「たかがいびき」と放置してしまう方は多いです。実は、いびきの裏に潜む睡眠時無呼吸症候群が、目の病気である緑内障と深く関わっていることが、近年の研究で明らかになりつつあります。

緑内障は日本における視覚障害の原因第1位であり、一度失われた視野は二度と戻りません。

睡眠中に繰り返される無呼吸が、なぜ目の神経を傷つけるのか。眼圧との関係はどうなっているのか。この記事では、いびきや睡眠時無呼吸症候群と緑内障をつなぐ医学的な根拠をわかりやすく解説します。

目次

いびきをかく人は緑内障になりやすい|睡眠時無呼吸症候群と目の病気をつなぐ研究データ

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者さんは、そうでない方と比べて緑内障を発症するリスクが約1.4倍から10倍高いと報告されています。大規模な研究で繰り返し示されたこの事実は、いびきを軽く見てはいけない大きな理由の一つです。

450万人超の調査で判明した「40%増」の衝撃

2023年に眼科専門誌『Eye』に掲載されたメタ分析では、48件の研究から合計約456万人分のデータが解析されました。

年齢・性別・高血圧・糖尿病などの影響を調整した結果、閉塞性睡眠時無呼吸症候群のある人は緑内障のリスクが40%高いことが示されています。

この数値は単一の小さな研究ではなく、世界各国の多数の報告を統合して導かれたものであり、信頼度の高いエビデンスといえるでしょう。

重症の無呼吸ほど緑内障リスクが跳ね上がる

重症度(AHI)緑内障リスク特徴
軽症(5〜15)やや上昇自覚症状が乏しいことが多い
中等症(15〜30)明確に上昇日中の眠気を感じ始める
重症(30以上)約5.49倍全身への影響が大きい

2015年のメタ分析では、重症の睡眠時無呼吸症候群の方は緑内障の有病率が5.49倍にまで達するとされています。無呼吸の程度が進むほど、目への影響も大きくなる傾向がはっきりと表れました。

日本人に多い「正常眼圧緑内障」との接点

日本人の緑内障患者さんの70%以上は、眼圧が正常範囲にもかかわらず視神経が傷つく「正常眼圧緑内障」です。

眼圧だけでは説明できないこのタイプの緑内障に、睡眠時無呼吸症候群による慢性的な低酸素状態が関わっているのではないかと注目されています。

眼圧検査で「正常ですよ」と言われたからといって安心はできません。いびきや日中の強い眠気がある方は、視神経の状態も含めた精密検査を受けることが大切です。

睡眠中の無呼吸が目の神経を壊す|緑内障を引き起こす3つの経路

睡眠時無呼吸症候群と緑内障の関連には、複数の身体的な経路が関わっています。眼圧の変動だけでなく、血中酸素の低下や血流障害など、全身に及ぶ影響が視神経を追い詰めていくと考えられています。

低酸素血症が視神経をじわじわ傷つける

無呼吸が起きるたびに血液中の酸素濃度が急激に下がり、脳や目の神経組織は酸素不足に陥ります。この酸欠状態が一晩に何十回、何百回と繰り返されると、視神経の細胞が少しずつダメージを受けていきます。

北海道大学の研究グループは、コンタクトレンズ型の眼圧計を使って睡眠中の眼圧を世界で初めて連続測定しました。

その結果、無呼吸時にはむしろ眼圧が「下がる」ことが判明し、緑内障の原因は眼圧上昇よりも低酸素による神経障害である可能性が高いと示されました。

交感神経の暴走が血管をさらに締めつける

無呼吸から呼吸が再開するとき、体は「覚醒反応」を起こします。この瞬間、交感神経が一気に活性化して血圧が急上昇し、心拍数も跳ね上がります。

こうした激しい変動が一晩中繰り返されると、細い血管が痛み、視神経への血流が慢性的に不足するようになります。

炎症と酸化ストレスが追い打ちをかける

繰り返される低酸素と再酸素化は、体内で「酸化ストレス」と呼ばれるダメージを引き起こします。活性酸素が過剰に生まれ、細胞の膜やDNAを傷つけていくのです。

同時に全身の炎症反応も高まり、これらが複合的に視神経や網膜の神経節細胞を攻撃すると考えられています。

睡眠時無呼吸症候群が緑内障につながる経路

経路身体への影響目への影響
低酸素血中酸素の急激な低下視神経の酸素不足と細胞障害
血管障害交感神経亢進・血圧変動視神経への血流不足
酸化ストレス活性酸素と炎症の増加網膜神経節細胞の損傷

眼圧は正常なのに緑内障が進む|睡眠時の無呼吸と眼圧の意外な真実

「眼圧が高いから緑内障になる」というイメージは、必ずしも正確ではありません。

睡眠時無呼吸症候群の方に見られる緑内障の多くは、眼圧が正常範囲内にあるにもかかわらず発症する「正常眼圧緑内障」であり、従来の常識を覆す発見が相次いでいます。

北海道大学の画期的な発見|無呼吸時に眼圧は「下がっていた」

2016年、北海道大学の研究チームは特殊なコンタクトレンズ型眼圧計と睡眠ポリグラフィーを同時に使い、無呼吸時の眼圧変動を世界で初めて詳細に記録しました。

通常、息を止めると眼圧は上がるものですが、閉塞性の無呼吸では気道がふさがることで胸腔内の圧力が低下し、それに伴って眼圧もむしろ下がっていたのです。

眼圧よりも「酸素不足」が視神経を追い詰める

項目眼圧上昇による障害低酸素による障害
発生タイミング眼圧が常に高い状態無呼吸のたびに反復
検査での検出通常の眼圧検査で判明眼圧検査だけでは見逃す
日本人の該当割合緑内障患者の約30%緑内障患者の約70%以上

無呼吸のたびに血中酸素飽和度が急落し、脳や目の神経が酸欠に陥る。この「間欠的低酸素」の繰り返しが、眼圧に依存しない形で視神経を傷つけている可能性が高いと研究者たちは指摘しています。

日中の眼圧測定だけでは見つからないリスク

眼科の一般的な検診は日中に行われ、覚醒時の眼圧を1回測るだけのケースがほとんどです。

しかし、睡眠時無呼吸症候群による視神経障害は夜間の低酸素や血流変動によって起こるため、日中の眼圧が正常でも安心とはいい切れません。

いびきがひどい、日中に強い眠気がある、家族から呼吸が止まっていると指摘されたことがあるなど、心当たりのある方は眼科での精密検査に加えて、睡眠時無呼吸症候群の検査も検討してみてください。

いびきと緑内障の初期症状を見逃さない|セルフチェックで気づく体のサイン

緑内障は「沈黙の病気」と呼ばれるほど自覚症状に乏しく、気づいたときには視野の欠損がかなり進んでいるケースが珍しくありません。

一方、睡眠時無呼吸症候群にも見過ごされやすいサインがあります。両方のシグナルを知っておくことが、早期発見への第一歩です。

毎朝の頭痛と日中の眠気は体からの警告

朝起きたときの頭痛、日中に襲ってくる強い眠気、集中力の低下。これらは睡眠時無呼吸症候群に特徴的な症状です。夜間に十分な酸素が脳に届いていないサインであり、同じ低酸素が目の神経にもダメージを与えている可能性を示唆しています。

家族やパートナーから「いびきがうるさい」「寝ている間に息が止まっている」と言われたことがあれば、それは非常に重要な手がかりです。一人暮らしの方は、スマートフォンの睡眠記録アプリを活用するのも一つの方法でしょう。

緑内障の初期には「見えにくさ」よりも「疲れ」が先に来る

緑内障の初期に多い訴えは、視野の欠けよりも「目が疲れる」「肩がこる」「頭痛がする」といった漠然とした不調です。片方の目の視野が欠けても、もう片方の目が自然に補ってしまうため、異変に気づきにくいのです。

40歳を過ぎたら定期的に眼科検診を受け、眼底検査やOCT(光干渉断層計)による視神経の精密評価を受けることをおすすめします。

今すぐ確認したい「いびき×目の異変」チェックリスト

以下の項目に心当たりがないか、振り返ってみてください。

  • 家族や同居人からいびきを指摘されたことがある
  • 夜中に何度も目が覚める、または息苦しさで起きる
  • 朝起きたとき口が渇いている、頭が重い
  • 日中の強い眠気で仕事や運転に支障が出ている
  • 目の疲れや肩こり、頭痛が慢性的に続いている
  • 視界の端のほうがぼんやりする、見えにくいと感じる

複数の項目に該当する方は、眼科と睡眠外来の両方を受診することを強くおすすめします。両方の疾患は初期段階での発見が、将来の視力を守るカギとなります。

睡眠時無呼吸症候群と緑内障のおもな症状比較

症状・特徴睡眠時無呼吸症候群緑内障
自覚しやすさ本人は気づきにくい初期はほぼ気づかない
他者からの指摘いびきや無呼吸で発覚指摘されにくい
代表的な初期サイン日中の眠気・朝の頭痛目の疲れ・肩こり
進行した場合心疾患・脳卒中のリスク視野欠損・失明のリスク

CPAP治療は目も守れる|睡眠時無呼吸症候群の治療が緑内障予防につながる根拠

睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療法であるCPAP(持続陽圧呼吸療法)は、夜間の低酸素を改善すると、目の神経への悪影響を軽減できる可能性があります。呼吸を整えることが視力を守る一助にもなりうるのです。

CPAP療法で視覚機能が改善したイタリアの報告

2018年にイタリア・ローマ大学の研究チームが行った調査では、重度の睡眠時無呼吸症候群の患者さんに1年間CPAPを継続使用してもらったところ、視覚機能の電気的な検査で明らかな改善が認められました。

CPAPをうまく使えなかった方との比較で、その差は統計的にも有意だったと報告されています。

血中の酸素濃度が改善されたため、視神経への血流や炎症が緩和されたと考えられています。

早期診断・早期治療で視神経のダメージを食い止める

治療状況低酸素への影響視神経への影響
CPAP未使用夜間の低酸素が持続神経線維の菲薄化が進む
CPAP使用(良好)酸素濃度の正常化視覚機能の改善が報告
CPAP使用(不十分)低酸素の改善が不十分改善効果が得られにくい

ある国内の専門クリニックでの調査では、CPAP治療を受けている睡眠時無呼吸症候群の患者さんにおいて、治療開始が早かった方ほど網膜神経線維層の菲薄化が軽度にとどまっていたという結果が出ています。

早い段階で無呼吸を治療することが、視神経を守るうえでも非常に大切だといえるでしょう。

CPAPだけで安心できない|緑内障が見つかったら眼科治療も並行して

CPAPが視神経の保護に役立つ可能性がある一方で、緑内障は一度進行すると治療しても視野を元に戻すことができません。もしすでに緑内障が見つかっている場合は、CPAPによる呼吸管理に加えて、眼科での点眼治療や定期的なフォローも欠かさず続けてください。

睡眠時無呼吸症候群の主治医と眼科医が連携して診ると、両方の病気に対して隙のない管理ができます。

いびきが気になる人が今日からできる生活習慣の改善と受診の目安

睡眠時無呼吸症候群と緑内障のリスクを減らすために、毎日の暮らしの中で実践できる対策があります。医療機関を受診すべきタイミングも含めて、具体的な行動指針を整理しました。

減量と禁酒がいびきを軽くする理由

肥満は睡眠時無呼吸症候群の大きなリスク要因です。首まわりや喉に脂肪がつくことで気道が狭くなり、いびきや無呼吸が起こりやすくなります。体重を5〜10%減らすだけでも、無呼吸の回数が大幅に減少するという報告があります。

飲酒は喉の筋肉をゆるめ、気道をさらに狭くします。特に就寝前の飲酒は無呼吸を悪化させやすいため、寝る3時間前にはお酒を控えるのが望ましいでしょう。

横向き寝と枕の高さ調整で気道を確保する

仰向けで寝ると重力で舌や軟口蓋が喉の奥に落ち込み、気道を塞ぎやすくなります。横向きに寝る習慣をつけるだけでも、いびきが軽減される場合があります。

抱き枕を使ったり、背中にテニスボールを入れたパジャマを着るなど、仰向け防止の工夫を試してみてください。

枕が高すぎると首が曲がって気道が圧迫され、低すぎると頭が下がって眼圧が上がりやすくなります。適度な高さの枕を選ぶのも、いびき対策と目の健康の両面で大切です。

「たかがいびき」で片づけずに専門医を受診するタイミング

次のような状況にあてはまる方は、早めに専門医への相談を検討してください。

毎晩のように大きないびきがある場合、日中の眠気で生活や仕事に支障が出ている場合、そして家族から「寝ている間に呼吸が止まっている」と指摘された場合は、放置せず睡眠時無呼吸症候群の検査を受けましょう。

同時に、40歳以上の方や近視の強い方、家族に緑内障の方がいる場合は、年に1回の眼科検診を習慣にしておくと安心です。

生活習慣の改善ポイントと受診の目安

対策具体的な方法期待できる効果
体重管理5〜10%の減量を目標に無呼吸回数の減少
飲酒制限就寝3時間前からは禁酒気道の筋弛緩を予防
睡眠姿勢横向き寝を習慣化舌根沈下の防止
定期検診眼科と睡眠外来の受診早期発見と早期治療

睡眠時無呼吸症候群と緑内障を同時に管理する|眼科と睡眠科の連携がカギになる

睡眠時無呼吸症候群と緑内障は、それぞれ別の診療科で診断・治療される病気ですが、両者の関連が明らかになりつつある今、科をまたいだ連携診療が重要になっています。

片方だけの治療では、もう片方の病気を見逃してしまうかもしれません。

睡眠科で無呼吸と診断されたら眼科も受診してほしい

  • 睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約9.5%に緑内障が合併
  • 重症例では緑内障の有病率がさらに高い
  • 自覚症状のない段階でも網膜神経線維の菲薄化が始まっている

睡眠時無呼吸症候群と診断された方は、目に異常を感じていなくても、一度は眼科で精密検査を受けてください。眼底検査やOCT検査によって、自覚症状が出る前の段階で緑内障の兆候を発見できる可能性があります。

緑内障の治療中にいびきが気になったら睡眠検査の相談を

すでに緑内障の治療を受けている方のなかにも、隠れた睡眠時無呼吸症候群を抱えている方が一定数いると考えられます。

点眼治療で眼圧を十分に下げているのに視野障害が進行する場合は、夜間の低酸素が視神経に追加のダメージを与えている可能性を疑ってみてもよいでしょう。

いびきがある、日中の眠気が強い、夜中に何度も目が覚めるといった自覚がある場合は、眼科の主治医に相談のうえ、睡眠検査を受けるのも選択肢の一つです。

両方の医師が情報共有することで守れる視力がある

眼科医が患者さんの睡眠時無呼吸症候群の重症度やCPAPの使用状況を把握していれば、緑内障の経過観察をより的確に行えます。逆に、睡眠科の医師が緑内障の存在を知っていれば、CPAPの設定やマスクの装着方法にも配慮できるでしょう。

お薬手帳や紹介状を活用して、両方の医師に自分の治療状況を正確に伝えることが、大切な目と全身の健康を守る近道になります。

よくある質問

Q
睡眠時無呼吸症候群の人は全員が緑内障になるのか?
A

睡眠時無呼吸症候群があるからといって、必ず緑内障を発症するわけではありません。研究データが示しているのは、あくまでリスクが高まるという関連性です。

とはいえ、重症の睡眠時無呼吸症候群では緑内障の有病率が5倍以上になるという報告もあり、決して軽視はできません。無呼吸の治療をしっかり行いながら、定期的な眼科検診で目の状態を確認し続けることが大切です。

Q
睡眠時無呼吸症候群のCPAP治療で緑内障は治せるのか?
A

CPAP治療は夜間の低酸素を改善し、視神経への負担を軽減する効果が期待されていますが、緑内障そのものを「治す」治療ではありません。

一度障害された視神経は回復しないため、緑内障の進行を止める・遅らせるには眼科での専門治療が必要です。

ただし、CPAP治療を1年間継続した重症患者さんで視覚機能の改善が見られたという研究報告もあります。CPAPで呼吸を整えつつ、眼科治療も並行して行うのが現時点での望ましい対応です。

Q
いびきがあるだけで緑内障を心配する必要はあるのか?
A

いびきだけで直ちに緑内障を心配する必要はないとされています。中国の約3,100人を対象とした調査でも、いびきの有無と緑内障の有病率に明確な関連は認められませんでした。

ただし、いびきに加えて日中の強い眠気や起床時の頭痛がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性を疑う必要があります。慢性的ないびきの約30%に睡眠時無呼吸症候群が潜んでいるとの報告もあるため、気になる症状があれば一度検査を受けてみてください。

Q
睡眠時無呼吸症候群と正常眼圧緑内障にはどんな関係があるのか?
A

正常眼圧緑内障は、眼圧が正常範囲にもかかわらず視神経が傷つく病気であり、日本人の緑内障患者さんの70%以上を占めています。

睡眠時無呼吸症候群で起こる繰り返しの低酸素が、眼圧とは無関係に視神経を障害するため、正常眼圧緑内障の発症に関わっている可能性が指摘されています。

北海道大学の研究でも、無呼吸時に眼圧は下がるものの血中酸素が低下することが確認されており、眼圧以外の要因で視神経が傷つくという仮説を裏づける結果となりました。

Q
緑内障を早期発見するためにはどんな検査を受ければよいのか?
A

緑内障の早期発見に有効なのは、眼底検査、OCT(光干渉断層計)検査、視野検査の3つです。

眼底検査では視神経の形態を観察し、OCT検査では網膜神経線維層の厚みをミクロン単位で計測できます。視野検査では見える範囲を詳しく調べ、初期の視野欠損を検出します。

一般的な健康診断の眼圧測定だけでは、正常眼圧緑内障を見逃してしまう恐れがあります。40歳以上の方、睡眠時無呼吸症候群と診断された方、近視が強い方は、年に1回は眼科で精密検査を受けることをおすすめします。

参考にした文献