糖尿病のある方のうち約3人に1人が網膜症を抱えていると報告されています。それにもかかわらず、定期的に眼科を受診している方は6割程度にとどまるのが現状です。

眼底検査は痛みがほとんどなく、1回の受診で網膜の血管や組織の状態を詳しく調べることができます。とくに初期の変化は自覚症状が出る前に見つかるため、年に1回の検査が大切です。

受診の頻度は糖尿病のタイプや網膜症の有無によって変わります。検査の種類から眼底検査でわかること、日常生活で眼を守る方法まで、わかりやすくお伝えします。

目次

糖尿病と診断されたら眼科受診は年に1回が基本

糖尿病と診断された方は、少なくとも年に1回は眼科で検査を受けてください。網膜症がまだ見つかっていない段階でも、定期検査を続けることで異常を早期に発見できます。

糖尿病の種類初回の眼科受診その後の頻度
2型糖尿病診断された直後年に1回以上
1型糖尿病発症から5年以内年に1回以上
妊娠中の糖尿病妊娠初期(第1三半期)各三半期ごと

2型糖尿病は診断直後から眼科へ行くべき理由

2型糖尿病は発症時期がはっきりしないことが多く、診断を受けた時点で網膜にすでに変化が起きている場合があります。実際に初回の眼科検査で軽度の網膜症が見つかる方も珍しくありません。

そのため、診断後はできるだけ早く眼科を受診して、現在の網膜の状態を把握しておくことが大切です。異常がなければ年1回の定期検査に移行しますが、血糖コントロールが安定していない場合は半年に1回のペースを医師からすすめられることもあります。

1型糖尿病の眼科受診は発症から5年が目安

1型糖尿病の場合、発症から5年以内に初回の眼科検査を受けることが推奨されています。2型と異なり発症時期が比較的明確なため、網膜症が現れるまでの期間をある程度予測できるからです。

ただし、思春期に発症した場合はホルモンの変化によって網膜症が進みやすい傾向があるとも指摘されています。年齢や血糖値の推移を見ながら、眼科医と受診スケジュールを相談すると安心でしょう。

妊娠中は受診間隔が短くなるケース

妊娠をきっかけに糖尿病網膜症が急速に進行することがあります。妊娠前から糖尿病がある方は、妊娠初期に一度眼底検査を受け、その後は産後1年まで定期的にフォローアップを受けることが望ましいとされています。

妊娠中の血糖管理はとくにシビアになるため、内科と眼科の両方で診てもらう体制を整えておきましょう。妊娠糖尿病(妊娠中に初めて指摘された高血糖)の場合は、網膜症のリスクが低いため個別に判断されることが一般的です。

自覚症状がないまま進む糖尿病網膜症の怖さ

視力に問題を感じていない方でも、眼底では静かに網膜症が進行していることがあります。糖尿病網膜症は初期段階ではほとんど症状がなく、痛みも視力の変化も感じません。

初期の網膜症は痛みも視力低下もない

網膜の毛細血管にわずかな膨らみ(毛細血管瘤)や小さな出血が生じても、視力にはまだ影響しません。自分では気づけないからこそ、検査で見つけてもらう必要があります。

日本では糖尿病が原因で失明する方が年間約3,000人にのぼるといわれていますが、その多くは定期検査を受けていなかったケースです。早い段階で発見できれば、治療によって視力を守れる可能性が高まります。

放置すると失明につながる増殖網膜症

網膜症が進行すると、酸素不足を補うために異常な新生血管が網膜に生えてきます。この新生血管はもろく、破れて大きな出血(硝子体出血)を起こしたり、網膜を引っ張って剥がしてしまう(牽引性網膜剥離)こともあるのです。

  • 硝子体出血による急な視野の曇り
  • 牽引性網膜剥離による視野の欠損
  • 血管新生緑内障による眼圧上昇と痛み

こうした状態にまで進むと、レーザーや手術でも視力を完全にもとに戻すのは難しくなります。だからこそ、症状が出る前の定期検査が欠かせないのです。

糖尿病黄斑浮腫で視界がゆがむとき

網膜の中心にある黄斑部に水分がたまって腫れる糖尿病黄斑浮腫は、網膜症のどの段階でも起こりえます。文字が読みにくい、ものがゆがんで見えるといった症状が出たときには、すでに黄斑にむくみが生じている可能性を疑いましょう。

黄斑浮腫は抗VEGF薬の注射によってむくみを改善できるケースが増えています。ただし発見が遅れると視力の回復が限定的になるため、定期検査のなかでOCT(光干渉断層計)による黄斑のチェックを受けておくと安心です。

眼底検査で網膜の状態はここまでわかる

眼底検査では、直径わずか0.01mm程度の毛細血管の変化まで観察できます。網膜は体のなかで唯一、血管を直接目で見ることができる場所であり、全身の血管状態を映す鏡ともいえるでしょう。

眼底検査で観察できる血管の変化と出血のサイン

医師は眼底を観察する際、網膜の血管に膨らみ(毛細血管瘤)がないか、小さな出血や滲出物(しんしゅつぶつ)が出ていないかを丁寧に確認します。こうした所見は糖尿病網膜症の初期サインです。

眼底所見意味すること
毛細血管瘤血管壁が弱くなり瘤のように膨らんだ状態
点状・斑状出血血管から血液が漏れ出ている
硬性白斑血液中の脂質やたんぱく質が沈着している
軟性白斑網膜の神経線維が虚血で障害を受けている
新生血管酸素不足を補おうとして異常な血管が生えている

これらの所見の種類と範囲を総合的に評価することで、医師が網膜症の進行度を判定します。眼底検査は網膜だけでなく視神経乳頭の状態も同時に確認できるため、緑内障のスクリーニングにもつながります。

眼底カメラと医師による直接検査の違い

眼底カメラは散瞳しなくても撮影できるタイプがあり、健康診断で用いられることが多い検査です。ただし撮影範囲は限られるため、周辺部の病変を見逃すことがあります。

一方、眼科医が散瞳下で行う検査では網膜の広い範囲を直接観察できるため、カメラでは写らない部分の異常も見つけやすくなります。糖尿病のある方は眼科での散瞳検査を年1回は受けておくことが望ましいでしょう。

眼底写真から読み取る情報は糖尿病だけにとどまらない

眼底に映る血管の変化は糖尿病網膜症だけでなく、動脈硬化や高血圧性の変化を反映することもあります。眼科検査がきっかけで高血圧が判明したり、脂質異常症の管理を見直すことにつながるケースもあるのです。

糖尿病の方にとって眼底検査は「目の検査」にとどまらず、全身の血管リスクを知るための貴重な機会といえます。

散瞳検査やOCT検査など眼科で受ける検査の流れ

糖尿病に関連する眼科検査は、散瞳を含めて1~2時間ほどで終わります。痛みをともなう検査はほとんどなく、日帰りで受けられるものばかりです。

散瞳検査は瞳を広げて網膜の隅々まで観察する

散瞳検査では、点眼薬で瞳孔を大きく広げ、眼底を医師が直接観察します。点眼から瞳が広がるまで15~30分ほどかかるため、待ち時間が必要です。

散瞳中はまぶしさを感じやすく、手元の文字が見えにくくなります。検査後も4~6時間ほど瞳孔が元に戻らないため、車やバイクの運転は控えてください。公共交通機関やタクシーで来院されると安心です。

OCTで網膜の断面を映し出す検査

OCT(光干渉断層計)は近赤外線を利用して、網膜の断面構造を画像化する検査です。黄斑部のむくみ(糖尿病黄斑浮腫)や網膜の層構造の異常を、ミクロン単位で検出できます。

検査名特徴所要時間
散瞳眼底検査網膜全体を広く観察約5~10分(散瞳待ち含めず)
OCT検査網膜断面の精密画像約5分
蛍光眼底造影検査血管の漏れや閉塞を確認約20~30分

OCTは非接触で痛みがなく、数分で終わります。検査結果はその場で画像として確認でき、以前の画像と比較することで網膜の変化を追跡するのにも役立ちます。

蛍光眼底造影検査が必要になるのはどんなとき?

腕の静脈からフルオレセインという造影剤を注射し、眼底を流れる血液の様子をカメラで撮影する検査です。血管からの漏れや閉塞部位を正確に特定でき、レーザー治療の計画に活用できます。

造影剤にアレルギーが出ることがまれにあるため、検査前に既往歴やアレルギーの有無を医師に伝えておきましょう。すべての方に毎回行う検査ではなく、網膜症の進行が疑われるときに追加されるのが一般的です。

視力検査や眼圧測定もあわせて受ける

糖尿病の眼科受診では、眼底検査に加えて視力検査と眼圧測定も行われます。視力の変化を経時的に記録しておくことで、自分では気づかないゆるやかな低下も把握できるのです。

眼圧測定は緑内障の早期発見に役立ちます。糖尿病のある方は緑内障のリスクも高いとされているため、セットで受けておくと安心です。検査全体は、散瞳の待ち時間を含めても1時間半~2時間程度を見込んでおけばよいでしょう。

糖尿病網膜症の段階ごとに変わる治療と受診間隔

糖尿病網膜症と診断されても、すぐに手術が必要になるわけではありません。進行の程度に応じて経過観察から投薬、レーザー、手術まで段階的に対応が選ばれます。

段階おもな治療受診間隔の目安
網膜症なし血糖・血圧管理年1回
単純網膜症経過観察+血糖管理半年~1年ごと
増殖前網膜症レーザー治療の検討2~4か月ごと
増殖網膜症レーザー・硝子体手術・抗VEGF薬1~2か月ごと

単純網膜症なら経過観察で管理できるケースが多い

毛細血管瘤や点状出血が少数見られる程度の単純網膜症であれば、血糖コントロールを続けながら半年~1年ごとの検査で経過を見るのが一般的です。この段階で血糖値をしっかり管理できれば、進行を食い止められるケースも少なくありません。

ただし「軽度だから放っておいても大丈夫」と油断して受診を中断してしまうと、知らないうちに次の段階に進んでしまうことがあります。検査の間隔を医師と相談しながら守ることが大切です。

増殖前網膜症は出血や白斑が広がり始める段階

増殖前網膜症になると、軟性白斑の数が増え、静脈に変形(数珠状拡張)が見られることがあります。この段階では網膜への血流が低下しているため、2~4か月ごとの短い間隔で経過を観察し、悪化の兆候を見逃さないようにします。

状況に応じてレーザー光凝固術(網膜光凝固)を行い、酸素不足の領域を焼き固めて新生血管の発生を予防する治療が検討されることもあるでしょう。

増殖網膜症ではレーザーや硝子体手術が選択肢に入る

新生血管が確認された増殖網膜症では、汎網膜光凝固(はんもうまくひかりぎょうこ)と呼ばれるレーザー治療が広く行われます。網膜の周辺部を数百~数千か所にわたってレーザーで焼き、新生血管の増殖を抑える方法です。

硝子体出血や網膜剥離がすでに起きている場合には、硝子体手術によって出血を除去したり、剥がれた網膜を元の位置に戻す処置が必要になることがあります。近年は抗VEGF薬の注射を併用して新生血管の活動を抑え、手術の前後で視力の維持を目指す治療も広がっています。

血糖コントロールと眼を守る生活習慣

HbA1cを7%未満に維持できれば、糖尿病網膜症の発症リスクは大きく下がるとされています。眼科検査とあわせて、毎日の生活習慣でリスクを減らす工夫を取り入れていきましょう。

HbA1cの目標値を維持して網膜症の進行を抑える

大規模臨床試験であるDCCT(糖尿病コントロールと合併症試験)では、集中的な血糖管理を行ったグループは網膜症の発症リスクを最大76%低減できたと報告されています。この効果は治療終了後も長期間持続することが確認されており、早い時期から血糖値を適切に管理する意義は非常に大きいといえます。

指標目標の目安
HbA1c7.0%未満
空腹時血糖値130mg/dL未満
食後2時間血糖値180mg/dL未満

血糖値の急激な改善はかえって網膜症を一時的に悪化させることがあるため、主治医と相談しながら段階的にコントロールしていくことが望ましいでしょう。

高血圧と脂質異常症の管理が眼にも影響する

血糖値だけでなく、血圧と脂質の管理も網膜を守る上で欠かせない要素です。高血圧は網膜の血管に余計な負担をかけ、出血やむくみのリスクを高めます。

LDLコレステロールや中性脂肪の値が高い状態が続くと、硬性白斑の沈着が増えやすくなるとも指摘されています。内科での採血結果を眼科にも共有し、総合的にリスクを管理する姿勢が大切です。

禁煙・適度な運動・食事の見直しで予防力を高める

喫煙は血管の収縮を招き、網膜への酸素供給を妨げます。禁煙するだけでも網膜の血流環境は改善に向かうため、糖尿病と診断されたら早めに取り組みたい生活改善のひとつです。

ウォーキングや軽いジョギングなど、1日30分程度の有酸素運動は血糖コントロールの改善に役立ちます。食事面では、野菜やたんぱく質を先に食べて血糖値の急上昇を抑える「ベジファースト」を取り入れるのも効果的でしょう。無理のない範囲で続けることが、長期的に眼を守る力になります。

眼科受診前に準備しておくと安心な持ち物と注意点

内科の検査データを眼科医に共有するだけで、診察の精度と効率は格段に上がります。少しの準備で受診がスムーズになるため、初めての方もリピーターの方もぜひ確認しておいてください。

内科の検査データやお薬手帳を持参する

直近のHbA1cや血糖値の推移、血圧の記録があると、眼科医は網膜症のリスクをより正確に評価できます。お薬手帳も持参しておくと、服用中の薬と眼の状態の関連を確認するのに役立ちます。

  • 直近の血液検査の結果(HbA1c、血糖値、脂質など)
  • お薬手帳または服用中の薬のリスト
  • 血圧手帳(自宅で記録している場合)
  • サングラスまたは帽子(散瞳後のまぶしさ対策)

糖尿病連携手帳をお持ちであれば、内科と眼科の情報を一冊にまとめて共有できるため、受診のたびに持っていくとよいでしょう。

散瞳後はまぶしくて運転できないことを知っておく

散瞳検査を受けた後は、瞳孔が元に戻るまで4~6時間ほどかかります。その間は光がまぶしく感じられ、近くのものにピントが合いにくくなるため、車やバイクの運転は避けてください。

受診日に車で来院する予定の方は、家族の送迎を手配するか、公共交通機関への変更を検討しておきましょう。サングラスや帽子を持っていくと、帰り道のまぶしさを和らげられます。

仕事帰りより午前中の受診がおすすめな理由

散瞳の影響で検査後に手元が見えにくくなるため、午後に仕事やパソコン作業を控えているスケジュールのほうが快適に過ごせます。午前中に受診して、午後はゆっくり過ごすプランを立てると負担が少ないでしょう。

もし仕事帰りに受診する場合は、検査後にデスクワークが残っていないか確認しておくと安心です。受診当日のスケジュールを事前に整えておくだけで、気持ちにもゆとりが生まれます。

よくある質問

Q
糖尿病網膜症の眼底検査に痛みはありますか?
A

眼底検査自体に痛みはほとんどありません。散瞳のための点眼薬が少ししみることはありますが、数秒で治まります。検査中は光を当てられるため少しまぶしさを感じますが、痛みとは異なる感覚ですのでご安心ください。

蛍光眼底造影検査では腕に注射をするため針を刺す痛みがありますが、通常の採血と同程度です。造影剤で気分が悪くなる方がごくまれにいるため、体調に不安がある場合は事前に医師にお伝えください。

Q
糖尿病の眼科検査は初診でどのくらい時間がかかりますか?
A

初診の場合は問診や視力検査、眼圧測定、散瞳検査、眼底検査などを一通り行うため、1時間半~2時間程度かかることが多いです。散瞳薬が効くまでの待ち時間が15~30分ほどあるため、その分を含めた時間を想定しておきましょう。

2回目以降の定期検査では、状態が安定していれば1時間前後で終わるケースが一般的です。OCT検査を追加する場合でも、検査自体は数分で完了します。

Q
糖尿病網膜症が見つかっても視力は回復できますか?
A

初期の段階で発見し、血糖コントロールを改善すれば、網膜症の進行を止めたり遅らせたりすることが期待できます。視力への影響がまだ出ていない段階であれば、視力を維持できるケースが多いです。

糖尿病黄斑浮腫が生じている場合でも、抗VEGF薬の注射によってむくみが改善し、視力が回復する方もいます。ただし増殖網膜症まで進んでしまうと、治療をしても視力が元通りになるのは難しいことがあるため、やはり早期発見が鍵となります。

Q
糖尿病の眼科検査でコンタクトレンズは外す必要がありますか?
A

はい、眼科で検査を受ける際にはコンタクトレンズを外す必要があります。視力検査や眼圧測定はコンタクトレンズを装用したままでは正しい結果が出ないため、来院時にケースと保存液を持参してください。

散瞳検査後は数時間ピントが合いにくくなるため、検査当日はメガネで来院されることをおすすめします。使い捨てレンズをお使いの方は、帰りに新しいレンズを装用せず、メガネで帰宅するほうが快適でしょう。

Q
糖尿病網膜症の予防にサプリメントは効果がありますか?
A

現時点では、特定のサプリメントが糖尿病網膜症を確実に予防できるという科学的根拠は十分ではありません。ビタミンCやビタミンE、ルテインなどが眼の健康に関連するとする研究はありますが、網膜症の予防効果を示す大規模な臨床試験のデータは限られています。

サプリメントに頼るよりも、血糖値・血圧・脂質の管理を徹底し、定期的に眼科検査を受けることが、網膜症予防のもっとも確かな方法です。サプリメントの利用を検討される場合は、主治医に相談してから始めるようにしてください。

参考にした文献