「いびきの原因は太っているから」「お酒を飲んだから」だと思っていませんか?

もちろんそれらも大きな原因ですが、実は痩せている人でも、お酒を飲まない人でも、いびきをかくことはあります。

その背景には自分では気づきにくい骨格の問題や鼻の構造、さらには加齢やホルモンバランスといった意外な理由が隠れているかもしれません。

この記事ではなぜあなたがいびきをかくのか、その多様な原因を深掘りし、ご自身で原因を探るためのセルフチェック方法を解説します。正しい原因理解が改善への第一歩です。

いびきの基本的な仕組み

なぜ、いびきという音が発生するのでしょうか。まずは全てのいびきに共通する基本的な音の発生源と、睡眠中に特有の体の変化について理解を深めましょう。

空気抵抗によって生まれる振動音

いびきは呼吸によって空気が鼻や喉を通る際に発生する振動音です。空気の通り道である「上気道」が何らかの理由で狭くなると、そこを空気が通るときの抵抗が大きくなります。

この抵抗によって喉の粘膜や口蓋垂(のどちんこ)などが振動し、「ガーガー」「スースー」といった音となって現れます。

睡眠中に気道が狭くなる理由

起きている間は喉や舌を支える筋肉が緊張しているため、気道は十分に開いています。しかし睡眠中は全身の筋肉がリラックスして緩みます。

このとき喉周りの筋肉も緩むため、重力によって舌の付け根が喉の奥に落ち込んだり軟口蓋が垂れ下がったりして、誰でも気道は狭くなります。

いびきの音でわかる原因の違い

いびきの音質は気道のどこが狭くなっているかを知る手がかりになります。自分のいびき、あるいはパートナーのいびきの音に耳を澄ませてみてください。

音質から推測する原因の場所

音の特徴主な原因の場所考えられる状態
ガーガー(低い音)舌の落ち込み、軟口蓋のたるみ
スースー(高い音)鼻づまり、鼻炎
呼吸が止まる喉の閉塞睡眠時無呼吸症候群の可能性

【セルフチェック】あなたはどのタイプ?いびきの原因を探る

いびきの原因は一つとは限りません。複数の要因が絡み合っていることもあります。日

中の体調や生活習慣を振り返り、自分のいびきの原因を探ってみましょう。

日中の眠気と集中力

夜間のいびきは睡眠の質を大きく低下させます。その結果、日中の活動に様々な影響が出ることがあります。

以下の項目に心当たりはありませんか。

  • 会議中や運転中に強い眠気を感じる
  • 以前より集中力が続かなくなった
  • 単純なミスが増えたと感じる

起床時の体のサイン

朝起きたときの体の状態も睡眠の質を反映しています。

いびきをかく人は以下のようなサインが現れやすい傾向にあります。

起床時のチェック項目

サイン考えられる理由
口や喉がカラカラに乾いている睡眠中に口呼吸になっている
頭が重い、頭痛がする睡眠中に体が酸欠状態になっている
熟睡感がなく、疲れが取れていないいびきや無呼吸で睡眠が妨げられている

生活習慣から原因を探る

日々の生活習慣の中にも、いびきの原因は潜んでいます。ご自身の生活を客観的に見つめ直してみましょう。

生活習慣チェックリスト

項目詳細
体重BMIが25以上、または最近急に太った
飲酒・喫煙寝る前にお酒を飲む習慣がある、喫煙者である
疲労・ストレス日常的に疲れが溜まっている、強いストレスを感じている

多くの人が見落とす「骨格・解剖学的」な原因

「痩せているのにいびきをかく」という方は、骨格や鼻・喉の構造に原因があるかもしれません。これらは自分では気づきにくい要因です。

顎が小さい・後退している

生まれつき下顎が小さい方や、少し後ろに引っ込んでいる方は相対的に舌が収まるスペースが狭くなります。

そのため、睡眠中に舌が喉の奥に落ち込みやすく、気道を塞いでいびきの原因となります。

鼻中隔弯曲症と鼻の構造

左右の鼻の穴を仕切る壁である鼻中隔が曲がっている「鼻中隔弯曲症」や、アレルギー性鼻炎による慢性的な鼻づまりがあると、鼻呼吸がしにくくなります。

このことにより無意識に口呼吸となり、いびきを引き起こします。

扁桃腺・アデノイドの肥大

喉の突き当りにある扁桃腺や鼻の奥にあるアデノイドがもともと大きい方は物理的に気道が狭くなっています。

特に子供のいびきの主な原因は、これらの組織の肥大によるものです。

加齢による筋力の低下

年齢を重ねると全身の筋力が低下します。これは喉や舌を支える筋肉も同様で、若い頃に比べて気道を支える力が弱まり、たるみが生じます。

このため、以前はいびきをかかなかった人でも、加齢とともにいびきをかくようになることがあります。

加齢に伴う主な変化

変化する部分内容
喉・舌の筋肉筋力が低下し、気道を支える力が弱まる
軟口蓋ハリが失われ、垂れ下がりやすくなる
基礎代謝低下し、体重が増加しやすくなる

女性特有のいびきの原因とホルモンバランス

女性のいびきは男性とは少し異なる原因が関係しています。特にライフステージごとのホルモンバランスの変化は、いびきに大きく影響します。

女性ホルモンのいびき抑制効果

女性ホルモンの一つ「プロゲステロン」には上気道を開く筋肉の働きを助ける作用があります。

このホルモンが多く分泌されている若い年代では、男性に比べていびきをかきにくい傾向にあります。

更年期における変化

閉経を迎える更年期になると女性ホルモンの分泌が急激に減少します。このため気道を支える筋力が弱まり、急にいびきをかくようになったり、症状が悪化したりすることがあります。

また、この時期は内臓脂肪がつきやすくなることも、いびきの一因です。

更年期にいびきが増える理由

要因体への影響
女性ホルモンの減少気道を広げる筋力が低下する
代謝の変化内臓脂肪がつきやすくなり、気道を圧迫する

妊娠中のいびき

妊娠中は体重増加やホルモンの影響で鼻の粘膜がむくみ、鼻づまりが起こりやすくなります。

この「妊娠性鼻炎」が原因で口呼吸になり、一時的にいびきをかくことがあります。多くは産後に自然と改善します。

危険ないびきのサインと睡眠時無呼吸症候群

いびきの中には単なる音の問題ではなく、健康を脅かす病気のサインである「危険ないびき」があります。注意すべき特徴を知っておきましょう。

いびきの音の変化に注意

毎晩のように非常に大きないびきをかく、いびきの音のリズムが不規則である、といった場合は注意が必要です。

特に大きないびきが突然静かになり、しばらくして爆発するような大きないびきで呼吸が再開するパターンは危険な兆候です。

呼吸が止まる・浅くなる

上記のいびきのパターンは睡眠中に呼吸が止まったり(無呼吸)、浅くなったり(低呼吸)していることを示唆します。

これは「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」という病気の典型的な症状です。

放置する健康リスク

睡眠時無呼吸症候群を放置すると睡眠中の低酸素状態が心臓や血管に大きな負担をかけ続けます。

このことにより、高血圧や糖尿病、心筋梗塞、脳卒中といった重篤な生活習慣病の発症リスクを高めることがわかっています。

SASが関連する主な疾患

疾患名リスク
高血圧健常者の約2倍
心疾患健常者の約3~4倍
脳卒中健常者の約4倍

いびきの原因に特化したよくある質問

いびきの原因について、患者様からよくいただく質問とその回答をまとめました。

Q
痩せているのにいびきをかくのはなぜですか?
A

痩せている方のいびきは肥満以外の原因、特に骨格的な特徴が関係していることが多いです。顎が小さい、下顎が後退している、鼻中隔が曲がっている、扁桃腺が大きいなどが考えられます。

これらの場合、体重に関係なく気道が狭くなりやすいため、いびきをかきます。

Q
子供のいびきの原因は何ですか?
Q
枕を変えればいびきは治りますか?
A

枕の高さが合っていないことが原因でいびきが悪化している場合、自分に合った枕に変えることで症状が軽減することはあります。

しかし、いびきの原因は枕だけではないため、枕を変えるだけですべてのいびきが治るわけではありません。あくまで対策の一つとして捉えるのが良いでしょう。

以上

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