脂質異常症徹底ガイド:症状、原因、種類、疫学をわかりやすく解説

「この前の健康診断でコレステロールが高いといわれたよ」

「私は中性脂肪が高いって言われた」

「医療機関を受診しましょうって健診結果の紙に書いてたよ」

「でも何も症状無いし、わざわざ病院に行くのもめんどくさいよね」

こういう状態の中高年の方は多くいらっしゃいます。

しかし、「脂質異常症(高脂血症)」は無症状の間に体をむしばみ、命に関わる心筋梗塞や脳梗塞などの原因となる非常に怖い病気です。

そのため症状がまだ出ていない間に医療機関を受診してしっかりと自分の状態を把握し治療することが非常に大事になってきます。

ただ、その「脂質異常症」が一体何なのかを知らないと、受診する気も治療する気も起きづらいのが人間というものです。

今回は「脂質異常症」がどのような病気なのか、その病気になると実際にはどのような事が起きるのか、世の中にはどのくらいの病気の人がいて、どういう合併症を起こしてしまうのかなどをわかりやすく解説していきます。

 

 

1. 脂質異常症は基本無症状だが、「黄色腫」・「脂肪腫」・「動脈硬化」などもチェック

脂質異常症(高脂血症)は基本的には「無症状」で見つかる事が一番多いです。

基本的には初期段階では特に症状が現れず、多くの場合、健康診断や定期的な血液検査で偶然発見されます。

しかし、その他に代表的な症状としては下記の様なものがあります。

①黄色腫

黄色腫とは、皮膚にコレステロールの沈着による黄色いしこりや斑点が現れることを言います。

体のどの部分にも発生する可能性がありますが、特にまぶたや手の関節周辺に現れることが多いです。

黄色腫自体は良性であり、痛みがあったり、癌に変わることは非常に稀です。

しかし、腫瘍が成長したり、その位置によっては、近くの組織や構造に圧迫を与えることがあり、痛みや不快感を生じることがあります。

DermNet(https://dermnetnz.org/topics/xanthoma)より引用

 

②腱脂肪腫

手や足の腱にコレステロールが沈着し、腱脂肪腫と呼ばれるしこりができてしまうことがあります。

通常、関節の近くの腱鞘に発生します。

良性腫瘍のためほとんどの場合、痛みはありませんが、腫瘍が徐々に大きくなってくると、関節の動きや機能に影響を及ぼすことがあります。

腱や周囲の組織を圧迫する場合、痛みや不快感が生じることがあります。

DermNet(https://dermnetnz.org/topics/xanthoma)より引用

 

③動脈硬化

動脈硬化は、動脈の内壁にプラーク(脂質、炎症細胞、繊維組織などからなる堆積物)が形成される病態です。

血液中の脂質が動脈の内壁に取り込まれると、酸化されて、その場所に炎症反応を引き起こします。

高LDLコレステロールや高中性脂肪(トリグリセリド)の状態は、動脈の内壁にプラークを形成するリスクを増加させてしまいます。

また、HDLコレステロールが低いと、プラークの除去が困難になり、動脈硬化のリスクが増加します。

その結果、のプラークが増加すると、動脈が狭窄し、血流が制限される可能性が高くなります。

また、プラークが破裂すると、血栓が形成され、心筋梗塞や脳卒中の原因となることがあります。

 

④心血管疾患

長期的に脂質の値が高いと、上記の動脈硬化が進んでしまいます。

動脈にプラークが増加し、血管が狭窄してしまったり、プラークの破綻で血栓が作られてしまった結果、冠動脈疾患(心筋梗塞を含む)、脳卒中、末梢動脈疾患などの病気が、引き起こされてしまうことが多いです。

 

⑤急性膵炎

急性膵炎の最も一般的な原因は、胆石症やアルコール摂取です。

しかし、高中性脂肪(トリグリセリド)は、膵臓の小動脈を塞ぐ微小な脂肪塊を形成する可能性があります。

これにより、膵臓組織の炎症や壊死が引き起こされることが考えられており、膵炎のリスクを高める可能性があります。

 

以上のような症状が出て来るほど経過した場合は、命に関わる状態になってしまい、取り返しがつかなくなってしまうこともあるため、無症状の間に発見し、治療していく事を目指すべきです。

そのためには、定期的な健康診断や血液検査が重要となってきます。

 

 

2. そもそも脂質ってなに?人間にとって無くてはならない重要性を解説

そもそも、脂質とは一体何でしょうか?

そして、人間の体にとって、どう重要なのでしょうか?

 

脂質は、脂肪や油の成分として知られる有機化合物の一群です。

脂質は主にトリグリセリド、リン脂質、コレステロールなどから成り立っており、これらは水には溶けにくい性質を持っています。

 

そして、人の体にとって脂質は、以下の5つの点で重要な物質です。

 

① エネルギー源

脂質は主要なエネルギー源として機能します。

1gの脂質は9kcalのエネルギーを生み出しますが、これは糖質や蛋白質が1gあたり4Kcalであることを考えると、とても効率の良いエネルギー源となります。

基本的には炭水化物からのエネルギーが使い果たされそうになると、体は脂質をエネルギーとして利用します。

特に、長時間の運動や断食時には脂質のエネルギーが重要となります。

 

② 細胞の構造

脂質は細胞を構成するもののうち、細胞膜の主要な成分です。

細胞の構造と機能を維持する役割を果たします。

 

③ 臓器の保護と体温保持

人はエネルギー源として脂質を脂肪組織として蓄えます。

これは同時に体の内部の臓器を保護し、衝撃から守るクッションとして機能します。

また、体温を保つための絶縁材としても機能します。

 

④ ビタミンの吸収

脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)は脂質の存在なしには体に吸収されません。

これらのビタミンは健康を維持するために不可欠なものであり、脂質と共に接種するのが重要となってきます。

 

⑤ ホルモンの生成

脂質は、ステロイドホルモンの生成に必要な原料として機能します。

これらのホルモンは、体の成長、発育、代謝などの多くの生理的プロセスを調節・機能させるために不可欠なものです。

 

以上のようにて、脂質は人の体の多くの基本的な機能をサポートするために不可欠です。

しかし、脂質があまりに多すぎる・少なすぎると脂質異常症となってしまいますので注意が必要です。

 

 

3. 「脂質の取り過ぎ」が一番問題!脂質異常症の原因と発症メカニズムを知ろう

脂質異常症が発症するメカニズムは様々な要因が影響しています。

例えば食べ過ぎ、肥満、運動不足、喫煙、アルコールの飲み過ぎ、ストレスなどがかんがえられています。

 

そもそも脂質の多い食事を取り過ぎることが第1の原因です。

食事の際、飽和脂肪酸を取り過ぎるとLDLコレステロールを高くする主な原因となってしまいます。

飽和脂肪酸は、肉の脂身、バター、ラード、生クリーム、加工食品などに多く含まれています。

食事中のコレステロールもLDLコレステロールを上げる要因となりますが、飽和脂肪酸に比べると影響は小さいですが、過剰摂取は避けるべきです。

なお、食品中のコレステロールは、鶏卵の黄身や魚卵などに多く含まれています。

またその他には、特に肥満による脂質代謝の変化が主要な原因の一つとされています。

肥満により、脂肪細胞からの過剰な脂肪酸放出が引き起こされます。

この脂肪酸は、肝臓でのVLDL(Very Low Density Lipoprotein)を余分に作ってしまったり、循環中のトリグリセリド(TG)の分解が低下してしまうことで、血中のTG濃度が上昇します。

また脂質を取り過ぎると、腸管からの脂質吸収が進みすぎてしまい、腸管リポタンパク質の産生が増加することで、血中のLDL(Low Density Lipoprotein)コレステロール濃度が上昇することもあります。

さらに、脂肪酸が増加することで、肝臓での脂肪酸合成が亢進します。

この結果、肝臓でのVLDLがたくさん作られてしまい、血中のLDLコレステロール濃度が上昇することがあります。

「役に立つ薬の情報~専門薬学」より引用 https://kusuri-jouhou.com/domestic-medicine/dyslipidemia3.html

さらに、脂質の取り過ぎによるエネルギー過剰の結果、肥満になってしまい、脂肪細胞内のアディポネクチンの分泌が低下することがあります。

アディポネクチンは、インスリン感受性を改善する作用があり、その低下はインスリン抵抗性を引き起こすことが知られています。

インスリン抵抗性は、脂質異常症の発症にも関与しています。

こうしたメカニズムによって、脂質異常症が発症してしまうというわけです。

「広島市医師会だより (第517号 付録)」より引用https://www.city.hiroshima.med.or.jp/hma/center-tayori/200905/center200905-06.pdf

 

 

4. 脂質異常症の分類で知るべき「4種類」と「2種類」

脂質異常症は、前述のように血液中の脂質の異常によって引き起こされる疾患ですが、脂質異常症の種類によって、治療法や予防法が異なるため、しっかりと種類を分ける・知っておくことが重要です。

どの脂質が高いかによって分類する方法では、以下の4つの種類があります。

 

①高LDLコレステロール血症

高LDLコレステロール血症は、血液中のLDLコレステロール濃度が高く、HDLコレステロール濃度が低い状態を指します。

LDLコレステロールは動脈硬化の原因となるため、高コレステロール血症は心血管疾患のリスクを増加させることが知られています。

 

②低HDLコレステロール血症

HDLコレステロール(善玉コレステロール)の濃度が低い状態を指します。

喫煙、運動不足、肥満、遺伝的要因、糖尿病などが原因として考えられています。

HDLは動脈のコレステロールを取り除く役割があるため、その濃度が低いと心臓病のリスクが上昇してしまいます。

 

③高トリグリセリド血症

高トリグリセリド血症は、血液中のトリグリセリド濃度が高い状態を指します。

高トリグリセリド血症はアルコールの過剰摂取、食事の脂質の摂取過多が主な原因とされています。

同時に肥満や糖尿病などの代謝異常が原因となることも多く、心血管疾患のリスクを増加させることが知られています。

 

④混合型脂質異常

混合型脂質異常は、高コレステロール血症と高トリグリセリド血症が併存する状態を指します。

混合型脂質異常は、心血管疾患のリスクを増加させることが知られており、高コレステロール血症や高トリグリセリド血症の治療法を組み合わせた治療が必要です。

 

また、この他、脂質異常症の原因による分類方法もあります。

 

(a.)家族性高コレステロール血症(原発性高脂血症)

家族性高コレステロール血症(FH)は、遺伝的な原因で血中のコレステロールが高くなる病気です。

特定の遺伝子の変異(LDL-Cの代謝に関与する遺伝子、特にLDL受容体遺伝子(LDLR)、アポリポ蛋白B遺伝子(APOB)、プロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型遺伝子(PCSK9))が原因で、両親のどちらかから変異遺伝子を受け継ぐだけで発症します。

この病気の人は、コレステロールを血流からうまく取り除けず、動脈にコレステロールがたまりやすくなります。

その結果、冠動脈疾患、心臓発作、脳卒中などの動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクが高まります。

また、目の周りなどにコレステロールがたまる「黄色腫」という症状も現れることがあります。

診断は家族の病歴や身体診察、血液検査などで行われ、必要に応じて遺伝子検査も行われます。

 

(b.)続発性(二次性)脂質異常症(高脂血症)

二次性脂質異常症は、他の病気や生活習慣、薬などが原因で血中の脂質が増加する状態です。

これは家族性高コレステロール血症といった遺伝的な原因で起こる原発性(一次性)高脂血症とは異なります。

二次性脂質異常症は生活習慣が原因となるものが一般的です。

肥満、運動不足、アルコールの過剰摂取、喫煙、不健康な食事(例:トランス脂肪酸や飽和脂肪酸が多い食事)などが原因となって起きることが多いです。

その一方、病気によって脂質異常症が起きてしまう事もあります。

病気としては、肝硬変や肝炎などの肝疾患、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群(腎障害)、メタボリックシンドローム、糖尿病などがあります。

特に甲状腺機能低下症によるものは見逃されやすいため注意が必要です。

 

4. 成人男性の約40%、女性の約48%が脂質異常症か予備群!?脂質異常症の疫学を詳しく解説

脂質異常症の疫学については、世界中で調査が行われています。

まず、高LDLコレステロール血症は、世界中で最も一般的な脂質異常症であり、成人の約40%が罹患している、あるいは予備軍であると言われています。

また、高トリグリセリド血症は世界中で約13%の成人が、低HDLコレステロール血症は世界中で約20%の成人が罹患している、あるいは予備軍であると言われています。

これらの数字は地域によって異なるものの、脂質異常症が世界中でかかっている人が多いことを示しています。

脂質異常症のトレンドについては、いくつかの傾向があります。

高LDLコレステロール血症の割合は、高所得国で高く、低所得国では低い傾向があります。

一方、高トリグリセリド血症の割合は、低所得国で高く、高所得国では低い傾向があります。

低HDLコレステロール血症の割合は、高所得国と低所得国の両方で同様に高い傾向があります。

 

また、日本においても様々な報告がされています。

平成27年に報告された厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、日本の成人で高LDLコレステロール血症の人は、男性で約20%、女性で約25%でした。

また、脂質異常症予備群といわれる境界域高LDLコレステロール血症(120~139mg/dL)の方は、男性で約20%、女性で約24%でした。

合わせると。全体として男性の約40%、女性の約48%が脂質異常症か予備群という状況です。

しかし、脂質異常症が疑われる方のうち、コレステロールを下げる薬や中性脂肪を下げる薬の飲む治療を受けているのは男性の61%、女性の89%だけで、多くの人が未治療の状態です。

こうした高い発症率や未治療の方が多いこと、また男性が女性に比して治療に前向きでないことは問題です。

この状況を考えると、脂質異常症のリスクや治療の重要性についての啓発活動を強化したり、定期的な健康診断を勧めたりする必要があります。

特に男性向けの健康啓発キャンペーンや健康情報提供が必要かもしれません。

 

5. まとめ

脂質異常症は、初期段階では無症状で、多くは健康診断や血液検査で発見されます。

症状としては、皮膚に現れる黄色腫、手足の腱にできる腱脂肪腫、動脈の内壁に脂質が堆積して起こる動脈硬化、心血管疾患、そして高中性脂肪による急性膵炎などがあります。

これらの症状が進行すると、命に関わることもあるため、早期発見・治療が重要です。

 

脂質は、脂肪や油の成分として知られる有機化合物で、エネルギー源、細胞の構造、臓器の保護、ビタミンの吸収、ホルモンの生成など、人の体にとって多くの基本的な機能を果たします。

しかし、多すぎるまたは少なすぎると脂質異常症を引き起こす可能性があります。

 

脂質異常症の原因として、食事の脂質摂取が多すぎること(特に飽和脂肪酸の過剰摂取)、肥満、運動不足、喫煙、アルコールの過剰摂取、ストレスなどが挙げられます。

特に、肥満は脂質代謝の変化を引き起こし、脂質異常症の主な原因となります。

食事中のコレステロールや飽和脂肪酸の取り過ぎは、LDLコレステロールの上昇を引き起こします。

また、肥満による脂肪酸の増加やエネルギー過剰は、肝臓での脂質の合成や分泌を亢進させ、LDLコレステロールの上昇やインスリン抵抗性の発症を引き起こすことが知られています。

 

そして、脂質異常症はその種類によって治療法や予防法が異なります。

主な種類としては、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症、混合型脂質異常があります。

特に、高LDLコレステロールは心血管疾患のリスクを増加させることが知られています。

また、原因による分類としては、家族性高コレステロール血症と二次性脂質異常症があります。

家族性高コレステロール血症は遺伝的な原因で、特定の遺伝子の変異が関与しています。

一方、二次性脂質異常症は生活習慣や他の病気が原因となるもので、肥満や糖尿病などが関与しています。

 

脂質異常症の疫学に関しては、高LDLコレステロール血症は世界中で最も一般的で、成人の約40%が罹患しているとされています。

日本の状況を見ると、男性の約40%、女性の約48%が脂質異常症か予備群とされていますが、治療を受けているのは男性の61%、女性の89%だけです。

この高い発症率や未治療の状態は問題であり、啓発活動の強化や健康診断の推奨が必要とされています。特に男性に対する健康啓発が求められています。

以上のように、脂質異常症は食生活や生活習慣に密接に関連しており、適切な生活習慣の維持が予防・治療の鍵となります。

 

そのため、

・今回健康診断でコレステロールや中性脂肪が高いと言われた

・特に症状無いけれども、前から上記指摘されている

・黄色腫などの症状がある

・家族や親戚で脂質異常症の方が多い

といった方は、一度かかりつけや近隣の医療機関に受診して、診察してもらいましょう。

 

もちろん脂質異常症の診断を正確に行うには、採血検査などが欠かせません。

そのため最終的には専門の内科・代謝内分泌内科での診察が推奨されますが、先ずは地域の医師に相談することをおすすめします。

 

 

6. 参考文献

Kopin, Laurie, and Charles J. Lowenstein. “Dyslipidemia.” Annals of internal medicine 167.11 (2017): ITC81-ITC96.

Berberich AJ, Hegele RA. A Modern Approach to Dyslipidemia. Endocrine Reviews. 2022 Jul;43(4):611-653.

Schofield, J.D., Liu, Y., Rao-Balakrishna, P. et al. Diabetes Dyslipidemia. Diabetes Ther 7, 203–219 (2016).

厚生労働省 「平成27年国民健康・栄養調査報告」

日本老年医学会 「高齢者脂質異常症 診療ガイドライン2017」

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