喘息の治療を続けているのに、鼻づまりがひどい、匂いがわからない、鼻にポリープ(鼻茸)があると言われた――そんな症状に心当たりはありませんか。
実はこうした症状が重なるとき、その喘息は「好酸球性喘息」であり、さらに「好酸球性副鼻腔炎」を合併している可能性があります。
好酸球という白血球の一種が気道と鼻の両方で炎症を引き起こし、通常の治療だけでは十分にコントロールできないケースも珍しくありません。
この記事では、好酸球性喘息と好酸球性副鼻腔炎の関係や見分けるポイント、治療の選択肢までわかりやすく解説します。
好酸球性喘息とは|通常の喘息とどこが違うのか
好酸球性喘息は、血液中や気道で好酸球(こうさんきゅう)と呼ばれる白血球の一種が異常に増え、慢性的な気道炎症を引き起こすタイプの喘息です。
一般的な喘息との大きな違いは、吸入ステロイド薬だけでは炎症が抑えきれず、重症化しやすい傾向がある点にあります。
好酸球が気道で炎症を起こす仕組み
好酸球はもともと寄生虫やアレルギーに対する免疫反応を担う細胞です。ところが好酸球性喘息では、この細胞が気管支に過剰に集まり、炎症を繰り返します。
気道に浸潤した好酸球は炎症性の物質を放出し、粘膜を傷つけて気道を狭くします。そのため咳や息苦しさが続きやすく、発作を繰り返すと気道のリモデリング(構造的な変化)が進んでしまうこともあるのです。
成人で発症する好酸球性喘息の特徴
小児期のアレルギー性喘息とは異なり、好酸球性喘息は成人になって初めて発症する方が多いという特徴があります。
30代以降に喘息と診断され、吸入薬を増やしてもなかなかよくならない場合は、好酸球性のタイプを疑うきっかけになるでしょう。
好酸球性喘息と一般的な喘息の比較
| 項目 | 好酸球性喘息 | 一般的な喘息 |
|---|---|---|
| 好発年齢 | 成人(30代以降に多い) | 小児期から発症が多い |
| アレルゲン関与 | 必ずしもアレルギーが原因ではない | ダニ・花粉など明確な原因が多い |
| 血中好酸球 | 高値(300/μL以上が目安) | 正常〜やや高値 |
| 吸入ステロイドの効果 | 単独では不十分なことがある | 多くの場合に効果的 |
| 重症化リスク | 高い | 軽症〜中等症が多い |
血液検査で好酸球の数値を確認する方法
好酸球性喘息を疑った場合、まず行われるのが血液検査です。血中好酸球数が300/μL以上であれば好酸球性喘息の可能性が高まります。
あわせて呼気中の一酸化窒素(FeNO)を測定することで、気道の好酸球性炎症の程度をさらに詳しく評価できます。
数値だけで確定するわけではありませんが、喘息の症状が重い方、鼻の症状が同時にある方は、ぜひ主治医に血中好酸球数の確認を相談してみてください。
好酸球性副鼻腔炎の症状と診断基準を知っておこう
好酸球性副鼻腔炎は、鼻や副鼻腔の粘膜に好酸球が大量に浸潤して慢性炎症を起こす病気です。両側の鼻にポリープ(鼻茸)ができやすく、嗅覚が低下することが大きな特徴といえます。
通常の慢性副鼻腔炎(蓄膿症)とは異なり、抗菌薬がほとんど効かず、手術後も再発しやすい難治性の疾患として知られています。
鼻茸(鼻ポリープ)が両側にできる病態
好酸球性副鼻腔炎の大きな特徴は、両方の鼻腔にポリープが発生する点です。通常の慢性副鼻腔炎でもポリープはできますが、好酸球性の場合はその数や大きさが目立ち、鼻腔を塞ぐほどに成長するケースもあります。
ポリープが大きくなると鼻呼吸が困難になり、口呼吸が増えることで喉や気管への負担も加わります。喘息を合併している方にとっては、鼻からの呼吸が妨げられること自体が気道症状を悪化させる要因になりかねません。
嗅覚障害が好酸球性副鼻腔炎の早期サインになる
「最近、料理の匂いがわかりにくい」「以前より香りを感じなくなった」という訴えは、好酸球性副鼻腔炎の初期に現れやすい症状です。鼻茸が嗅裂(きゅうれつ)という匂いを感知する領域を塞ぐことで嗅覚が低下します。
嗅覚障害は生活の質に直結するにもかかわらず、「年齢のせいだろう」と見過ごされがちです。喘息をお持ちの方で匂いの変化を感じたら、好酸球性副鼻腔炎の可能性を念頭に耳鼻咽喉科への受診をおすすめします。
JESRECスコアによる診断のポイント
好酸球性副鼻腔炎の診断には、JESREC(Japanese Epidemiological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis)スコアが用いられます。CT画像での副鼻腔陰影の分布、血中好酸球数、鼻茸の有無、喘息の合併といった項目を点数化して評価する方法です。
合計スコアが11点以上で好酸球性副鼻腔炎が強く疑われます。確定診断には手術や生検で採取した組織中の好酸球数を顕微鏡で確認する作業が必要です。
| 評価項目 | 条件 | スコア |
|---|---|---|
| CT所見 | 篩骨洞優位の陰影 | 3点 |
| 血中好酸球 | 2%以上 / 5%以上 / 10%以上 | 4 / 8 / 10点 |
| 鼻茸の存在 | あり | 2点 |
| 喘息の合併 | あり | 2点 |
好酸球性喘息と好酸球性副鼻腔炎はなぜ合併しやすいのか
好酸球性喘息と好酸球性副鼻腔炎は、全身の好酸球性炎症という共通の基盤を持っています。
鼻から気管支までひとつながりの気道を「ワンエアウェイ(one airway)」と捉える考え方があり、上気道と下気道の炎症が連動するため合併頻度が高いのです。
「ワンエアウェイ」で上気道と下気道はつながっている
ワンエアウェイとは、鼻腔・副鼻腔・咽頭・喉頭・気管支をひとつの連続した気道として考える概念です。上気道(鼻や副鼻腔)に炎症があると、炎症性物質が下気道(気管支)にも影響を及ぼし、喘息を悪化させることが知られています。
逆に、下気道の炎症が上気道に波及するパターンもあり、好酸球性喘息の患者さんが後から副鼻腔炎を発症するケースも少なくありません。
血中好酸球が高い人ほど合併リスクが高くなる
血中好酸球数が高い方ほど、鼻と気管支の両方で好酸球性炎症が生じやすいことが研究で明らかになっています。好酸球が血流を介して全身に分布するため、炎症は特定の臓器にとどまらず広がりやすいのです。
- 血中好酸球 300/μL以上で喘息重症化リスク上昇
- 好酸球性喘息患者の約40〜60%が副鼻腔炎を合併
- 好酸球性副鼻腔炎患者の約50%以上が喘息を合併
- 鼻茸の再発率は好酸球数と相関
アスピリン喘息(NSAIDs過敏症)との関連
好酸球性副鼻腔炎と好酸球性喘息を合併している方の中には、アスピリンや痛み止め(NSAIDs)を服用すると喘息発作が誘発される「アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)」を併せ持つ方がいます。
この3つの病態が重なると、鼻茸の再発率がさらに高まり治療の難易度も上がります。
痛み止めを飲んだあとに息苦しさや鼻づまりが急に悪化した経験がある方は、必ず主治医に伝えてください。薬の選択に大きく影響する情報です。
好酸球性喘息と鼻茸が同時にある場合の治療戦略
好酸球性喘息と好酸球性副鼻腔炎を同時に抱えている方の治療では、吸入ステロイド薬に加え、生物学的製剤(バイオ製剤)を用いた全身的な好酸球性炎症の制御が柱になります。
鼻と気管支を別々に治療するのではなく、同時に働きかける考え方が広まっています。
吸入ステロイド薬と経口ステロイド薬の使い分け
好酸球性喘息の治療の基本は、高用量の吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合剤です。それでもコントロールが不十分な場合は短期間の経口ステロイド薬が追加されるときがあります。
ただし経口ステロイドは長期使用で骨粗しょう症や糖尿病といった副作用のリスクが高まるため、できるだけ短期間にとどめたいところです。
経口ステロイドを繰り返し使わなければならない状況は、生物学的製剤の導入を検討するタイミングといえます。
生物学的製剤(バイオ製剤)による好酸球コントロール
近年、好酸球性喘息と好酸球性副鼻腔炎の両方に効果が期待できる生物学的製剤が登場しています。抗IL-5抗体(メポリズマブ、ベンラリズマブ)、抗IL-4/13受容体抗体(デュピルマブ)などが代表的な薬剤です。
これらの薬剤は好酸球の産生や活性化にかかわるサイトカイン(免疫に関連するたんぱく質)を標的にしており、注射薬として定期的に投与します。喘息発作の頻度が減るだけでなく、鼻茸の縮小や嗅覚の改善が報告されている点が大きな特長です。
| 薬剤名 | 標的 | 主な効果 |
|---|---|---|
| メポリズマブ | IL-5 | 好酸球数の低下、喘息発作の抑制 |
| ベンラリズマブ | IL-5受容体α | 好酸球のほぼ完全な除去 |
| デュピルマブ | IL-4/IL-13受容体 | 喘息と鼻茸の両方に効果 |
| オマリズマブ | IgE | アレルギー性喘息に有効 |
鼻茸に対する手術と術後再発を防ぐ工夫
鼻茸が大きく鼻閉や嗅覚障害が強い場合は、内視鏡下副鼻腔手術(ESS)によってポリープを除去し副鼻腔の通気を改善します。手術で症状は劇的に改善するものの、好酸球性副鼻腔炎はもともと再発しやすい病気です。
術後は鼻洗浄やステロイド点鼻薬を継続し、好酸球の炎症を抑え続けることが大切です。生物学的製剤の併用によって再発率を大幅に下げられるという報告もあり、耳鼻咽喉科と呼吸器内科の連携が治療成績を左右します。
好酸球性喘息の重症度を悪化させないために気をつけたい生活習慣
好酸球性喘息と好酸球性副鼻腔炎のコントロールには、薬物治療に加えて日々の生活習慣の見直しも効果を発揮します。炎症の悪化因子をできるだけ遠ざけると、発作や症状の波を小さくできるでしょう。
喫煙と受動喫煙はただちにやめるべき理由
喫煙は好酸球性に限らずすべての喘息において症状を悪化させます。たばこの煙に含まれる化学物質が気道粘膜を直接傷つけるうえ、好酸球の活性化を促進するという研究結果もあります。
受動喫煙も同様に有害です。同居のご家族が喫煙者の場合は、分煙ではなく完全な禁煙環境を整えるのが望ましいでしょう。禁煙外来を利用すれば、無理なく禁煙に取り組めます。
ダニ・ハウスダスト対策で気道への刺激を減らす
好酸球性喘息はアレルゲンが直接の引き金ではないケースも多いものの、ダニやハウスダストへの暴露は気道過敏性を高め、症状を増悪させる要因になります。
寝具の定期的な洗濯、防ダニカバーの使用、こまめな換気と掃除を心がけてください。
- 週1回以上のシーツ・布団カバーの洗濯
- 防ダニカバーの使用(枕・布団)
- 室内湿度を50%前後に保つ
- カーペットより板張りの床が望ましい
鼻洗浄(鼻うがい)を毎日続けるコツ
好酸球性副鼻腔炎の術後管理だけでなく、日常的なセルフケアとしても鼻洗浄は効果的です。生理食塩水で鼻腔内の分泌物や炎症性物質を洗い流すと、鼻づまりや後鼻漏(鼻水がのどに落ちる症状)の軽減が期待できます。
市販の鼻洗浄器を使えば自宅で手軽に行えます。温度は体温に近いぬるま湯が刺激が少なくおすすめです。1日1〜2回を目安に、無理のない範囲で習慣化してみましょう。
呼吸器内科と耳鼻咽喉科の連携が好酸球性喘息の治療成績を左右する
好酸球性喘息と好酸球性副鼻腔炎が合併しているとき、呼吸器内科だけ、あるいは耳鼻咽喉科だけの治療では十分な効果を得にくいときがあります。
両方の診療科が情報を共有し、一貫した治療方針のもとで診療を進めることが治療成績を大きく左右します。
呼吸器内科で行う検査と治療の範囲
呼吸器内科では、呼吸機能検査(スパイロメトリー)、呼気NO検査、血中好酸球数の測定を通じて喘息の重症度と好酸球性炎症の程度を評価します。治療としては吸入薬の調整や生物学的製剤の導入判断が主な役割です。
鼻茸や嗅覚障害の訴えがある場合には、耳鼻咽喉科への紹介を積極的に行い、CT検査やJESRECスコアの評価につなげます。
耳鼻咽喉科で行う検査と治療の範囲
耳鼻咽喉科では、鼻内視鏡による鼻茸の確認、副鼻腔CT、嗅覚検査などを通じて好酸球性副鼻腔炎の確定診断を行います。内視鏡下副鼻腔手術(ESS)の適応判断や、術後の経過観察・薬物管理もこの診療科が担います。
喘息の合併が確認された患者さんには、呼吸器内科と情報を共有しながら、手術時期や周術期の喘息管理について連携します。
「かかりつけ」に両方の科がある病院を選ぶメリット
呼吸器内科と耳鼻咽喉科が同じ医療機関にある場合、検査データや治療経過をリアルタイムに共有できます。
生物学的製剤をどちらの科が処方するか、手術後の喘息管理をどう行うかといった判断がスムーズになり、患者さんの通院負担も軽減されるでしょう。
近くにそうした医療機関がない場合でも、紹介状を通じて連携できるかどうか、現在の主治医に相談してみる価値はあります。
| 連携のポイント | 呼吸器内科 | 耳鼻咽喉科 |
|---|---|---|
| 主な検査 | 呼吸機能検査、FeNO、血中好酸球 | 鼻内視鏡、副鼻腔CT、嗅覚検査 |
| 主な治療 | 吸入薬、生物学的製剤 | 手術、点鼻薬、鼻洗浄指導 |
| 共有すべき情報 | 喘息発作頻度、好酸球数の推移 | 鼻茸の状態、嗅覚の変化 |
鼻の症状を放置すると好酸球性喘息はどうなるのか
好酸球性副鼻腔炎を合併した好酸球性喘息では、鼻の症状を放置すると喘息そのものが悪化しやすくなります。鼻茸が成長して鼻呼吸が困難になることで、口呼吸による気道乾燥や感染リスクの増加を招くためです。
鼻閉による口呼吸が喘息発作を誘発する
鼻が詰まって口呼吸になると、冷たく乾燥した外気がフィルターを通さずに気管支へ到達します。鼻は本来、吸い込んだ空気を加温・加湿し、異物を除去するフィルターの役割を果たしています。
| 呼吸経路 | 気道への影響 | 喘息への影響 |
|---|---|---|
| 鼻呼吸 | 加温・加湿・異物除去 | 発作リスクを抑える |
| 口呼吸 | 乾燥・冷気が直接到達 | 気道過敏性が亢進し発作誘発 |
嗅覚を失うことで低下する生活の質
嗅覚障害が進行すると、食事の楽しみが失われるだけでなく、ガス漏れや火災の煙に気づけないなど安全面のリスクも高まります。
好酸球性副鼻腔炎による嗅覚障害は、放置すれば不可逆的(元に戻らない)になる可能性があるため、早期の対応が重要です。
嗅覚が戻りにくくなる前に治療を開始すると、回復の可能性は高まります。「匂いがわかりにくいだけ」と軽視せず、早めに医療機関を受診しましょう。
好酸球性副鼻腔炎を放置した場合の長期的なリスク
好酸球性副鼻腔炎を適切に治療せずにいると、鼻茸の増大と再発を繰り返しながら嗅覚がさらに悪化します。同時に、好酸球性炎症が下気道にも波及し続けることで、喘息の重症化や経口ステロイドへの依存度が増す悪循環に陥りかねません。
また、難治性の中耳炎を合併するケースもあり、聴覚にまで影響が及ぶときがあります。鼻と耳、そして気管支は解剖学的にも免疫学的にもつながっているため、一つの臓器の炎症を放置すると他の臓器へ連鎖的に影響が広がるのです。
よくある質問
- Q好酸球性喘息は血液検査だけで診断できるのか?
- A
血液検査で血中好酸球数が300/μL以上であれば好酸球性喘息が疑われますが、それだけで確定診断に至るわけではありません。呼気中の一酸化窒素(FeNO)測定、呼吸機能検査、症状の経過、治療への反応性など複数の情報を総合して医師が判断します。
とくに喘息の発作頻度が多い方や吸入薬を増やしても改善しにくい方は、好酸球性かどうかの精査を主治医に相談すると良いでしょう。
- Q好酸球性副鼻腔炎の鼻茸は手術で取っても再発するのか?
- A
好酸球性副鼻腔炎は手術で鼻茸を除去しても再発しやすい疾患です。手術は鼻閉や嗅覚障害を速やかに改善する有効な治療ですが、好酸球による炎症の体質そのものが変わるわけではありません。
術後にステロイド点鼻薬や鼻洗浄を継続し、必要に応じて生物学的製剤を併用すると再発リスクを大幅に下げることが期待できます。定期的な通院で鼻茸の再発を早期に発見することも大切です。
- Q好酸球性喘息に使われる生物学的製剤の副作用にはどのようなものがあるか?
- A
好酸球性喘息に使われる生物学的製剤は、一般的な薬剤と比べて重篤な副作用が少ないとされています。よく見られる副作用としては、注射部位の発赤や腫れ、頭痛、咽頭痛などが報告されています。
まれにアナフィラキシーなどの重いアレルギー反応が起きる可能性もあるため、初回投与時は医療機関で一定時間の経過観察を受けるのが一般的です。気になる症状が出た場合は速やかに担当医へ連絡してください。
- Q好酸球性副鼻腔炎による嗅覚障害は治療で回復する見込みがあるのか?
- A
好酸球性副鼻腔炎による嗅覚障害は、治療のタイミングが早いほど回復する可能性が高いと考えられています。内視鏡手術で鼻茸を除去し嗅裂の通気を確保することで、嗅覚が改善したという報告は多くあります。
加えて生物学的製剤の使用によって嗅覚スコアが有意に改善したという臨床データも蓄積されつつあります。ただし長期間放置して嗅神経そのものがダメージを受けた場合は回復が難しくなるため、早めの受診と治療開始が鍵になります。







