2型糖尿病の治療アルゴリズムは、薬を上から順に試す表ではなく、血糖が上がる理由、低血糖などの安全性、心臓や腎臓の病気、続けられる負担を順に確かめて候補を絞る道筋です。最初にインスリン治療が必要かどうかと血糖の目標を決め、目標に届かなければ入口へ戻って見直します。

同じ検査値でも人によって処方が違うのは、体重や低血糖の起こりやすさ、費用といった条件が違うためです。飲み薬で目標に届かず、薬の追加や注射への切り替えを勧められたときも、この順序に沿って理由を確かめられます。

この記事では、薬を選ぶ順序に沿って、血糖の目標の決め方、肥満の有無で変わる薬の候補、安全性と心臓・腎臓の病気による絞り込み、費用と目標に届かないときの見直しを解説します。

目次

2型糖尿病の治療アルゴリズムは薬を選ぶ順序を示す

治療アルゴリズムとは、体の状態や検査結果を順に確認し、治療の候補を絞るための道筋です。薬の名前を上から順番に試す使い方とは異なります。

薬の候補を絞る4つの段階

日本の糖尿病診療の指針を示す日本糖尿病学会の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」は、インスリン治療が必要かどうかと血糖の目標を最初に確認し、その後に4つの段階を置いています。

HbA1cは、赤血球の中のたんぱく質に糖が結びついた割合で、一定期間の血糖の状態を表す検査値です。薬を選ぶ流れでは、この値がどこまで下がればよいかを先に定めます。

  • 薬の選択前 … インスリン治療の必要性と目標HbA1cの設定
  • 第1段階 … 肥満の有無などから血糖が上がる理由に合う候補を選択
  • 第2段階 … 低血糖や腎機能、心不全に関する安全性の確認
  • 第3段階 … 一緒に持っている心臓・腎臓の病気への利点を検討
  • 第4段階 … 処方どおりに使い続けられるかと医療費の検討

目標に届かなければ冒頭へ戻るため、薬を追加するたびに体の状態や安全性も再評価されます。

候補薬の並びは全員共通の処方順ではない

候補薬の並びには、日本でどの薬が使われているかという処方実態などが反映されています。軸になるのは、血糖が上がる理由と安全性。その人に合う薬は、候補の位置だけで決まるものではありません。

たとえば、肥満があり候補に挙がる薬でも、心不全があれば使えない薬があります。アルゴリズムは、病態に合う候補を安全性の条件で絞り、ほかの病気や継続時の負担を踏まえて主治医が処方を決める順序を示しています。

欧米との違いは病態をどこから捉えるか

日本の枠組みは、インスリンを出す力と効きにくさの違いを踏まえて、体の状態から薬を選ぶ点を重視します。インスリンは膵臓から出るホルモンで、血液中の糖を体に取り込ませて血糖を下げる働きがあります。

米国糖尿病学会と欧州糖尿病学会による2022年の合意文書も、心臓・腎臓の病気や体重、低血糖、費用を踏まえた選択を勧めています。必要に応じて薬を組み合わせ、注射薬を検討するときはGLP-1受容体作動薬をインスリンより先に考慮するという内容です。

欧米との違いを「日本は飲み薬、欧米は注射薬」と受け取ると、病態に応じて選ぶという共通点を見失います。GLP-1受容体作動薬は、食事に反応する腸のホルモンの働きを利用して血糖を調節する薬です。

薬を選ぶ前に2型糖尿病の治療目標を定める

薬を強めるかどうかは、自分に設定された目標との距離で判断します。そのため、安全に目指せる範囲を先に主治医と共有しましょう。

インスリンが必要な状態なら飲み薬の比較より治療を優先する

治療開始時は、インスリンが必要な状態かどうかの評価が先です。必要と判断された場合はその治療を優先し、飲み薬の候補を比べ続けて治療を遅らせないようにします。

この最初の確認を経てから、血糖をどこまで下げるかと、薬をどう選ぶかがつながります。治療の目標が曖昧なままでは、今の薬で足りているのか、見直すべきなのかも判断しにくくなります。

目標HbA1cは7%未満を中心に個別化する

第2版が参照する目標では、合併症予防の観点からHbA1c 7%未満を基本とし、より厳格な管理を目指せる人は6%未満、低血糖などで厳格な管理が難しい人は8%未満が目安です。高齢の人では、高齢者向けの目標も踏まえて個別に決めます。

HbA1cの目安当てはまる状況受け止め方
7%未満合併症予防を目指す基本の目標自分にもこの目標が設定されているかを把握
6%未満より厳格な管理を安全に目指せる場合全員に求められる値ではない
8%未満低血糖リスクなどで厳格な管理が難しい場合安全性を踏まえて目標を調整

ただし、表の数字から自分で目標を選ぶと、低血糖の危険性や現在の治療との釣り合いを評価できません。自分の目標値と、その値にした理由を診察時に確かめましょう。

検査値と低血糖を一緒に振り返る

HbA1cが低いという結果だけでは、治療が安全かどうかは分かりません。血糖が下がりすぎる低血糖が起きていれば、目標や薬の選択を見直します。

前回より数値が下がっていても、薬を使った後に冷や汗や手の震えがあったなら、その情報も評価に含まれます。検査の改善と治療中の体調を組み合わせて見ると、単に数値を下げ続ける判断を避けられます。

体格とインスリンの働きから薬の候補が変わる

肥満の有無を、血糖が上がる理由を推測する入口にして、インスリンが十分に出ているか、体で働きにくくなっているかを合わせて評価します。

BMIと腹囲でインスリンの効きにくさを捉える

BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割る体格の指標で、日本では25以上を肥満としています。インスリン抵抗性とは、インスリンが出ていても筋肉や肝臓などで効きにくく、血糖が下がりにくい状態です。

BMIや腹囲から、おなかの内側に脂肪がたまっている状態を推測し、インスリンの効きにくさを評価します。HOMA-IRは、空腹時の血糖値とインスリン値から抵抗性を推定する指標です。

ただし、体格は病態そのものを測っているわけではありません。見た目が細い人でも検査を含めて評価し、BMIの境目に加えてインスリンの働きも捉えてから薬を選びます。

肥満の有無に応じた候補と選ぶ理由

肥満がある人では、インスリンの効きにくさや体重への影響を踏まえて候補を選びます。ビグアナイド薬のメトホルミンや、尿中に糖を出して血糖を下げるSGLT2阻害薬などが検討される薬です。

肥満がない人では、インスリンを出す力の不足に対応する薬を中心に検討します。DPP-4阻害薬は、血糖に応じたインスリン分泌を助ける腸のホルモンを分解されにくくする薬です。

体格などの状態候補となる薬の例選ぶ際の着眼点
肥満があるメトホルミン、SGLT2阻害薬、チアゾリジン薬インスリンの効きにくさに対応する選択
肥満があり体重への配慮も必要GLP-1受容体作動薬、チルゼパチド体重への作用を含めて検討
肥満がないDPP-4阻害薬などインスリンを出す力の不足への対応
肥満がなく食後の血糖が高いグリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬食後の上昇が目立つ血糖の状態

チアゾリジン薬はインスリンの効きを改善し、グリニド薬は短時間のインスリン分泌を促す薬です。α-グルコシダーゼ阻害薬は食べ物の糖の吸収を遅らせる薬です。どの候補も、次の段階で安全性を確かめてから選びます。

日本人では太っていなくても分泌不足が起こる

日本人を含む東アジアの人には、インスリンを出す力が弱いタイプが多くみられます。肥満が重なるとインスリンの効きにくさも加わるため、分泌の不足と抵抗性の両面から薬を選びます。

メトホルミンは肥満がない人にも候補となり、イメグリミンも病態に応じて検討される薬の一つです。体格別の候補は処方を限定する線引きではなく、どの働きに対応する薬が必要かを検討するための区分です。

また、マンジャロの成分であるチルゼパチドは、第2版で肥満がある人の候補に加わっています。非肥満の候補に挙がっていないのは、当時の低いBMIや高齢者での使用実績に関する安全性を踏まえた判断によるもので、処方できるかどうかの線引きとは別のものです。

低血糖・腎機能・心不全で候補を絞る

高齢の人や腎機能が低下した人、心不全がある人では、血糖が下がる見込みに加えて、安全性の条件から薬の候補を絞ります。

高齢者では低血糖の危険性を優先する

SU薬とグリニド薬は、血糖が低いときにもインスリン分泌を促し、低血糖につながりやすい薬です。SU薬は膵臓に働いてインスリンを出させる飲み薬で、高齢者への使用はとくに注意が必要とされています。

それ以外の薬は、単独で使った場合の低血糖リスクが概して低いとされています。複数の薬を使うときは、追加する薬の性質だけでなく、現在の処方にSU薬などが入っているかも評価の対象です。

低血糖が疑われる症状が出た場合は、次回の定期診察まで待たずに処方元へ連絡してください。薬を見直すためには、症状が出た時刻と実際に使った薬の情報が役立ちます。

腎機能が低いときは薬の残りやすさにも注意する

腎機能は、腎臓が血液から老廃物などを取り除く働きです。この働きが低下すると、腎臓から体外へ出る薬が体に残りやすくなるため、使える種類や用量を再評価します。

第2版では、腎機能障害がある人で避ける対象として、グリニド薬のうち腎臓から体外へ出る種類を挙げています。同じ分類でも薬ごとの違いがあるため、分類名だけで継続や中止を判断せず、処方されている成分で確かめましょう。

心不全があると候補から外れる薬がある

心不全は、心臓の働きが低下して体が必要とする血液を十分に送り出せず、息切れやむくみなどが生じる状態です。第2版は、心不全を伴う人でチアゾリジン薬やビグアナイド薬を避ける注意を示しています。

安全性を重視する状態注意する薬薬を絞る理由
高齢で低血糖の危険性が高いSU薬、グリニド薬血糖が低いときにも分泌を促す作用
腎機能障害がある腎臓から体外へ出るグリニド薬など薬が体に残ることによる影響
心不全を伴うチアゾリジン薬、ビグアナイド薬第2版で避ける薬として示された安全性の条件

一方、心不全という病気への利点を理由に検討される糖尿病薬もあります。「心臓が悪いから薬を減らす」と一括りにせず、避ける薬と利点を期待する薬を区別して処方を組み立てます。

心臓や腎臓の病気がある2型糖尿病では選択が変わる

心臓や腎臓の病気がある人では、それらの病気への利点を含めて薬を選ぶため、HbA1cが似ていても優先して検討する候補が変わります。

血糖を下げる作用に加えて期待する利点

アルゴリズムにある Additional benefits は、血糖を下げる作用に加えて期待する利点を意味します。心血管疾患とは心筋梗塞など心臓や血管の病気を指し、慢性腎臓病とは腎臓の異常や機能の低下が続く状態です。

こうした病気がある人では、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬が検討されます。選択では、血糖をどれだけ下げたいかと、一緒に持っている病気のどの危険性を減らしたいかを分けて考えます。

一緒に持っている病気検討される薬の種類血糖以外で重視する点
心血管疾患SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬心臓や血管の病気に関する利点
心不全SGLT2阻害薬を中心に検討心不全に関する利点と使用時の安全性
慢性腎臓病SGLT2阻害薬、必要に応じてGLP-1受容体作動薬腎臓と心血管のリスクを踏まえた治療

ただし、薬の分類が同じでも、各成分で調べられた病気や使える条件には違いがあります。表にある種類を自分で選んで追加するのではなく、現在の腎機能や病歴を踏まえて処方が判断されます。

腎臓病ではSGLT2阻害薬を土台に検討する

糖尿病と慢性腎臓病がある人では、SGLT2阻害薬を土台として検討し、血糖や心血管のリスクに応じてGLP-1受容体作動薬などを加える流れが国際的に示されています。米国糖尿病学会と、国際的な腎臓病の診療指針を作る団体であるKDIGOによる合意に基づく流れです。

この選び方では、HbA1cが目標に近い人でも、腎臓病を伴う状況から薬を検討する理由が生まれます。血糖を下げる必要性だけに目を向けると、腎臓や心臓への利点を判断に含めにくくなるためです。

期待する利点と副作用を同じ場で比べる

薬の利点の大きさは、もともとの心臓や腎臓の病気の危険性によって変わります。病気を伴う人では、その病気への利点を重く見る理由がありますが、副作用や使い続けられるかも同時に評価します。

SGLT2阻害薬には性器の感染症、GLP-1受容体作動薬には吐き気などのおなかの症状への注意があります。種類ごとの利点を期待するだけでなく、実際に使って体調がどう変わったかを治療の判断に戻します。

薬の追加を勧められた診察では、主な狙いが血糖なのか、心臓や腎臓の病気への利点も含むのかを確かめましょう。

続けられる負担かどうかも処方に含める

体の状態に合う候補が絞れたら、負担のために治療が途切れる状況を避けるため、処方どおりに使い続けられるかと医療費を確認します。

使い続けられるかを治療効果の評価に含める

服薬遵守とは、決められた処方どおりに薬を使うことです。検査値が目標に届かないときは、薬の作用が足りないのか、実際には使えていない期間があるのかを分けて評価します。

日本の診療報酬データを用いた検討でも、薬の数などと継続状況との関連が調べられています。薬を減らすという結論を先に置くのではなく、現在の処方をどの程度使えているかが見直しの出発点です。

薬が増える説明を受けて、続けられるか不安になるのは自然です。受け入れがたい負担を隠さず共有できれば、病態や安全性の条件を守りながら候補を検討し直せます。

費用の見通しを候補が決まる前に共有する

医療費は薬代だけでなく、診察や検査なども含めて把握すると、継続できるか判断しやすくなります。第2版でも経済的負担を考慮し、後発医薬品や薬価の低い薬への変更などを検討する内容が示されています。

  • 現在の使用状況 … 処方どおりに使えているか、使えなかった期間があるか
  • 継続時の負担 … 治療が途切れそうな事情の有無
  • 医療費の見通し … 薬代に加えた診察・検査の負担
  • 候補の比較 … 安全性や期待する利点を保ちながら費用を調整できるか

費用が低い薬にも病態や安全性の条件があるため、安さだけで候補を決める順序にはなりません。治療を始める前に、継続できる費用の見通しを主治医と話しておきましょう。

国内で使われる薬にも変化がある

第2版では、DPP-4阻害薬が日本の2型糖尿病の初回処方で多く選ばれ、とくに高齢者で処方割合が高い状況が示されています。使われている頻度は、国内での薬の選ばれ方を理解する背景になります。

また、日本の2015〜2024年の診療報酬データを調べた研究では、SGLT2阻害薬の処方が大きく増え、心不全や腎機能低下がある人でも使われている状況が報告されています1)。今の薬と異なる種類を勧められたときは、使用者の多さよりも、処方を変える理由を自分の病状に結びつけて受け止めましょう。

目標に届かなければ最初の評価へ戻る

薬を使っても目標に届かないときは治療の入口へ戻り、インスリン治療の必要性も含めて病態や安全性を改めて評価します。

追加の前に目標と現在の状態を照合する

見直しでは、設定した目標HbA1cと実際の値に加え、体重や腎機能の変化も評価します。以前の処方が決まったときと条件が変わっていれば、候補や優先する点も変化するためです。

低血糖が起きたのに検査値だけを見て薬を増やす判断や、使えていない期間を把握せず作用不足とみなす判断は避けます。病態に合うか、安全に使えるか、継続できるかを再び順にたどります。

変更後は血糖の推移と安全性を評価する

追加や変更をした後は、HbA1cや血糖の推移を見ながら、期待した方向に変化しているかを判断します。体重の変化や低血糖の有無も含めて評価し、続ける薬と見直す薬を検討します。

米国でメトホルミン使用中の約5,000人を約5年間追った比較では、グラルギンというインスリンやリラグルチドというGLP-1受容体作動薬を加えた人で、グリメピリドというSU薬やシタグリプチンというDPP-4阻害薬を加えた人より血糖目標が保たれやすい結果でした2)。追加薬の選択では、開始直後の変化だけでなく、その後も目標を維持できるかを追っていきます。

検査の予定は、変更した薬や現在の血糖に合わせて決めます。再評価の時期と使う検査が決まっていれば、薬を変更した後の受診までを見通しやすくなります。

診察では前回からの変化を具体的に伝える

たとえば、診察室で検査結果を受け取り、HbA1cが自分の目標を上回っていると分かったら、前回から実際に使えた薬と体調の変化を振り返ります。持参したお薬手帳と検査結果を照らし合わせると、薬の名称を取り違えずに話せます。

受診時には、前回から変わった点と、薬を追加する理由や次の検査予定を主治医と確認しましょう。変更の根拠が分かると、体重や心臓・腎臓の病気を含めて、処方が自分の状態にどう対応しているかを捉えやすくなります。

よくある質問

Q
治療アルゴリズムの上にある薬から使うのですか?
A

候補薬の並びは、全員がその順に使うという意味ではありません。日本の処方実態などを踏まえた並びであり、体格や低血糖の危険性、心臓・腎臓の病気などから、その人に合う候補を絞ります。

Q
太っていなければメトホルミンは候補から外れますか?
A

肥満がない人でも、メトホルミンは候補の一つです。体格による区分は病態を推測するための入口で、使用を一律に制限する線引きではありません。

現在の薬が体格別の表と違っていても、その理由には検査結果や安全性の条件が関係します。自己判断で中止せず、次回の診察で自分の処方が何を重視して選ばれているかを確かめましょう。

Q
HbA1cが目標に近くても薬を変更するのですか?
A

目標に近くても、心臓や腎臓の病気への利点、安全性を理由に変更を検討します。数値の改善だけが薬を選ぶ理由ではないためです。

変更を勧められたら、今回の狙いと変更後に評価する検査や症状を確認しましょう。主な狙いが分かれば、HbA1c以外の変化にも意味があると受け止めやすくなります。

Q
検査値が目標に届かないときは薬を増やすのですか?
A

必ず増薬するとは限らず、まず目標と現在の病態、安全性、実際の使用状況を再評価します。アルゴリズムの冒頭へ戻るため、追加以外の治療の見直しも含まれます。

検査結果とともに、使えていなかった期間や体調の変化を伝えると、見直す点を絞れます。低血糖が疑われる症状があるときは、次の定期診察を待たずに処方元へ連絡してください。

参考にした文献