肝硬変と診断された方のおよそ3割が、肝臓の病気をきっかけとする糖尿病を抱えているとされています。これは「肝性糖尿病」と呼ばれ、一般的な2型糖尿病とは発症の経緯も治療上の注意点も大きく異なります。
肝性糖尿病は、肝臓そのものの機能低下がインスリン抵抗性や糖の代謝障害を引き起こすことで生じます。通常の健康診断で用いられるHbA1cだけでは正確に把握しにくく、見逃されるケースが少なくありません。
この記事では、肝硬変・慢性肝疾患に伴う血糖異常がなぜ起こるのか、そのしくみと診断の注意点、治療や日常生活での対策を分かりやすくお伝えします。
肝硬変の約3割で糖尿病が見つかる「肝性糖尿病」とは
肝性糖尿病は、肝硬変や慢性肝疾患の進行に伴って二次的に発症する糖尿病です。2型糖尿病のように肥満や遺伝的素因を主な原因とするものではなく、肝臓の障害そのものが血糖調節を狂わせる点が特徴といえます。
肝硬変患者さん全体の約31%に糖尿病が認められるとする報告があり、原因疾患ごとの頻度は以下のとおりです。
| 肝疾患の種類 | 糖尿病の合併頻度 |
|---|---|
| NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患) | 約56% |
| C型肝炎 | 約32% |
| アルコール性肝疾患 | 約27% |
| B型肝炎 | 約20% |
2型糖尿病とはまったく異なる発症の経緯
2型糖尿病は、過体重や運動不足、家族歴などの危険因子が積み重なって発症するのが典型です。
一方で肝性糖尿病は、もともと糖尿病の素因を持たない方にも、肝硬変が進行した段階で現れることがあります。肝臓が本来担っている糖の取り込み・貯蔵・放出という調節機能が低下し、血糖が乱れるためです。
さらに、肝性糖尿病では空腹時の血糖値が正常範囲にとどまるケースが珍しくありません。食後の血糖だけが異常に上昇する「食後高血糖」のパターンをとりやすく、通常の健診では見逃されがちです。
C型肝炎がインスリン抵抗性を高めるしくみについて詳しくまとめました
C型肝炎ウイルスが糖尿病とインスリン抵抗性を招く経路
肝性糖尿病を起こしやすい慢性肝疾患
C型肝炎ウイルス感染では、ウイルスそのものがインスリン抵抗性を促進することが知られています。アルコール性肝疾患でも、長期の飲酒が膵臓に負担をかけ、インスリン分泌の低下と相まって糖代謝が悪化しやすくなります。
B型肝炎やNAFLD/NASHも肝性糖尿病のリスクを高めます。NAFLDは肥満やメタボリックシンドロームと関連が深く、2型糖尿病と肝性糖尿病が重複する場合もあるため、主治医と連携した管理が大切です。
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飲酒習慣が引き起こす肝障害と血糖異常の関連
肝臓の機能低下が血糖異常を招くしくみ
肝臓は体内の「糖の貯蔵庫」であり「血糖の調節役」でもあります。肝機能が落ちると、この調節が乱れて高血糖にも低血糖にもなり得るのが肝性糖尿病の厄介な点です。
インスリン抵抗性と門脈バイパスによる高血糖
健康な肝臓は膵臓から分泌されたインスリンの約半分を取り込んで分解しています。肝硬変で肝細胞が減少するとこの分解能力が低下し、血中インスリン濃度は一見高くなりますが、細胞のインスリンに対する反応が鈍く(インスリン抵抗性が高く)、血糖は下がりにくくなります。
加えて、肝硬変では門脈圧亢進(もんみゃくあつこうしん)によって側副血行路(バイパス)が発達し、腸から吸収された糖が肝臓を経由せずに全身へ流れ込みます。食後に血糖が急上昇しやすい一因がここにあります。
肝硬変による血糖異常が起こるしくみをさらに詳しく解説しています
肝臓の機能低下が血糖値に及ぼす影響の全体像
グリコーゲン貯蔵の減少で起こる低血糖
肝臓は食事で取り込んだブドウ糖をグリコーゲンとして蓄え、空腹時や睡眠中に少しずつ血液へ放出して血糖値を維持しています。肝硬変でこの貯蔵能力が落ちると、とりわけ夜間や長時間の絶食時に血糖が急落するリスクが高まります。
高血糖と低血糖が同じ方に混在する点は管理を難しくしている要因です。低血糖は冷汗・動悸から意識障害にまで至ることがあり、日頃から血糖の変動に注意を払う必要があります。
| 血糖異常の方向 | おもな原因 |
|---|---|
| 食後高血糖 | インスリン抵抗性の増大、門脈バイパスによる糖の直接流入 |
| 空腹時・夜間低血糖 | グリコーゲン貯蔵能の低下、糖新生の減少 |
HbA1cだけでは見逃す肝性糖尿病の正しい検査法
肝硬変の方は赤血球の寿命が短くなるため、HbA1cが実際の血糖コントロール状況より低い値を示すことがあります。HbA1cを唯一の指標にしていると、糖尿病を見落とす恐れがあるため注意が必要です。
肝硬変ではHbA1cが実際より低く出やすい
HbA1cは過去1〜2か月の平均血糖値を反映しますが、赤血球が120日間循環していることが前提となっています。肝硬変では脾臓の腫大により赤血球の寿命が短くなり、HbA1cが見かけ上低く算出されてしまいます。
グリコアルブミン(GA)は、過去2〜3週間の血糖状態を反映する指標であり、赤血球の影響を受けません。肝硬変の方の血糖評価にはHbA1cだけでなくGAを併用することが勧められています。
肝硬変でHbA1cが低く出る理由と代替指標について知りたい方へ
肝性糖尿病とHbA1c値のずれが生じる背景
経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)で初めてわかることがある
肝性糖尿病は空腹時血糖が正常範囲にとどまるケースが多いため、空腹時採血だけでは検出できません。75gブドウ糖を飲んで2時間後の血糖値を測定するOGTTを行うと、隠れた食後高血糖が明らかになります。肝硬変の方で血糖異常が疑われる場合は、OGTTを受けておくと安心です。
| 検査項目 | 肝硬変での注意点 |
|---|---|
| HbA1c | 赤血球寿命の短縮で実際より低値になりやすい |
| グリコアルブミン(GA) | 赤血球の影響を受けず、より正確に反映する |
| OGTT(75g負荷試験) | 空腹時正常でも食後高血糖を検出できる |
肝機能に合わせた血糖コントロールと薬の選び方
原因となっている肝疾患の管理を優先し、そのうえで血糖値を適切な範囲に保つ二段構えが治療の基本です。肝機能の状態によって使える薬に制限があるため、担当医との密な連携が欠かせません。
肝性糖尿病で使える薬・避けるべき薬
2型糖尿病の治療で頻繁に用いられるメトホルミンは、肝硬変の重症度によっては乳酸アシドーシスの危険があるため、非代償性肝硬変(腹水や黄疸が出ている段階)では原則使用を控えます。スルホニル尿素(SU)薬も低血糖のリスクが高まるため、慎重な判断が必要です。
DPP-4阻害薬やインスリン療法は比較的安全に使用でき、近年はSGLT2阻害薬の報告も増えています。どの薬を選ぶかは肝機能の程度や栄養状態を総合的に見て決まります。
肝性糖尿病に対する薬物療法の全体像をチェック
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食事と運動で血糖値を安定させるコツ
肝性糖尿病の食事療法では厳しいカロリー制限は推奨されません。肝硬変ではエネルギー消費が亢進しやすく、過度な制限は筋肉量の低下(サルコペニア)を加速させるためです。
1日3食に加え、就寝前に軽い補食をとる「分食」が有効です。たんぱく質と炭水化物をバランスよく摂り、血糖の急な上下を抑えましょう。主治医の許可のもとで軽いウォーキングやストレッチを続けると、インスリン感受性の改善が期待できます。
- 1回の食事量を減らし、食事回数を増やす「分割食」で血糖変動を緩やかにする
- 就寝前の補食(200kcal程度のおにぎりやビスケットなど)で夜間低血糖を予防する
- 良質なたんぱく質(卵・豆腐・白身魚など)をこまめに摂り、筋肉量を維持する
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肝硬変で起こりやすい低血糖と就寝前の補食(LES)
肝硬変の方にとって低血糖は決して珍しくない合併症です。とくに長時間の絶食となる夜間に血糖が下がりやすく、寝汗・悪夢・起床時のだるさといった症状として現れることがあります。
こうした夜間低血糖への対策として注目を集めているのが、就寝前の軽い補食です。医学用語ではLate Evening Snack(LES)と呼び、血糖維持だけでなく肝硬変に伴う筋肉量の減少を防ぐ効果も期待できます。
就寝前の分食が夜間低血糖を防ぐ
肝硬変ではグリコーゲンの貯蔵が乏しいため、夕食から翌朝までの長い絶食で体が飢餓状態に近づきます。就寝前に200kcal程度の炭水化物を摂ることで夜間の糖供給源を確保でき、筋力低下を抑える効果も見込めます。ただし摂りすぎは翌朝の高血糖につながるため、量は担当医と相談してください。
肝硬変における夜間低血糖の危険性とLESの効果をまとめました
肝硬変の低血糖リスクと就寝前補食の実践法
- LESの目安は就寝30分〜1時間前に200kcal程度
- おにぎり・クラッカー・バナナなど消化の良い炭水化物が適している
- たんぱく質を加えると筋肉の維持にもつながる
肝移植で糖代謝は回復するか
肝性糖尿病は肝機能の低下が根本原因であるため、肝移植によって肝機能が回復すれば、糖代謝も大幅に改善する可能性があります。実際に移植後、インスリン治療が不要になった症例も複数あります。
移植後も続く血糖管理で気をつけること
移植後に糖代謝が正常化する方がいる一方で、移植後新規発症糖尿病(NODAT)と呼ばれる新たな血糖異常が起こるケースもあります。免疫抑制薬のタクロリムスやステロイドがインスリン分泌やインスリン感受性に影響するためです。移植後も定期的な血糖測定を続け、免疫抑制薬の調整とあわせた管理を行うことが大切です。
肝移植による糖代謝改善とその後の注意点を知りたい方へ
肝移植後の血糖変化と糖代謝回復の可能性
| 移植後の血糖変化 | おもな要因 |
|---|---|
| 糖代謝の改善・正常化 | 肝機能の回復によるインスリン抵抗性の低下 |
| 移植後新規発症糖尿病(NODAT) | 免疫抑制薬(タクロリムス・ステロイド)の影響 |
よくある質問
- Q肝性糖尿病は2型糖尿病とどこが違いますか?
- A
2型糖尿病は肥満や遺伝的素因、運動不足などの生活習慣が主な原因であるのに対し、肝性糖尿病は肝硬変など肝臓の病気が先にあり、その機能低下によって二次的に発症します。空腹時血糖値が正常範囲でも食後に急激な高血糖を示すことが多い点や、HbA1cが実際より低く出やすい点も大きな違いです。
肝性糖尿病では細小血管合併症の頻度が比較的低い一方、腹水・食道静脈瘤・肝性脳症など肝臓側の合併症リスクが高まるため、肝臓と血糖の両面から管理する姿勢が大切です。
- Q肝性糖尿病の診断にはどのような検査が必要ですか?
- A
肝硬変の方の血糖異常を正確にとらえるには、空腹時血糖やHbA1cだけでは十分とはいえません。赤血球の寿命が短くなっている肝硬変では、HbA1cが見かけ上低く出るため、グリコアルブミン(GA)を併用して血糖の実態を把握することが勧められています。
さらに、肝性糖尿病は食後高血糖が特徴的であるため、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施することで初めて耐糖能異常が明らかになるケースが少なくありません。肝硬変と診断されている方は、定期的にこれらの検査を受けることが望ましいでしょう。
- Q肝性糖尿病の治療で使えない糖尿病治療薬はありますか?
- A
肝硬変の重症度が高い場合、メトホルミンは乳酸アシドーシスのリスクがあるため原則的に使用を避けます。また、スルホニル尿素(SU)薬は肝臓で代謝されるものが多く、代謝が遅れることで低血糖が遷延する恐れがあるため、慎重に判断しなければなりません。
DPP-4阻害薬やインスリン療法は比較的安全に用いることができます。SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の報告も増えていますが、脱水や体重減少への配慮が必要であり、肝機能や全身状態を踏まえた判断が大切です。
- Q肝性糖尿病は肝移植で治る可能性がありますか?
- A
肝性糖尿病は肝臓の機能低下が根本原因であるため、肝移植によって肝機能が回復すれば、糖代謝が正常化するケースがあります。移植後にインスリン治療が不要になった患者さんの報告も複数存在します。
ただし移植後は免疫抑制薬の影響で新たに血糖異常が生じることもあり、「移植後新規発症糖尿病(NODAT)」と呼ばれます。移植後も定期的に血糖を測定し、免疫抑制薬の調整を含めた継続的な管理を行っていくことが大切です。
- Q肝性糖尿病で夜間に低血糖を起こさないための対策はありますか?
- A
肝硬変ではグリコーゲンの蓄えが少ないため、就寝中に血糖が大きく低下しやすくなります。この夜間低血糖を防ぐ有効な方法として、就寝前に200kcal程度の軽い補食(Late Evening Snack=LES)を摂ることが勧められています。おにぎりやクラッカーなど消化のよい炭水化物が適しています。
LESには血糖維持のほか、筋肉のたんぱく質分解を抑える効果も期待できます。ただし摂りすぎると翌朝の高血糖につながるため、量や内容については担当医や管理栄養士と相談のうえ、ご自身に合った方法を見つけてください。