内分泌疾患の一種である下垂体巨人症(かすいたいきょじんしょう)とは、成長ホルモンの過剰分泌によって思春期前から異常な骨格の成長が起こる稀な病気です。

この疾患では下垂体から分泌される成長ホルモンが通常よりも多く作られることで体の各部位が過度に大きくなってしまうのです。

特に手足や顔の骨、内臓などが著しく成長し、身長が極端に高くなるのが特徴です。また、関節痛や視力障害、頭痛などの様々な症状を伴うことがあります。

早期発見と適切な対応が重要となりますが、正確な診断には専門医による詳しい検査が必要です。

主症状

下垂体性巨人症(かすいたいせいきょじんしょう)は、成長ホルモンの過剰分泌により引き起こされる稀な内分泌疾患です。

この疾患の主な症状は患者さんの生活に大きな影響を与える可能性があります。

身体的特徴の変化

下垂体性巨人症の最も顕著な症状は、急速かつ過剰な身長の増加です。通常の成長曲線を大きく上回るペースで身長が伸びていきます。

この異常な成長は以下のような身体的特徴の変化をもたらすことがあります。

  • 手足の著しい拡大
  • 顔の骨格の変形(特に下顎の突出)
  • 皮膚の肥厚と粗造化

これらの変化は思春期前から始まり、成人期まで続く場合があります。

年齢平均身長(cm)巨人症患者の身長(cm)
10歳140160-170
15歳170190-200
成人175210以上

内臓の肥大化

成長ホルモンの過剰分泌は身体の外見だけでなく内臓にも影響を及ぼします。多くの患者さんで以下のような内臓の肥大化が観察されることがあります。

  • 心臓の肥大
  • 肝臓の腫大
  • 腎臓の肥大

これらの変化は各臓器の機能に影響を与える可能性があり、長期的な健康上の問題につながることも考えられます。

代謝異常

下垂体性巨人症では成長ホルモンの作用によって体内の代謝にも変化が生じます。以下は主な代謝異常です。

代謝異常症状
糖代謝異常耐糖能低下、糖尿病
脂質代謝異常高脂血症
ミネラル代謝異常高カルシウム血症

これらの代謝異常は患者さんの全身状態に影響を与え、様々な二次的な症状を引き起こす可能性があります。

神経学的症状

下垂体腫瘍の増大に伴い周囲の神経組織を圧迫することで神経学的症状が現れることがあります。主な症状には以下のようなものがあります。

  • 頭痛
  • 視野狭窄
  • 複視(物が二重に見える)

これらの症状は患者さんの日常生活に大きな支障をきたす可能性があるため早期発見が重要です。

関節・筋肉症状

急速な骨格の成長は関節や筋肉にも負担をかけます。多くの患者さんが以下のような症状を訴えることがあります。

症状頻度重症度
関節痛(特に膝や股関節)高い中~重度
筋力低下中程度軽~中度
易疲労感高い中度

これらの症状は患者さんの運動能力や生活の質に大きな影響を与えることも多いです。

症状の進行度や重症度は個人差が大きいため、定期的な経過観察が不可欠です。早期発見と適切な対応により症状の進行を抑制し、合併症のリスクを軽減できる可能性があります。

原因とメカニズム

下垂体性巨人症は成長ホルモンの過剰分泌によって引き起こされる稀な内分泌疾患です。この疾患の発症には複数の要因が関与しており、その原因を理解することは診断と経過観察において不可欠です。

下垂体腺腫の形成

下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の主要な原因は下垂体前葉に発生する良性腫瘍である下垂体腺腫です。

この腫瘍が成長ホルモン産生細胞から発生することで、過剰な成長ホルモンの分泌が起こるのです。

下垂体腺腫の形成には以下のような要因が関与していると考えられています。

  • 遺伝子変異
  • エピジェネティックな変化
  • 成長因子の異常

これらの要因が単独または複合的に作用して下垂体前葉の細胞に異常をもたらすことがあります。

下垂体腺腫のタイプ特徴
微小腺腫直径10mm未満
大型腺腫直径10mm以上
浸潤性腺腫周囲組織に浸潤

遺伝的要因

一部の下垂体性巨人症症例では遺伝的要因が重要な役割を果たしています。特定の遺伝子変異が下垂体腺腫の形成や成長ホルモンの過剰分泌に関連していることが明らかになっているのです。

以下は主な関連遺伝子です。

  • AIP遺伝子
  • MEN1遺伝子
  • GNAS遺伝子
  • PRKAR1A遺伝子

これらの遺伝子変異は家族性下垂体腺腫症候群や多発性内分泌腫瘍症などの遺伝性疾患の一部として見られることがあります。

遺伝子関連疾患
AIP家族性単離性下垂体腺腫
MEN1多発性内分泌腫瘍症1型
GNASMcCune-Albright症候群
PRKAR1Aカーニー複合

環境要因とエピジェネティクス

遺伝的要因に加えて環境要因やエピジェネティックな変化も下垂体性巨人症の発症に関与している可能性があります。

これらの要因は遺伝子の発現パターンを変化させ、細胞の機能に影響を与えることがあります。

以下は考えられる環境要因やエピジェネティックな変化です。

  • 放射線被曝
  • 化学物質への暴露
  • ストレス
  • 栄養状態

これらの要因がどのようなメカニズムで下垂体腺腫の形成や成長ホルモンの過剰分泌を引き起こすのかは現段階ではまだ完全には解明されていません。

下垂体発生異常

稀ではありますが、胎児期や乳幼児期の下垂体の発生異常が後の下垂体性巨人症の発症につながることがあります。

この場合下垂体の構造や機能に先天的な異常が存在し、それが成長ホルモンの過剰分泌を引き起こす可能性があるのです。

下垂体発生異常に関連する要因には以下のようなものがあります。

  • 発生過程での遺伝子異常
  • 母体の栄養状態や健康状態
  • 胎児期の環境要因
発生段階関連する異常
胎児期初期下垂体原基の形成不全
胎児期中期下垂体前葉細胞の分化異常
胎児期後期ホルモン産生細胞の機能異常

下垂体性巨人症の原因は複雑で多岐にわたります。単一の要因ではなく、複数の要因が相互に作用し合って発症に至ることが多いと考えられています。

また、個々の症例によって原因やメカニズムが異なる可能性があり、患者さんごとに詳細な検討が必要となります。

下垂体性巨人症の診察と診断

下垂体性巨人症の診察と診断は患者さんの身体的特徴や成長パターンの詳細な評価から始まり、複数の検査を組み合わせて行われます。

問診と身体診察

診断の第一歩は詳細な問診と身体診察です。ここで患者さんの成長歴、家族歴、既往歴などを丁寧に聴取します。

問診では主に以下の点に注目します。

  • 身長の急激な増加
  • 手足の拡大
  • 顔貌の変化
  • 関節痛や頭痛の有無

身体診察では身長、体重、体型の特徴などを詳しく観察します。

評価項目観察ポイント
身長年齢相応の標準値との比較
体重BMIの算出
手足のサイズ靴のサイズ変化など
顔貌下顎の突出、眉弓の突出など

成長曲線の評価

成長曲線の評価は下垂体性巨人症の診断において不可欠です。患者さんの身長の推移を標準的な成長曲線と比較することで異常な成長パターンを識別することができます。

以下は成長曲線の評価で注目すべき点です。

  • 成長速度の加速
  • 標準偏差スコア(SDスコア)の変化
  • 思春期の開始時期

成長曲線の異常は下垂体性巨人症を疑う重要な手がかりとなります。

血液検査

血液検査は下垂体性巨人症の診断において中心的な役割を果たします。主に以下のホルモン値を測定するのが一般的です。

  • 成長ホルモン(GH)
  • インスリン様成長因子-I(IGF-I)
  • プロラクチン

また、他の下垂体ホルモンの分泌状態も評価します。

検査項目正常値巨人症での値
GH<1 ng/mL>5 ng/mL
IGF-I年齢性別により異なる正常上限の2-3倍
プロラクチン<15 ng/mL正常~軽度上昇

負荷試験

成長ホルモンの分泌動態を詳細に評価するため、さまざまな負荷試験が行われることがあります。以下はその主な負荷試験です。

  • 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
  • TRH負荷試験
  • GHRH負荷試験

これらの試験は成長ホルモンの分泌が適切に抑制されるかどうかを確認するために実施されます。

画像検査

下垂体腫瘍の存在や大きさを確認するため、画像検査が行われます。主に以下の検査が用いられます。

  • MRI(磁気共鳴画像法)
  • CT(コンピュータ断層撮影)

MRIは下垂体の詳細な構造を観察するのに最も適しています。

画像所見特徴
微小腺腫直径10mm未満の腫瘍
大型腺腫直径10mm以上の腫瘍
浸潤性腺腫周囲組織への浸潤を伴う腫瘍

遺伝子検査

一部の症例では遺伝子検査が診断の助けとなることがあります。主に以下の遺伝子が調べられます。

  • AIP遺伝子
  • MEN1遺伝子
  • GNAS遺伝子

これらの遺伝子変異が確認されると、家族性下垂体腺腫や多発性内分泌腫瘍症などの関連疾患の診断につながる可能性が出てくるでしょう。

画像所見

下垂体性巨人症の診断において画像検査は非常に重要な役割を果たします。

特にMRI(磁気共鳴画像法)とCT(コンピュータ断層撮影)が主に用いられ、これらの検査により下垂体腫瘍の存在や大きさ、周囲組織への影響などを詳細に評価することが可能です。

MRI所見

MRIは下垂体腫瘍の診断において最も感度が高く、優れた空間分解能を持つ検査方法です。T1強調画像、T2強調画像、造影T1強調画像などを組み合わせることで腫瘍の詳細な構造や性状を評価できます。

以下はMRIで観察される主な所見です。

  • 下垂体の腫大
  • 腫瘍内部の信号強度の変化
  • 造影効果のパターン
  • 周囲組織への浸潤や圧排
MRI所見特徴
T1強調画像腫瘍は通常低~等信号
T2強調画像腫瘍は多くの場合高信号
造影T1強調画像腫瘍は多くの場合強い造影効果を示す
Somatotroph adenoma (somatotropinoma) in a middle-aged woman with                         headache and signs of acromegaly. (A) Coronal contrast-enhanced T1-weighted                         MR image shows a hypoenhancing mass, which is expanding the left lateral                         adenohypophysis (arrow). (B) More anterior coronal contrast-enhanced                         T1-weighted MR image from the same contrast-enhanced sequence as in A shows                         that the hypoenhancing mass wraps below the left cavernous carotid flow void                         and extends slightly past its lateral margin (arrow). It indicates probable                         invasion of the cavernous sinus (Knosp grade 3) and is relevant to surgical                         planning. (C) Low-power photomicrograph with reticulin stain shows numerous                         neuroendocrine cells with round nuclei. There is a distorted and fragmented                         reticulin staining pattern (arrow), which is consistent with loss of normal                         pituitary acinar architecture and confirms the diagnosis of a pituitary                         adenoma. (D) Low-power photomicrograph shows diffusely positive (brown)                         immunostaining for growth hormone, which correlates with the clinical                         history and confirms the diagnosis of somatotroph adenoma.
Shih, Robert Y et al. “Primary Tumors of the Pituitary Gland: Radiologic-Pathologic Correlation.” Radiographics : a review publication of the Radiological Society of North America, Inc vol. 41,7 (2021): 2029-2046.

所見:Somatotroph adenoma (somatotropinoma) を持つ中年女性の症例。頭痛および先端巨大症の徴候を伴う。(A) 冠状断面造影T1強調MR画像では、低造影の腫瘤が左側の側方下垂体前葉を拡大している様子が示されています(矢印)。(B) 同じ造影シーケンスの前方の冠状断面造影T1強調MR画像では、低造影の腫瘤が左側海綿静脈洞の内頸動脈下を巻き込み、わずかにその外側縁を越えて拡大している様子が示されています(矢印)。これは、海綿静脈洞への侵入の可能性を示しており(Knospグレード3)、手術計画に関連します。(C) 低倍率の網状染色顕微鏡写真では、円形の核を持つ多数の神経内分泌細胞が示されています。網状染色パターンは歪んでおり、断片化しています(矢印)。これは、正常な下垂体腺房構造の喪失と一致し、下垂体腺腫の診断となります。(D) 低倍率の顕微鏡写真では、成長ホルモンに対する免疫染色が一様に陽性(茶色)であり、臨床歴と一致し、ソマトトロフィン腺腫の診断となります。

CT所見

CTは骨構造の評価に優れており、特にトルコ鞍の形態変化や骨破壊の有無を確認するのに役立ちます。また、石灰化の検出にも優れています。

以下はCTで観察される主な所見です。

  • トルコ鞍の拡大
  • 蝶形骨洞への進展
  • 骨破壊や骨肥厚
  • 腫瘍内部の石灰化
CT所見意義
トルコ鞍の拡大長期間の腫瘍成長を示唆
骨破壊腫瘍の浸潤性成長を示唆
石灰化腫瘍の性状や経過を反映
Case courtesy of Yi-Jin Kuok, Radiopaedia.org. From the case rID: 18990

所見:長径2cmを超えるトルコ鞍内の造影腫瘍を認める。鞍部の菲薄化あり。

腫瘍サイズによる分類

下垂体腫瘍はそのサイズによって以下のように分類されます。

腫瘍分類サイズ特徴
微小腺腫<10mm周囲への影響が少ない
大型腺腫≥10mm周囲組織を圧排する可能性がある

この分類は治療方針の決定や予後の予測に重要な意味を持つのです。

周囲組織への影響

下垂体腫瘍が大きくなると周囲の重要な構造物に影響を与えることがあります。画像検査ではこれらの影響を詳細に評価することが可能です。

主に以下の点に注目して評価を行います。

  • 視交叉の圧排
  • 海綿静脈洞への浸潤
  • 第3脳室底の挙上

これらの所見は患者さんの症状と密接に関連していることがあり、治療方針の決定に大きな影響を与えます。

機能性腫瘍の特徴

下垂体性巨人症の原因となる成長ホルモン産生腫瘍は、しばしば特徴的な画像所見を呈します。

例えば次のような特徴が見られることがあります。

  • T2強調画像での低信号領域
  • 造影効果の不均一性
  • 嚢胞性変化の存在

これらの所見は腫瘍の機能性を示唆する手がかりとなるケースがあるのです。

このように下垂体性巨人症の画像所見は疾患の診断、重症度の評価、治療方針の決定において不可欠な情報を提供します。

Case courtesy of Hoe Han Guan, Radiopaedia.org. From the case rID: 161854

下垂体性巨人症の治療方法と薬、治癒までの期間

下垂体性巨人症の治療は患者さんの状態や腫瘍の性質に応じて個別化されます。治療の主な目的は過剰な成長ホルモンの分泌を抑制して正常な身体機能を回復させることです。

外科的治療

外科的治療は多くの場合、第一選択となる治療法です。一般的には経蝶形骨洞手術が行われ、内視鏡を用いて鼻腔から下垂体腫瘍にアプローチします。

この手術の利点には以下のようなものがあります。

  • 即時的な効果が期待できる
  • 腫瘍による圧迫症状の改善
  • 薬物療法の必要性の軽減
手術方法特徴
経蝶形骨洞手術低侵襲、早期回復
開頭手術大型腫瘍に対応可能

手術の成功率は腫瘍のサイズや位置によって異なりますが、多くの場合で良好な結果が得られます。

薬物療法

薬物療法は手術後の補助療法として、あるいは手術が困難な場合の主要な治療法として用いられます。主に使用される薬剤は以下の通りです。

  • ソマトスタチンアナログ
  • 成長ホルモン受容体拮抗薬
  • ドパミンアゴニスト

これらの薬剤は成長ホルモンの分泌を抑制したり、その作用を阻害したりする効果があります。

薬剤分類代表的な薬剤名投与方法
ソマトスタチンアナログオクトレオチド、ランレオチド皮下注射、筋肉内注射
成長ホルモン受容体拮抗薬ペグビソマント皮下注射
ドパミンアゴニストカベルゴリン、ブロモクリプチン経口

薬物療法は長期にわたって継続される必要があることが多く、定期的な効果判定と用量調整が重要です。

放射線治療

放射線治療は手術や薬物療法で十分な効果が得られない場合や、腫瘍の完全切除が困難な場合に考慮されます。主に以下の方法があります。

放射線治療法特徴治療期間
分割照射低線量を複数回に分けて照射4-6週間
定位放射線治療(ガンマナイフなど)高線量を1回で照射1日

放射線治療の効果は緩徐に現れるため、効果が最大になるまでには数年かかることがあります。

放射線治療後は下垂体機能低下症のリスクがあるため、長期的なフォローアップが必要です。

治療効果の判定

治療効果の判定は以下の指標を用いて行われます。

  • 血中成長ホルモン値
  • IGF-I(インスリン様成長因子I)値
  • 腫瘍サイズの変化

これらの指標を総合的に評価して治療の効果や今後の方針を決定します。

評価項目目標値
成長ホルモン<1 ng/mL
IGF-I年齢・性別の基準範囲内

治癒までの期間

下垂体性巨人症の「治癒」の定義は成長ホルモンとIGF-Iの値が正常化し、臨床症状が改善することです。治癒までの期間は治療法や個々の患者さんの状態によって大きく異なります。

一般的な目安は以下の通りです。

  • 手術治療 即時的な効果が得られることもあるが、完全な効果の判定には3-6ヶ月程度必要
  • 薬物療法 効果発現まで数週間から数ヶ月、最大効果までさらに時間がかかることも
  • 放射線治療 効果が最大になるまで2-5年程度かかることがある

治療効果は個人差が大きいため長期的な経過観察が不可欠です。また、一度改善しても再発のリスクがあるため、定期的な検査と評価が重要となります。

下垂体性巨人症の治療は患者さんの状態に応じて複数の治療法を組み合わせることが多く、各治療法の特性を理解し、適切に選択することが大切です。

治療の目標は単に検査値の正常化だけでなく、患者さんのQOL(生活の質)の向上です。

長期的な視点で治療に取り組み、必要に応じて治療方針の見直しを行うことで多くの患者さんで良好な結果が得られる可能性があります。

治療に伴う副作用とリスク

下垂体性巨人症の治療は患者さんの生活の質を向上させる一方で、様々な副作用やリスクを伴う場合があります。これらの副作用やリスクを理解し、適切に対処することが治療を成功させる上で重要です。

外科的治療に伴うリスク

外科的治療、特に経蝶形骨洞手術は比較的安全な手術ですが、いくつかのリスクが存在します。

以下はその主なリスクです。

リスク発生頻度対処法
髄液漏1-5%保存的治療または再手術
視力障害<1%緊急再手術が必要な場合あり
下垂体機能低下症5-20%ホルモン補充療法

これらのリスクは手術の複雑さや腫瘍の大きさによって変動する可能性があります。

薬物療法の副作用

薬物療法は長期にわたって継続されることが多く、様々な副作用が現れることがあります。主な副作用は使用する薬剤によって異なるでしょう。

ソマトスタチンアナログの主な副作用は次の通りです。

  • 消化器症状(悪心、下痢など)
  • 胆石形成
  • 注射部位の疼痛や硬結

成長ホルモン受容体拮抗薬の副作用には以下のようなものがあります。

  • 肝機能障害
  • 頭痛
  • 関節痛
薬剤主な副作用発生頻度
オクトレオチド胆石20-30%
ペグビソマント肝機能障害5-10%

これらの副作用の多くは用量調整や対症療法で管理可能ですが、定期的な経過観察が不可欠です。

放射線治療のリスク

放射線治療は長期的な副作用のリスクがあります。以下はその主なリスクです。

  • 下垂体機能低下症
  • 視力・視野障害
  • 脳の二次性腫瘍

放射線治療後の下垂体機能低下症は時間の経過とともにリスクが上昇する傾向があります。

経過年数下垂体機能低下症のリスク
5年30-50%
10年50-80%

これらのリスクは照射方法や線量によって異なる可能性があります。

長期的な合併症のリスク

下垂体性巨人症の治療後も長期的な合併症のリスクが存在します。主なリスクには次のようなものがあります。

合併症リスク因子
心血管疾患高血圧、脂質異常症
糖尿病インスリン抵抗性
関節症過剰な骨格成長

これらの合併症のリスクを軽減するためには継続的な経過観察と適切な管理が重要です。

Quality of Life(QOL)への影響

治療に伴う副作用やリスクは、患者さんのQOLに大きな影響を与える可能性があります。特に以下のような面で影響が現れることがあります。

  • 身体的な面(疼痛、倦怠感など)
  • 心理的な面(不安、抑うつなど)
  • 社会的な面(就労、人間関係など)

これらのQOLへの影響を最小限に抑えるためには包括的なサポート体制が大切です。

下垂体性巨人症の治療に伴う副作用やリスクは患者さんごとに異なる可能性があります。そのため個々の患者さんの状態に応じたきめ細かな対応が求められるのです。

また、これらの副作用やリスクを理解して適切に対処することで、多くの場合、良好な治療結果を得られる可能性があります。

患者さんと医療従事者が密接に協力して定期的な経過観察と適切な対応を行うことが、治療の成功につながります。

再発の可能性と予防の仕方

下垂体性巨人症は一度改善しても再発のリスクが存在する疾患です。再発を防ぐためには長期的な経過観察と適切な予防策が不可欠です。

再発のリスク因子

再発のリスクは初回治療の方法や効果、腫瘍の性質などによって異なります。以下はその主なリスク因子です。

  • 腫瘍の完全切除が困難だった場合
  • 初回治療後のホルモン値の正常化が不十分だった場合
  • 若年発症の患者

これらの因子を持つ患者さんでは、より慎重な経過観察が求められます。

リスク因子再発率
腫瘍残存20-30%
不十分なホルモン抑制15-25%
若年発症10-20%

定期的なフォローアップの重要性

再発を早期に発見し、適切に対応するためには定期的なフォローアップが大切です。フォローアップでは以下の項目を評価します。

  • 血中成長ホルモン値
  • IGF-I(インスリン様成長因子I)値
  • MRIによる腫瘍サイズの評価

これらの検査を定期的に行うことで再発の兆候を早期に捉えることができます。

フォローアップ項目推奨頻度
ホルモン検査3-6ヶ月ごと
MRI検査6-12ヶ月ごと

生活習慣の改善

再発のリスクを低減するためには健康的な生活習慣を維持することが重要です。以下のような点に注意を払うことが推奨されます。

  • バランスの取れた食事
  • 適度な運動
  • ストレス管理
  • 十分な睡眠

これらの生活習慣の改善は全身の健康状態を向上させ、再発のリスクを低減する可能性が高まるでしょう。

ホルモン補充療法の管理

下垂体機能低下症を伴う患者さんでは適切なホルモン補充療法の管理が再発予防に重要な役割を果たします。

主な補充ホルモンには以下のようなものがあります。

補充ホルモン管理ポイント
副腎皮質ホルモンストレス時の増量
甲状腺ホルモン定期的な血中濃度測定
性ホルモン年齢に応じた調整

これらのホルモン補充を適切に行うことで体内のホルモンバランスを維持し、再発のリスクを低減できる可能性があるのです。

再発時の早期対応

再発の兆候が見られた場合、早期の対応が重要です。再発が疑われる際には以下のような対応が考えられます。

  • 詳細な内分泌学的評価
  • 画像検査の追加
  • 治療方針の再検討

早期発見と適切な対応により、再発後の管理をより効果的に行うことができます。

下垂体性巨人症の再発予防には患者さん自身の積極的な関与が不可欠です。医療従事者と協力しながら以下のような点に注意を払うことが推奨されます。

  • 定期検査の遵守
  • 症状の変化への注意
  • 健康的な生活習慣の維持
  • 処方薬の適切な服用

これらの取り組みを継続することで再発のリスクを最小限に抑えることが期待できるでしょう。

治療費について

下垂体性巨人症の治療費は個々の患者の状態や選択する治療法によって大きく異なります。手術、薬物療法、放射線治療など様々な選択肢があり、それぞれに異なる費用が必要です。

長期的な管理が必要なため、総費用は高額になる可能性があります。

初診・再診料

初診料は多くの場合2,910円、再診料は750円です。特定機能病院での診察ではこれらの費用が高くなることがあります。

検査費用

検査項目概算費用
MRI19,000円~30,200円
血液検査4,200円(血液一般+生化学5-7項目の場合)+
下垂体などのホルモンなど3項目以上5項目以下4,100円、6項目又は7項目6,230円、8項目以上9,000円

手術費用

経蝶形骨洞手術の場合、「経鼻的下垂体腫瘍摘出術」 872,000円です。

薬物療法費用

薬剤名月額費用
オクトレオチドオクトレオチド皮下注100μg「あすか」 (後発品)
766円×2回/日 = 1,512円×30日 = 45,360円
ペグビソマント初日:ソマバート皮下注用20mg 10,784円×2瓶 = 21,568円
2日目以降:ソマバート皮下注用10mg 8,598円×2瓶 = 17,196円 ×39日
→1ヶ月合計 692,212円

以上

参考にした論文