メトホルミンを飲んでいる間は、過度の飲酒を避けます。アルコールは乳酸アシドーシスという重い状態につながるおそれがあり、薬の電子添文でも過度の飲酒は禁忌とされています。

夕食の晩酌を続けたい方や、会食の予定が気になっている方もいるでしょう。飲んでよいかどうかと量は一律には決まっておらず、腎臓や肝臓の状態を踏まえて主治医と決めます。

この記事では、アルコールが乳酸アシドーシスにつながる理由、飲酒による血糖の動き、飲みすぎた翌日の服薬と受診の目安を解説します。

メトホルミン服用中は過度の飲酒を避ける

お酒を飲む予定があるときは、普段の飲み方も含めて考えます。過度のアルコール摂取は、メトホルミンの使用に関する禁止事項に含まれています。

電子添文で禁止されている飲み方

薬の使用上の注意を定めたメトグルコ錠の電子添文(添付文書)では、過度のアルコール摂取者は禁忌、つまり薬を使ってはいけない対象です。アルコールの過度の摂取は、薬と一緒に用いてはいけない「併用禁忌」にも記載されています。

これは、単に血糖が乱れるという注意よりも重い扱いです。乳酸アシドーシスという、乳酸がたまって血液が酸性に傾く重い状態を起こすおそれがあるため、服用中は飲みすぎないようにしましょう。

普段の量と一度に飲む量を分ける

飲酒の負担は、毎日の量に加えて、一度にどのくらい飲むかでも変わります。普段は飲まない方でも、会食で一度に多量に飲む、食べずに飲むといった状況は、診察時に伝えるべき情報です。

飲み方や体調気をつけたい点
一度に多量に飲む乳酸の処理が妨げられ、脱水も重なりうる
食事をとらずに飲む肝臓から糖を補いにくく、血糖が下がりやすい
食事と一緒に飲む食後の血糖上昇だけで、その後の安全を判断しない
吐いて水分や食事がとれない脱水を疑い、休薬と医療機関への連絡が必要

表の飲み方には危険が重なる組み合わせもあり、食事を添えるだけで多量の飲酒による負担が解消するわけではありません。

飲んでよい量は診察で決める

電子添文には、服用中に飲んでよい量の数値は示されていません。腎臓や肝臓の働き、体調、普段の食事によって判断が変わるため、一般向けの飲酒量ではなく、自分に合った量を診察で決めます。

晩酌が楽しみで、薬を始めることで生活が変わるのが気がかりな方は、次の診察で実際に飲む容器の大きさや本数を伝え、飲酒の可否と量を主治医と相談しましょう。

メトホルミンとアルコールで乳酸がたまりやすくなる理由

アルコールは肝臓が乳酸を処理する働きを弱め、飲みすぎによる脱水も危険を高めます。乳酸を片づける力の低下と、薬を体外へ出しにくい状態が重なる点が問題です。

肝臓で乳酸を片づける働きが落ちる

乳酸は、体がエネルギーを使う過程で生じ、通常は肝臓などで処理される物質です。血液中で増えすぎて酸性への傾きが強くなると、全身の働きに深刻な影響を及ぼします。

アルコールの分解では、乳酸を処理する反応にも関わる物質のバランスが変わります。そのため、肝臓で乳酸を片づける働きが落ち、普段なら処理できる乳酸がたまりやすくなります。

薬の作用と飲酒の影響が重なる

メトホルミンは、細胞の中でエネルギーを作るミトコンドリアの働きに影響し、乳酸の処理を遅らせることがあります。大量のアルコールによって同じ処理がさらに妨げられると、乳酸が増える方向に働きます。

  • 乳酸の処理の低下 … 肝臓で乳酸を片づけにくい状態
  • 脱水 … 体の水分が不足し、腎臓の働きにも影響する状態
  • 薬の排出の低下 … 腎臓の働きが落ち、メトホルミンが体内に残りやすい状態

この中でも、飲酒後に吐いて水分を保てなくなった場面では、肝臓への影響に脱水が加わるため注意が必要です。

脱水で腎臓から薬を出しにくくなる

メトホルミンは、主に腎臓を通って尿へ排出される薬です。飲みすぎや嘔吐で体の水分が減り、腎臓の働きが落ちると、薬を十分に外へ出せず体内にたまりやすくなります。

また、飲酒後に食べられず、水分もほとんどとれない状態では、時間がたつ間に脱水が進むおそれがあります。水を少し飲めたかどうかより、飲んだ水分を吐かずに保てるか、尿が出ているかを目安にしましょう。

腎機能が正常でも飲みすぎには注意が必要

飲みすぎへの注意は、もともとの腎機能が正常だった方にも必要です。健康診断の結果だけを根拠に、多量に飲んでも大丈夫と判断するのは危険です。

腎機能が正常だった方にも発症例がある

メトホルミン服用中は、もともとの腎機能が正常でも、多量の飲酒後に乳酸アシドーシスを起こすことがあります。日本の65歳の2型糖尿病の男性1人にも、この経過がありました1)。こうした病気の経過を医学的に記録したものを症例報告と呼びます。

経過報告された内容
飲酒前メトホルミンを服用し、もともとの腎機能は正常
飲酒多量のアルコールを摂取
発症・医療機関での評価飲酒後に乳酸アシドーシスを発症した例として報告

腎臓の働きが正常だった方も、飲みすぎれば同じ注意の対象になります。

検査結果が良好でも飲酒後の症状に応じて判断する

普段の検査は、その時点の腎臓や肝臓の状態を示す情報です。飲酒後に脱水が起きれば体の条件が変わるため、直近の検査で問題がなくても、その日の症状に合わせて判断します。

飲酒のあとに吐いて食べられなくなったときは、以前の検査値よりも、今の水分摂取や尿の状態を優先して医療機関へ伝えてください。受診時には、酒の量と時刻、薬を最後に飲んだ時刻も伝えると、状況を把握しやすくなります。

まれな副作用でも飲みすぎは避ける

乳酸アシドーシス自体はまれな副作用ですが、発症すると命に関わるため、頻度の低さに安心せず、飲酒や脱水などの危険を減らしましょう。

2013〜2016年に日本で入院した糖尿病の方を対象にした研究では、メトホルミンを含むビグアナイド薬の処方がある高齢の方で、乳酸アシドーシスが起こりやすい傾向がありました2)。

外来で安定して治療を続けているときと、入院が必要なほど体調を崩しているときでは、薬を使う条件が変わります。飲酒量だけでなく、発熱や食事の減少を伴うかどうかも、服薬を続ける判断に関わります。

飲酒後の血糖は食事の有無で動きが変わる

空腹で飲むと、肝臓からの糖の補給が妨げられて血糖が下がりやすくなります。食事と一緒に飲んだ場合も、その直後の血糖だけでは判断できません。

食べずに飲むと糖の補給が足りなくなる

肝臓は、食事から糖が入ってこない時間帯にも、新しく糖を作ったり、蓄えていた糖を出したりして血糖を保ちます。アルコールがこの働きを抑えるため、空腹で飲むと血糖を維持しにくくなります。

飲酒のために夕食を抜く、ほとんど食べずに飲み続けるといった飲み方では、糖の補給が乏しい状態とアルコールの影響が重なります。問題になるのはお酒そのものの糖分だけでなく、食事が入ってこない間の体の働きです。

食後に上がってから下がることもある

食事に含まれる炭水化物によって血糖がいったん上がっても、その後に下がることがあります。飲んだ直後に測った値が高くても、その後の低血糖には引き続き気をつけましょう。

飲む場面起こりうる血糖の動き判断するときの注意
空腹で飲酒肝臓から糖を補いにくく、下がりやすい食事を抜いて飲む状況を避ける
食事と一緒に飲酒いったん上がり、その後に下がることもある食後の1回の測定値だけで判断しない

血糖を自宅で測定している方は、数値とともに飲酒や食事の時刻を残すと、どの場面で変動したかを診察で伝えやすくなります。

低血糖と乳酸の蓄積は別の問題

低血糖は血液中の糖が不足した状態で、乳酸が増えて血液が酸性に傾く状態とは異なります。血糖が普段どおりでも、飲酒後の脱水や乳酸の処理の低下は起こりえます。

SU薬と呼ばれる血糖を下げる飲み薬やインスリンを併用している方は、飲酒による低血糖にも注意が必要です。

体調不良を血糖の数値だけで判断せず、飲酒後に何を食べ、どの程度水分がとれたかも主治医に伝えましょう。乳酸が増えているかは家庭の血糖測定器では分からないため、医療機関で調べます。

血糖が悪化しなくても飲酒の安全は別に判断する

適度な量のお酒で血糖の管理が悪くなるとは限りません。血糖への影響と、メトホルミン服用中に飲んでよいかは、別々に考えます。

平均的な血糖の結果とその日の体調

主に糖尿病のない方が対象の、2週間以上の飲酒を調べた14件の介入研究をまとめた解析では、空腹時血糖に変化はなく、過去1〜2か月ほどの血糖を反映するHbA1cは低下していました3)。介入研究とは、飲酒などの条件を決めて体への影響を調べる研究です。

平均的な血糖の変化を見る数値と、飲んだ日の脱水や乳酸の蓄積は評価する対象が異なります。血糖の管理が良好な方でも、吐いて水分がとれなくなれば、普段と同じように薬を飲み続けるのは危険です。

診察には実際の飲み方を持ち込む

飲酒の判断に必要なのは、「少し飲む」という印象より、実際の量や食事、体調の情報です。診察で共有したいのは次の項目です。あらかじめメモにしておくと、普段の飲み方を具体的に伝えやすくなります。

  • 飲酒量と頻度 … 酒の種類、容器の容量、本数、飲む日数
  • 一度に多く飲む機会 … 会食や休日に量が増えるか
  • 食事と水分 … 食べずに飲む場面や、飲酒後に吐くことがあるか
  • 治療の状況 … 薬の名前と、腎臓・肝臓の検査で受けた説明

普段の量が少なくても、特定の日だけ多く飲む方は、その日の飲み方を優先して伝えます。

飲酒のために自己判断で薬を抜くことは避ける

メトホルミンは飲酒に合わせて抜いたり時刻をずらしたりせず、決められた飲み方を続けます。薬を休めば多量の飲酒が安全になるわけではなく、治療も不規則になります。

会食などの予定が分かった時点で、普段と量が変わりそうなら、参加前に主治医と飲酒の可否を相談しましょう。あらかじめ決めた範囲を守れそうにない日は、飲酒を見合わせる選択ができます。

飲みすぎた翌日のメトホルミンと受診の目安

吐く、下痢がある、食事がとれないときは、メトホルミンをいったん中止して医師へ連絡してください。飲酒後の不調を二日酔いと決めつけず、脱水がないかを見て対応します。

食べられない日は一時的な休薬が必要

発熱や嘔吐などで普段どおりに食べたり飲んだりできない日は、「シックデイ」と呼ばれる体調不良の日に当たります。電子添文でも、こうした日は脱水が心配されるため、服用をいったん中止し、医師に相談するよう定められています。

翌日の状態薬と連絡の対応
吐く・下痢がある・食事がとれないメトホルミンをいったん中止し、当日中に処方元へ連絡
水分を飲んでも吐く・尿が極端に少ない服用を中止し、待たずに医療機関で評価を受ける
食事と水分がとれ、体調が戻った再開の条件を処方元に伝え、医師の判断に従う

症状が強い場合は、表の上から順に試すのではなく、医療機関での評価を優先します。

連絡がつくまでの休薬と水分補給

処方元に連絡がつくまでの間も、食事や水分が十分にとれない状態なら、休薬を続けます。無理に薬を飲まず、飲める状態なら水分を少しずつとり、水分を保てない場合は時間外の医療機関を受診してください。

たとえば、服用中の方が飲み会の翌朝に自宅で朝食を食べられず、水を飲んでも吐くなら、朝の薬をいったん休み、処方元か時間外の医療機関へ連絡して受診につなげます。家族が一緒なら、最後の服薬時刻と飲酒の状況を共有すると、受診時の説明を補えます。

胃腸の不調に強いだるさや筋肉痛、速く深い呼吸などが加わる場合は乳酸アシドーシスも疑うため、服用を中止して直ちに受診し、意識がおかしい、呼吸が苦しいときは119番で救急車を呼んでください。

再開は食事と脱水の回復を踏まえて決める

休薬後の再開は、食事や水分が戻り、脱水や腎臓の働きに問題がないかを踏まえて医師が判断します。「翌日になった」「酔いがさめた」という時間の経過だけでは決められず、必要に応じて診察や検査を受けます。

処方元への連絡では、休んだ薬と回数、今とれている食事や水分、嘔吐や下痢が残っているかを伝えると、再開の判断につながります。再開するときは休んだ分をまとめて飲まず、指示された用法に戻します。

血糖を下げる目的での飲酒開始は不要

お酒を飲まなかった方の研究を読むときは、食事や血糖の状態も結果と一緒に捉えます。検査値が変わったことだけでは、飲酒を治療として始める理由になりません。

夕食と一緒に飲む条件で調べられた

イスラエルで、お酒を飲まない血糖の安定した2型糖尿病の成人224人が、地中海食と呼ばれる食事をとりながら、夕食時に水か少量のワインを飲んだ試験では、2年間で大きな害は目立たなかったという結果でした4)。

この試験での飲酒は、夕食時に決めた量を飲むという条件です。普段は食事が不規則で、会食のたびに飲む量が大きく増える生活では、体にかかる負担が変わります。

飲酒を治療に追加する根拠とは異なる

検査値の一部が良い方向に動いても、それだけで飲酒を勧める判断にはつながりません。血糖や脂質の結果とともに、薬の使用上の注意、その日の食事や脱水もあわせて考えます。

お酒を飲まない方が、血糖を下げるために飲み始める必要はありません。すでに治療を受けている方は、飲酒を追加の治療に見立てず、処方された薬と食事の管理を続けましょう。

飲酒を続ける方は体調の変化も共有する

飲酒について相談したあとでも、体調が変われば判断を見直します。以前は問題なく食べながら飲めていても、食事量が減った、飲酒後に吐くようになったときは、同じ飲み方を続ける条件が変わっています。

定期の診察では、飲む量だけでなく、飲んだ日の食事と翌日の体調も一緒に主治医へ伝えましょう。飲酒と薬を両立できるかを決めるのは、検査値だけでなく、実際の生活で脱水や体調不良が起きていないかという情報です。

よくある質問

Q
メトホルミン服用中は、少量のお酒でも飲めませんか?
A

少量なら飲めると一律には言えず、飲酒の可否と量は主治医と決めます。電子添文が禁忌としているのは過度のアルコール摂取で、飲んでよい量の数値は定めていません。

相談前に自分で上限を決めず、次の飲酒予定より前に、普段飲む酒の容量や本数、食事と一緒かを処方元へ伝えましょう。腎臓や肝臓の状態も判断に関わります。

Q
お酒を飲む日だけ薬を休んでもよいですか?
A

お酒を飲む日だけ自分の判断で薬を休むのは、勧められません。薬を抜いても、飲みすぎによる脱水や乳酸の処理の低下は問題として残ります。

会食の予定がある場合は事前に処方元へ飲酒の可否を相談し、決めた範囲を超えそうな飲酒は見合わせましょう。すでに吐いて食べられない場合は、飲酒の予定とは切り離し、体調不良として薬を休み、医療機関へ連絡します。

Q
飲酒から何時間あければ服用できますか?
A

服用してよいと判断できる一律の時間間隔は示されていません。飲酒と服薬の時刻だけでなく、飲んだ量や食事、水分がとれているかで対応が変わります。

飲酒後の服薬に迷うときは、次の服用前に処方元へ状況を伝えて確認してください。嘔吐や食事摂取不良がある間は服用をいったん中止し、連絡がつくまで休薬を続け、水分も保てないときは時間外でも受診します。

Q
血糖が正常なら乳酸アシドーシスの心配はありませんか?
A

血糖が正常でも、乳酸アシドーシスは起こりえます。血糖測定で分かるのは血液中の糖の値であり、乳酸の蓄積や血液の酸性への傾きは医療機関で調べます。

参考にした文献