DPP-4阻害薬で急性膵炎がわずかに増えるという報告はありますが、発症はまれで、症状のない人は処方どおりに飲み続けるのが基本です。一方で、みぞおちから背中にかけての強い痛みが続くときや吐いているときは、次の予約日を待たずに受診してください。
ジャヌビアやトラゼンタを飲んでいてお腹が痛んだとき、薬のせいではと心配になる人もいるでしょう。検査で膵臓の数値が高いと言われた場合も、膵炎かどうかは腹痛や画像検査の結果と合わせて判断されます。
この記事では、DPP-4阻害薬と膵炎のリスクの大きさ、腹痛が出たときの対応、膵炎の経験がある人の薬選び、定期検査の意味を解説します。
DPP-4阻害薬による膵炎の増加は小さい
大きな試験をまとめると、DPP-4阻害薬で急性膵炎はわずかに増えます。実際の診療データでは明確な増加が見られず、全体として発症はまれです。
倍率と増える人数を合わせて読む
心臓や血管への影響を調べた3件の試験、計36,543人をまとめた解析では、DPP-4阻害薬による急性膵炎は比較対象の1.79倍で、1万人が1年間服用すると約5.5人多く発症する計算でした1)。
「約1.8倍」は、服用した人のうち膵炎になる割合とは異なります。もともと少ない発症数に対して、相対的にどれほど増えたかを表す数字です。
- 発症する頻度 … まれだが、重くなる例もある病気
- 試験での増加分 … 1万人が1年服用して約5.5人
- 服用中の注意点 … 続く強い腹痛や嘔吐が出たら速やかな受診
この人数は集団の平均であり、実際に腹痛が出た人では、症状と診察の結果から膵炎かどうかを判断します。
実際の診療データでは明確な増加が見られず
6地域の約153万人の診療データでは、ほかの糖尿病の飲み薬を2種類以上使う人と比べて、DPP-4阻害薬を使う人の急性膵炎ははっきりとは増えていませんでした2)。
試験では薬を使う群をあらかじめ分けますが、診療データでは病状に応じて処方された人を比べます。対象者や比較する薬が違うため、結果には違いが生じます。
発症はまれでも、症状が出たときの備えは持っておきましょう。判断の軸は、起こりやすさと発症時の重さの両方です。普段は処方どおりに服用し、強い腹痛が続いたら受診します。
GLP-1受容体作動薬との比較は薬選びの一材料
血糖を下げるホルモンの働きを利用するGLP-1受容体作動薬との比較では、心臓や血管への影響を調べた試験をまとめると、急性膵炎はDPP-4阻害薬でわずかに増え、GLP-1受容体作動薬では増加が認められませんでした3)。この結果だけで薬の変更を決めず、これまでの病歴や血糖の状態も含めて処方が選ばれます。
痛みが出る場所と一緒に起こる症状
急性膵炎では、みぞおち付近の強い痛みが続き、背中に広がったり、吐き気や嘔吐を伴ったりします。痛む場所だけで決めず、強さと経過を合わせて見ます。
膵臓は胃の後ろにある臓器
膵臓は、上腹部の胃の後ろ側にあり、食べ物の消化を助ける液などを作る臓器です。急性膵炎とは、この膵臓に急に炎症が起きる病気を指します。
体の奥にあるため、痛みをみぞおちから背中にかけて感じることがあります。お腹の表面に見える変化がなくても、体の内側では治療が必要な炎症が起きている場合があるため、受診は見た目より痛みの強さと続き方で決めます。
みぞおちの痛みに嘔吐が重なるとき
注意したいのは、治まらずに続く強い腹痛です。吐き気が強い、実際に吐く、背中まで痛むという症状が重なったら、薬を飲んでいることと一緒に受診先へ伝えましょう。
痛みの場所や組み合わせには幅があり、背中の痛みや嘔吐がそろうまで待つ必要はありません。普段とは違う強さの痛みが続く場合は、腹痛そのものを理由に速やかに受診してください。
普段のお腹の不調とは強さと続き方を比べる
便秘による張りや食後の胃もたれと比べると、続く激しい痛みや嘔吐を伴う腹痛は、日常の不調として扱わずに受診する目安です。次の比較は、受診先へ症状を説明するときに使います。
| 比べる点 | 膵炎を疑う症状 | 普段の不調との比較 |
|---|---|---|
| 痛みの場所 | みぞおちから背中に広がる痛み | いつも感じる場所との違い |
| 強さと続き方 | 激しい痛みが持続 | 普段の張りや胃もたれとの違い |
| 一緒に出る症状 | 強い吐き気や嘔吐 | 食事や水分が取れるかの変化 |
痛む場所が典型的でなくても、強さが増したり吐いたりしているなら、普段との違いを優先して受診します。
続く激しい腹痛は定期受診を待たずに対応
激しい腹痛が続くときや、腹痛に嘔吐を伴うときは、すぐに医療機関へ連絡して受診してください。次の採血や予約日まで待つ状況ではありません。
電子添文で受診が求められている症状
ジャヌビア錠の電子添文(添付文書)は、薬を安全に使うための注意を示す文書で、続く激しい腹痛や嘔吐などが出た場合の速やかな受診を求めています。エクア錠、トラゼンタ錠、テネリア錠にも、同じ初期症状への注意が記載されています。
これらの薬は、それぞれシタグリプチン、ビルダグリプチン、リナグリプチン、テネリグリプチンを成分とするDPP-4阻害薬です。どの製品でも、強い腹痛を「飲み薬だから大丈夫」と判断せず、服用中の製品名を受診先に知らせる対応が共通します。
軽い痛みでも経過が変われば受診へ
受診を急ぐかどうかは、痛みの強さだけでなく、続いているか、悪くなっているか、吐いているかで判断します。軽い痛みがすでに治まり、普段どおり過ごせるときは経過を見られる場合もあります。
| 今の状態 | 対応の目安 | 伝える内容 |
|---|---|---|
| 激しい腹痛が続く、嘔吐を伴う | 直ちに連絡して受診 | 開始時刻、痛む場所、服用薬 |
| 動けないほどの痛み、反応が鈍い | 救急要請を含めた対応 | 現在の様子と所在 |
| 軽くても続く、繰り返す、強くなる | 予約日を待たずに相談 | 経過と食事・水分の状況 |
| 軽く短時間で治まり、普段どおり | 再発や悪化に注意して経過を見る | 痛みが出た時刻と続いた時間 |
ただし、軽い症状でも繰り返すなら、一度治まっていても受診を先延ばしにせず相談しましょう。薬との関係を自宅で確定するより、腹痛の原因を調べる診察を優先します。
夜間に痛みが始まったときの動き方
たとえば、夕食後に自宅でみぞおちが強く痛み始め、その痛みが続いて吐いた場合は、翌朝の様子を見るより夜間の受診先へ連絡してください。電話では「糖尿病の薬を飲んでいて、強い腹痛が続き、吐いている」と伝えると、緊急度を判断するための情報になります。
自分で動けないほどつらいときは、家族などに助けを求め、救急要請を含めて対応します。お薬手帳がすぐ見つからなくても、分かる薬の名前から伝えて受診を優先します。
膵炎の経験がある人のDPP-4阻害薬
以前に膵炎を起こした人が飲めるかどうかは、過去の原因や経過を踏まえて主治医が判断します。膵炎の経験があるかどうかに加えて、再発につながる要因も合わせて評価します。
過去の入院歴は処方前に伝える
以前の膵炎については、発症した時期、原因として説明された内容、再発の有無が薬選びに関係します。当時の退院時の書類や検査結果があれば、記憶だけに頼らず経過を共有できます。
別の病院で治療を受けていた場合、現在の処方先には入院歴が伝わっていない可能性があります。「お腹の病気で入院した」だけで終えず、膵炎と説明されたかどうかも主治医へ伝えましょう。
再発の研究結果と個別の処方判断
台湾の診療データで、急性膵炎で入院した2型糖尿病の人のうち、その後DPP-4阻害薬を始めた331人と使わなかった918人を比べると、膵炎の再発にはっきりした差はありませんでした4)。
再発リスクの評価では、以前の膵炎が薬と関係していたか、原因への治療が済んでいるかを確かめます。原因が残っている人と治療を終えた人では、再発への対応も含めて個別に処方が判断されます。
胆石や飲酒など薬以外の要因も共有
膵炎は薬以外の原因でも起こるため、過去の検査で分かった異常や飲酒の状況は、薬との関係を検討するうえで必要な情報です。
- 胆石 … 胆汁という消化液の通り道に関わる石
- お酒の飲みすぎ … 飲酒量や飲む頻度の情報
- 非常に高い中性脂肪 … 血液中の脂肪の一種が大きく増えた状態
これらの要因がある人では、DPP-4阻害薬だけに注目せず、原因に応じた治療や生活上の対応も合わせて進めます。
膵臓の定期検査は症状と合わせて判断
膵臓の血液検査は、数値の変化を捉えるために行います。症状がない人全員に同じ間隔で必要と決まっている検査ではなく、腹痛や過去の病歴、これまでの検査結果に応じて実施が判断されます。
アミラーゼとリパーゼは消化を助ける酵素
アミラーゼは主にでんぷんを、リパーゼは脂肪を分解する酵素で、酵素とは体の中で化学反応を助ける物質です。膵臓の状態を調べる際には、これらが血液中にどれほどあるかを測ります。
血液検査と画像検査は、調べている対象が違います。採血では酵素の値を捉え、超音波やCTなどの画像検査では、膵臓の様子や原因となる異常を確認します。
| 検査 | 主に調べる内容 | 結果の受け止め方 |
|---|---|---|
| アミラーゼ | 消化を助ける酵素の血液中の値 | 症状やほかの所見も合わせて評価 |
| リパーゼ | 脂肪を分解する酵素の血液中の値 | 上昇だけで膵炎と断定しない判断 |
| 超音波・CTなど | 膵臓や周囲の様子、原因となる異常 | 診察や採血の結果に応じた実施 |
膵炎は数値と症状・診察結果を合わせて判断
DPP-4阻害薬など、血糖を調節するホルモンに関わる薬を使う人では、腹痛がなくても膵臓の酵素の数値が上がることがあります。症状のない上昇の意味ははっきりしておらず、膵炎を起こしているかの判断には、数値以外に症状や診察の結果が必要です。
検査結果に「高い」と印が付くと、薬が膵臓を傷めたのではと心配になるかもしれません。まずは、前回からの変化と現在の症状を確かめましょう。痛みがないときの再検査と、強い腹痛があるときの診察では、対応の急ぎ方が変わります。
無症状の数値上昇を理由に自分で薬をやめず、結果の説明を受ける際に、再検査が必要か、いつ受けるかを確認しましょう。
検査間隔と腹痛が出たときの受診は分ける
定期的に測るかどうかや検査の間隔は、病歴とこれまでの値を踏まえて決まります。電子添文の急性膵炎に関する記載は、初期症状が出たときの速やかな受診を求めており、酵素の検査間隔を一律の数字で示すものではありません。
また、前回の値が正常でも、その後に続く激しい腹痛が出たなら、新たな症状として診察が必要です。定期検査は、普段の経過を把握するために使います。
DPP-4阻害薬と膵がんの関係
大規模試験をまとめた解析では、DPP-4阻害薬による膵がんの増加は認められず、急性膵炎とは異なる結果でした。膵臓に関する情報は、どちらの病気について述べているかを分けて読みます。
膵炎と膵がんは異なる病気
膵炎は膵臓の炎症で、膵がんは膵臓に悪性の腫瘍ができる病気です。「膵臓の副作用」という言葉だけで両者を同じものとして捉えると、急いで対応すべき症状が分かりにくくなります。
DPP-4阻害薬を服用中に持続する激しい腹痛が出たときは、急性膵炎などの原因を調べる診察が優先されます。薬の説明に膵炎の記載があるだけで、膵がんを発症したと受け止める必要はありません。
試験をまとめても膵がんの増加は認められず
心臓や血管への影響を調べた試験をまとめた解析では、DPP-4阻害薬で急性膵炎はわずかに増えましたが、膵がんの増加は認められませんでした5)。
これは、服用を続けるか検討するうえで安心につながる情報です。膵炎と膵がんは別々に評価された結果であり、膵炎のリスクが上がるという数字は、膵炎についての数字として読みます。
酵素の高値とがんの診断を区別する
アミラーゼやリパーゼは消化に関わる酵素を測る検査で、値が高いときも、原因の判断には症状やほかの検査の結果が必要です。結果を受け取る際には、どの項目が高かったのかと、追加の診察や検査が必要かを分けて説明を受けます。
不安が残る場合は、「この数値は何を調べた結果か」「自分の症状に追加の検査が必要か」を主治医に確認しましょう。検査名と症状を具体的に伝えると、薬の継続も含めた説明を受けやすくなります。
膵炎が疑われた後の休薬と治療
膵炎が疑われる場合は、原因を調べる診察を受け、薬を続けるかどうかの判断を仰ぎます。異常が認められたときは、主治医や受診先の医師の判断でDPP-4阻害薬を中止し、膵炎への治療を進めます。
受診先に服用薬と症状の経過を伝える
診察では、痛みが始まった時刻や場所、嘔吐の有無を伝えると、腹痛の原因を調べるために役立ちます。
服用薬については、DPP-4阻害薬以外も含め、現在の処方がお薬手帳に載っているかを確認します。薬を飲み始めた時期や最近の処方変更も、分かる範囲で共有しましょう。薬の名前が分からない場合は、薬の袋や説明書でも受診先が成分を確認できます。
中止の判断を受けた薬の再開は医師に確認
電子添文では、続く激しい腹痛や嘔吐などの異常が認められた場合、投与を中止して適切な処置を行うとされています。膵炎が疑われる状況では、次の服用をどうするかも含め、受診先から具体的な指示を受けます。
強い腹痛が続いているときは、薬を飲むか迷ったまま自宅で待たず、直ちに受診先へ連絡してください。中止の指示を受けた後は、痛みが軽くなっても、再開の判断が出るまで休薬を続けます。
入院治療と血糖の管理を並行して進める
急性膵炎と診断された場合は、入院して点滴や食事の管理などの治療を受けます。原因や体の状態に合わせて治療が組まれ、糖尿病の薬についても、食事が取れるかや血糖の変化に応じた調整が行われます。
| 診療の場面 | 行われる対応 | 本人や家族が伝える情報 |
|---|---|---|
| 膵炎を疑う症状が出たとき | 速やかな診察と必要な検査 | 腹痛の経過、嘔吐、服用薬 |
| 薬との関係を評価するとき | 中止の判断と原因の確認 | 服用開始時期、過去の膵炎 |
| 膵炎の治療中 | 点滴や食事の管理、血糖の調整 | 食べられる量と体調の変化 |
| 症状が落ち着いた後 | 原因への対応と今後の処方の決定 | 中止中の薬と退院後の服用予定 |
そのため、腹痛が治まった後も、休薬したままの薬と新しく指示された薬を区別して管理します。退院後の処方は治療前と同じとは限らず、手元に残った薬を以前の飲み方で足すと、処方内容と食い違うおそれがあります。
よくある質問
- QDPP-4阻害薬を飲んでいて、軽い腹痛でもすぐ受診すべきですか?
- A
軽い痛みが短時間で治まり、普段どおり過ごせるなら、経過を見られる場合があります。痛みが続く、繰り返す、強くなる場合は、予約日を待たずに受診先へ相談します。
激しい腹痛が続く場合や嘔吐を伴う場合は、すぐに連絡して受診してください。痛みの場所だけで膵炎かどうかを自分で決めず、始まった時刻と服用薬を伝えます。
- Qアミラーゼやリパーゼが高いと、薬をやめる必要がありますか?
- A
数値が高いだけで、一律に中止とはなりません。腹痛などの症状と数値の変化を合わせて、再検査や薬の継続が判断されます。
痛みがない場合は処方を自己判断で変えず、検査結果の説明を受ける際に今後の検査予定も確認します。続く激しい腹痛がある場合は、結果の説明日を待たずに速やかに受診してください。
- Q以前に膵炎で入院していてもDPP-4阻害薬を飲めますか?
- A
過去の原因や再発の経過によっては使用が検討されますが、服用の可否は主治医が判断します。以前の膵炎が薬と関係していたか、原因への治療が済んでいるかも、処方前に共有する情報です。
処方前には、膵炎で入院した時期と原因として説明された内容を伝えましょう。すでに飲んでいる場合も、入院歴を処方先が把握しているか確かめ、薬の継続について説明を受けると安心です。
- Q定期検査が正常なら、強い腹痛が出ても様子を見てよいですか?
- A
前回の検査が正常でも、強い腹痛が続くなら速やかに受診してください。採血結果は検査した時点の状態を示すため、その後に出た腹痛や嘔吐は新たな症状として扱います。


