メトホルミンによる下痢や吐き気は、飲み始めや量を増やした時期に出やすく、服用を続けるうちに軽くなることが多い症状です。何日で治まるという決まった期限はなく、食事や水分がとれているか、症状が弱まってきているかで対応が変わります。

ただし、胃腸の症状に強いだるさや息苦しさが重なるときは、慣れるのを待たずに服用を中止して、直ちに受診してください。乳酸アシドーシスという重い副作用のサインとして現れる場合があります。

この記事では、メトホルミンの副作用が続く期間の捉え方、下痢・吐き気を和らげる飲み方、休薬と受診の目安、乳酸アシドーシスのサイン、長期服用中の注意点を解説します。

メトホルミンの下痢・吐き気はいつまで続く?

胃腸の症状は時間とともに軽くなる傾向があります。飲み始めたばかりの人と、長く落ち着いて飲めていた人では、新しく出た下痢の受け止め方が異なります。

飲み始めの症状は軽くなる傾向がある

下痢や吐き気が出ても、その強さがずっと同じまま続くとは限りません。服用を続ける間に胃腸の不調が減っていく傾向は、糖尿病になる前の段階にある人を対象とした長期の経過でもみられています。

注意したいのは、症状が少しずつ弱まっているかという変化です。便の回数だけで判断せず、食事の量や水分のとれ方も合わせてみると、日常生活への負担を具体的に伝えられます。

下痢のために外出や仕事の予定を立てにくいと、飲み続けるのが不安になるのは自然です。生活に支障が出るほどつらい場合は、決まった日数を我慢せず、処方元に症状を伝えて量の調整を相談しましょう。

量を増やしたあとに再び出ることもある

少ない量では平気だった人でも、量を増やしたあとに下痢や吐き気が現れることがあります。それまで飲めていた実績だけで増量後の不調を軽く見ず、いつから変わったかを振り返りましょう。

増量後に症状が残っている間は、自分の判断でさらに量を増やすのを避けます。服用量と症状の始まった日が分かれば、今の量を続けるか、増やし方を見直すかを診察で検討しやすくなります。

落ち着いたあとの急な下痢は原因を見直す

長く問題なく飲めていたのに急に下痢や嘔吐が始まったときは、飲み始めの副作用以外の原因も検討します。発熱など別の体調不良が加わっていないかも含め、症状の組み合わせから原因を考えます。

症状が出た時期起こり方の傾向対応で重視する点
飲み始め下痢・吐き気が出やすい時期症状の強さ、食事・水分のとれ方
量を増やしたあと以前はなかった不調が現れることもある増量日と症状の始まった日の関係
しばらく落ち着いていたあと新たな体調不良も含めて評価が必要急な悪化、発熱、全身症状の有無

経過が長いか短いかより、飲食が難しくなっているかを優先して判断します。下痢や嘔吐が続いて水分を失っている場合は、軽くなるのを待たずに休薬と受診の対応へ切り替えます。

胃腸の負担を減らす飲み方

下痢・吐き気を抑えるには、少ない量から始めてゆっくり増やし、処方された飲み方を守るのが基本です。症状が残っているのに予定を優先して増量すると、服用を続けにくくなるおそれがあります。

少量から始め、増量は症状に合わせる

日本での飲み方を定めたメトグルコ錠の電子添文(添付文書)では、成人の2型糖尿病の開始量は通常1日500mg、維持量は通常1日750〜1,500mgとされています。服用は1日2〜3回に分けます。維持量は固定ではなく、効果や体の状態をみながら調整します。

少量からゆっくり増やす方法は、胃腸の症状を出にくくするために使われます。増量の間隔を全員で同じにするのではなく、便の状態や吐き気の程度、血糖の経過を合わせて決めます。

薬袋の指示が今の服用量と合っているか、次に増やす予定があるかを、処方時に確認しましょう。目標の量へ急いで届かせるより、つらさに合わせて無理なく続けられる調整を優先します。

食事に合わせて処方どおりに飲む

食事に合わせた服用が基本で、電子添文の指定は食直前または食後です。処方された回数に分けて飲み、飲み忘れた分を自己判断でまとめたり、血糖が気になって追加したりするのは避けます。

  • 服用量 … 薬袋に書かれた1回量と1日の回数を守る
  • 増量の予定 … 下痢や吐き気が残っている事実を処方元と共有
  • 日々の記録 … 便の回数、吐き気、食事・水分のとれ方をメモ
  • 水分の補給 … 飲める状態なら少しずつ補い、嘔吐で飲めないときは受診

この工夫で対応するのは、飲食ができて全身状態が保たれているときです。水分までとれなくなったら、服用の工夫ではなく休薬と連絡へ切り替えます。

飲食が難しい日は一度休薬する

発熱や下痢、嘔吐などで体調を崩した日は「シックデイ」と呼ばれ、食事がとれない日も含まれます。体の水分が不足する脱水が心配されるため、このようなときはメトホルミンをいったん中止し、医師に相談してください。

たとえば、自宅で夕食をとろうとしても吐き気で食べられず、下痢も続いているなら、次の服用を見合わせて処方元へ連絡します。飲めた水分の量と最後に薬を飲んだ時刻を伝えると、その後の対応を決めやすくなります。

吐いて水分を保てない状態や、ぐったりして動けない状態なら、その日のうちに受診が必要です。薬を休んだあとの再開時期は、食事と水分が戻った経過も含めて判断されます。

急なだるさ・息苦しさを伴うときは直ちに受診

強い吐き気にだるさや筋肉痛、息苦しさが重なるときは、乳酸アシドーシスを疑って対応します。胃腸の副作用として様子をみてよいかは、自宅で症状だけからは見分けられません。

乳酸アシドーシスは全身に影響する

乳酸アシドーシスは、血液中に乳酸という物質が増え、血液が酸性に傾く重い状態です。吐き気や腹部の不調に加えて、体全体の強いだるさ、筋肉の痛み、呼吸の変化が現れることがあります。

過呼吸とは、普段より速く深い呼吸になる状態を指します。息苦しさを伴う、じっとしていても呼吸が大きいといった変化は、おなかだけの不調とは分けて、全身の変化として受け止めます。

症状が軽そうに見えるかより、普段の体調からどう変わったかをみます。家族から見て呼吸や反応がいつもと違うときは、本人が我慢できると言っていても受診を考えましょう。

胃腸症状に重なる変化を比べる

飲み始めの下痢と乳酸アシドーシスでは、初めに感じる症状が重なります。下痢の有無だけで分けず、急な悪化や全身の症状を合わせて対応を選びます。

見られる状態注意する変化必要な対応
飲み始めの下痢・吐き気飲食ができ、強い全身症状がない症状を記録し、続く場合は処方元へ相談
下痢・嘔吐に食事不良が重なる水分を失い、脱水が心配されるいったん中止し、医師へ連絡
胃腸症状に強いだるさ・筋肉痛が重なる急に体全体がつらくなる服用を中止し、直ちに受診
息苦しさ、速く深い呼吸普段とは違う呼吸の状態服用を中止し、直ちに受診

症状が全部そろうのを待つ必要はなく、落ち着いて飲めていた人に急な強い不調が出た場合も直ちに受診する対象です。

受診時には服用中の薬と症状の経過を伝える

乳酸アシドーシスが疑われる症状があれば、メトホルミンを中止して直ちに医療機関を受診してください。息苦しさが強い、意識がはっきりしないなど、自力での移動が難しいときは救急車を要請します。

受診先へ伝える内容は、メトホルミンを飲んでいる事実、最後の服用時刻、症状が始まった時刻です。手元に薬袋やお薬手帳があれば持参すると、併用している薬も伝わります。

医療機関では、血液中の乳酸や血液の酸性・アルカリ性の状態などを調べて判断します。必要な処置を急ぐ状態もあるため、服用を止めただけで自宅で回復を待つ対応は避けます。

メトホルミンで多い副作用と頻度

代表的な副作用は下痢や吐き気などの胃腸症状です。症状の種類と起こる頻度を知っておくと、飲み始めに記録しておきたい変化が分かります。

下痢・吐き気・腹痛が代表的な症状

処方薬の副作用をまとめたメトグルコ錠の電子添文には、下痢、悪心、食欲不振、腹痛などが記載されています。悪心は吐き気の意味で、実際に吐く嘔吐とは分けて記録されています。

副作用電子添文の頻度自分で感じる変化
下痢40.5%便が水っぽい、排便の回数が増える
悪心15.4%むかつき、吐き気
食欲不振11.8%食べたい気持ちが落ちる
腹痛11.5%おなかの痛み
嘔吐5%以上実際に吐く
腹部膨満感・消化不良それぞれ1〜5%未満おなかの張り、胃のもたれ

これらの数字は、それぞれの症状について電子添文に記載された割合です。複数の症状が同時に出る人もいるため、割合を足し合わせても副作用全体の確率にはなりません。

ほかの糖尿病薬より胃腸症状が出やすい

2型糖尿病の人を対象とした比較試験71件をまとめた解析では、メトホルミンはほかの糖尿病薬などの比較対象より、下痢・吐き気・腹痛が起きやすいという結果でした1)。胃腸の不調が続くときに薬の影響を検討する根拠になります。

一方、薬全体の選び方には、おなかへの負担に加えて血糖を下げる力や体の状態も関わります。どの症状を減らしたいかを具体的にしたうえで、処方元と薬の選び方を相談しましょう。

頻度が高い症状でも強さで対応が変わる

下痢がよく知られた副作用でも、強い症状を我慢して飲み続ける理由にはなりません。食事がとれる軽い吐き気と、水分まで吐いてしまう状態では、同じ症状名でも必要な対応が変わります。

記録の中心は、生活への影響です。診察では、仕事中も何度もトイレへ行く、食事を残すようになったといった具体的な変化が役立ちます。症状名だけより、治療を調整する必要がどの程度あるかが伝わります。

おなかの不調が出る理由と出やすい人

メトホルミンは腸の中に多くとどまって働くため、効き目と胃腸の副作用の両方に腸での作用が関わります。同じ量を飲んでも、負担の感じ方は年齢や併用薬などによって変わります。

腸での働きが胃腸の症状にも関わる

飲んだ薬は腸を通って吸収されますが、メトホルミンは腸そのものにも作用します。腸に薬が多くとどまる性質があるため、血糖に対する作用と並んで、おなかの張りや下痢などが問題になります。

下痢が強いほど血糖をよく下げる、という意味ではありません。副作用の強さは効き目の目安にならないため、血糖の検査結果と胃腸の症状は分けて評価します。

女性・高齢の人・一部の併用薬に注意

胃腸の副作用で服用を続けにくくなる傾向は、女性や高齢の人、一部の薬を一緒に飲んでいる人でみられます。年齢や性別で飲めるかが決まるわけではなく、実際に出た症状に合わせて量を調整します。

  • 女性 … 胃腸の副作用で継続が難しくなる傾向
  • 高齢の人 … 胃腸の症状の出方に注意が必要
  • 一部の薬の併用 … メトホルミンを体の中で運ぶ働きへの影響

これらに当てはまる人が必ず下痢になるわけではなく、当てはまらない人にも症状は出ます。飲みやすさは、服用前後で便や食欲がどう変わったかをみて判断します。

併用薬はお薬手帳でまとめて伝える

別の病気の薬を追加したあとにおなかの不調が変わった場合は、その時期も診察で伝える情報になります。処方元が違う薬も含めて把握できると、メトホルミンだけを調整すればよいかを検討しやすくなります。

受診時は、お薬手帳を使って服用中の薬をまとめて伝えましょう。薬同士の影響は名前や組み合わせによって変わるため、気になる薬を自分で選んで中止する対応は避けます。

長期のメトホルミン服用ではビタミンB12の低下にも注意

長く飲み続ける場合は、胃腸症状に加えてビタミンB12の低下にも目を向けます。ビタミンB12は、血液の細胞をつくり、手足などの神経の働きを保つために必要な栄養素です。

長く飲むほど低下しやすくなる

メトホルミンを長く服用すると、食べ物に含まれるビタミンB12を腸から吸収しにくくなることがあります。服用年数が長くなるにつれて不足しやすくなるため、飲み始めに下痢がなかった人も長期の変化に気を配りましょう。

インスリンを併用する2型糖尿病の人390人を4.3年間追った比較試験では、メトホルミンを飲んだ群で、薬の成分を含まない偽薬の群よりビタミンB12が低下しました2)。血液検査で値が下がる変化と、しびれなどの症状が出る時期は分けて捉えます。

しびれや貧血の変化を見逃さない

手足のしびれや感覚の鈍さが続くときは、ビタミンB12の不足も確認する対象です。糖尿病による神経の障害などでも似た症状が出るため、しびれだけで原因を決めつけず、診察と検査で確かめます。

気づく変化確認する内容主な検査
手足のしびれ・感覚の鈍さ神経の症状とB12不足の有無診察、血液中のビタミンB12
疲れやすさ・動いたときの息切れ貧血の有無と原因血算、必要に応じてビタミンB12
自覚症状が乏しい場合長期服用に伴うB12の低下服用期間などを踏まえて検査を検討

血算は、赤血球などの血液の細胞を調べ、貧血がないかをみる検査です。急に強いだるさや息苦しさが現れたときは、栄養不足だろうと考えて待たず、直ちに受診が必要です。

検査と補充は症状・結果に応じて決める

長期服用中にしびれや疲れやすさが続く場合は、服用年数とともに伝え、ビタミンB12や貧血の検査が必要かを主治医に相談しましょう。検査の間隔は一律に決めず、症状やこれまでの結果に合わせて判断されます。

サプリメントを飲むか考える前に、何が不足しているのかを確かめましょう。症状の変化だけを追うより、不足の確認が治療につながります。不足が確認された場合は、その原因や程度に応じて補充などの対応を検討します。

副作用がつらいときの治療の見直し

量や増やし方を調整しても胃腸の症状がつらいときは、ほかの薬を含めて治療を見直せます。血糖への効果を保ちながら、日常生活への負担を減らせる方法を選びます。

量を減らすと血糖への効き方も変わる

メトホルミンは服用量によって血糖を下げる力が変わるため、量を減らす場合は血糖の経過も合わせてみます。下痢が軽くなっても、それだけで減量後の治療が十分とは判断できません。

血糖に加え、過去の血糖の状態を反映するHbA1cという血液検査の値も、治療を調整する際に使います。症状を抑えるための減量と必要な血糖管理を、どう両立させるかを主治医と検討します。

剤形を変えても症状が軽くなるとは限らない

薬がゆっくり放出される徐放剤という剤形もありますが、形を変えれば必ず胃腸の症状が解消するとは限りません。通常の錠剤と徐放剤を同じ1日量で比べた成人の2型糖尿病の人2,609人、9件の比較試験をまとめた解析では、主な胃腸症状の多くが同程度という結果でした3)。

海外で使われている剤形での結果なので、切り替えは剤形の名前だけで決めず、日本で実際に使える薬と今の症状を踏まえて主治医と調整しましょう。

続けにくい症状を診察で具体的に伝える

少量から始めて慎重に増やしても、胃腸の不調のために服用が難しい人はいます。ほかの薬へ切り替える選択もあり、つらさは治療を見直すきっかけになります。

次の診察では、困っている症状と生活への影響を伝え、減量や別の薬への変更について相談しましょう。飲めなかった日があれば、その事実も含めると、実際の服用量に合った血糖の評価につながります。

治療を変更したあとは、おなかの症状が軽くなったかと、血糖への効果が保たれているかの両方を追います。飲み続けやすさも治療の一部であり、症状が変われば処方を再び調整する対象になります。

よくある質問

Q
メトホルミンの下痢は何日まで我慢してよいですか?
A

対応を決めるのは、日数よりも症状の強さと飲食の状態です。症状が軽くなっているか、食事や水分がとれるかをみて、下痢が生活に支障を来す場合は日数を待たずに処方元へ連絡します。

下痢や嘔吐で飲食が難しい日は、いったん服用を中止して医師に相談してください。強いだるさや息苦しさが重なる場合は直ちに受診が必要です。

Q
メトホルミンを増やしてから吐き気が出たら、元の量に戻してよいですか?
A

普段の服用量を戻すかどうかは、症状と血糖の経過に合わせて処方元と決めます。軽い吐き気でも、自分で増減を繰り返すより、増量日と症状が始まった日を伝えると調整しやすくなります。

ただし、食事や水分がとれない体調不良のときは、減量の相談とは別の対応になります。いったん中止して連絡し、強い全身症状があれば直ちに受診してください。

Q
下痢だけでも乳酸アシドーシスの可能性がありますか?
A

下痢だけで乳酸アシドーシスかどうかを判断するのは困難です。胃腸症状は初期症状と重なるため、強いだるさ、筋肉痛、呼吸の変化があるかも合わせてみます。

落ち着いていたのに急に症状が強まった場合や、全身の不調が重なった場合は、服用を中止して直ちに受診してください。複数のサインが全部そろう前でも受診の対象です。

Q
長く飲んでいて手足がしびれたら、ビタミンB12不足ですか?
A

ビタミンB12不足は原因の候補ですが、糖尿病による神経の障害などでもしびれは起こります。しびれの場所と始まった時期、服用年数を診察で伝え、血液検査が必要かを相談しましょう。

参考にした文献