります。それぞれの状況に応じた特徴を理解しておくことが大切です。

小児の多飲・多尿

子どもの場合、「おねしょ(夜尿症)」と多尿の区別が難しいことがあります。

しかし、夜間だけでなく日中もトイレの回数が異常に多い、以前よりも格段に水分を欲しがる、体重が増えない、あるいは減ってきた、元気がないといった様子が見られる場合は注意が必要です。

これらのサインは、若年層に多い1型糖尿病や、先天性の尿崩症の可能性があります。特に幼児は自分で症状をうまく伝えられないため、保護者が普段の様子を注意深く観察し、変化に気づくことが重要です。

高齢者の多飲・多尿

高齢になると、加齢に伴う生理的な変化として腎臓の尿を濃縮する機能が低下する傾向にあります。そのため、夜間に作られる尿量が増え、夜間頻尿の原因の一つとなります。

また、高血圧や心不全などの持病のために利尿薬を服用している方も多く、その影響で尿量が増えていることも少なくありません。

高齢者の場合、喉の渇きを感じる機能も低下していることがあり、多尿にもかかわらず水分補給が追いつかず、脱水症に陥りやすいというリスクがあります。

本人が症状を自覚しにくいこともあるため、周囲の家族が水分摂取量やトイレの回数に気を配ることも大切です。

高齢者に見られる頻尿・多尿の背景

要因の分類具体的な内容注意点
加齢による変化腎臓の尿濃縮力の低下、膀胱の弾力性低下特に夜間の尿量が増加しやすい。
基礎疾患糖尿病、高血圧、心疾患、前立腺肥大症疾患そのものが原因となる場合と、治療薬が原因となる場合がある。
生活習慣就寝前の水分・カフェイン・アルコールの過剰摂取生活習慣の見直しで改善することもある。

妊娠中の多飲・多尿

妊娠中は、体にさまざまな変化が起こります。循環する血液量が増えるため腎臓を通過する血液量も増加し、尿が作られやすくなります。

また、大きくなった子宮が膀胱を圧迫するため、頻尿になりやすいです。これらは生理的な変化であり、通常は心配いりません。

しかし、著しい喉の渇きを伴う多飲・多尿が見られる場合は注意が必要です。背景に「妊娠糖尿病」が隠れている可能性があります。

妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて発見または発症した糖代謝異常で、母体だけでなく胎児にも影響を及ぼすことがあるため、適切な管理が重要です。

ごくまれに、胎盤で作られる酵素が抗利尿ホルモンを分解してしまうことで起こる「妊娠性尿崩症」という状態もあります。気になる症状があれば、ためらわずに産婦人科の主治医に相談しましょう。

よくある質問

Q
水をたくさん飲むのは健康に良いと聞きましたが、多飲とは違うのですか
A

意識的に水分補給をすることは、脱水予防や健康維持のためにとても良い習慣です。しかし、これは「喉が渇く前にこまめに飲む」という能動的な水分摂取です。

一方、病的な「多飲」は、体の異常によって生じる強い喉の渇きに耐えられず、飲まずにはいられないという状態を指します。

1日の飲水量が3.5リットルを超えるような状態が続く場合は、単なる健康習慣の範囲を超えている可能性があります。

Q
トイレが近いだけなのですが、多尿でしょうか
A

「トイレが近い」という症状は「頻尿」と呼ばれ、「多尿」とは区別して考えます。頻尿は、1日の尿量は正常範囲内(約1.5リットル以下)であるものの、排尿回数が多い状態です。

原因としては、膀胱炎、過活動膀胱、前立腺肥大症、あるいは心因的なものなどが考えられます。一方、多尿は1回の排尿量も多く、1日の総尿量自体が増加している状態です。

ご自身の1回の尿量が極端に少ないか、それとも毎回しっかり出ているかを確認することも、一つの判断材料になります。

Q
何科を受診すればよいですか
A

多飲・多尿の原因は多岐にわたるため、まずはかかりつけの内科医に相談するのがよいでしょう。かかりつけ医がいない場合は、一般内科を受診し、症状を詳しく伝えてください。

問診や初期検査の結果、糖尿病が強く疑われる場合は糖尿病内科や代謝・内分泌内科へ、腎臓の問題が考えられる場合は腎臓内科へ、尿崩症などが疑われる場合は脳神経外科や内分泌内科へ紹介されることがあります。

お子さんの場合は、まず小児科を受診してください。

Q
検査ではどのようなことを調べますか
A

医療機関では、まず詳しい問診(いつから症状があるか、飲水量や尿量、他に症状はないか、既往歴や服用中の薬など)を行います。その上で、血液検査と尿検査を行うのが一般的です。

血液検査では、血糖値、電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)、腎機能などを調べます。尿検査では、尿に糖やタンパクが出ていないか、尿の濃さ(比重や浸透圧)を測定します。

これらの基本的な検査で多くの場合は原因の方向性が見えてきますが、尿崩症の診断など、さらに詳しい検査が必要な場合には、入院して「水制限試験」など専門的な検査を行うこともあります。

参考文献