糖尿病があるというだけでED薬が使えなくなるわけではありません。ただし狭心症などで硝酸薬を使っている場合は話が変わり、この組み合わせは血圧が下がりすぎる恐れがあるため禁忌とされています。

可否を分けるのは糖尿病そのものよりも、いま飲んでいる薬と心臓の状態です。糖尿病では胸の痛みが出ないまま心筋の虚血が進む場合があり、薬より先に心臓を調べる順序になる人もいます。

飲み合わせで気をつける点、効きにくさが語られる背景、そして個人輸入に手を出さないほうがよい理由を、報告された数字をたどりながら順に整理します。

糖尿病があるとED薬は使えない?可否を分ける条件

糖尿病があるだけで処方の対象から外れるわけではなく、糖尿病のある男性を対象にした試験も積み重ねられてきました。可否を分けるのは、いま併用している薬と心臓の状態です。

確認される項目何を見るか該当したときの扱い
硝酸薬の使用内服・貼付・頓用のすべて併用は禁忌のため処方できない
心臓の状態治療歴とどのくらい動けるか評価を先に置く場合がある
腎臓と肝臓の働き直近の検査値と治療歴慎重に扱う判断になる
そのほかの併用薬降圧薬・前立腺の薬など組み合わせを個別に判断する

糖尿病だけを理由に処方が止まるわけではない

糖尿病のある男性を対象にPDE5阻害薬を比べた統合解析では、15の無作為化試験に参加した5274人分のデータがまとめられ、全体としておおむね有効で忍容性も良好だったと報告されています。糖尿病があるという一点だけで、薬が選択肢から丸ごと消えるわけではありません。

ただしこの結論は、医師の診察と処方を前提にして得られた数字です。持病や併用薬の組み合わせによっては、そもそも処方できない人がいる点は変わりません。

左右するのは併用薬と心臓の状態

診察で最初に確認されるのは、狭心症などで硝酸薬を使っているかどうかです。硝酸薬とPDE5阻害薬の併用は禁忌とされており、ここに当てはまる人は糖尿病の有無に関係なくED薬を使えません。

次に確かめられるのが、心臓がどのくらいの負荷に耐えられるかという点です。性行為そのものが軽い運動にあたるため、心血管疾患を抱えている場合には、薬の話より先に心臓の評価が置かれる場面もあります。

飲めるかどうかを自分で決めない

インターネットの情報だけで自分は該当しないと判断すると、いちばん危ない組み合わせを見落としやすくなります。狭心症の薬には発作のときだけ使う形もあり、毎日飲む薬ではないという理由で申告から抜け落ちがちだからです。

受診の前に、次の情報を手元でまとめておくと判断が早まります。

  • 飲んでいる薬とサプリメントの一覧
  • 心筋梗塞や狭心症の治療を受けた時期
  • ふだんの血圧と脈拍の値
  • 階段や坂道での息切れの有無
  • 直近のHbA1cと合併症の指摘

一枚の紙にまとめて持参すれば、限られた診察時間でも判断の材料が揃います。お薬手帳を見せるだけでも、申告漏れはかなり減らせるでしょう。

硝酸薬を使う糖尿病の人がED薬を避けるべき理由

狭心症の薬である硝酸薬とED薬の併用は禁忌です。どちらも血管をひろげる方向に働くため、重なると血圧が下がりすぎ、失神や重い循環不全につながる恐れがあります。

血管をひろげる働きが二重に重なる

シルデナフィルをはじめとするPDE5阻害薬は、一酸化窒素の刺激で増えたcGMPという物質の分解を抑え、その働きを長引かせる薬です。硝酸薬は体内で一酸化窒素を供給する薬なので、同じ経路の上流と下流を同時に押すかたちになります。

その結果、血管の拡張が想定を超えて強まって血圧が急に落ち、もともと心臓に負担を抱えている人ほど、その落差から立て直すのに時間がかかります。危険なのは薬そのものよりも、重なり方だといえます。

貼り薬やスプレーも申告が要る?

硝酸薬は飲み薬に限らず、舌下錠、口の中に噴くスプレー、胸や背中に貼るテープなど、さまざまな形で使われています。口から入れるか皮膚から吸わせるかで形は違っても、体内での筋道は同じです。

使われる場面よくある形申告のポイント
発作が起きたとき舌下錠・口腔スプレー毎日飲まなくても手元にあれば伝える
発作の予防内服薬・貼付剤自己判断で貼るのをやめない
入院中の胸痛の治療点滴・注射過去の使用歴も診察で話す

発作時だけ使う頓用の薬は、日常の服薬リストから抜け落ちがちです。ふだん使っていなくても持ち歩いているなら、その事実を医師に伝えておくと安全側へ寄せられます。

禁忌のはずの組み合わせが20年で増えていた

デンマークの全国データを用いた研究では、虚血性心疾患があり硝酸薬を続けている男性へのPDE5阻害薬の処方が、2000年の100人あたり年0.9件から2018年には19.5件へ増えていました。

禁忌とされてきた組み合わせが、20年弱でおよそ20倍に広がった計算になります。医療者と患者の双方で情報が行き渡らないまま処方が重なる場面が、決して珍しくないと分かる数字でしょう。

同じ研究では、併用と心血管イベントの関連は統計的に確認できませんでした。ただし処方記録が同時使用と等しいという仮定に立った設計で、著者らも限界として挙げており、併用して差し支えないと読み替えられる結果ではありません。

迷ったら飲まない側に倒す

硝酸薬を使っているかどうかがはっきりしないまま、手元のED薬を試すのはもっとも避けたい選択です。判断がつかないなら、処方を受けた医療機関か薬局へ問い合わせるほうが確実でしょう。

さらに、ED薬を飲んだあとに胸の痛みが出ても、硝酸薬をすぐには使えない時間帯が生じます。救急を受診する際は、いつ何を飲んだかを必ず伝えてください。

糖尿病でED薬が効きにくいと言われる背景

効きにくさが語られる背景には、血管と神経が同時に傷むという糖尿病特有の事情があります。ただし効かないと決まっているわけではなく、糖尿病のある男性を含む試験でも一定の反応が示されています。

糖尿病だとED薬は効かない?

勃起は、血管がひろがって血液が流れ込み、その指示を神経が伝えることで成り立ちます。糖尿病では細い血管の障害と自律神経の障害が並行して進みやすく、どちらか一方だけが原因の場合より反応は鈍くなりがちです。

薬の働きは血管側の反応を助ける部分が中心なので、神経側の傷みが大きいほど手応えは弱まります。効きにくいからと量を増やす発想へ向かわないでほしいのは、この理屈からも説明がつきます。

糖尿病のタイプで頻度が大きく変わる

発症から1年以内の糖尿病の男性351人と、糖尿病のない男性124人を比べたドイツの調査では、EDのあった割合が23%と11%で差がつきました。さらに糖尿病を5つのタイプへ分けると、割合は7%から52%まで大きく開いています。

対象となった群EDのあった割合
糖尿病のない男性11%
糖尿病のある男性の全体23%
インスリン抵抗性の強いタイプ52%
インスリン分泌の低下が目立つタイプ31%
加齢に関連する軽症のタイプ29%
肥満に関連する軽症のタイプ18%
自己免疫性のタイプ7%

もっとも高かったのはインスリン抵抗性の強いタイプ、低かったのは自己免疫性のタイプでした。同じ糖尿病でも背景が違えば、EDの起こりやすさは一様ではないと読み取れます。

数字の受け取り方には幅がある

薬の試験では、偽薬を渡された群でも勃起機能の指標が改善します。63の試験に参加した12564人を集めた解析では、偽薬群にも小さめから中くらいの改善が認められました。

効き方の個人差は期待の大きさだけでは説明しきれないからこそ、知人の体験談や広告の印象ではなく、自分の状態を診察で確かめる手順が要ります。数字は集団の平均であり、目の前の一人を言い当てるものではありません。

糖尿病でED薬を使う前に心臓の評価が要る場面

胸の痛みがないからといって、心臓が無事だとは限りません。糖尿病では自覚のないまま心筋の虚血が進む場合があり、ED薬より先に心臓の評価が置かれる場面があります。

胸が痛くないなら心臓は大丈夫?

心血管疾患を指摘されていない長期の糖尿病患者104人に運動負荷試験などを行った研究では、24人に動脈硬化性の病変が見つかりました。無症候性の虚血は1型より2型で多く、頸動脈の動脈硬化や左室駆出率の低下、加齢が背景として挙げられています。

症状が出ないまま病変が見つかる人が一定数いる、という点がこの数字の意味するところです。自覚だけを頼りに大丈夫だと決めてしまうと、ED薬を使えるかどうかを判断する土台がそもそも抜け落ちます。

EDを入り口に心臓を調べ直す

EDを訴えて受診した男性の心血管評価をどう進めるかは、2024年に公表された国際的な合意文書で改めて整理されました。米国の学会の推奨をふまえ、冠動脈カルシウムスコアの測定を組み込んだ手順が示されています。

同じ文書では、冠動脈疾患のある人へのED治療について、硝酸薬の使用を軸にした判断の流れも扱われました。心臓とEDを別々の相談として切り分けない姿勢が、そこに表れています。

どのくらい動けるかが手がかりになる

性行為は軽い運動にあたるため、ふだんどのくらい動けるかが判断の手がかりになります。平地を早足で歩いても息が切れない、階段を二階分のぼれるといった感覚は、診察で伝える値打ちがあります。

  • 軽い動作で息切れや胸の圧迫感が出る
  • 心筋梗塞や狭心症の治療を受けた経験がある
  • 血圧が安定せず立ちくらみが起きやすい
  • 健診で心電図の異常を指摘された
  • 糖尿病の治療が長く合併症の指摘もある

ひとつでも当てはまるなら、ED薬の相談と同じ場で心臓の話も持ち出すほうが、順序として自然でしょう。

糖尿病でED薬を相談する前に伝えたい持病と薬

伝え漏れがいちばんの落とし穴です。硝酸薬のほかにも、血圧や前立腺の薬、腎臓と肝臓の働き、目の病気の経過などが処方の判断に関わります。

心臓と血圧に関わる薬

血圧を下げる薬とED薬が重なると、血圧の下がり方が読みにくくなる場合があります。前立腺肥大に使う薬にも血管をひろげる働きを持つものがあり、併用の可否は医師が一人ひとり見て判断します。

降圧薬を自分の判断で休んでからED薬を飲む、といった調整はきわめて危険で、血圧の薬は中断そのものが心血管への負担になります。減らすか続けるかを決めるのは、あくまで処方した医師です。

腎臓と肝臓の働き

ED薬にかぎらず、薬の多くは肝臓で分解されたうえで腎臓を通り、尿とともに体の外へ出ていきます。糖尿病性腎症が進んでいる場合や肝機能の低下がある場合には、体内に薬がとどまる時間が変わります。

透析を受けている人、肝臓の数値を指摘されている人は、その事実を最初に伝えておくと話が早く進みます。腎機能や肝機能の直近の検査結果があれば、それも持参するとよいでしょう。

目の症状と急な見えにくさ

PDE5阻害薬では、まれながら視覚に関わる有害事象が知られています。糖尿病網膜症の治療歴がある人は、眼科での経過も含めて伝えておくと判断の材料が増えます。

服用したあとに片方の目の視力が急に落ちた場合は、時間の経過が結果を左右する症状もあるため、様子を見ずに受診してください。翌日の予約を待つ判断は、この場面では勧められません。

伝える内容具体例判断が変わる点
心臓の病歴狭心症・心筋梗塞・心不全処方の前に評価を挟むか
服用中の薬硝酸薬・降圧薬・前立腺の薬併用できるかどうか
臓器の働き腎症の進み方・肝機能の数値慎重に扱う必要があるか
目の経過網膜症の治療歴・視力の変化眼科と連携するかどうか

サプリメントや健康食品も対象になる

強壮をうたう健康食品には、医薬品の成分が表示されないまま入っている例が知られています。飲んでいる製品があるなら、成分表示を撮影して持参するだけでも判断の助けになります。

健康食品は薬ではないから関係ない、という思い込みが危うい場面です。何が入っているか分からない製品ほど、医師の側は扱いに困ります。

糖尿病の人が個人輸入でED薬を買わないほうがよい理由

個人輸入や通販で手に入れた製品は、中身が表示どおりとは限りません。持病があるほど、この成分の不確かさは重い意味を持ちます。

個人輸入なら手軽に買える?

米国食品医薬品局が2007年から2016年に警告した混入サプリメントは776製品にのぼり、そのうち353製品(45.5%)が性機能をうたう商品でした。この353製品のうち166製品(47.0%)から、シルデナフィルが検出されています。

米国での警告の内訳(2007〜2016年)件数
警告された混入サプリメント776製品
性機能をうたう製品353製品(45.5%)
そのうちシルデナフィルを検出166製品(47.0%)
未承認成分が2つ以上157製品(20.2%)

2014年から2016年に見つかった303件のうち、117件(38.6%)はオンラインでの購入品から、104件(34.3%)は国際郵便の検査から発見されました。国境をまたぐ流通のなかで、表示されない成分が広く入り込んでいた様子がうかがえます。

量が分からない薬ほど危ない

成分が入っていたとしても、その量が表示と一致する保証はありません。硝酸薬を使う人が知らずに口にすれば、禁忌の組み合わせがそのまま成立してしまいます。

糖尿病の治療中は血圧の薬や心臓の薬を併せて飲んでいる人が多く、中身の分からない製品はそこへ予測できない一手を加えるようなものです。飲み合わせを組み立ててきた土台が、一気に崩れます。

何かあったときの手当てが違う

医師の処方で受け取った薬なら体調の変化が起きたときに経緯をたどれますが、個人輸入した製品では成分も製造元も追いにくく、対応が後手に回りがちです。

個人輸入した医薬品で健康被害が生じたときの公的な救済の扱いは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の案内で確認できます。購入を考える前に一度目を通しておくと、判断の重みが変わるはずです。

糖尿病でED薬を相談する受診の流れと血糖の管理

相談先は内科でも泌尿器科でもかまいません。糖尿病の主治医がいるなら、そこへ持ち出すのがもっとも話の早い道筋になります。

かかりつけに切り出す

ふだんの診察でEDを話題にしにくいと感じる人は少なくありません。ただ主治医は併用薬も合併症の状況も把握しており、判断に必要な材料をすでに持っています。

言い出しにくいなら問診票の余白に一行だけ書いておく方法もあり、声に出さなくても診察の話題に載せる手段は残されています。切り出し方に困っても、道が閉じるわけではありません。

血糖の管理が土台になる

イランの12施設で2型糖尿病の男性390人を調べた研究では、性機能障害がHbA1cの高さ(オッズ比1.45、95%信頼区間1.07〜1.95)や罹病期間、体格指数と関連していました。

この調査では中等度のEDにあたる人が17.2%、重度にあたる人が24.6%を占めており、合併症の指摘がない人ではEDの割合が低いという関連も報告されています。血糖の状態と体重が、EDの背景として同じ土俵に並んでいるわけです。

横断的な調査なので原因と結果の向きまでは言い切れませんが、薬に頼る前に自分の側で整えられる土台が残されていると読み取れる結果でしょう。

糖尿病の治療薬との関わりも調べられている

HbA1cが6%を超える人を対象にした13試験1083人の統合解析では、作用時間の長いPDE5阻害薬でHbA1cが平均0.40ポイント下がったと報告されました(95%信頼区間-0.66〜-0.14)。作用時間の短いタイプでは、変化がありませんでした。

ただし研究ごとのばらつきが大きく、対象を絞った下位解析では逆向きの結果も混じるため、糖尿病の治療薬として位置づけられる段階ではありません。血糖のためにED薬を使うという発想は、いまの時点では成り立たないと考えたほうが無難でしょう。

逆の向き、つまり糖尿病そのものの治療薬とEDとの関わりを調べた研究も出てきています。米国の医療記録を用いた解析では、GLP-1受容体作動薬を始めた男性のEDの発生率が1000人年あたり35.2件だったのに対し、DPP-4阻害薬では28.0件でした。

ハザード比は1.26(95%信頼区間1.08〜1.46)でしたが、補正の方法を変えると差は統計的に消えており、因果を示すものではないと著者らは述べています。この一報だけを根拠に糖尿病の薬を変える判断へ進むのは、順序として飛びすぎでしょう。

よくある質問

Q
糖尿病でED薬を使うとき、狭心症のニトログリセリンを持っていても平気ですか?
A

硝酸薬を使っている、あるいは発作用に持っている場合は、その事実を必ず医師に伝えてください。硝酸薬とPDE5阻害薬の併用は禁忌とされており、重なると血圧が下がりすぎる恐れがあります。

ふだん使っていなくても、手元にあるなら申告の対象です。今後使う場面が残っている以上、処方の判断はそこまで含めて行われます。

Q
糖尿病があるとED薬は効かないのですか?
A

効かないと決まっているわけではありません。糖尿病のある男性を対象にした15試験5274人分の統合解析では、全体としておおむね有効で忍容性も良好だったと報告されています。

ただし血管と神経の傷みが進むほど手応えは弱まりやすく、個人差も大きくなります。効きにくいと感じても自分で量を調整せず、診察で相談する道筋を選んでほしいところです。

Q
糖尿病の治療中にED薬を通販で買っても問題ありませんか?
A

勧められません。米国の調査では、性機能をうたう混入サプリメント353製品のうち166製品からシルデナフィルが検出されており、表示にない成分の混入が繰り返し確認されています。

量も製造元も分からない製品では併用薬との組み合わせを医師が判断できず、持病があるほどこの不確かさは重くのしかかります。

Q
糖尿病でED薬を相談するのは内科と泌尿器科のどちらですか?
A

どちらでもかまいませんが、糖尿病の主治医がいるならそこが出発点になります。併用薬も合併症の状況も把握されており、判断に要る情報がすでに揃っているためです。

泌尿器科を選ぶ場合は、お薬手帳と直近の検査結果を持参すると話が早く進みます。糖尿病の治療内容が分かる資料は、どの科でも役に立ちます。

Q
糖尿病でED薬を使う前に、心臓の検査は要りますか?
A

全員に要るわけではありませんが、症状の有無だけで線を引くのは危うい判断です。心血管疾患を指摘されていなかった長期の糖尿病患者104人を調べた研究では、24人に動脈硬化性の病変が見つかっています。

軽い動作で息切れが出る、胸の圧迫感がある、心電図の異常を指摘されたといった事情があるなら、心臓の評価を先に置く判断が働きます。診察でその点を具体的に伝えると、順序を組み立てやすくなります。

参考にした文献