MRI検査は、強力な磁場と電波を組み合わせることで、体内の詳細な断層画像を非侵襲的に撮影できる、最先端の医療診断技術です。
放射線被ばくのリスクがないCTやレントゲンとは異なる特徴を持ち、脳や脊椎、関節など、人体のあらゆる部位を精密に観察することができます。
特に軟部組織の描出に優れた特性を活かし、がんの早期発見や脳梗塞の診断をはじめ、多くの疾患の診断・治療方針の決定に不可欠な医療機器として広く普及しています。
MRI検査とは:体内を詳しく映し出す最新の画像診断
MRI検査は、強力な磁場と電波を使用して体内の詳細な画像を撮影する先進的な医療技術です。
放射線を使用せず安全性が高く、特に軟部組織の観察に優れた特徴を持ちます。
MRI検査の基本原理と仕組み
MRI検査の原理は、人体の約60%を占める水分子中の水素原子核(プロトン)を利用した画像診断法として確立されました。
通常、ランダムな方向を示す水素原子核が、0.5〜3.0テスラという強力な磁場環境下で一定方向に整列する性質を応用しています。
磁場内に置かれた水素原子核は、42.6MHz/テスラという特定の周波数の電波と共鳴し、この周波数帯のラジオ波を照射することで原子核が励起状態となります。
その後、原子核が基底状態に戻る際に放出される電磁波を検出器で捉え、複雑な数値演算処理を経て画像化されます。
磁場強度 | 主な用途 | 特徴 | 撮影時間 |
1.5テスラ | 一般的な検査 | 標準的な画質で広く普及 | 20-30分 |
3.0テスラ | 精密検査 | 高画質・短時間撮影が可能 | 15-25分 |
7.0テスラ以上 | 研究用 | 超高精細な画像が得られる | 10-20分 |
人体の各組織における水分含有量の違いは、信号強度の変化として検出されます。
脳組織では灰白質が約85%、白質が約70%の水分を含有しており、この差異がMRI画像上のコントラストとして表現されることで、精密な脳構造の観察を実現しています。
磁場と電波を使用した撮影方法
現代のMRI装置における撮影技術は、3種類の磁場を精密に制御することで成り立っています。
- 静磁場:水素原子核を整列させる基本的な磁場(0.5〜3.0テスラ)
- 傾斜磁場:位置情報を特定するための可変磁場(最大40mT/m)
- 高周波磁場:水素原子核を励起させるための電波(42.6MHz〜127.8MHz)
T1強調画像やT2強調画像などの撮影シーケンスは、組織の緩和時間(T1:数百〜数千ミリ秒、T2:数十〜数百ミリ秒)の違いを利用して、異なる特徴を持つ画像情報を取得します。
撮影シーケンス | 撮影時間 | 主な用途 | 特徴的な所見 |
T1強調画像 | 3-5分 | 解剖学的構造の把握 | 脂肪組織が高信号 |
T2強調画像 | 4-6分 | 病変検出 | 水分・浮腫が高信号 |
拡散強調画像 | 2-3分 | 急性期脳梗塞の診断 | 虚血性変化が高信号 |
検査装置の特徴と構造
最新のMRI装置は、以下の主要構成要素から構築されています。
- 超電導磁石:液体ヘリウム(-269℃)で冷却された電磁石
- 傾斜磁場コイル:三次元座標の位置情報を制御
- 高周波コイル:電波の送受信を担う専用アンテナ
- 検査寝台:最大積載重量200kg、上下動作範囲50-100cm
装置タイプ | 内径寸法 | 検査適応 | 特記事項 |
クローズド型 | 60-70cm | 標準体型の方 | 高画質・短時間撮影 |
オープン型 | 開口部>120cm | 閉所恐怖症の方 | 圧迫感が少ない |
セミオープン型 | 70-90cm | 中間的な適応 | バランスの取れた性能 |
MRIの歴史と技術発展
1971年のDamadian博士による生体組織のNMR緩和時間の差異発見から、1977年の人体への初回適用を経て、現代のMRI技術は飛躍的な進歩を遂げました。
初期の装置では一枚の画像取得に数時間を要していましたが、現在では数秒から数分で高精細な画像を得られます。
2020年代に入り、人工知能(AI)技術との融合により、ノイズ除去や画像再構成の処理時間は従来の10分の1以下まで短縮されています。
深層学習を活用した画像解析により、腫瘍性病変の自動検出や容積測定の精度は95%以上に達しています。
放射線被ばくを伴わないMRI検査は、安全性と画質の両面で優れた特性を持つ診断モダリティとして、今後も医療の現場で重要な役割を担い続けることでしょう。
MRI検査の費用と保険適用:医療機関別の料金比較
MRI検査の費用は保険適用の有無や医療機関によって大きく異なります。
検査部位や造影剤の使用、医療機関の設備などが料金に影響を与える主な要因となっています。
保険適用となる症状と条件
健康保険制度における診療報酬点数表では、MRI検査は画像診断区分に分類され、1,330点(13,300円)が基本点数として設定されています。こちらは1.5テスラ以上3テスラ未満の機器による場合です。
3テスラ以上の機器による場合では、1,600点(16,000円)となります。
2024年4月時点の医療保険制度では、医師による病気の診断や治療方針の決定に必要と判断された場合に保険適用となります。
以下のような症状や状態が保険適用の主な対象です。
- 脳梗塞や脳出血が疑われる急性期の頭痛や意識障害
- 脊髄疾患による四肢の麻痺やしびれ感
- 各種臓器における腫瘍性病変の精密検査
- 変形性関節症や椎間板ヘルニアなどの整形外科的疾患
検査部位 | 保険点数 | 患者負担額(3割負担) |
頭部 | 1,330点 | 約4,000円 |
脊椎 | 1,330点 | 約4,000円 |
胸部・腹部 | 1,330点 | 約4,000円 |
国民健康保険や社会保険に加入している場合、年齢や所得に応じて医療費の自己負担割合が1割から3割の範囲で決定されます。
70歳以上の方は原則2割負担となりますが、現役並み所得者は3割負担が適用されます。
医療機関による検査費用の違い
医療機関の規模や導入している装置の性能によって、検査費用に顕著な差異が生じます。
特に3テスラ以上の高磁場MRI装置を備える大学病院や専門医療機関では、より詳細な画像診断が可能である一方、検査料金も相応に高額となります。
医療機関の種類 | 装置の特徴 | 基本検査料(3割負担) | 予約待ち期間 |
一般病院 | 1.5テスラ標準機 | 4,000円〜6,000円 | 1-2週間 |
大学病院 | 3.0テスラ最新機 | 5,000円〜8,000円 | 2-4週間 |
整形外科クリニック | オープン型MRI | 4,500円〜7,000円 | 3-7日 |
検査部位が複数にわたる場合、多くの医療機関では2回目以降の撮影に対して15%から30%程度の割引制度を設けています。
緊急検査や夜間休日の検査では、基本料金に加えて時間外加算(休日加算で8,580円、深夜加算で17,160円)が発生します。
造影剤使用時などの追加費用
造影剤検査では、使用する薬剤の種類や量に応じて追加費用が発生します。ガドリニウム造影剤を使用する場合、造影剤使用加算(250点)が必要となります。
加算の種類 | 追加料金(3割負担) | 適用部位 | 検査時間 |
造影剤使用加算 | 約800円 | 全身対応 | +15-20分 |
心臓MRI撮影加算 | 約1,300円 | 心臓 | +10-15分 |
全身MRI撮影加算 | 2,000円 | 全身 | +30-60分 |
乳房MRI撮影加算 | 約333円 | 乳房 | +15-20分 |
造影MRI検査における費用項目の内訳:
- 基本的な1.5T MRI撮像料:1,330点(13,300円)
- 造影剤使用加算:250点(2,500円)
自由診療での料金体系
人間ドックやがん検診などの予防医学的なMRI検査は、保険適用外となるため全額自己負担となります。
2024年現在の料金水準は医療機関によって大きな開きがみられ、都市部の専門クリニックではより高額な傾向にあります。
検査内容 | 標準料金 | 所要時間 | オプション追加時 |
単独部位 | 35,000円〜55,000円 | 30-45分 | +10,000円〜 |
全身ドック | 85,000円〜160,000円 | 90-120分 | +20,000円〜 |
セカンドオピニオン | 55,000円〜120,000円 | 60-90分 | 要相談 |
適切な保険診療の活用と医療機関の選択により、質の高いMRI検査を比較的合理的な費用で受診することが可能です。
医療費控除制度の利用や高額療養費制度の申請も、患者負担の軽減に有効な手段となるでしょう。
検査の流れと所要時間
MRI検査を受ける際は、安全かつスムーズな検査のために適切な準備が必要です。
金属類の持ち込み制限や検査着への着替え、問診での正確な情報提供など、重要な注意点があります。
検査の所要時間は撮影部位や造影剤の使用有無によって異なりますが、通常は20〜40分程度を要します。
検査当日の服装と持ち物
MRI装置が発生させる磁場強度は地球の磁場(0.3〜0.6ガウス)の約2〜6万倍に達するため、金属製品の持ち込みは厳重に制限されています。
検査着は医療機関から貸与される専用のものを着用することで、安全性が担保されます。
必須持参品と推奨持参品を明確に区分いたします。
- 健康保険証と診察券(必須)
- 事前配布された問診票と同意書(必須)
- お薬手帳(服用中の薬がある方は必須)
- タオル(汗拭き用として推奨)
- 着替え(必要に応じて)
着用可能な衣類・装飾品 | 着用禁止の衣類・装飾品 | 安全性レベル |
綿100%の衣類 | 金属ファスナー付き衣類 | 要確認 |
シリコン製ヘアゴム | 金属製アクセサリー | 持込不可 |
医療機関指定の検査着 | 化繊素材の下着類 | 要確認 |
不織布マスク | ワイヤー入りブラジャー | 持込不可 |
問診から撮影までの手順
検査前の問診では、体内金属の有無や妊娠可能性、閉所恐怖症などについて、詳細な聞き取りが実施されます。
2023年の医療安全統計によると、MRI検査における事故の95%以上が事前確認の不備に起因しているため、正確な情報提供が不可欠となっています。
検査前プロセス | 標準所要時間 | 重要確認事項 | 備考 |
受付・問診 | 10-15分 | 既往歴・体調確認 | 要身分証 |
着替え準備 | 5-10分 | 金属類の確実な除去 | 貴重品管理あり |
安全確認検査 | 5-7分 | 金属探知機による確認 | 全員必須 |
ポジショニング | 3-5分 | 体位固定具の調整 | 個別対応 |
問診時の重要確認項目について、医療安全の観点から特に入念な確認が必要な事項を列挙します。
- ペースメーカーや人工内耳等の医療機器
- 手術歴(体内金属の有無)
- 妊娠可能性(最終月経日)
- 閉所恐怖症の程度
- 造影剤アレルギーの既往
標準的な検査時間
検査時間は撮影部位とプロトコル(撮影手順)により変動し、装置の性能によっても差異が生じます。3テスラMRI装置では、従来の1.5テスラ装置と比較して撮影時間が約30%短縮されています。
検査部位 | 通常撮影時間 | 詳細撮影時間 | 特殊撮影時間 |
頭部 | 20-25分 | 30-40分 | 45-60分 |
脊椎 | 25-30分 | 35-45分 | 50-70分 |
関節 | 20-25分 | 30-35分 | 40-50分 |
腹部骨盤 | 25-30分 | 35-45分 | 50-65分 |
撮影中の体動は画質低下の主要因となり、0.5mm以上の動きで再撮影が必要となります。呼吸同期撮影では、6〜12秒程度の息止めを5〜8回程度お願いする場合もあります。
造影剤検査の追加手順
造影剤使用時は、ガドリニウム造影剤(0.2mL/kg)を使用するのが一般的です。腎機能低下がある場合(eGFR 30mL/分/1.73m²未満)は、特に慎重な投与判断が求められます。
造影検査プロセス | 所要時間 | 手技内容 | 注意事項 |
静脈路確保 | 5-10分 | 22G針による穿刺 | 血管選択重要 |
造影剤注入 | 3-5分 | 自動注入器使用 | 副作用観察必須 |
追加撮影 | 15-20分 | 経時的撮影 | 造影効果確認 |
経過観察 | 15分以上 | バイタル確認 | 必要に応じて延長 |
MRI検査の成功には、医療スタッフによる綿密な準備と患者様の適切な理解・協力が不可欠です。安全性と画質の両立により、正確な診断情報を得ることができるのです。
安全に受けるための注意点と禁忌事項
MRI検査は強力な磁場を使用するため、金属製品の持ち込みや体内金属の有無について厳重な確認が必要です。
また、検査中は狭い空間での長時間の固定姿勢が求められるため、閉所恐怖症の方には特別な配慮が必要となります。本項では、安全な検査実施のための重要な注意事項を取り上げます。
金属製品の取り扱い注意
MRI装置の磁場強度は1.5〜3.0テスラ(地球の磁場の約30,000〜60,000倍)に達し、この強力な磁場は24時間365日常時発生しています。
装置に吸い寄せられる金属の速度は最大で秒速28メートル(時速約100キロメートル)を超え、重大な事故を引き起こす原因となりうるため、検査室内への金属製品の持ち込みは厳格に制限されています。
医療安全管理の観点から、以下の金属製品の取り外しが必須となります。
- カードキーやICカード(磁気データが消去される)
- 電子機器全般(故障や破損のリスクあり)
- 金属を含む装飾品(磁力で引っ張られる)
- 医療機器(正常動作に影響)
- 金属を含む化粧品(タトゥーメイクを含む)
金属製品の種類 | 磁性強度 | 危険度 | 必要な対応 |
強磁性体金属 | 極めて強い | 致命的 | 完全禁止 |
常磁性体金属 | 中程度 | 高 | 原則禁止 |
反磁性体金属 | 弱い | 中 | 要確認 |
非磁性体 | なし | 低 | 確認後可 |
体内金属がある方の受検可否
手術後の体内金属や医療機器の装着状況は、MRI検査の可否判断において最重要な確認事項です。
特にペースメーカーなどの生命維持装置を装着している場合、磁場による機器の誤作動や停止が致命的な結果をもたらす危険性が指摘されています。
体内金属デバイス | 経過期間 | 検査可否 | 必要な確認事項 |
冠動脈ステント | 6週間未満 | 不可 | 材質・留置日 |
人工関節 | 3ヶ月以上 | 条件付可 | 材質・安定性 |
脳動脈クリップ | – | 原則不可 | 製品情報 |
歯科インプラント | 3ヶ月以上 | 多くは可 | 材質・固定状態 |
以下の医療機器や体内金属を有する方は、原則としてMRI検査を受けられません。
- 体内式除細動器(ICD)
- 神経刺激装置
- 磁気による制御弁シャント
- 金属製の止血クリップ
- 磁性体を含む眼内異物
閉所恐怖症への対応方法
標準的なMRI装置の検査空間は、直径60〜70センチメートル、長さ150〜200センチメートルの円筒状構造となっており、検査時間は平均して20〜40分を要します。
閉所恐怖症の方の約75%が何らかの不安症状を訴えるとされ、適切な対応が求められます。
症状レベル | 不安強度(VAS) | 推奨される対応 | 検査成功率 |
軽度 | 0-3 | 通常対応 | 95%以上 |
中等度 | 4-7 | 段階的導入 | 80%程度 |
重度 | 8-10 | 特別対応 | 60%程度 |
不安軽減のための具体的な支援方法として、以下のアプローチが効果的とされています。
- 検査前のバーチャル体験(成功率15%向上)
- リラクゼーション技法の習得(不安度30%低下)
- 音楽療法の導入(緊張度25%軽減)
- アイマスク使用(圧迫感50%軽減)
- 声かけコミュニケーション(不安度40%低下)
MRI検査の安全性確保には、医療従事者による入念な事前確認と、患者様の正確な情報提供が不可欠です。適切な準備と対策により、多くの方が安心して検査を受けることが可能となります。
MRI検査でわかる症状と病気:他の画像診断との違い
各画像診断機器には、それぞれ得意とする診断領域と特徴があり、診断目的や症状によって使い分けられます。
MRIは特に軟部組織の描出に優れており、放射線被ばくがない利点を持ちます。本項では、他の画像診断との比較を通して、MRIの特徴と活用方法を詳しく見ていきます。
CTとMRIの使い分け
最新のCTスキャンは1回のスキャンが0.3〜0.5秒と高速で、64〜320列の検出器により全身を数秒で撮影できる特徴を持ちます。
一方、MRIは1シーケンス(撮影単位)あたり2〜10分を要しますが、脳実質(灰白質・白質)の密度差を0.1%まで識別できる優れた組織コントラストを実現しています。
検査法 | 撮影時間 | 空間分解能 | 被ばく線量 | 1回の検査費用 |
CT | 5-30秒 | 0.3-0.5mm | 2-10mSv | 15,000-30,000円 |
MRI | 20-40分 | 0.5-1.0mm | なし | 25,000-50,000円 |
画像診断における使い分けの基準として、以下の特性を考慮します。
- 緊急度(外傷:CT、慢性疾患:MRI)
- 観察部位(骨:CT、軟部組織:MRI)
- 患者状態(急性期:CT、精密検査:MRI)
- コスト効率(スクリーニング:CT、確定診断:MRI)
所見:「44歳女性、嚢胞性胸腺腫の症例。(A) 造影CTでは後方に沿った実質成分を認める。MRIではT1加重画像(B)で中等度の信号強度、T2加重画像(C)およびDWI(D)で高信号を呈し、嚢胞性成分と一致する所見を示している。小さな実質成分(矢印)は、造影後T1加重画像(E)で造影効果を認める。」
レントゲンとの違いと特徴
従来のレントゲン撮影は、X線の透過率の違いを利用して0.1mm程度の空間分解能で画像を形成します。
対してMRIは、水素原子核の分布密度と緩和時間の違いを検出し、0.5〜1.0mmの分解能で立体的な画像を構築します。
画像特性 | レントゲン | CT | MRI |
撮影原理 | X線透過 | X線回転 | 核磁気共鳴 |
組織コントラスト | 低 | 中 | 高 |
被ばく線量 | 0.1mSv | 2-10mSv | 0mSv |
検査時間 | 1-3分 | 5-30秒 | 20-40分 |
所見:「56歳男性、左後胸部痛が2か月間続く症例。a: 後前位胸部X線写真では、左肺尖部に腫瘤を認める。b: 造影CTの矢状面多断面再構成画像では、第2および第3左肋骨の椎間孔への疑わしい浸潤を示し、低密度脂肪分離平面の消失(*)を認める。cおよびd: 矢状面および冠状面T1加重画像では、椎間孔内の脂肪の高信号強度が消失しており(*)、胸腔腫瘍による椎間孔浸潤を反映している。eおよびf: 造影矢状面および冠状面T1加重画像では、椎間孔内(*)および胸膜下空間に造影効果を認める。患者は化学放射線療法を受け、2か月後の形態評価では疾患の安定性が確認されたが、胸痛が増悪したため手術を施行。病理報告では、椎間孔領域で陽性マージンが確認され、MRI所見が裏付けられた。2か月後に左胸痛が再発し、MRIを施行。gおよびh: 造影軸位および矢状位T1加重画像(Lava Flex)で、椎間孔内の腫瘍再発を認める(*)。i: 左傍矢状位T1加重画像(Lava Flex)で結節性胸膜転移(矢印)を認める。」
MRIが得意とする疾患
MRIは中枢神経系疾患の診断において特に高い診断能を発揮し、脳腫瘍の検出感度は95%以上、特異度は90%以上に達します。
造影剤を使用した場合、腫瘍性病変の検出感度はさらに向上し、2mm以下の微小病変まで描出が可能となります。
対象疾患 | 検出感度 | 特異度 | 推奨撮像法 |
脳腫瘍 | 95-98% | 90-95% | 造影T1強調 |
脊椎ヘルニア | 92-95% | 88-92% | T2強調 |
靭帯損傷 | 85-90% | 82-88% | プロトン密度 |
軟骨損傷 | 88-92% | 85-90% | T2*強調 |
MRIによる代表的な診断対象:
- 急性期脳梗塞(拡散強調像による発症6時間以内の検出)
- 脊髄疾患(髄内病変の詳細な観察)
- スポーツ外傷(靭帯・軟骨の損傷評価)
- 心臓疾患(心筋梗塞の範囲同定)
- 婦人科疾患(子宮・卵巣腫瘍の性状評価)
所見:「形態的シークエンスにおける腫瘍細胞密度の評価。左側深部側頭内側部にWHOグレード3のIDH変異型びまん性星細胞腫を認める。病変はT2加重画像およびFLAIR画像(A、B)で高信号を呈し、DWI(E)では等信号を示す。T2信号強度が低下し、拡散制限を示す領域(A、Dの白矢印)が見られ、これらは高細胞性で、より退形成を反映している可能性が高い。造影後T1加重画像(F)では、造影前画像(C)と比較して造影効果は認められない。」
画質と診断精度の特徴
最新の3テスラMRI装置では、従来の1.5テスラ機と比較して信号雑音比が2倍以上向上し、より鮮明な画像が得られるようになりました。
画質向上により、脳腫瘍の境界描出能は従来比30%向上し、微小出血の検出感度は最大40%改善されています。
MRI装置性能 | 信号雑音比 | 最小分解能 | 撮影可能スライス厚 | 1シーケンス撮影時間 |
1.5テスラ | 基準値 | 1.0mm | 3-5mm | 3-5分 |
3.0テスラ | 2倍 | 0.5mm | 2-4mm | 2-4分 |
7.0テスラ | 4倍以上 | 0.3mm | 1-3mm | 1-3分 |
MRIは、その優れた組織コントラストと高い空間分解能により、現代医療における精密診断に不可欠な画像診断モダリティとしての地位を確立しています。
所見:「56歳男性、2か月間にわたり左後胸部痛を主訴としている。a: 後前方向胸部X線像にて、左肺尖部腫瘤を呈している。b: 造影CTのサジタル多断面再構成像において、第2および第3左肋骨椎間孔部位への疑わしい浸潤と、低密度脂肪分離層の消失(*)を認める。c, d: サジタルおよび冠状T1強調画像において、椎間孔内の脂肪に相当する高信号域の欠如(*)を認める。これらの所見は、胸部腫瘍による椎間孔侵襲を示唆している。e, f: 造影後サジタルおよび冠状T1強調画像にて、椎間孔領域(*)および胸膜下領域の造影増強を認める。本症例は化学放射線療法施行後、2か月時点の形態学的評価では安定病変を呈しているが、胸痛増強を認めるため手術を実施したところ、病理学的所見にて椎間孔領域で陽性マージンを認め、MRI所見を支持する結果であった。2か月後、左胸部痛の再発を呈し、MRI検査を施行したところ、g, h: 造影後軸位およびサジタルT1WI(Lava Flex)にて椎間孔内への腫瘍再発(*)を認める。i: 左傍矢状T1WI(Lava Flex)にて胸膜結節状転移(矢印)を認める。
MRI検査の種類と特徴:部位別の撮影方法
MRI検査は、撮影部位によって最適な撮影方法や使用するコイル(アンテナ)が異なります。
撮影時間や体位、息止めの必要性なども部位ごとに設定され、より正確な診断情報を得るために細かな工夫が施されています。
頭部・脳のMRI検査
頭部MRI検査では、8〜32チャンネルの専用頭部コイルを使用し、0.5〜1.0mmの高分解能で脳の微細構造を描出します。
T1強調画像、T2強調画像、拡散強調画像など、複数の撮影法を組み合わせることで、2mm以下の微小病変まで検出可能な精密診断を実現しています。
撮影シーケンス | スライス厚 | 撮影時間 | 検出可能病変サイズ |
T1強調画像 | 3-5mm | 3-5分 | 3mm以上 |
T2強調画像 | 2-4mm | 4-6分 | 2mm以上 |
FLAIR画像 | 2-4mm | 5-7分 | 2mm以上 |
拡散強調画像 | 3-5mm | 2-3分 | 1mm以上 |
頭部MRI検査における代表的な診断対象と検出精度:
- 急性期脳梗塞(発症2時間以内で90%以上の検出率)
- 脳腫瘍(造影検査併用で95%以上の感度)
- 認知症関連病変(海馬体積測定精度98%)
- 多発性硬化症(プラーク検出感度92%)
所見:「拡散強調画像(DWI)および対応するADCマップにおいて、急性右後下小脳動脈梗塞を認める。DWI上で高信号を呈し、対応するADCマップ上で低信号(拡散制限を示す)を呈している。」
脊椎・関節のMRI検査
整形外科領域のMRI検査では、16〜32チャンネルの体幹部コイルや4〜8チャンネルの専用関節コイルを使用し、0.3〜0.6mmの空間分解能で靭帯や軟骨の状態を観察します。
3テスラMRI装置の導入により、従来よりも30〜40%高い組織コントラストが得られるようになりました。
検査部位 | コイルタイプ | 撮影時間 | 画像解像度 | 検出精度 |
頸椎 | 16ch体幹部 | 20-25分 | 0.5mm | 90-95% |
腰椎 | 32ch体幹部 | 25-30分 | 0.4mm | 92-97% |
膝関節 | 8ch専用 | 20-25分 | 0.3mm | 95-98% |
最新の整形外科MRI検査では、以下の技術革新が実現しています。
- 3D等方性撮像による任意断面再構成
- 負荷位撮影による動的評価
- T2マッピングによる軟骨評価
- 金属アーチファクト低減技術
所見:「A:術前MRI(T2強調像)およびCTミエログラフィー(CTM)の軸位像において、神経根圧迫所見に差異を呈している。MRI軸位像ではGrade Iを呈しているが、CTM上ではGrade IIIを認める。MRI上のGrade Iは、手術的介入を要しない軽度の根性痛を示しているが、CTM上のGrade IIIは減圧手術を要する重度の神経根圧迫を呈している。B:CTM軸位像において、MRI軸位像では描出困難な左L5神経根の消失による高度な圧迫を認める。MRI上のGrade IIは中等度の神経根圧迫を示すが、CTM上でのGrade IIIは減圧手術を要する重度の神経根圧迫を呈している。CTM上のGrade IIIは、VASスコア8の強い根性痛を認める患者の臨床症状と一致している。」
内臓器官のMRI検査
内臓MRI検査では、呼吸による体動の影響を抑制するため、6〜12秒の息止め撮影や呼吸同期撮影(同期精度95%以上)を採用しています。
造影剤を用いたダイナミック撮影では、2〜3秒間隔で最大5分間の連続撮影が可能です。
対象臓器 | 撮影手法 | 息止め回数 | 造影剤使用量 | 検査所要時間 |
肝臓 | 息止め | 10-15回 | 0.1mmol/kg | 30-40分 |
心臓 | 心電同期 | 8-12回 | 0.2mmol/kg | 40-50分 |
腎臓 | 呼吸同期 | 不要 | 0.1mmol/kg | 25-35分 |
最新のMRI技術は、各部位の特性に応じた最適な撮影条件を自動的に選択し、高精度な診断情報を提供する段階に到達しています。
人工知能による画像解析支援により、診断精度は着実に向上を続けているのです。
所見:「HCC病変におけるガドテリク酸およびガドキセチ酸投与後のウォッシュイン・ウォッシュアウト動態を示している。(a,b): 細胞外系造影剤であるガドテリク酸(a)投与後の方が、肝細胞特異的造影剤であるガドキセチ酸(b)投与後と比較してより強いウォッシュインを呈している。(c,d): ガドテリク酸(c)投与後は、ガドキセチ酸(d)投与後と比較し、より顕著なウォッシュアウトを認める。」
以上