SGLT2阻害薬とGLP-1製剤は、血糖を下げるだけでなく、心臓や腎臓の病気が悪化する危険を減らす働きが期待できる薬です。すでにSGLT2阻害薬を飲んでいる人がGLP-1製剤を加えても、その効果は保たれる傾向があり、2型糖尿病で併用を考える根拠になっています。

血糖値が落ち着いているのに薬の追加を勧められると、戸惑いを感じるかもしれません。併用でどれだけ上乗せの効果があるかは、心臓や腎臓の状態によっても変わるため、何のための薬かを主治医と整理しましょう。

この記事では、2つの薬の心臓と腎臓への働き、併用について分かっている範囲、日本での承認効能と、効果を確かめる検査を解説します。

目次

SGLT2阻害薬とGLP-1製剤に期待される臓器保護

臓器保護とは、心臓や腎臓の機能が悪くなる危険を減らすことです。2つの薬は血糖以外にも働くため、糖尿病にどのような病気を伴っているかが薬選びに関わります。

心臓を守る効果は、起こる病気で分けて読む

心臓への効果には、心不全による入院を減らす働きと、心筋梗塞などの出来事を減らす働きがあります。心不全は心臓が全身へ血液を送る働きを十分に保てなくなる状態で、息切れやむくみにつながります。

心血管イベントとは、心筋梗塞や脳卒中、心臓・血管の病気による死亡などをまとめた呼び方です。同じ「心臓に良い」という説明でも、心不全の入院と心血管イベントでは、数えている出来事が異なります。

腎臓では、尿と血液の検査を合わせて判断する

腎臓への働きは、尿に漏れるたんぱくの変化だけでなく、血液をろ過する機能の低下や腎不全に至る危険などで評価します。腎不全とは、腎臓が老廃物や余分な水分を十分に処理できなくなった状態です。

検査票のeGFRは、採血の結果などから推定する腎臓のろ過能力を表す数値です。尿中アルブミンは尿へ漏れ出たたんぱくの一種であり、eGFRと合わせると、腎臓の傷みと働きを違う面から捉えられます。

薬ごとの得意な領域と共通する効果

血糖や体重が下がることと、将来の入院や腎機能の悪化が減ることは、分けて評価します。GLP-1製剤は、食事に応じて分泌されるホルモンの働きを利用して血糖や食欲に作用する薬で、正式にはGLP-1受容体作動薬と呼びます。

見る項目SGLT2阻害薬GLP-1製剤
心臓心不全による入院を減らす根拠がそろっている心筋梗塞などの心血管イベントを減らす根拠がある
腎臓腎臓病の進行を抑える働き腎臓病を伴う2型糖尿病でも悪化を抑える根拠がある
血糖尿へ糖を出して下げる血糖に応じたインスリン分泌などを通じて下げる
体重尿へ糖とエネルギーが出ることで減少する方向食欲などへの作用を通じて減少する方向

この比較は薬の種類全体の傾向であり、実際の選択には製品ごとの試験結果と承認された使い道が関わります。

SGLT2阻害薬の心臓・腎臓への効果と日本での使い道

SGLT2阻害薬には、心不全や腎臓病の悪化を抑える根拠があります。日本でこれらの病気を治療する効能があるかは、同じ系統の薬でも製品ごとに異なります。

心不全による入院を減らす働き

2型糖尿病でSGLT2阻害薬を使うと、心血管イベントや腎臓の悪化を抑える働きに加え、特に心不全による入院を減らす効果が期待できます1)。

メタ解析とは、複数の研究結果をまとめて、効果の方向や大きさを調べる方法です。心不全のある人への処方では、血糖を下げるだけでなく、入院につながる悪化を抑える目的が含まれる場合もあります。

血糖値だけでは測れない腎臓への働き

腎臓を守る働きには、血糖が下がるだけでは説明しきれない作用が関わると考えられています。糖を尿へ出す作用のほか、腎臓のろ過にかかる負担を調整する働きも臓器保護につながります。

そのため、血糖の下がり幅が小さいときも、腎臓に効いているかどうかは別に考えます。腎機能が長く保たれているかは、以前の採血や尿検査の結果と比べ、経過で判断します。

承認された病名は製品ごとに異なる

薬の効能を記載した電子添文、いわゆる添付文書では、フォシーガとジャディアンス錠10mgに慢性心不全・慢性腎臓病の効能があります。オゼンピック、トルリシティ、リベルサス、マンジャロの各電子添文に記載された効能は2型糖尿病です。

薬の名前日本で承認された使い道心臓・腎臓の病気に使う際の区別
フォシーガ2型糖尿病、1型糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病心臓・腎臓の病気そのものへの効能がある
ジャディアンス10mgは2型糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病/25mgは2型糖尿病慢性心不全・慢性腎臓病の効能は10mg
オゼンピック・トルリシティ・リベルサス2型糖尿病研究で示された働きと承認効能を区別する
マンジャロ2型糖尿病GLP-1製剤の試験結果をそのまま当てはめない

慢性心不全への使用は標準的な治療を受けている患者さんに限られ、慢性腎臓病への使用では末期腎不全や透析中の患者さんは対象から除かれます。表は処方の目的を確認するための情報で、使用量は主治医が病状に合わせて決めます。

GLP-1製剤の注射と飲み薬に期待できる腎臓・心血管への働き

腎臓病を伴う2型糖尿病では、注射のセマグルチドで腎臓の悪化を抑える結果が得られています。飲むセマグルチドについても、心血管イベントに着目した試験があります。

腎臓の悪化を調べた週1回の注射

2型糖尿病と慢性腎臓病がある約3,500人を対象としたFLOW試験では、週1回のセマグルチドで、腎不全・腎機能の大きな低下・腎臓や心血管の病気による死亡を合わせた出来事が、薬の成分を含まないプラセボより約2割減りました2)。

セマグルチドはオゼンピックの成分です。腎臓病のある人が糖尿病の薬を選ぶとき、血糖への作用とともに腎臓の経過を考慮する根拠になります。

ただし、約2割という値は、悪化や死亡を合わせた指標の相対的な減少です。腎機能の数値が2割回復する意味ではなく、治療を受けた集団で出来事が起きる危険がどれほど減ったかを表しています。

飲むセマグルチドにも心血管のデータがある

リベルサスの成分である飲むセマグルチドにも、心血管イベントへの効果を調べたSOUL試験があります。注射に抵抗感がある人は、飲む薬を選ぶときも、心臓・血管への働きを判断材料に加えられます。

自分の状態と照らす点調べられた薬結果を読む際の焦点
2型糖尿病に慢性腎臓病を伴う週1回の注射のセマグルチド腎臓の悪化などをまとめた出来事が減少
2型糖尿病で心臓・血管への効果が気になる飲むセマグルチドSGLT2阻害薬の使用にかかわらず心血管への効果が保たれる傾向

注射と飲み薬では調べた出来事が異なるため、この表だけで腎臓への効果が同じ大きさだとは判断できません。

試験で使った量と自分の処方量

FLOW試験のセマグルチドは週1回1.0mg、SOUL試験の飲むセマグルチドは14mgで、いずれも日本の承認量の範囲にあります。研究の結果を自分の処方に当てはめるときは、同じ成分かどうかに加えて、量と対象となった病気も見比べます。

結果を読んで自分で増量せず、オゼンピックやリベルサスの量を変えたいときは主治医に相談してください。増量の指示を受けていない人は、現在処方されている量を守ります。

SGLT2阻害薬に加えても効果が保たれる傾向

すでにSGLT2阻害薬を使っている人でも、GLP-1製剤の心臓・腎臓への働きが弱まらない傾向です。上乗せの大きさについては、併用する人だけを対象にした比較よりも、既存の試験を分けて見直した解析が主な根拠になっています。

複数の試験をまとめた心血管への効果

2型糖尿病の心血管試験をまとめ、SGLT2阻害薬の使用者が約1割を占めたメタ解析では、GLP-1製剤は心血管イベントを約2割減らし、使用の有無による明確な効果の違いは認められませんでした3)。

心不全による入院や腎臓に関する出来事も、効果が保たれる方向です。すでに一方を使っている人でも、もう一方の臓器への働きを期待して治療を検討できます。

腎臓病がある人でも、使用の有無で比べている

サブグループ解析とは、試験参加者を、もともと使っていた薬などの条件で分けて結果を調べ直す方法です。FLOW試験でも、開始時にSGLT2阻害薬を使っていた550人と、使っていなかった人に分けて評価しています。

併用していた人は少人数ですが、この解析では、SGLT2阻害薬を使っていてもセマグルチドの腎臓への効果に明確な差は見られず、効果が保たれる傾向でした。

比べた内容SGLT2阻害薬を使用中SGLT2阻害薬を未使用
GLP-1製剤の心血管への効果効果が保たれる傾向心血管イベントを減らす方向
FLOW試験の腎臓への効果少人数で推定に幅がある試験全体の結果を支える主な集団
飲むセマグルチドの心血管への効果効果が弱まる明確な差は認められず心血管イベントを減らす方向

表の左右は、試験の開始前に使っていた薬の条件で参加者を分けて、結果を並べたものです。

飲む薬でも併用で効果が弱まる差は見られない

2型糖尿病で飲むセマグルチドを使った場合、心血管イベントを減らす効果は、SGLT2阻害薬を使っているかどうかで明確な違いが見られませんでした4)。

また、注射か飲み薬かという選択では、心血管への根拠と実際に続けられる治療を合わせて検討します。SGLT2阻害薬を飲んでいる人がリベルサスを加える際も、臓器への働きを薬選びの判断材料にできます。

働く場所の違いが組み合わせを支える

2つの薬は、体の異なる場所へ働きかけます。糖尿病には複数の要因が関わるため、作用の違いを生かせる点が併用の根拠になります。

腎臓で糖を出す作用と、食事に応じた作用

SGLT2阻害薬は、腎臓でいったんろ過された糖が血液へ戻るのを抑えて、尿へ糖を出します。GLP-1製剤は、血糖に応じてインスリンの分泌を促すほか、食欲や胃から食べ物が出ていく速さなどに作用します。

  • SGLT2阻害薬 … 主に腎臓で糖の再取り込みを抑制
  • GLP-1製剤 … 膵臓でのインスリン分泌、脳での食欲調整、胃の動きへの作用

インスリンは血液中の糖を細胞へ取り込ませるホルモンであり、2つの薬は糖を減らす経路が重なりきらない組み合わせです。

血糖以外の変化も心臓や腎臓に関わる

血圧や体重の変化も、心臓や腎臓へかかる負担に関わります。血糖に加えて複数の変化が重なるため、臓器保護は1つの作用だけでなく、いくつかの働きが合わさった結果と考えられます。

一方、作用する場所が違うという説明だけで、併用時の心筋梗塞や腎臓病の悪化が何割減るかまでは決まりません。体内での働きの説明と、実際に起きた病気を数えた結果を合わせて治療を判断します。

2剤の効果は単純な足し算にならない

併用で期待するのは、それぞれの働きを補いながら、残っている血糖や臓器への課題に対応することです。2つの薬で同じ出来事を減らす効果があっても、減少率を足した値がそのまま自分の利益になるわけではありません。

心臓や腎臓の病気がある人と、まだそれらの病気がない人では、もともとの悪化の起こりやすさが異なります。相対的な減少率が同じでも、実際に減らせる出来事の数は開始前の状態に左右されます。

併用後の血糖・体重・血圧は検査で追う

血糖や体重、血圧は、2つを組み合わせて改善が期待できる項目です。これらは通院で追いやすい値ですが、心臓や腎臓を守る効果そのものとは分けて評価します。

血糖の改善は長期の試験でも続いている

HbA1cは、過去の一定期間の血糖の状態を反映する採血の指標です。直前の食事だけでは動きにくく、治療を続けた結果を振り返るときに使います。

メトホルミンで治療中の2型糖尿病を対象としたDURATION-8試験では、週1回のエキセナチドとダパグリフロジンの併用で、2年後も各薬の単独追加よりHbA1cが大きく下がり、体重や血圧も低下しました5)。

ダパグリフロジンはフォシーガの成分で、週1回のエキセナチドは日本では販売されていない海外の試験薬です。この結果は、作用の異なる2剤によって血糖などの改善が続くことを示す材料になります。

改善した値は、別々に記録する

併用後は、何を改善したくて薬を加えたかに合わせて、採血と日々の記録を比べます。主な確認項目は次の3つです。

  • 血糖 … HbA1cと、必要に応じて測る血糖値の変化
  • 体重 … 開始前からの変化と、食事を取れているか
  • 血圧 … 診察室での測定値や家庭での記録

HbA1cだけが目標に達しても、心臓や腎臓のための治療を続ける意味が残るかは別に評価します。併用中に食事や水分が取れなくなったときは脱水が起こることがあるため、その日の服薬について医療機関へ連絡してください。

短期の検査と、長く追う腎機能を分ける

血糖への反応は採血のHbA1cで追い、体重や血圧は治療開始前の値と比較します。24か月後を調べた試験があっても、その時期まで効果判定を待つのではなく、定期的な受診で途中の経過も確かめます。

腎臓については、eGFRと尿中アルブミンを継続して測り、複数回の変化から経過を見ます。検査を何か月後に行うかは腎機能や治療変更の内容で変わるため、追加時に次回の採血・尿検査の予定を確認しましょう。

薬を加える目的を診察で共有する

血糖が目標に近くても、心臓や腎臓の状態によっては薬の追加を検討します。判断の軸になるのは、処方が増えたという事実よりも、その薬で何を良くしたいのかという点です。

心臓や腎臓の病気があると選択が変わる

日本糖尿病学会の薬物療法のアルゴリズム、つまり薬を選ぶ際の道筋でも、心血管疾患、心不全、慢性腎臓病は血糖低下以外の利益を考慮する病気に挙げられています。採血で血糖を評価するのと並行して、こうした病気があるかどうかも薬の選択に関わります。

以前の心筋梗塞や心不全での入院、腎臓病の指摘がある場合は、その情報も処方を決める材料です。血糖だけを見て薬の追加が必要かを考えると、臓器への働きを見落としやすくなります。

検査票を見ながら追加の目的を整理する

薬が増えると聞いて負担を感じるのは自然なことです。たとえば、SGLT2阻害薬を飲んでいる人が診察室でGLP-1製剤の追加を勧められたときは、手元の検査票のHbA1cとeGFRを見ながら、今回期待する効果を主治医に確認しましょう。

話し合う中心は、血糖の改善、体重の変化、心臓や腎臓の悪化の抑制です。どの効果を期待しているかが共有できると、次の診察で何を見て治療を評価するかも具体的になります。

開始や変更は、自分の病状に合わせて決める

併用を始めるか、現在の薬を続けるかは、試験での効果だけでなく、自分の病状や服用中の薬を踏まえて判断します。期待する効果や、治療を続けるうえで困る点は、遠慮なく主治医に伝えましょう。それらを合わせて、主治医が薬を始める・やめる・替える判断をします。

併用を選んだ後も、検査で確かめた変化と日々の体調をもとに治療を見直します。臓器保護にどれだけ期待できるかも、実際の経過を追いながら主治医と一緒に確かめていきましょう。

よくある質問

Q
SGLT2阻害薬とGLP-1製剤を併用すると、臓器保護の効果は2倍になりますか?
A

効果が2倍になる根拠はまだ不十分です。SGLT2阻害薬を使っている人でもGLP-1製剤の効果が保たれる傾向はありますが、減少率を単純に足す計算はできません。

追加を勧められたときは、血糖と臓器への働きのうち、何を期待する処方なのかを確認しましょう。心臓や腎臓の病気の有無によって、期待できる利益の大きさも変わります。

Q
血糖が目標に達していたら、SGLT2阻害薬はやめてもよいですか?
A

血糖が目標に達したという理由だけで中止するのは避けてください。心不全や腎臓病に対する働きを期待して処方されている場合は、血糖以外にも続ける目的があります。

次の診察で、現在の薬がどの病気への治療として使われているかを確認すると、中止や継続について判断する材料がそろいます。薬をやめる判断は主治医が行います。

Q
リベルサスでも心臓を守る効果は期待できますか?
A

飲むセマグルチドのリベルサスにも、心血管イベントを減らす効果が期待されます。SGLT2阻害薬を使っている人でも効果が弱まる明確な差は見られず、この点も飲む薬を選ぶ際の根拠の1つになります。

日本での承認効能は2型糖尿病です。心血管への効果を期待して選ぶ場合も、試験の14mgへ自分で増量せず、処方されている量を守ってください。

Q
腎臓への効果は、体調が良くなったかどうかで分かりますか?
A

体調の変化だけでは判断できません。腎臓の状態は自覚症状に表れにくいため、採血のeGFRや尿中アルブミンを以前の値と比べて、経過を評価します。

参考にした文献