メトホルミンで乳酸アシドーシスが起こるのはとてもまれで、処方の条件を守って飲んでいる人では、飲んでいない人と頻度に大きな差がみられません。ただ、起きると命に関わり、腎臓の働きが落ちたときや下痢・嘔吐で脱水になった日に危険が高まります。

見分けの目安は、強いだるさや筋肉痛、速く深い呼吸といった全身の変化です。下痢や吐き気だけでは区別しにくいため、食事や水分がとれない日はいったん服用を控え、呼吸の変化や強いだるさがあれば直ちに受診してください。

この記事では、メトホルミンと乳酸アシドーシスの発症頻度、初期症状の見分け方、飲んではいけない状態、腎機能に応じた量の目安、体調不良の日の休薬と受診の目安を解説します。

目次

メトホルミンで乳酸アシドーシスになる確率は?

適切な条件で処方されている人では、乳酸アシドーシスはとてもまれです。服用している人と服用していない人で、頻度に大きな差がみられない報告があります。

比較研究では両群とも発症がなかった

2型糖尿病を対象とした347件の比較試験・観察研究をまとめると、メトホルミン使用群の計70,490人年、非使用群の計55,451人年の追跡で、乳酸アシドーシスは両群とも0例でした1)。人年とは、人数と観察年数を掛け合わせた単位で、100人を1年間観察すれば100人年です。

この結果は、重い腎臓病のある人などを除き、処方の条件を守って飲んでいる人たちで発症が0例だったというものです。同じ条件で飲み続けるために、腎機能の検査と体調を崩した日の休薬を続けましょう。

日本でも年間10万人あたり数人の水準

日本で糖尿病の薬を使う2型糖尿病の283,491人を計504,169人年追跡した研究では、乳酸アシドーシスは30例、全体で10万人年あたり5.95例で、年齢・性別を調整した頻度は使用群5.80例、非使用群5.78例でした2)。

比較する集団メトホルミン使用メトホルミン非使用
347件の研究で観察された発症0例/70,490人年0例/55,451人年
日本の研究で年齢・性別を調整した頻度5.80例/10万人年5.78例/10万人年

10万人年あたり約6例は、10万人を1年間観察して約6人という水準です。表の上段は観察された件数、下段は観察期間と背景を調整した頻度なので、それぞれ同じ段の2群を比べて読みます。

全体の頻度を自分の確率に置き換えない

発症のしやすさは、腎機能が保たれて体調が安定している人と、脱水や重い病気が重なった人で変わります。大切なのは全体の平均より、現在の腎機能と体調が服用に適しているかどうかです。

薬の安全な使い方を定めたメトグルコ錠の電子添文(添付文書)では、乳酸アシドーシスの副作用頻度は「頻度不明」とされ、死亡に至った例も警告されています。研究で得られた発症率と、添付文書の頻度区分は集計の方法が違うため、両方の表現が使われています。

乳酸アシドーシスの初期症状は全身の変化と合わせて見る

下痢や吐き気だけで乳酸アシドーシスを区別するのは困難です。強いだるさ、筋肉痛、呼吸の変化が重なる場合や、食べられず脱水が疑われる場合には、普段の胃腸症状と決めつけずに対応します。

胃腸症状だけでは区別がつきにくい

吐き気や下痢は服用中にみられる消化器の副作用である一方、乳酸アシドーシスの初期にも現れる症状です。飲み始めた直後かどうかだけでは判断できず、以前から服用している人でも体調を崩したときには注意が要ります。

見ておく変化胃腸の副作用と重なる症状乳酸アシドーシスを疑う場面
おなかの状態下痢、吐き気など胃腸症状に全身のつらさが重なる
体の力や痛みおなかの症状だけでは判別困難強いだるさ、筋肉痛
呼吸や食事呼吸が普段どおりでも経過に注意速く深い呼吸、食事・水分がとれない状態

この表は受診のきっかけを整理するためのもので、当てはまる項目の数より、全身のつらさが重なっているかに目を向けます。症状が軽く見えても、飲めない・食べられない状態なら脱水への対応が優先されます。

速く深い呼吸や強いだるさは受診の合図

電子添文に挙げられた初期症状は、胃腸障害、倦怠感、筋肉痛、過呼吸です。倦怠感とは体が重く力が入らないようなだるさ、過呼吸とは呼吸が普段より速く深くなる状態を指します。

症状がすべてそろう前でも、受診してかまいません。いつもの疲れと違って動くのがつらい、安静にしていても呼吸がおかしいなど、体調の変化が強いときは服用を中止して直ちに受診してください。

夜間でも翌朝まで様子を見ずに動く

たとえば、メトホルミンを飲んでいる人が夜に自宅で嘔吐し、水分もとれず、家族から見ても呼吸が速くなっているなら、翌朝の処方元の診療を待つ場面ではありません。次の服用を控え、夜間の救急医療機関へ連絡する状況です。

息苦しさが強い、意識がぼんやりする、自力で移動できない状態では119番で救急車を呼んでください。乳酸アシドーシスかどうかを自宅で確かめるより、原因を調べられる医療機関につながることが先です。

メトホルミンを飲んではいけない主な状態

禁忌とは、危険性などの理由からその薬を使わないと定められた状態です。以前は問題なく飲めていても、脱水や重い感染症が起きれば、その日の体調によって服用に適さなくなります。

過去の発症や重い臓器の障害

乳酸アシドーシスとの関係で特に押さえたい禁忌は、次の状態です。病名だけでなく障害の程度が関わるため、検査結果や治療歴に沿って判断されます。

  • 乳酸アシドーシスを起こした既往
  • 重度の腎機能低下 … eGFRが30未満、または腹膜透析を含む透析中
  • 重度の肝機能低下
  • 心臓・血管や肺の高度の障害 … ショック、重い心不全、心筋梗塞、肺塞栓など酸素不足を伴いやすい状態
  • 脱水、または脱水が懸念される状態 … 下痢や嘔吐があり、食事・水分をとるのが難しいとき

ショックは全身への血液の流れが著しく不足した状態、肺塞栓は肺の血管が詰まった状態です。どちらも体に十分な酸素を届けにくく、薬を飲めるかの判断より緊急の診療が優先されます。

また、過度の飲酒も乳酸アシドーシスの危険を高めるため禁忌に含まれ、服用中のお酒は控えめにしましょう。

重い感染症や手術前後にも休薬が必要

重症感染症、手術前後、重篤な外傷も服用に適さない状態で、乳酸アシドーシスへの注意とともに、その時期に合った血糖管理が必要になります。感染症の重さは発熱だけでは決まらず、食事や水分の摂取状況も含めて診察で判断されます。

入院や手術が決まった段階で、メトホルミンを使っていることを担当医に伝えましょう。休薬中の治療と再開時期は、全身状態を見たうえで担当医が決めます。

乳酸以外の理由で使えない状態もある

1型糖尿病や、糖尿病による意識障害がある状態も禁忌です。重症ケトーシスという、脂肪の分解で生じるケトン体が増えた重い状態では、速やかな輸液やインスリンによる治療が求められます。

メトホルミンを飲めるかどうかは、乳酸アシドーシスの危険だけで決まるわけではありません。自分の糖尿病の種類や病状に合った治療を受け、体調が悪いときも手元の薬は増やさずに処方元へ相談しましょう。

乳酸アシドーシスは乳酸がたまり血液が酸性に傾く状態

乳酸が過剰にたまり、血液が酸性に傾いた状態が乳酸アシドーシスです。メトホルミンの服用だけでなく、薬の排出や乳酸の処理を妨げる体の変化が重なっていないかを合わせて見ます。

乳酸を作る量と処理する量の釣り合い

乳酸は、体が糖からエネルギーを得る過程で生じ、通常は肝臓などで処理される物質です。アシドーシスとは血液が酸性側に傾くことで、乳酸が作られる量と処理される量の釣り合いが崩れると起こり得ます。

体の組織に酸素が届きにくくなると乳酸が増えやすく、重い肝機能障害があれば処理する力も落ちます。血液の酸性度まで変化した状態を確かめるには血液の検査が要り、筋肉痛の有無だけでは乳酸の量は分かりません。

腎臓の働きが落ちると薬が体に残りやすい

メトホルミンは体内でほとんど形を変えずに、腎臓から尿へ排出されます。腎機能が落ちると薬が体に残りやすくなり、乳酸の処理にも影響して危険が高まる可能性があります。

  • 薬の排出が減る状態 … 腎機能の低下
  • 乳酸の処理が遅くなる状態 … 重い肝機能の低下
  • 乳酸が増えやすい状態 … 全身への酸素供給の不足
  • 複数の負担が重なる場面 … 脱水や重い感染症による体調の悪化

なかでも脱水は、もともと腎臓病といわれていない人にも起こり、服用を続けてよい条件を短期間で変えてしまいます。

服用中の発症には全身の病気も関わる

メトホルミンを飲んでいる人の乳酸アシドーシスには、薬の蓄積に加えて、感染症や血液の流れの悪化などが重なっている場合があります。診療では服薬状況だけを切り離さず、脱水や酸素不足を含めた体全体の状態を調べます。

そのため、受診時には薬の名前に加え、いつから食べられなくなったか、下痢や嘔吐があったかという経過も伝えましょう。薬だけが原因かどうか分からない段階でも、早めに受診してかまいません。

腎臓の働きに応じて飲める範囲と量が変わる

腎機能が中等度に低下していても、条件を満たせば量を調整して使えます。日本の基準ではeGFRが30未満の人は禁忌で、30以上でも数値の区分に応じた慎重な判断が必要です。

検査票ではeGFRの値を見る

eGFRは腎臓が血液をろ過する力を推定した数値で、値が低いほど働きが落ちていると判断します。採血で測るクレアチニンという老廃物の値などから算出され、検査票では腎機能の項目に記載されます。

クレアチニンが基準範囲内でも、年齢などを踏まえると腎機能が低下している場合があります。1回の数値だけでなく、前回から下がっていないか、脱水を起こしていないかも処方量の判断に関わります。

eGFRが30以上60未満では上限の目安が低くなる

日本では2019年6月の添付文書改訂により、中等度の腎機能低下がある人にも量を調整して使えるようになりました。メトグルコ錠の電子添文に記載された、1日最高投与量の目安は次のとおりです。

eGFR(mL/min/1.73m2)1日最高投与量の目安使用時の判断
45以上60未満1,500mg少量から開始し、腎機能をより頻回に確認
30以上45未満750mg治療の利益が危険を上回る場合に限って使用
30未満・透析中使用しない禁忌

この数字は飲むべき量や増量の目標ではなく、処方時に使う上限の目安です。現在の量が少なくても不足とはいえず、血糖値や体調を含めて決められているため、自分で錠数を変えないでください。

同じ量でも腎機能が下がると負担が変わる

腎機能が低下した人では、量が多いほど薬が体にたまりやすくなるため、腎機能に合わせて量を減らします。処方された量を守っていても、下痢や嘔吐によって脱水が起これば、それまでと同じ条件ではなくなります。

検査の間隔は全員共通の日数で決まるものではなく、腎機能の程度や変化、年齢、体調によって調整されます。検査予定日を待つ間に食べられないなどの変化が出た場合は、その時点で処方元へ連絡しましょう。

高齢・心不全・肝臓病では体調の変化に注意する

年齢や病名だけで一律に決めるのではなく、薬の排出と乳酸の処理、酸素の供給が保たれているかを重視して判断します。高齢の人や臓器の病気がある人は、体調が変わったときの対応まで含めて服用を管理します。

75歳以上ではより慎重に適否を判断

高齢になると腎臓や肝臓の働きが低下しやすく、脱水も起こりやすくなります。電子添文では特に75歳以上で服用の適否を慎重に判断し、定期的な検査に加えて必要に応じて確認の頻度を増やすよう求めています。

日本で2013〜2016年に入院した糖尿病の人を調べた研究では、メトホルミンを含むビグアナイド薬が処方された人で乳酸アシドーシスが起こりやすい傾向があり、特に70歳以上、なかでも80歳以上で差が大きくなっていました3)。

心不全は安定しているかが判断を分ける

心不全は、心臓が全身に血液を送る働きに支障が出た状態です。安定した心不全のある人にもメトホルミンは使われていますが、心臓の病気の程度と酸素不足の有無を踏まえた判断が前提になります。

一方、急な悪化などで酸素不足を伴いやすい状態や、心臓・血管に高度の障害がある人は禁忌です。新たな息苦しさが出た場合は、薬の副作用か心不全の悪化かを自分で決めず、症状に応じて速やかに受診してください。

肝臓病も重さと検査結果に応じて判断

肝臓の働きが低下すると乳酸の処理が遅くなるため、重度の肝機能障害がある人には使えません。軽い異常を指摘された段階と重度の障害では対応が違い、病気の程度や検査結果に基づいて服用の適否が判断されます。

背景気をつけたい変化服用を判断する材料
高齢食事量・水分摂取の減少腎機能、肝機能、脱水の有無
心不全息苦しさなどの悪化病状の安定性、酸素不足の有無
肝臓病全身状態や検査値の悪化肝機能障害の重さ

共通するのは、以前の処方が今の体調にも合っているかという点です。普段の検査結果と服薬情報を、お薬手帳などと一緒に受診先へ示せるようにしておきましょう。

発熱・下痢・嘔吐の日は休薬と連絡を優先する

食事や水分がとれない体調不良の日は、いったんメトホルミンを休み、医師に連絡する対応が基本です。症状が改善しても、再開は食事・水分の摂取状況や腎機能を踏まえて医師が判断します。

処方元につながるまでは服用を控える

発熱、下痢、嘔吐、食事摂取不良などがある日をシックデイと呼びます。脱水が心配されるため、薬を普段どおり飲み続けるより、休薬と体調の評価が必要な場面です。

処方元に連絡がつくまではメトホルミンの服用を控え、水分もとれない場合は当日中に対応できる医療機関へ連絡してください。強いだるさや呼吸の異常があれば、連絡待ちで時間を置かず救急受診が必要です。

利尿薬などとの併用では脱水に注意

尿を増やして余分な水分を出す利尿薬や、尿へ糖を出して血糖を下げるSGLT2阻害薬との併用時は、脱水に特に注意が必要です。飲めている水分の量と下痢・嘔吐の程度を、服用中の薬と合わせて伝えると診療に役立ちます。

電話で相談するときは、体調と服薬の経過を伝えます。伝える内容は、症状が始まった時刻、食事と水分の摂取状況、最後に飲んだ時刻、現在の薬の名前です。メトホルミンを休むという指示を、ほかの糖尿病治療薬すべてにそのまま当てはめず、それぞれの扱いは処方元の指示に従います。

再開は体調と腎機能を踏まえて決める

シックデイの休薬には、誰でも同じ日数で再開できるという決まりはありません。飲食が戻ったか、脱水が改善したか、腎機能の評価が必要かを踏まえて、処方元の医師が再開時期を判断します。

休んだ分は後でまとめて飲まず、再開の指示が得られるまでは服用を控えてください。連絡がつかず体調不良が続く場合には、別の医療機関でその日の状態を評価してもらいます。

なお、ヨード造影剤を使う検査の前後にも休薬が必要になるため、検査前に服用中と伝え、再開は検査を担当する医師の指示に従います。

よくある質問

Q
メトホルミンの服用が怖いので、体調がよくても中止すべきですか?
A

体調が安定しているなら、不安から自己判断で中止するより、処方元で腎機能と服用条件を見直してもらうのが先です。発症はまれであり、脱水や禁忌がないかを見ながら使う薬です。

次の診察で、最近のeGFRと体調を崩した日の休薬方法を確認しましょう。発熱や嘔吐などが起きた場合は、その診察日を待たずに休薬して連絡する対応になります。

Q
下痢があるだけでも乳酸アシドーシスですか?
A

下痢だけでは乳酸アシドーシスとは判断できず、症状や必要な検査を合わせて診断します。胃腸の副作用と初期症状は重なるため、全身のだるさや呼吸の変化にも注意が必要です。

下痢で脱水が懸念されるときは、いったん服用を控えて処方元へ連絡してください。強いだるさや速く深い呼吸を伴うときは、夜間でも直ちに受診する状況です。

Q
乳酸アシドーシスは家の血糖測定器で分かりますか?
A

血糖測定器で分かるのは血糖値であり、乳酸の値や血液の酸性度は測れません。血糖値が普段の範囲にあっても乳酸アシドーシスは否定できないため、疑う症状があれば受診してください。

Q
少ない量なら、脱水のときも飲んで大丈夫ですか?
A

少ない量でも、脱水や脱水が懸念される状態では服用を中止します。量だけで安全性は決まらず、腎臓から薬を排出できるかという体の条件が変わるためです。

処方元につながるまでは服用を控え、水分もとれない場合は当日中に診療を受けてください。再開は脱水の改善や腎機能を踏まえた医師の判断によります。

参考にした文献