糖尿病予備軍の段階でα-GIを飲み始めると、食事療法・運動療法に取り組む人の一部で、2型糖尿病へ進むリスクを下げられます。一方で、服用中に発症する人もいて、心臓や血管の病気を防ぐ効果はまだ確定していない段階です。
健診で血糖が高めと言われ、薬をすすめられて戸惑っている方もいるでしょう。日本で予備軍に使えるのはベイスン錠0.2で、血糖の検査結果や持病などの条件があります。
この記事では、α-GIで発症がどのくらい抑えられるか、正常な血糖への回復、日本で使える条件と保険適用、副作用と服用中の検査を解説します。
糖尿病予備軍は血糖が正常と糖尿病の間にある状態
糖尿病予備軍と言われても、必ず糖尿病になると決まったわけではありません。検査で変化を追いながら、発症を抑える取り組みを続ける段階です。
境界型と耐糖能異常は検査で捉える状態
境界型は血糖の検査結果が正常型にも糖尿病型にも当てはまらない状態で、耐糖能異常は糖をとった後に血糖を十分に下げられない状態を指します。75g経口ブドウ糖負荷試験は、75gのブドウ糖を含む液を飲み、飲む前後の血糖値を調べる検査です。
- 空腹時血糖 … 食事をとらない状態で測る血糖値
- 負荷後2時間の血糖 … ブドウ糖を飲んでから2時間後の血糖値
- HbA1c … 過去1〜2か月ほどの血糖の状態を反映する値
予備軍にベイスン錠0.2を使う条件では、空腹時血糖と負荷後2時間の血糖を組み合わせて判断します。健診のHbA1cだけで、薬の対象に当てはまるかを決めることはできません。
発症する人も正常に戻る人もいる
前糖尿病の人では、毎年5〜10%が糖尿病へ進み、同じくらいの人が正常な血糖に戻るとされています1)。
この割合は、診断に使った検査や対象者の特徴が異なる集団をまとめた目安です。糖尿病の基準に近い人と、境界域の低めの値で推移する人とでは、その後の見通しが変わります。
自分のリスクを捉えるときは、今回の値だけでなく、過去の検査からどう変わってきたかも見ましょう。毎年同じ「要注意」という表示でも、数値が上がり続けているか、改善しているかで受け止め方は違います。
食後に高くなる血糖に薬が働く
α-GIはα-グルコシダーゼ阻害薬の略で、腸で糖質を分解する酵素の働きを抑え、糖の吸収を遅らせる薬です。ベイスン錠の患者向医薬品ガイドでも、食後の血糖の急な上昇を抑える働きが説明されています。
空腹時の検査があまり高くなくても、糖をとった後に高い値が続く人では、この働きが治療を検討する理由になります。食事に伴う血糖の上がり方への効果は、体感よりも検査結果で捉えます。
α-GIで糖尿病への進行はどのくらい抑えられるか
日本人を対象とした試験では、生活習慣への取り組みにボグリボースを加えると、糖尿病へ進むリスクが約4割低下しました。この数字は、もともと発症リスクが高い耐糖能異常の人で得られた結果です。
国内試験では897人中50人が糖尿病へ移行
耐糖能異常に加えて高血圧症などのリスクを持つ日本人1,780人の試験では、食事療法・運動療法にボグリボース0.2mgを1日3回加えた群で、平均48.1週の投与後に897人中50人が糖尿病へ移行し、プラセボ群では881人中106人でした2)。プラセボとは、薬の有効成分を含まない比較用の錠剤です。
時間の経過も考慮して発症の起こりやすさを比べたハザード比は0.595で、相対的には約4割の低下です。両群とも食事と運動への取り組みを行っているため、その上に薬を加えた効果として読みます。
ただし、「飲めば100人中40人の発症を防げる」という意味ではありません。実際に何人の発症が減るかは、薬を使わない場合の発症率によって変わります。
48週と96週の結果は期間をそろえて読む
ベイスン錠の電子添文では、糖尿病への累積移行率は48週時点で服用群2.6%、プラセボ群7.0%、96週時点で4.8%と13.2%です。累積移行率とは、その時点までに糖尿病へ進む割合を、観察期間の違いも考慮して推定した値を指します。
48週時点の差は4.4ポイント、96週時点では8.4ポイントです。同じ時点の2群を比べると、服用群でも発症は起こる一方、比較した群より少なくなっていると読めます。
最終評価時点の人数を割った割合と、一定の週数にそろえた累積移行率は、時間の扱いが違います。複数の数字を見るときは、どの時点の結果なのかをそろえて読みましょう。
海外のアカルボースでも発症が少ない方向
耐糖能異常の人1,429人を対象とした国際的な発症予防試験のSTOP-NIDDMでは、アカルボース100mgを1日3回飲む群で糖尿病への移行が32%、プラセボ群で42%となり、時間を考慮した発症リスクは25%低下しました3)。
| 使った薬 | 糖尿病への移行の結果 | 結果を読む際の区別 |
|---|---|---|
| ボグリボース | 国内試験で移行が少ない方向 | 日本での0.2mg・1日3回の試験 |
| アカルボース | 海外試験で移行が少ない方向 | 100mg・1日3回での試験 |
2つの薬で結果の向きは共通しています。比較の際には、薬の量と対象者、観察期間をそろえて見ます。同じα-GIでも、海外試験の数字を日本の処方に置き換えることはできません。
α-GIで正常な血糖に戻っても経過観察は続く
正常な血糖に戻る人が増える点も、α-GIに期待できる効果です。ただ、服用中の改善と、薬をやめた後も正常な状態が続くかどうかは、分けて考えます。
正常な血糖への回復も国内試験で増えた
先ほどの日本人の試験では、正常な血糖に戻った人はボグリボース群で897人中599人、プラセボ群で881人中454人でした。糖尿病への移行が少なかっただけでなく、検査結果が正常な範囲に戻る人も増えています。
血糖値が改善すると、治療が役立っているという実感につながるでしょう。それでも、服用中の検査結果には薬の働きも含まれるため、正常という結果だけで中止を決めることは避けます。
東アジアの集団で大きな効果が出た報告
糖尿病予備軍の人にアカルボースを3年以上使った8試験、計2,628人を統合した解析では、東アジアなど東洋の集団で、西洋の集団より発症抑制と正常な血糖への回復の効果が大きく出ていました4)。
この結果は、対象者や条件の異なる試験をまとめた集団の傾向として受け取ります。また、この結果で使われたのはアカルボースで、日本で予備軍へ処方するボグリボースとは薬が異なります。
服用する本人に効果が出ているかは、出身地域から予測するより、飲み始める前後の血糖や体重の推移で捉えます。集団の傾向は治療の参考になっても、定期的な検査の代わりにはならないからです。
中止できるかは薬を使わず保てるかで判断
耐糖能異常が改善し、食事療法・運動療法だけで十分と判断された場合には、主治医の判断で服用を中止して経過を観察します。ベイスン錠の電子添文にも、中止後に血糖に関する検査を続ける扱いが記載されています。
一方、海外のアカルボース試験では、終了時にプラセボへ3か月切り替えると、糖尿病へ進む人が増えました。飲んでいる間の効果が、そのまま服用終了後も続くとは限りません。
正常という結果が出た診察では、自己判断で錠剤を減らす前に、中止後の検査予定も含めて主治医と確認しましょう。中止しても、薬を使わない状態で血糖を追う期間が続きます。
心臓や血管の病気を防ぐ効果は確定していない
糖尿病への進行を抑える効果と、心筋梗塞などを減らす効果は区別が必要です。α-GIを飲めば心臓や血管の病気まで防げるという期待は、現在の根拠を超えています。
心血管疾患が少なかった報告の読み方
STOP-NIDDMの耐糖能異常の人1,368人を平均3.3年追った解析では、心臓や血管の病気がアカルボース群で相対的に49%少なく、2群の発症割合には2.5ポイントの差があったと報告されています5)。心筋梗塞は、心臓に血液を送る血管が詰まり、心臓の筋肉が傷む病気です。
この解析では、新たに高血圧になる人も少ない方向でした。血糖の数字だけでなく将来の病気が減るなら治療の意味は大きくなります。ただ、この解析で起きた発症の件数は少なく、結果は慎重に受け止めます。
研究の進め方への批判と統合した結果
同じ試験について、対象者の選び方や結果の解析・報告の方法への批判があり、心血管疾患を減らす効果の評価は分かれています。この批判だけで糖尿病への発症抑制まで否定する読み方も適切とはいえません。
アカルボースには、糖尿病の発症を減らす効果が認められています。一方、死亡や心臓・血管の病気による死亡が減るという結果は得られていません。心血管疾患については根拠の確かさが低く、利益が確立したと受け取るには不十分です。
「血糖が下がる」「糖尿病が減る」「心臓の病気が減る」は、それぞれ違う結果を表しています。何の発症を抑える話なのかを区別すると、予防という言葉から効果を広く受け取りすぎずに済みます。
血圧や脂質の治療も続ける
α-GIが処方されても、高血圧症や脂質異常症の治療はそのまま続けましょう。脂質異常症とは、血液中の中性脂肪やコレステロールの値に異常がある状態で、血糖とは別に管理します。
血糖値の改善だけを理由に、血圧や脂質の薬まで減らすのは避けます。それぞれがどの検査値や病気のために処方されているかを分けて捉えると、服用する理由がはっきりします。
生活習慣への取り組みにα-GIを加える意味
食事療法・運動療法は予防の土台であり、α-GIはその上に加える治療です。国内試験の効果は、生活の見直しと薬を組み合わせた結果として読みます。
食事と運動の見直しにも発症を抑える根拠
海外では生活習慣の改善が比較対象の薬より大きな発症抑制効果を示し、日本人の耐糖能異常の男性でも、体重減少を目指す指導によって糖尿病へ進む人が減っています。食事と運動の見直しを予防の土台として続ける理由は、こうした発症そのものを減らした結果にあります。
生活習慣に取り組んでも薬をすすめられると、努力が足りなかったように感じるかもしれません。処方は努力への評価ではなく、取り組みを続けた上でも残る血糖の異常に対する選択です。
別々の試験の低下率で順位を付けない
生活習慣の改善とα-GIのどちらが優れるかは、異なる試験の低下率を並べるだけでは判断できない問いです。対象者の発症しやすさや比較相手、観察期間が違うと、同じ治療でも数値の出方が変わります。
| 取り組み | 期待できること | 続けるうえでの注意 |
|---|---|---|
| 食事療法・運動療法 | 糖尿病への進行を抑える | 薬を始めても継続が前提 |
| α-GIの追加 | 食後の血糖上昇を抑え、発症リスクを下げる | 使える条件、毎食前の服用、副作用への配慮 |
日本のボグリボース試験で直接答えられるのは、生活習慣への取り組みに薬を加えた場合の違いです。薬だけで同じ効果が出ると読み替えると、実際に試験された治療から離れてしまいます。
効果と続ける負担の両方を判断材料にする
長期の服用を想定するα-GIの追加は、期待できる発症抑制と、毎食前に飲む負担や副作用による生活への支障を合わせて判断します。
たとえば、健診結果を自宅で見返して薬の追加に迷ったときは、食事療法・運動療法を始めた時期と、その前後の検査結果を整理して受診時に持参しましょう。いつから取り組み、血糖がどう変わったかが分かると、追加する理由を具体的に話せます。
日本でα-GIを予備軍に使う条件と保険適用
予備軍の発症抑制には、ベイスン錠0.2、つまりボグリボース0.2mgの錠剤を使います。薬の対象となる条件と、保険で使う条件には違いがあり、肥満や家族歴だけでは保険の条件に届かない点が、見落としやすいところです。
血糖の条件に加えて3〜6か月の治療歴が必要
対象となる耐糖能異常は、空腹時血糖が126mg/dL未満で、かつ75g経口ブドウ糖負荷試験の2時間値が140〜199mg/dLの状態です。この条件を満たした上で、食事療法・運動療法を3〜6か月行っても改善しない場合に検討されます。
さらに、高血圧症、脂質異常症、肥満、2親等以内の糖尿病家族歴のいずれかが必要です。肥満は身長と体重から求める体格指数のBMIが25以上、2親等以内の家族には親やきょうだい、祖父母などが含まれます。
薬を始める前の経過にも意味があります。すでに取り組んだ期間と負荷試験の結果を合わせて判断するため、健診で高めの血糖を指摘されたという情報に加えて、治療歴も整理しておきましょう。
保険の条件は高血圧症又は脂質異常症
発症抑制を目的に保険で使う対象は、血糖と治療歴の条件に加えて、高血圧症又は脂質異常症を基礎疾患として持つ人です。基礎疾患とは、もともと持っている病気を指します。
| 確認する項目 | 薬を使う対象の条件 | 保険で使う条件 |
|---|---|---|
| 血糖の検査 | 空腹時126mg/dL未満かつ負荷後2時間140〜199mg/dL | 左と同じ |
| 生活習慣への治療 | 食事療法・運動療法を3〜6か月行っても改善しない | 左と同じ |
| 併せ持つ条件 | 高血圧症、脂質異常症、BMI25以上、2親等以内の糖尿病家族歴のいずれか | 高血圧症又は脂質異常症を基礎疾患として持つ人 |
家族に糖尿病の人がいることや、BMIが25以上であることは、薬の適用を検討する条件に含まれます。保険給付には高血圧症又は脂質異常症という条件があるため、この2つの対象を分けて確かめます。
発症抑制の通常用量は0.2mgを毎食直前
発症抑制では、通常は1回0.2mgを1日3回、毎食直前に服用します。食事に伴う糖の吸収を遅らせる薬なので、食事とのタイミングが治療の一部になります。
ベイスン錠0.2と0.3では、発症抑制の効能が記載されているのは0.2だけです。すでに糖尿病がある人の食後高血糖に使う用量と、予備軍での用量は分けて考えます。
処方を受けるときは、薬の名前と規格、発症抑制という処方の目的を、お薬手帳で確認しましょう。量を増やせば予防効果が強まると考えて、自己判断で増量する使い方は避けます。
副作用と検査結果を見ながら服用を続ける
服用を続けるかどうかは、発症抑制の利益、副作用、検査で見た血糖の変化を合わせて判断します。正常に戻った場合も糖尿病へ進んだ場合も、処方を見直す機会になります。
副作用の割合と中止した人の割合を分ける
耐糖能異常への使用について、承認時までに1日0.6mgのボグリボースを投与した951人では、検査値の異常を含む副作用が452人、47.5%に認められています。副作用の発生率と、服用をやめた人の割合は異なる指標です。
主な副作用は、鼓腸というおならの増加が17.4%、お腹の張りが13.1%、下痢が12.0%でした。複数の症状が重なる人もいるため、これらの割合を足して副作用の総数にする計算は避けます。
おならや下痢は、服用を続けにくくする要因にもなります。海外のアカルボース試験で途中でやめた人は31%、プラセボ群では19%でした。薬の種類と用量が違うため、この中止率は海外のアカルボースでの数字として読みます。
服用開始後は1〜3か月ごとの検査が目安
飲み始めてからは、血糖と体重を定期的に調べ、薬の継続が必要か判断します。ベイスン錠の電子添文で示される検査の目安は、次のとおりです。
- 1〜3か月ごと … 空腹時血糖、随時血糖、HbA1cなどの検査と体重測定
- 6〜12か月ごと … 75g経口ブドウ糖負荷試験
随時血糖は、食事からの時間を一定にせず測った血糖値です。これらは間隔の目安で、血糖が高めに推移する人などは、経過に応じて観察の仕方を決めます。
2型糖尿病と診断された場合は、その状態に合う治療への変更が検討されます。反対に、改善して薬を中止した後にも検査は続くため、薬の有無と通院の必要性は分けて捉えます。
続けにくいときは生活への支障を具体的に伝える
副作用が続くときは、症状の有無に加え、食事や外出などへの支障が治療を見直す判断材料になります。血糖が改善していても、下痢などで日常生活が妨げられているなら、その負担も血糖と同じ重みで扱います。
| 主治医と話したいこと | 判断に役立つ理由 |
|---|---|
| 症状が始まった時期と続き方 | 服用との時間的な関係を整理できる |
| 食事や外出への支障 | 継続による負担の大きさが伝わる |
| 薬を始めてからの検査結果 | 得られている効果と負担を合わせて判断できる |
受診の際は、症状が出た時期や生活への影響を具体的に主治医へ伝えましょう。薬の中止や量の変更は、血糖の経過も踏まえて判断されます。
強い腹痛や繰り返す嘔吐がある場合は、定期受診を待たずに医療機関へ連絡してください。服用を続けながら様子を見てよい軽いお腹の症状とは、分けて考えます。
よくある質問
- Qα-GIを飲めば、食事療法や運動療法をやめてもよいですか?
- A
食事療法・運動療法は、服用を始めた後も続けます。日本の試験で得られた発症抑制の効果は、これらにボグリボースを加えた結果です。
すでに取り組んでいる内容を薬に置き換えると、試験とは違う治療になります。続けるのが難しい事情があるときは、薬を始める診察でその事情も主治医に伝えましょう。
- QHbA1cが高めなら、ベイスン錠0.2の対象になりますか?
- A
HbA1cが高めという結果に加えて、ほかの検査と経過がそろって初めて、発症抑制の対象かが決まります。空腹時血糖と負荷試験の結果、食事療法・運動療法を続けた期間、持病などを合わせて判断します。
健診結果を持参し、負荷試験を含めて必要な検査を主治医と確認しましょう。すでに糖尿病と診断される状態なら、予備軍の発症抑制とは治療の目的が変わります。
- Qα-GIを飲んで血糖が正常になったら、やめられますか?
- A
食事療法・運動療法だけで血糖を保てると判断された場合は、主治医の判断で中止することがあります。正常な結果が1回出ただけで、自己判断でやめるのは避けます。
服用中の値には薬の効果も含まれるため、中止後の検査で血糖が保たれているかを追います。中止が決まったときも、次の検査の予定を確認して通院を続けましょう。
- Qα-GIを飲んでいても糖尿病になることはありますか?
- A
服用中でも糖尿病へ進む人はいます。α-GIは発症リスクを下げる薬で、発症を完全に防げるわけではありません。
検査値が上がったときは、自己判断で薬を増やさず、受診時に検査結果を主治医に確認しましょう。2型糖尿病と診断された場合は、その時点の血糖に合った治療への変更が検討されます。


