夜間の睡眠中に無呼吸や低呼吸が繰り返される状態を「睡眠時無呼吸症候群」と呼びます。
眠っている間の呼吸の乱れは身体だけでなく心の健康にも影響を及ぼします。深い眠りを維持できず、日中に眠気や集中力の低下などが起こりやすくなります。
さらに放置すると高血圧や心臓病、脳卒中などのリスクが高まるので早めに対策を考えることが重要です。
この記事では睡眠時無呼吸症候群の特徴や原因、検査方法、治療方法、生活習慣との関係などを総合的に解説します。
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群は眠っているあいだに呼吸が断続的に止まったり浅くなったりすることによって質の良い休息が得られない状態です。
自覚症状が少なく、本人よりも家族が先に気づく場合が多いです。
ここでは睡眠時無呼吸症候群の定義や種類、患者数、そして放置することで起こりうるリスクを紹介します。
定義
睡眠時無呼吸症候群とは睡眠中に10秒以上続く無呼吸、もしくは正常な呼吸の半分以下になる低呼吸が1時間あたり5回以上生じる状態を指します。
無呼吸がひどくなると日中の激しい眠気を引き起こすため仕事や学業、運転などのパフォーマンスを下げる原因になります。
睡眠時無呼吸の基本的な診断基準
指標 | 内容 |
---|---|
無呼吸の定義 | 10秒以上呼吸が止まる |
低呼吸の定義 | 正常呼吸の50%以下に換気量が落ちる |
発生回数 | 1時間あたり5回以上 |
影響 | 日中の眠気、集中力低下、血圧上昇、心血管リスクの増大など |
種類
睡眠時無呼吸症候群には主に「閉塞性」「中枢性」「混合性」の3つのタイプがあります。
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群
上気道(喉や鼻まわりなど)の狭窄や閉塞によって空気の通り道が塞がり、無呼吸や低呼吸が生じます。肥満や顎の骨格などが主な要因になります。 - 中枢性睡眠時無呼吸症候群
脳から呼吸指令が正常に送られないことで呼吸運動が停止し無呼吸状態になります。心不全や神経疾患などが関連する場合があります。 - 混合性睡眠時無呼吸症候群
閉塞性と中枢性が混在して起こるタイプです。上気道の狭窄と脳からの指令異常の両方が関与します。
日本での患者数
日本においては睡眠時無呼吸症候群の有病率が中高年男性で比較的高く、潜在的な患者は想像以上に多いと考えられています。
自覚症状が乏しい場合があるため検査を受けずに見過ごしている人もいます。
睡眠時無呼吸症候群の推定有病率
年齢層 | 性別 | 推定有病率 |
---|---|---|
30代〜 | 男性 | 約3〜5%とされることが多い |
30代〜 | 女性 | 男性よりやや低い |
50代〜 | 男性 | 約10%近くまで上昇 |
50代〜 | 女性 | 更年期以降に増加傾向 |
放置によるリスク
無呼吸症候群を放置すると高血圧や心筋梗塞、脳卒中などの重篤な病気のリスクを高めます。
夜間に頻繁に呼吸が止まると血中の酸素濃度が下がり、循環器系に負担がかかるためです。
肥満がある人はさらに影響が大きくなるため早めにクリニックで診断を受けることが大切です。
睡眠時無呼吸症候群の原因
睡眠時無呼吸症候群が引き起こされる要因はひとつではなく、多岐にわたります。
ここでは上気道の狭窄や肥満、骨格的要因、その他の疾患との関連など主な原因を紹介します。
上気道の狭窄
上気道の筋肉が睡眠中に弛緩し、舌根や軟口蓋が落ち込むと気道が狭くなります。
特に仰向けで寝る場合や深い眠りに入り筋肉がゆるんだときに起こりやすいです。
上気道が狭窄しやすい原因
要因 | 内容 |
---|---|
舌根の沈下 | 寝ている間に舌の付け根が喉の奥へ落ち込む |
扁桃肥大 | 扁桃腺の肥大で喉の空間が狭くなる |
軟口蓋のゆるみ | 加齢や肥満により軟口蓋が落ち込みやすくなる |
アレルギー | 鼻づまりによって口呼吸が増え、気道が狭くなる |
肥満や生活習慣
肥満は首まわりにも脂肪がつきやすく、気道周辺が狭くなります。
高カロリーの食事やアルコールの摂取、運動不足も無呼吸症候群のリスクを高める一因です。
肥満が及ぼす悪影響
- 首まわりや舌にも脂肪がつきやすく気道が塞がる
- 血圧や血糖値のコントロールが乱れやすい
- 日中の活動量が低下し睡眠のリズムが乱れやすい
骨格と構造的要因
顎の骨格や鼻の構造など生まれつきの要因でも気道が狭くなり、睡眠時無呼吸を起こしやすくなります。
下顎が後退している人や鼻中隔が湾曲している人は要注意です。
他の疾患との関係
心不全や甲状腺機能低下症、アクロメガリー(成長ホルモン過剰分泌症)などでは睡眠時無呼吸が合併しやすいです。
循環器や内分泌系の病気がある場合は主治医による継続的な観察が必要です。
睡眠時無呼吸症候群の症状と特徴
睡眠時無呼吸症候群は自分では気づきにくいケースが多いですが、周囲からの指摘や日常生活での不調によって発覚することがあります。
ここでは症状の特徴を紹介し、早期発見につなげられるようにまとめます。
日中の眠気
夜間に十分な休息を得られないため日中の強い眠気が代表的な症状です。
仕事中や運転中に睡魔に襲われることが増えると重大な事故につながる恐れがあります。
日中の眠気によって起こりやすいトラブル
トラブルの種類 | 内容 |
---|---|
仕事上のミス | 集中力や判断力の低下で作業効率が落ちる |
居眠り運転 | 運転中に意識が薄れ事故リスクが増加 |
学業パフォーマンス低下 | 授業中の居眠りで理解度が下がる |
家庭内での不和 | 会話中にうとうとしてしまい、周囲の理解が得にくい場合もある |
夜間のいびきや呼吸停止
睡眠時無呼吸症候群がある人はいびきが大きく、呼吸が止まっているように見える瞬間があります。
家族やパートナーがその異常に気づくことで受診に至ることも少なくありません。
いびきや呼吸停止が周囲に与える印象に関するリスト
- 寝室をともにする家族が不安を感じる
- いびきの音量によっては睡眠の妨げになる
- 急に呼吸が止まる姿を見て驚かれる
起床時の頭痛
夜間に十分な酸素が行き渡らない状態が繰り返されるため、起床時の頭痛や集中力の低下が見られる場合があります。
特に朝方に頭が重く感じたり、ぼんやりしたりする人は無呼吸症候群の疑いを考慮するとよいでしょう。
眠りの質の低下
睡眠中に何度も呼吸障害が生じると脳が覚醒状態に近くなります。
本来深い睡眠をとるはずの時間に十分休めていないため、夜間にトイレに頻繁に起きる夜間頻尿が増えるなど、さまざまな形で眠りの質が落ちやすくなります。
睡眠の質の低下に関連する主な症状
症状 | 特徴 |
---|---|
夜間頻尿 | トイレに起きてしまい深い睡眠が続かない |
逆流性食道炎 | 横になる時間が長く胃酸が逆流しやすくなる |
むずむず脚症候群 | 足の不快感によって眠りが浅くなる |
不安感・抑うつ | 十分な休息が得られず気分が落ち込みやすい |
身体への影響
睡眠時無呼吸症候群は夜間の酸素供給が不十分になることで心臓や血管、脳などにさまざまな影響を与えます。
ここでは身体に起こりうる代表的なリスクを整理して日常生活への影響を考えます。
循環器への負担
夜間に低酸素状態が繰り返されると心臓が頑張って全身に酸素を送り出そうとするため、血圧が上昇しやすくなります。
高血圧が持続すると心筋梗塞や心不全などのリスクが高まる傾向があります。
循環器への負担がもたらす症状
- 早朝高血圧
- 動悸や不整脈の頻度が増える
- 心不全の悪化を誘発する可能性
脳機能への影響
深い睡眠は脳にとって大切な休息時間ですが、無呼吸症候群によって頻繁に中断されると記憶力や集中力が低下する恐れがあります。脳卒中の要因となることもあるため軽視できません。
メンタル面への影響
慢性的な睡眠不足は気分障害や不安症状を助長します。
イライラしやすくなり、対人関係がぎくしゃくすることもあります。昼間の眠気が続くことで活動量が減り、意欲が低下するケースも見られます。
メンタル面への影響
心理的な状態 | 具体例 |
---|---|
不安 | 十分に眠れていないため常に落ち着かない |
抑うつ傾向 | 生活リズムが乱れ気分が沈みがちになる |
イライラ感 | 些細なことに対して過剰に反応しやすくなる |
気力の減退 | やる気が起きず家事や仕事へのモチベーションが下がる |
生活の質の低下
睡眠の質が下がると日中の活動にも大きく影響します。
長期的には仕事や学業の効率が悪くなり、家族や友人との交流も減って生活そのものに支障が出る可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群の検査方法
睡眠時無呼吸症候群を正確に診断するには、さまざまな検査を行う必要があります。
ここでは代表的な検査方法や検査によってわかることを解説します。
問診と身体診察
医師が問診で日中の眠気やいびきの状態、生活習慣などを詳しく確認します。
身体診察では首まわりの太さ、顎や口蓋の形状、扁桃腺の状態などをチェックします。
問診でよく聞かれるポイント
- 日中どのくらい眠気を感じているか
- 大きないびきを指摘された経験があるか
- 夜間に何度も目が覚めるか
- 朝起きた時の頭痛や倦怠感の有無
- 高血圧や糖尿病などの持病の有無
終夜睡眠ポリグラフ検査
「ポリソムノグラフィー(PSG)」とも呼ばれる検査で睡眠中の脳波や眼球運動、筋電図、呼吸の状態、心電図などを総合的に測定します。
1晩入院または専門の検査室で寝ている間にデータを取るため、より正確な診断が期待できます。
終夜睡眠ポリグラフ検査で測定する主な項目
測定項目 | 意義 |
---|---|
脳波 | 睡眠段階の把握 |
心電図 | 心拍数や不整脈の検出 |
呼吸フロー | 無呼吸や低呼吸の頻度とタイプの判別 |
酸素飽和度 | 血中酸素の低下がどの程度起こっているかを確認 |
いびき音 | いびきの音量やタイミング |
簡易検査
在宅で行う簡易検査では鼻や口の呼吸量、酸素飽和度、いびきの有無などを測定します。
終夜睡眠ポリグラフ検査ほど詳細ではありませんが、病院に泊まらなくても良い点が利点です。
簡易検査の結果が悪かった場合は改めてポリソムノグラフィーで精密検査を行うことが多いです。
他の検査手法
耳鼻咽喉科的な内視鏡検査やCT、MRIなどで上気道の構造を詳しく調べる場合があります。
顎の形態や鼻腔の狭窄を確認することによって手術が適しているかどうかの判断に役立ちます。
治療方法と生活習慣の改善
睡眠時無呼吸症候群の治療は症状の重さや原因によって異なります。CPAPやマウスピースなどの専門的な治療だけでなく、生活習慣の見直しも欠かせません。
ここでは代表的な治療法と日常で取り入れたい改善方法を紹介します。
CPAP療法
CPAP(シーパップ)療法とは就寝時に鼻や口を覆うマスクを装着し、一定の陽圧を送ることで気道を保つ治療です。
無呼吸や低呼吸の回数が大幅に減り、多くの患者が症状の改善を実感します。
装着に慣れるまでに時間がかかる場合がありますが、効果が期待できる治療法として広く利用されています。
CPAP治療を継続するメリット
- 夜間の呼吸停止が大幅に減少し、深い眠りを得やすくなる
- 朝の頭痛や日中の眠気が軽くなる
- 血圧や血糖値のコントロールが安定しやすくなる
- 心血管リスクの低減につながる
マウスピース療法
軽症から中等症の睡眠時無呼吸症候群で閉塞性の場合、マウスピースによって下顎を前方に保つ方法があります。これにより上気道が広がり、無呼吸の回数を減らします。
歯科医による型取りが必要で、定期的な調整で効果を維持します。
CPAP療法とマウスピース療法の比較
項目 | CPAP療法 | マウスピース療法 |
---|---|---|
対応可能な症状 | 中等症〜重症の閉塞性無呼吸症候群など | 軽症〜中等症の閉塞性無呼吸症候群 |
主な効果 | 気道を空気圧で常時開放 | 下顎を前方に出して気道を確保 |
使用感 | 毎晩マスクを装着し空気圧に慣れる必要あり | マウスピースを装着、慣れる必要あり |
メンテナンス | 機器の定期点検が必要 | 歯科医での再調整が必要 |
外科的治療
重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群で顎の骨格や扁桃などに問題がある場合は外科的手術を選択することがあります。
鼻腔の形成や扁桃摘出、上顎や下顎の位置を調整する手術などが検討されます。
生活習慣の見直し
肥満や不規則な生活リズムは睡眠時無呼吸症候群を悪化させます。日中の適度な運動、バランスの良い食事、アルコールの摂取を控えるなど、基本的な生活習慣の見直しによって呼吸障害の改善が期待できます。
生活習慣の見直しにおける実践ポイント
ポイント | 実践例 |
---|---|
食事 | 高カロリー食を控え野菜やタンパク質をバランスよく摂る |
運動 | ウォーキングや軽めのジョギングを毎日30分程度行う |
アルコール | 就寝前の飲酒を避ける、量を抑える |
睡眠環境の調整 | 枕の高さを調整し、横向き寝を心がける |
体重管理 | 週に1度体重を測り、BMIを把握して継続的に注意する |
予防と注意点
睡眠時無呼吸症候群は完全に防ぎにくい面がありますが、生活習慣を見直すことでリスクを下げることは可能です。
ここでは予防に役立つポイントや日頃から気をつけたい点について解説します。
体重管理
肥満は無呼吸症候群の大きな原因のひとつです。脂肪が気道周辺につくと狭窄を起こしやすくなります。
適正体重の維持を目指し、過度な食事制限ではなくバランスの良い食生活と定期的な運動を組み合わせることが大切です。
体重管理で意識したいリスト
- 毎日朝晩の体重を記録し変化を把握する
- お菓子や夜食の頻度を減らしてみる
- 過度な飲酒を避ける
- 食後すぐに横にならず軽めの運動を取り入れる
睡眠環境の整備
枕の高さや寝具の硬さ、室温や湿度など寝室の環境が快適であるかを確認します。横向きに寝やすいような枕の選択も有効です。
いびきや無呼吸が顕著な場合は、うつ伏せや横向きで寝るほうが気道を確保しやすくなります。
快適な睡眠環境づくりのポイント
環境要素 | ポイント |
---|---|
室温 | 夏は26度前後、冬は18度前後が目安 |
湿度 | 50%程度を維持し、乾燥や過度な湿気を避ける |
照明 | 就寝前には照度を落とし、自然な眠気を誘う |
枕の高さ | 首が直線に近い状態になるように調整 |
寝具の硬さ | 体圧を分散させ、背中や腰を支える適度な硬さ |
アルコールや喫煙の影響
アルコールは上気道の筋肉を弛緩させ、無呼吸を悪化させる原因になります。
喫煙も血管や気道に悪影響を及ぼすため無呼吸症候群が疑われる場合は禁煙が望ましいです。
定期的な受診
軽度の症状でも放置すると重症化する可能性があります。
生活習慣の見直しだけで改善が難しい場合は早めにクリニックで検査を受け、必要な治療を受けることが重要です。
特に高血圧や糖尿病などの合併症がある人は医師の診察を受けながら定期的なフォローアップを行いましょう。
クリニックでの診療の流れ
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、どのように受診し、どんな手順で診断や治療が進むのかを知っておくと安心です。
ここでは一般的なクリニックでの診療の流れを示します。
予約と初回受診
無呼吸症候群を診られる医療機関に予約を入れ、初回の受診で症状や生活習慣に関して詳しくヒアリングします。
いびきや眠気の状態、家族からの指摘などがあれば伝えてください。
診察と検査
医師が身体診察を行い、必要に応じて耳鼻咽喉科的検査や血液検査を行います。
簡易検査や終夜睡眠ポリグラフ検査を実施するかどうかもこの時点で決定します。
診察と検査で重視されるポイント
ポイント | 内容 |
---|---|
いびきの頻度 | 家族からの客観的な証言があると参考にしやすい |
日中の眠気の強さ | 作業中の居眠りや集中力低下がどの程度あるか |
血圧・BMI | 血圧や肥満度を測定し、合併症のリスクを総合的に判断 |
頭頸部の形状 | 下顎の後退や扁桃肥大などがないかを確認 |
既往歴 | 心不全や脳血管疾患、内分泌異常の有無を確認 |
治療方針の決定
検査結果に基づき、医師がCPAPやマウスピース、もしくは外科的治療などの方法を提案します。
患者さんのライフスタイルや仕事の都合、症状の重さなどを考慮して治療計画を話し合います。
治療方針を決定するときに考慮するポイント
- 患者の症状の重症度(AHI値など)
- 患者の生活リズムや仕事の内容
- 検査による上気道の構造的な問題の有無
- 患者が続けやすい治療手段の選択
フォローアップ
治療開始後も定期的に受診して効果や副作用、使用機器の調整を行います。
CPAPでは機器の圧力設定やマスクのフィット感の調節が必要です。マウスピースでも歯科医での調整が欠かせません。
生活習慣の改善も継続して必要に応じて栄養指導や運動指導を受けるとよいでしょう。
治療継続内容とその目的
フォローアップ内容 | 目的 |
---|---|
機器のチェック | CPAPの圧力やマスク装着の快適性を維持し、効果を高める |
口腔内の調整 | マウスピースのフィット感を保ち、歯や顎への負担を軽減 |
生活習慣指導 | 食事や運動習慣の見直しによる相乗効果の期待 |
合併症のモニタリング | 高血圧や糖尿病などの管理が適切に行われているか確認 |
以上