1型糖尿病は原因不明の自己免疫疾患であり、生涯にわたってインスリン補充が欠かせません。それにもかかわらず、国の指定難病には認定されていないのが現状です。
その背景には「患者数が多すぎる」という制度上の壁があります。20歳未満であれば小児慢性特定疾病として医療費助成を受けられますが、成人後はその支援が途切れてしまいます。
この記事では、1型糖尿病が難病指定されない具体的な理由と、小児慢性特定疾病との制度的な違いを丁寧に解説します。利用できる支援制度や患者団体の活動についてもお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。
1型糖尿病が難病指定されない最大の壁は「患者数の多さ」にある
1型糖尿病は治らない病気でありながら、指定難病に認められていません。その最大の理由は、患者数が指定難病の要件である「人口の0.1%程度以下」を超えている点にあります。
指定難病に必要な6つの要件を1型糖尿病はすべて満たせなかった
指定難病として認定されるためには、厚生労働省が定めた6つの要件をすべて満たす必要があります。発病の原因が不明であること、治療法が確立していないこと、希少な疾患であること、長期の療養を要すること、患者数が一定数以下であること、客観的な診断基準が存在することです。
2018年10月、日本小児科学会から指定難病検討委員会に1型糖尿病を候補として推薦がありました。しかし2019年1月までの審議で「すべての要件を満たしていない」と判断され、見送りとなっています。
インスリン分泌が枯渇した1型糖尿病患者は推定10万~14万人
厚生労働科学研究による調査では、インスリン分泌が枯渇した1型糖尿病の患者数は10万~14万人と推定されています。指定難病の要件では患者数がおおむね人口の0.1%程度、つまり約12万7000人以下であることが求められます。
1型糖尿病の患者数はこの基準を超えてしまうため、「希少性」の要件を満たさないと判断されました。日本糖尿病学会のデータベースでは約9万5700人という数字も示されていますが、正式な再検討には至っていません。
指定難病の要件と1型糖尿病の評価
| 要件 | 内容 | 1型糖尿病 |
|---|---|---|
| 発病の原因 | 原因が不明 | 該当する |
| 治療法 | 確立していない | 根治療法なし |
| 希少性 | 患者数が少ない | 基準を超える |
| 長期療養 | 生涯にわたる | 該当する |
| 患者数 | 人口の0.1%以下 | 超過の疑い |
| 診断基準 | 客観的に確立 | 該当する |
「治らない病気」なのに難病ではないという矛盾を多くの患者が感じている
1型糖尿病はインスリン補充を中止すれば命に関わる疾患です。毎日4~5回の注射やインスリンポンプによる管理が一生涯続きます。患者や家族にとって「治らない病気なのに、なぜ難病として認めてもらえないのか」という疑問と不満は当然のことでしょう。
指定難病の制度は患者数という数字で線引きをするため、疾患の重さや生活への影響が十分に反映されにくい構造を持っています。こうした制度上のギャップが、1型糖尿病患者の精神的・経済的な負担をいっそう重くしているといえます。
指定難病の制度を正しく知れば、なぜ1型糖尿病が外れたのか見えてくる
指定難病は「難病法」に基づいて厚生労働大臣が指定する制度であり、医療費助成の対象を決める仕組みです。2025年4月時点で348疾病が認定されていますが、1型糖尿病はその中に含まれていません。
難病法が2015年に施行されてから対象疾患は大幅に拡大した
2015年1月に「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)が施行されました。それ以前は56疾患だった医療費助成の対象が大きく見直され、現在は348疾患にまで拡大しています。
対象疾患を決めるのは厚生労働省の指定難病検討委員会です。医学的な根拠に基づいて審議が行われ、すべての要件を満たした疾患だけが指定難病として追加されます。
「治療法が確立していない」の解釈が1型糖尿病には不利に働く
指定難病の要件にある「治療方法が確立していない」という文言は、根治療法がないことだけを意味するわけではありません。症状をコントロールする治療法(対症療法)が存在し、それによって日常生活を送れる場合は「治療法が確立している」と判断される余地があります。
1型糖尿病ではインスリン補充療法が確立されており、適切な治療を続ければ通常の社会生活を営めるケースも多くあります。この点が「治療法未確立」という要件の充足を難しくしている側面があるのです。
指定難病の検討委員会で1型糖尿病はどう議論されたか
2018年12月から2019年1月にかけて開催された第28回~第30回指定難病検討委員会で、1型糖尿病は正式に審議の対象となりました。審議の結果、すべての要件を満たしていないと判断されて見送りになっています。
それ以降、1型糖尿病は検討委員会で再び議題に上がっていないのが現状です。患者団体である日本IDDMネットワークは毎年厚生労働大臣宛てに要望書を提出し、指定難病への追加を求め続けています。
指定難病と1型糖尿病をめぐる経緯
| 時期 | 出来事 | 結果 |
|---|---|---|
| 2015年1月 | 難病法が施行 | 56→順次拡大 |
| 2018年10月 | 小児科学会が推薦 | 検討委で審議開始 |
| 2019年1月 | 第30回検討委員会 | 要件未充足で見送り |
| 2023年6月 | 要望書を提出 | 継続的に要望中 |
1型糖尿病と2型糖尿病はまったく異なる病気だと声を大にして伝えたい
1型糖尿病は生活習慣とは無関係に発症する自己免疫疾患です。生活習慣病として広く知られる2型糖尿病とは根本的に異なりますが、社会的な理解は十分に進んでいないのが現実です。
1型糖尿病は自己免疫によって膵臓のβ細胞が破壊される疾患
1型糖尿病では、免疫の異常により膵臓のβ細胞(インスリンを分泌する細胞)が破壊されます。β細胞が壊れてしまうと体内でインスリンをほとんど作れなくなるため、外部からのインスリン補充なしには生きていけません。
発症は小児期に多いものの、成人になってから突然発症するケースもあります。劇症1型糖尿病と呼ばれるタイプは、数日から1週間程度で急激にインスリンが枯渇する極めて危険な病態です。
「糖尿病=生活習慣病」という誤解が1型患者を苦しめている
日本における糖尿病患者の約95%は2型糖尿病であり、食生活や運動不足との関連が指摘されています。そのため世間では「糖尿病=自己管理の問題」という印象が根強く残っています。
1型糖尿病は全糖尿病患者のわずか1%程度にすぎません。年間発症率は10万人あたり2人程度と非常にまれであり、生活習慣とはまったく関係なく突然発症します。この事実を社会全体が正しく認識する必要があります。
- 1型糖尿病:自己免疫疾患、原因不明、小児期に多く発症
- 2型糖尿病:インスリン抵抗性や分泌低下、生活習慣との関連が深い
- 劇症1型糖尿病:数日で急激に発症する1型の特殊なタイプ
- 緩徐進行1型糖尿病:ゆっくりとβ細胞が破壊される経過をたどる
同じ「糖尿病」という病名が制度的な不利益を生んでいる
1型と2型が同じ「糖尿病」という名称でくくられていることが、制度面でも不利に働いています。糖尿病全体の患者数は1000万人を超えるため、「糖尿病」としてまとめると到底希少疾患には該当しません。
1型糖尿病を独立した疾患として分類し直すことで、患者数の算定方法が変わり、指定難病の要件を満たせるのではないかという議論もあります。病名の分離は患者支援の改善に向けた重要な論点といえるでしょう。
小児慢性特定疾病なら1型糖尿病も医療費助成の対象になる
1型糖尿病は指定難病ではありませんが、小児慢性特定疾病としては認定されています。18歳未満(条件によっては20歳未満)の患者は医療費助成を受けられますが、成人後は原則として支援の対象外となります。
小児慢性特定疾病は児童福祉法に基づく子どものための支援制度
小児慢性特定疾病は児童福祉法に基づく制度で、長期にわたって治療を必要とする子どもの医療費を助成するものです。対象は16疾患群756疾患にのぼり、糖尿病(1型・2型・その他)も含まれています。
対象年齢は原則として18歳未満ですが、引き続き治療が必要と認められた場合は20歳未満まで延長できます。世帯の所得に応じて自己負担の上限が設定されるため、小児期の経済的負担はある程度抑えられます。
指定難病との制度的な違いは「年齢制限」と「目的」にある
指定難病は年齢に関係なく生涯にわたって医療費助成を受けられます。一方、小児慢性特定疾病は子どもの健全育成を目的としており、対象年齢に上限があります。
1型糖尿病患者にとっての問題は「病気が制度から外れる」のではなく、「大人になった途端に支援が途切れる」という点です。指定難病に認められれば成人後も安定した支援を受けられるようになります。
トランジション問題は1型糖尿病患者にとって深刻な課題
小児慢性特定疾病から成人期への移行、いわゆる「トランジション問題」は1型糖尿病の分野で長年指摘されてきました。20歳を過ぎた途端に公的な医療費助成がなくなり、3割負担で治療を続けなければなりません。
参議院厚生労働委員会でも「小児慢性特定疾病について、成人後も切れ目のない治療が可能となるよう指定難病に指定することを検討すること」という附帯決議が採択されています。しかし現時点で具体的な進展は見られていません。
小児慢性特定疾病と指定難病の比較
| 項目 | 小児慢性特定疾病 | 指定難病 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 児童福祉法 | 難病法 |
| 対象年齢 | 18歳未満(最大20歳) | 年齢制限なし |
| 目的 | 子どもの健全育成 | 医療費助成と研究 |
20歳を超えた1型糖尿病患者の医療費負担は想像以上に重い
成人後の1型糖尿病患者は、月1万5000円から高機能デバイスを使用する場合は約3万5000円もの医療費を自己負担しています。小児期に助成を受けていた人にとって、この急激な負担増は治療の質に直結する深刻な問題です。
月数万円の医療費が生涯続くことの経済的インパクト
1型糖尿病の治療には、インスリン製剤、注射針、血糖測定器の消耗品、定期的な通院費用がかかります。インスリンポンプやCGM(持続血糖モニター)を使えば血糖管理は改善しますが、月々の負担はさらに増加します。
小児期に発症した患者の場合、生涯にかかる医療費の自己負担額は1000万円を超えると試算されています。特に20代前半の若い世代は収入が少なく、治療費の捻出に苦労するケースが少なくありません。
経済的な理由で治療の質を落とさざるを得ない患者もいる
日本IDDMネットワークの調査によると、約70%の1型糖尿病患者が「医療費の負担が重い」と感じています。中には血糖測定の回数を減らしたり、インスリンポンプからペン型注射に切り替えたりして、費用を抑えようとする患者もいます。
年齢別に見る1型糖尿病の医療費負担
| 年齢区分 | 主な支援制度 | 月額自己負担の目安 |
|---|---|---|
| 18歳未満 | 小児慢性特定疾病 | 上限1万円程度 |
| 18~20歳未満 | 小児慢性(延長時) | 上限1万円程度 |
| 20歳以上 | 公的助成なし | 1.5万~3.5万円 |
治療を我慢すれば合併症リスクが高まるという悪循環
適切な血糖管理ができないと、糖尿病性網膜症、腎症、神経障害といった合併症のリスクが高まります。糖尿病は透析導入の原因疾患として第1位、失明原因として第2位です。
合併症が進行して重症化すれば障害年金や障害者医療の対象になる場合もあります。しかし「重症化しなければ支援を受けられない」という構造は、予防医療の観点から見ても大きな矛盾を抱えています。
1型糖尿病の難病指定を求める患者団体の活動は確実に前進している
認定NPO法人「日本IDDMネットワーク」をはじめとする患者団体は、1型糖尿病の指定難病認定や医療費助成の拡充を求めて粘り強い活動を続けています。国会での議論にも影響を与えており、少しずつ前進しているといえます。
日本IDDMネットワークは毎年厚生労働大臣に要望書を提出している
日本IDDMネットワークは、佐賀県に本部を置く1型糖尿病の患者・家族を支援する認定NPO法人です。毎年、厚生労働大臣宛てに指定難病への追加を求める要望書を提出しており、2025年6月にも要望書が提出されています。
要望の内容は、指定難病への認定だけでなく、当面の対策として小児慢性特定疾病の年齢上限を25歳まで引き上げることも含まれています。段階的な制度改善を求める現実的なアプローチといえるでしょう。
佐賀県では独自の成人1型糖尿病医療費助成がすでに始まっている
2024年4月から、日本IDDMネットワークが実施主体となり、佐賀県在住の25歳までの成人1型糖尿病患者に対する医療費助成事業がスタートしました。企業版ふるさと納税を財源としています。
2025年4月からは妊娠準備期間から産後1年までの女性患者にも助成対象が拡大されました。岡山県でも医療機関との連携による助成が始まっており、地域発の支援モデルが広がりつつあります。
障害年金2級の認定を勝ち取った裁判も患者の追い風になった
2024年4月、大阪高等裁判所で1型糖尿病患者8名が起こした裁判において、合併症を持たない1型糖尿病患者への障害基礎年金2級の支給が認められる判決が出されました。
この判決は1型糖尿病患者にとって大きな意味を持っています。ただし現在も障害等級2級の具体的な認定基準は国から示されておらず、認定基準の明確化が引き続き求められています。
患者団体による近年の主な動き
| 年 | 動き | 内容 |
|---|---|---|
| 2024年4月 | 佐賀県で助成開始 | 25歳まで医療費助成 |
| 2024年4月 | 大阪高裁判決 | 障害年金2級を認定 |
| 2025年4月 | 助成対象を拡大 | 妊娠期の女性も対象に |
| 2025年6月 | 要望書を提出 | 難病指定と助成延長 |
1型糖尿病患者が今すぐ利用を検討すべき医療費の支援制度
指定難病に認定されていなくても、1型糖尿病患者が利用できる公的支援制度は複数あります。知らないまま見過ごしている制度がないか、一度確認してみてください。
障害年金や特別児童扶養手当は申請しなければ受け取れない
1型糖尿病の患者が利用できる公的支援として、障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)と特別児童扶養手当があります。いずれも自動的に支給されるわけではなく、自分で申請する必要があります。
障害年金については、2016年6月に代謝疾患の認定基準が改正され、インスリン分泌が枯渇している患者や重症低血糖が月1回以上ある患者などが3級の対象とされました。2024年の大阪高裁判決を受けて、2級の認定も広がる可能性が出てきています。
- 障害基礎年金・障害厚生年金(3級・2級の可能性あり)
- 特別児童扶養手当(20歳未満の子どもの保護者向け)
- 高額療養費制度(月ごとの医療費上限を設定)
- 医療費控除(確定申告で税金の一部が還付)
高額療養費制度を活用すれば月々の自己負担に上限を設けられる
高額療養費制度は、同一月にかかった医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、超過分が払い戻される仕組みです。事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、医療機関の窓口での支払い自体を抑えられます。
ただし、1型糖尿病の通常の治療費は高額療養費の上限に届かないケースも多く、すべての患者に十分な効果があるとは限りません。インスリンポンプやCGMを使用している方は制度の利用を検討する価値があるでしょう。
主治医やソーシャルワーカーに相談することが支援への第一歩
医療費の支援制度は複雑で、どの制度を利用できるのか分かりにくいものです。まずは主治医や医療機関のソーシャルワーカーに相談し、該当する制度がないか確認してみましょう。
障害年金については、申請のタイミングや書類の書き方で結果が大きく変わることがあります。社会保険労務士に相談するのもひとつの方法です。制度を「知っているかどうか」が生活の質を左右するといえます。
よくある質問
- Q1型糖尿病が指定難病として認められない理由は何か?
- A
1型糖尿病が指定難病に認められない主な理由は、患者数が指定難病の要件である「人口の0.1%程度以下」を超えていることにあります。インスリン分泌が枯渇した1型糖尿病の患者数は推定10万~14万人とされ、基準を超過している可能性が指摘されています。
加えて、インスリン補充療法が確立していることから、「治療法が確立していない」という要件も満たさないと解釈される余地があります。2019年の検討委員会で審議されましたが、見送りとなりました。
- Q1型糖尿病の小児慢性特定疾病の医療費助成は何歳まで受けられるのか?
- A
小児慢性特定疾病の医療費助成は、原則として18歳未満の患者が対象です。引き続き治療が必要と認められた場合に限り、20歳未満まで延長が可能となっています。
20歳を過ぎると公的な医療費助成制度はなくなり、健康保険の3割負担で治療を続けることになります。この年齢による支援の断絶は「トランジション問題」と呼ばれ、長年にわたって解決が求められている課題です。
- Q1型糖尿病の患者が利用できる障害年金の条件とは?
- A
2016年6月の認定基準改正により、90日以上継続してインスリン治療を行っている患者で、内因性インスリン分泌が枯渇している状態(空腹時Cペプチド値0.3ng/ml未満)にあり、かつ日常生活や労働に制限がある方は障害年金3級の対象となり得ます。
2024年4月の大阪高裁判決では、合併症を持たない1型糖尿病患者に対する障害基礎年金2級の支給も認められました。申請には初診日の証明や診断書が必要ですので、主治医や年金事務所に相談されることをおすすめします。
- Q1型糖尿病の成人患者に対する医療費助成は全国で実施されているか?
- A
現時点で、成人の1型糖尿病患者に対する全国一律の公的医療費助成制度は存在しません。唯一の例外として、佐賀県では日本IDDMネットワークが2024年4月から25歳までの成人患者を対象に独自の医療費助成事業を行っています。
岡山県でも医療機関と連携した限定的な助成が始まっていますが、いずれも地域限定の取り組みです。患者団体は全国一律の制度実現を目指して国への要望活動を続けており、今後の動向が注目されます。
- Q1型糖尿病と劇症1型糖尿病では難病としての扱いに違いがあるか?
- A
劇症1型糖尿病は、数日から1週間程度で膵臓のβ細胞が急速に破壊される極めて重篤な病態であり、難病情報センターでは難治性疾患の研究奨励分野に位置づけられています。ただし劇症1型糖尿病も現在の指定難病348疾病の中には含まれていません。
通常の1型糖尿病も劇症型も、指定難病としての医療費助成の対象外である点は共通しています。両者ともに生涯のインスリン補充が必要であり、患者団体はいずれのタイプについても支援の拡充を求めています。


