「しっかり寝たはずなのに、朝から体がだるい」「日中に強い眠気に襲われて仕事に集中できない」。
もし、あなたが大きないびきをかく習慣があるなら、その朝のだるさや日中の眠気はいびきが原因かもしれません。
いびきは単なる音の問題ではなく、睡眠の質が著しく低下しているサインであり、身体が危険な状態にあることを示す警告音の可能性があります。
この記事では、なぜいびきをかくと朝疲れているのか、その背景にある身体の変化と、「危険ないびき」に隠された病気の可能性について詳しく解説します。
「ただのいびき」と朝のだるさを引き起こす「危険ないびき」の違い
いびきには一時的で心配のないものと、注意が必要な病的なものがあります。両者の違いを知ることが、ご自身の健康状態を把握する第一歩です。
いびきが鳴る仕組み
いびきは、睡眠中に空気の通り道である「上気道(のどや鼻)」が何らかの原因で狭くなり、そこを空気が通過する際に粘膜が振動して鳴る音です。
起きている間は筋肉の働きでのどの広さが保たれていますが、眠ると筋肉が緩み、特に仰向けで寝ると舌がのどの奥に落ち込みやすくなるため、気道が狭くなりがちです。
問題のない生理的ないびき
疲れているときやお酒を飲んだ後、風邪で鼻が詰まっているときなどに一時的にかく、規則正しい音のいびきは生理的なものである場合が多いです。
この場合、原因が解消されればいびきもかかなくなり、朝のだるさも一時的です。
睡眠の質を低下させる危険ないびきのサイン
一方で、毎晩のように大きないびきをかく、音が途中で止まったり大きくなったりと不規則な場合は注意が必要です。
これらは睡眠中に呼吸が止まりかけているサインかもしれません。この状態だと体は深刻なダメージを受けています。
生理的ないびきと危険ないびきの比較
項目 | 生理的ないびき | 危険ないびき |
---|---|---|
頻度 | 一時的(疲労時、飲酒後など) | 毎晩、習慣的 |
音の様子 | 規則正しい、スースーという音 | 非常に大きい、不規則、音が止まる |
朝の体調 | すっきりしていることが多い | だるい、頭痛がする、疲れが取れない |
なぜ危険ないびきは朝のだるさや疲れにつながるのか
危険ないびきの裏側では、睡眠の質を根底から揺るがす重大な問題が起きています。朝の倦怠感は眠っている間に体が必死に戦っていた結果なのです。
睡眠中の呼吸停止と低酸素状態
いびきが突然止まるのは狭くなった気道が完全に塞がってしまい、呼吸が一時的に停止している状態(無呼吸)を意味します。
呼吸が止まると体内に酸素が取り込まれなくなるため、血液中の酸素濃度が低下する「低酸素状態」に陥ります。この状態は身体中の細胞にとって大きなストレスとなります。
脳が覚醒を繰り返す「分断された睡眠」
呼吸が止まり体が低酸素状態になると、脳は生命の危機を察知して眠りから覚醒して呼吸を再開させようとします。
この覚醒は非常に短いため本人は気づかないことがほとんどですが、一晩に何十回、何百回と繰り返されます。
この結果、睡眠が細切れになり、連続した深い眠りが得られなくなります。
深い睡眠の減少と身体の回復不足
本来、深い睡眠(ノンレム睡眠)中には脳と体を休息させ、細胞の修復や疲労回復を促す成長ホルモンが分泌されます。
しかし、覚醒が繰り返されることで深い睡眠の時間が極端に短くなり、身体が十分に回復できません。
このことが朝起きても疲れが取れず、だるさを感じる直接的な原因です。
いびきが睡眠の質を低下させる流れ
段階 | 身体で起きていること |
---|---|
気道閉塞 | 睡眠中にのどが塞がり、いびきや無呼吸が発生する。 |
低酸素状態 | 呼吸が止まり、血液中の酸素が不足する。 |
脳の覚醒 | 脳が危険を察知し、呼吸再開のために覚醒する。 |
睡眠の分断 | 深い睡眠が得られず、心身が回復できない。 |
朝のだるさだけじゃない いびきがもたらす身体への影響
習慣的ないびきとそれに伴う睡眠の質の低下は朝のだるさだけでなく、日中の活動や将来の健康にまで深刻な影響を及ぼす可能性があります。
日中の強い眠気と集中力の低下
夜間に十分な休息が取れていないため、日中に耐えがたいほどの強い眠気に襲われることがあります。
会議中や運転中など重要な場面で居眠りをしてしまう危険性があり、仕事の能率低下や重大な事故の原因にもなりかねません。
高血圧や心臓病のリスク上昇
睡眠中の低酸素状態や頻繁な覚醒は心臓や血管に大きな負担をかけます。交感神経が刺激されて血圧が上昇し、不整脈が誘発されることもあります。
この状態が長期にわたると、高血圧、心筋梗塞、脳卒中といった命に関わる病気を発症するリスクが著しく高まります。
生活習慣病との密接な関係
睡眠の質が悪いと食欲をコントロールするホルモンのバランスが乱れたり、血糖値を下げるインスリンの働きが悪くなったりします。
このため、肥満や糖尿病といった生活習慣病を発症・悪化させやすいことが分かっています。
危険ないびきが引き起こす健康リスク
分類 | 具体的な病気や症状 |
---|---|
日中の症状 | 強い眠気、集中力低下、倦怠感 |
循環器系の病気 | 高血圧、不整脈、心筋梗塞、脳卒中 |
代謝系の病気 | 糖尿病、脂質異常症、肥満 |
危険ないびきの主な原因 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
朝のだるさを引き起こす危険ないびきの背景には、そのほとんどの場合で「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)」という病気が隠れています。
上気道が狭くなる物理的な要因
睡眠時無呼吸症候群の多くは、上気道が物理的に狭くなることで発生する「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)」です。
その原因は一つではなく、複数の要因が関わっています。
- 首周りの脂肪沈着
- 扁桃腺の肥大
- 舌が大きい(舌根沈下)
- 顎が小さい、後退している
肥満と睡眠時無呼吸症候群の関係
肥満は睡眠時無呼吸症候群の最大の危険因子です。体重が増加すると首周りやのどの内側にも脂肪がつき、気道を内側から圧迫して狭くします。
少しの体重増加でも、いびきや無呼吸の悪化につながることがあります。
上気道を狭くする主な要因
要因 | 気道が狭くなる理由 |
---|---|
肥満 | 首やのど周りの脂肪が気道を圧迫する |
扁桃肥大 | 空気の通り道を物理的に狭くする |
骨格 | 顎が小さい、または後退していると舌が落ち込みやすい |
アルコールや加齢による影響
アルコールは筋肉を弛緩させる作用があるため、就寝前に飲むとのどの筋肉が緩み、気道がさらに狭くなりやすくなります。
また、加齢によってものどの筋力が低下するため、高齢になるほど睡眠時無呼吸症候群を発症しやすくなります。
あなたのいびきは大丈夫?セルフチェックと受診の目安
いびきは自分では気づきにくいため、ご自身の状態を客観的に把握することが重要です。簡単なセルフチェックで、受診が必要な危険ないびきかどうかを確認してみましょう。
家族に指摘されるいびきの特徴
最も確実なのは、一緒に寝ているご家族やパートナーにいびきの様子を尋ねることです。
以下の点を確認してもらいましょう。
家族に確認してもらうポイント
確認項目 | 危険なサイン |
---|---|
音の大きさ | 隣の部屋まで聞こえるほどうるさい |
リズム | 急に静かになり、その後あえぐように呼吸を再開する |
呼吸の様子 | 息が止まっているように見える時間がある |
日中の症状で気づくサイン
夜間のいびきに加えて、日中に以下のような症状がある場合は睡眠時無呼吸症候群の可能性がより高まります。
複数の項目に当てはまる場合は専門医への相談を強く推奨します。
睡眠時無呼吸症候群の簡易チェックリスト
以下の質問に「はい」がいくつ当てはまるか数えてみてください。
- 朝起きた時、熟睡感がなく、頭痛がする。
- 日中、会議中や運転中などに強い眠気を感じる。
- 家族から大きないびきや呼吸が止まっていると指摘された。
- 夜中に息苦しさで目が覚めたり、トイレに何度も起きたりする。
- 肥満傾向(BMI25以上)である。
これらの項目に3つ以上当てはまる場合、専門の医療機関で検査を受けることをお勧めします。
クリニックでできる検査と診断
「もしかして」と思ったら、専門のクリニックを受診しましょう。問診や検査を通じていびきの原因を正確に診断し、適切な治療につなげることができます。
問診と身体診察
診察では、まずいびきや日中の眠気といった自覚症状、生活習慣、既往歴などを詳しく伺います。
その後、医師がのどの状態(扁桃腺の大きさなど)や鼻の通り、顎の形などを視診し、気道が狭くなりやすい身体的な特徴がないかを確認します。
自宅でできる簡易検査
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、まずは自宅で手軽に行える簡易検査を行います。指先にセンサーをつけ、睡眠中の血液中の酸素飽和度や脈拍などを測定する装置を貸し出し、一晩装着して眠るだけです。
この検査で睡眠中に無呼吸や低呼吸がどのくらいの頻度で起きているかを推定します。
精密検査(ポリソムノグラフィー検査)
簡易検査で重症と判断された場合や、より詳細な評価が必要な場合には医療機関に一泊入院して行う精密検査(PSG検査)を実施します。
脳波や心電図、呼吸の状態、体の動きなど睡眠に関する多くの生体信号を同時に記録し、睡眠の質や無呼吸の重症度を正確に診断します。
簡易検査と精密検査の比較
項目 | 簡易検査 | 精密検査(PSG) |
---|---|---|
場所 | 自宅 | 医療機関(入院) |
主な測定項目 | 呼吸、酸素飽和度、脈拍 | 脳波、呼吸、心電図、筋電図など多数 |
分かること | 無呼吸・低呼吸の頻度(重症度の推定) | 睡眠の質、無呼吸の重症度・タイプの確定診断 |
いびきと朝のだるさを改善する治療法とセルフケア
睡眠時無呼吸症候群と診断された場合、その重症度に応じて治療を行います。また、生活習慣の改善も症状を和らげる上で非常に重要です。
CPAP(シーパップ)療法
中等症から重症の睡眠時無呼吸症候群に対する標準的な治療法です。鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道に圧力をかけることで、睡眠中にのどが塞がるのを防ぎます。
多くの患者様が治療を開始したその日からいびきが止まり、朝の爽快感や日中の眠気の劇的な改善を実感します。
マウスピース(口腔内装置)による治療
軽症から中等症の患者様にはマウスピースを用いた治療が選択されることがあります。睡眠中に装着することで下顎を前方に少し突き出させ、舌の落ち込みを防ぎ気道を広げます。
このマウスピースは歯科で個人の歯形に合わせて作成することになります。
生活習慣の改善
治療と並行して生活習慣を見直すことは、いびきや無呼吸を軽減するために大切です。
特に肥満がある場合は、減量が最も効果的な対策の一つです。
自分でできる対策と期待される効果
対策 | 期待される効果 |
---|---|
減量 | のど周りの脂肪が減り、気道が広がる |
横向き寝 | 舌がのどの奥に落ち込むのを防ぐ |
節酒 | のどの筋肉の過度な弛緩を防ぐ |
いびきと睡眠に関するよくある質問
最後に、いびきや睡眠時無呼吸症候群に関して患者様からよく寄せられる質問にお答えします。
- Q枕を変えるといびきは改善しますか?
- A
枕の高さが合っていないと、首が不自然に曲がり気道を狭めていびきの原因になることがあります。高すぎる枕は顎を引かせ、低すぎる枕は口が開きやすくなります。
自分に合った高さの枕を選び、横向き寝をサポートする形状のものを選ぶことで、いびきが軽減する可能性はあります。
ただし、睡眠時無呼吸症候群が原因の場合、枕の変更だけで根本的な解決は難しいです。
- Q子どものいびきも問題になりますか?
- A
はい、子どもの習慣的ないびきも注意が必要です。主な原因は扁桃腺やアデノイド(鼻の奥にあるリンパ組織)の肥大です。
子どもの睡眠時無呼吸は成長や発達の遅れ、学業成績の低下、注意欠陥・多動性障害(ADHD)に似た症状を引き起こすことがあります。
気になる場合は、小児科や耳鼻咽喉科に相談してください。
- QCPAP治療はいつまで続ける必要がありますか?
- A
CPAP療法は睡眠中の気道の閉塞を防ぐための対症療法です。そのため根本的な原因(肥満や骨格など)が解消されない限り、治療は継続する必要があります。
ただし、大幅な減量に成功した場合など無呼吸の状態が改善されれば、CPAP治療が不要になることもあります。
定期的に医師の診察を受け、治療効果を確認しながら継続することが重要です。
- Q危険ないびきを放置するとどうなりますか?
- A
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置すると日中の強い眠気による事故のリスクが高まります。
それだけでなく、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中などの重篤な生活習慣病を発症する危険性が健康な人に比べて数倍高くもなります。
さらに、認知症のリスクを高める可能性も指摘されています。
命に関わる病気を予防するためにも早期の検査と治療が大切です。
以上
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