気づかぬうちにやってくる怖い「糖尿病の合併症」その1:神経障害

みなさんは糖尿病の合併症・併存症について、どの程度ご存じでしょうか?

合併症を知ると治療の目的・目標を知ることができ、今後の治療のモチベーションにもつながります。

ご自分・ご家族の病気について、一緒に勉強していきましょう。

 糖尿病で長期間血糖値が高い状態が続くと、様々な合併症・併存症が引き起こされます。

血管へのダメージが強いため、小さい血管が多数集まっている臓器に障害をきたしやすいのが特徴的です。

糖尿病の合併症の覚え方は「しめじ」が有名です。

し:神経障害

め:目、網膜症

じ:腎臓

糖尿病神経障害は、糖尿病特有の左右対称で、末梢側(手先・足先)によく起きる多発神経障害であり、普段の我々の診療でも
最も高頻度にみられる慢性合併症の一つであり、糖尿病 3 大合併症のひとつに数えられています。

今回はその3大合併症中でも、特にわかりにくい神経障害に関して、それがどのようなものかご説明させていただきます。

1. なぜ神経障害の症状があらわれてくるの?

まず、からだの中の神経系は、大きく2つに分けられます。

・中枢神経系

・末梢神経系

中枢神経系脳と脊髄のことであり、感覚など受け取った情報をまとめて総合的に判断し、適切な指令を出すの事が主な役割です。

一方、末梢神経系は大きく2つに分けられます。

・体性神経系 = 感覚神経、運動神経

・自律神経系 = 交感神経、副交感神経

末梢神経系は主に、中枢神経系とからだの内の臓器や外の皮膚などの色々な器官に分布する神経とを結んでおり、その間の情報のやりとりを行っています。

末梢神経は、体の至る所に張り巡らされているため、多数の細い血管で栄養を送る必要があります。

そのため、神経を栄養しているたくさんの細い血管が障害されることで、神経障害がでてきます。

末梢神経は、上記の通り大きく分けると感覚神経・運動神経・自律神経に分かれていますが、どの神経が障害されるかで出てくる症状が違います。

また、長い神経から障害されるため、一般的には足から症状がでてくることが多いです。

2. 感覚神経が障害されると「異常感覚」・「痛み」・「無感覚」

・ピリピリ・じんじんとした異常感覚や痛み

・触っている感覚がわかりにくくなる

などが主な症状です。

 異常な感覚や痛みなどは本来ないものが出てくる(陽性症状といいます)ので気づきやすいですが、感覚が低下するなどの本来の神経機能が低下して起こる症状(陰性症状といいます)は、ご本人も主治医も気づきにくいため注意が必要です。

とくに足の感覚が低下すると、足の傷に気づきにくくなるため、お風呂などで毎日自分の足の裏に傷がないかチェックするようにしましょう。

傷ができても感染しないように常に清潔にして保湿しておくのも大切です。

3. 運動神経が障害されると「足のつり」・「見えにくい」

 ・こむら返り

 ・足先が垂れて歩きにくくなる。

 ・眼球を動かすのが不自由になって、ものが二重に見える

などが主な症状です。

こうした運動神経障害のため、生活が不自由になったり、けがしてしまいやすくなったりします。

4. 自律神経が障害されると「汗をかかない」・「立ちくらみ」・「下痢や便秘」

・汗をかきにくくなる 

 汗をかくということも自律神経の働きによるものです。

自律神経障害によって、皮膚の一部分だけ汗が出なくなったり、逆に異常に汗をかいたりします。

また、汗をかきにくいことで足が乾燥してひび割れ、足の傷の原因になることもあります。

・立ちくらみが起こりやすくなる

 普通であれば、立ち上がった時に脳に行く血流を減らさないように血管が細くなって調節しますが、糖尿病がしんこうするとこの調整が上手くいかなくなってしまい、立ち上がるときにたちくらみやふらつきが起きます。

大丈夫だと思っても、立ち上がるときはゆっくり立ち上がるようにしましょう。

・消化管の動きが麻痺して、下痢・便秘になる

  胃の動きが悪くなって健常な方と比べて食べ物の吸収のタイミングが異なり、血糖値の上昇のタイミングが変化するため、治療に難渋する原因となることもあります。

5. ついには命にかかわる、怖い神経障害

神経障害が進行していると命に関わることもあります。

例えば、

傷があっても痛みに気づかず放置してしまい感染したり壊疽が広がり足を切断したり

心筋梗塞が起こっていても痛みを感じずに治療が遅れたり

低血糖症状がわかりにくくなって急に倒れたり

そのため、合併症を進行させないことは非常に重要です。

①神経麻痺・壊疽

 感覚神経の障害が進行していくと、「熱い」・「冷たい」・「痛い」という感覚が感じにくくなってきます。

そのため、負ってしまったけがや火傷に気づかず放置してしまい、傷が悪化しているのを気付かず、ついには潰瘍や壊疽へと進行させてしまいます。

特に足は壊疽になりやすく、長期間傷が治らない、場合によっては足を切断せざるを得ない状態となってしまいます。

②無症候性低血糖

 様々な原因で低血糖になっても、神経が障害されているため、からだが適切に反応できず、血糖値を上げるホルモンが分泌されなくなります。

また、低血糖の症状である「冷や汗」、「動悸」、「手足のふるえ」などが起きにくくなり、低血糖であることを自分で自覚できなくなります。

その結果、突然意識がなくなったりするため、非常に危険です。 

③突然死

 神経障害が進行してくると、様々な感覚が感じられなくなってきます。

例えば、心筋梗塞や狭心症になると激しい胸痛があるのが普通ですが、心臓の神経が障害されるとそれを感じられなくなってしまい(無痛性心筋虚血)、その結果治療が遅れて、死につながるような大きな発作に突然みまわれる危険性が大きくなります。

神経障害があるときには症状が軽いようにみえても、実際は重大な病状になっていることが少なくないのです。

無症候性低血糖による意識消失、無痛性心筋虚血による発作に加え、致命的な不整脈や呼吸の停止を起こしやすくなり、突然死の危険が高くなります。

6. どうしたら神経障害にかかっているかわかるの?

糖尿病神経障害の簡易診断は診察室で簡単にできます。

まず、

・糖尿病があること

・他の原因による末梢神経障害ではない

事に加え、

  • 自覚症状(しびれ・疼痛・異常感覚)がある
  • 両側アキレス腱反射の低下または消失
  • 両側内踝振動覚低下

この3項目のうち2項目を満たす場合、“神経障害あり”と判断します。

この検査は特に痛みを感じたり傷をつけたりすることなく受けることができる検査です。

糖尿病患者では、

①神経伝導速度(精密検査でのみわかるものです)

②感覚神経機能(振動覚・触覚閾値,アキレス腱反射)

③自律神経機能(心拍変動検査,起立試験など)

④運動神経
機能(足の筋力,複合筋活動電位など)

の順に神経機能障害が進行するとの報告があり、そのため上記の診察でもこうした神経機能を十分に検査・判断することができるというわけです。

*しびれや痛み・麻痺がでてくる病気は糖尿病以外にもあるため、糖尿病以外の疾患を除外することは重要です。

*検査器具の有無は施設によって異なります。

7. 予防・治療する方法はありますか?

神経障害の進行を予防するためには、血糖値を良好な範囲内にする必要があります。

そもそもの糖尿病の治療を適切に行って、ちゃんと継続することで進行を予防できるので、しっかり通院を続けていきましょう。

また、高血糖が長期間続いている場合、治療によって急に血糖値を下げると、症状が強くなることがありますが、多くは時間をかけて改善することが多いです。

そして、しびれや痛みが強い場合、お薬で症状の改善が期待できることもあります。

また、足潰瘍や壊疽を予防するために、糖尿病患者さんは次のようなことを心がけることが重要です

  1. 血糖値を適切に管理し、糖尿病性神経障害の進行を遅らせる。
  2. 足のケアを習慣化し、毎日足をチェックして異常を早期に発見する。
  3. 適切な靴下や靴を選び、足への圧迫や摩擦を減らす。
  4. 定期的に足の検査を受け、早期に問題があれば医療従事者に相談する。
  5. 喫煙をやめることで、血流改善に役立てる。

8. まとめ

糖尿病の神経障害は、高血糖のため、神経を栄養しているたくさんの細い血管が障害されることで症状が出てきます。

その際、感覚神経・運動神経・自律神経のどこがやられるかによって症状がかわってきます。

感覚神経が障害されると、ピリピリした異常感覚や痛み、触られてもわかりにくいなどの症状が起きます。

運動神経が障害されると、足がつりやすくなったり、ものが二重に見えて来たります。

自律神経が障害されると、汗をかかなくなったり、立ちくらみが起きやすくなったり、下痢や便秘になってしまったりします。

そして、神経障害が進行して酷くなると、足が壊疽してしまい切断する事になったり、心筋梗塞にかかっても胸の痛みなどがないため治療が遅れたり、突然死してしまうこともあり得ます。

こうした怖い神経障害は、専門医の適切な診察によって診断することが出来ます。

また、基本の糖尿病の治療をしっかりと行う事で、症状の進行を止めたり、症状を軽減したりする事ができます。

場合によっては、神経症状の抑えるお薬などを飲むことで症状を軽くすることが出来ます。

糖尿病の神経障害の正確な診断には、専門医の適切な診察・検査がが大切な為、最終的にはちゃんとした糖尿病内科の医療機関で診て貰うべきですが、まずはかかりつけ医や近くのクリニック・病院を受診して相談してみることが大事です。

9. 参考文献

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