「最近、家族からいびきがうるさいと言われるようになった」「疲れている日ほど、いびきがひどい気がする」。

普段はいびきをかかない、もしくはかいても軽かったはずなのに、急に大きないびきをかくようになったら、それは心身の疲れやストレスが原因かもしれません。

いびきは睡眠の質を低下させ、日中のパフォーマンスにも影響を及ぼすだけでなく、放置すると睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの病気が隠れている可能性もあります。

この記事では、疲れやストレスがいびきを引き起こす理由からご自身でできるセルフケア、そして特に女性が注意したい点まで詳しく解説します。

なぜ疲れやストレスでいびきが悪化するのか

疲労や精神的なストレスは自分でも気づかないうちに体に様々な変化をもたらします。その一つが、いびきの悪化です。

なぜ心身のコンディションが、睡眠中の呼吸に影響を与えるのでしょうか。

疲労による筋肉の過度な弛緩

いびきは、のどや舌の周りの筋肉が緩み、空気の通り道(上気道)が狭くなることで発生します。

通常、睡眠中は誰でも筋肉が弛緩しますが、肉体的な疲労が蓄積していると、この弛緩の度合いが通常よりも大きくなります。

このことにより、舌がのどの奥に落ち込む「舌根沈下」が起こりやすくなり、気道がより強く塞がれて大きないびきに繋がるのです。

ストレスと自律神経の乱れ

精神的なストレスは、体のオン・オフを切り替える自律神経のバランスを乱します。ストレス状態が続くと体を緊張させる交感神経が優位になり、筋肉の緊張や血行不良を引き起こします。

この状態での睡眠は鼻の粘膜の腫れや血行不良を招き、鼻づまりを起こしやすくします。鼻呼吸がしにくくなると、自然と口呼吸になり、いびきの原因となります。

心身の状態といびきの関係

状態体への影響いびきへの影響
肉体的な疲れのど周りの筋肉が通常より大きく緩む気道が狭くなり、いびきが発生・悪化する
精神的なストレス自律神経が乱れ、鼻粘膜が腫れやすくなる鼻づまりから口呼吸になり、いびきを誘発する

睡眠不足が引き起こす悪循環

忙しさから睡眠時間が不足すると、体はより深い眠りを得ようとします。深いノンレム睡眠中は筋肉の弛緩が最大になるため、いびきをかきやすくなります。

さらに、いびき自体が睡眠の質を低下させるため、「睡眠不足→いびき悪化→さらに睡眠の質が低下」という負のスパイラルに陥ってしまうことがあります。

女性特有のいびきの原因と注意点

いびきは男性に多いイメージがありますが、女性も決して無関係ではありません。特に疲れやストレスに加えて、女性ならではの体の変化がいびきの原因となることがあります。

ホルモンバランスの変化

女性ホルモンの一つであるプロゲステロン(黄体ホルモン)には、上気道を開く作用を持つ筋肉の活動を活発にする働きがあります。

このため、女性ホルモンの分泌が活発な時期は比較的いびきをかきにくいとされています。しかし、ホルモンバランスが変化すると、その恩恵を受けにくくなります。

更年期におけるいびきの増加

閉経を迎える更年期になると、プロゲステロンの分泌が急激に減少します。このホルモンの影響が少なくなることで上気道を開く筋力が弱まり、気道が狭くなりやすくなります。

このため、更年期を境にいびきをかくようになった、いびきが悪化したという女性は少なくありません。

女性のライフステージといびきの関係

ライフステージホルモンの状態いびきのリスク
月経周期排卵後(黄体期)にプロゲステロンが増加比較的低い
妊娠中プロゲステロンが増加するが、体重増加やむくみでリスク増注意が必要
更年期プロゲステロンが急激に減少高まる

痩せ型でも注意 顎の骨格的な特徴

女性は男性に比べて顎が小さい、下顎が後退しているといった骨格的な特徴を持つ方が多い傾向にあります。

このような骨格の場合、仰向けで寝た時に舌がのどの奥に落ち込みやすく、太っていなくてもいびきをかきやすい原因となります。

放置は危険?疲れやストレスによるいびきが招くこと

「疲れている時だけだから」と、いびきを軽視してはいけません。

いびきは体が発する重要なサインであり、睡眠の質が著しく低下している証拠です。これを放置すると、様々な不調に繋がります。

睡眠の質の低下と日中の深刻な眠気

いびきをかいている時、特に呼吸が止まりかけるような大きないびきの場合は、脳が何度も覚醒状態(目が覚めていなくても脳は起きている状態)になっています。

このため、長時間寝ても熟睡感が得られず、日中に強い眠気や集中力の低下、倦怠感を引き起こします。

免疫力の低下

質の良い睡眠は体の免疫機能を正常に保つ上でとても重要です。

いびきによって睡眠が妨げられると免疫細胞の働きが低下し、風邪をひきやすくなったり、感染症にかかりやすくなったりします。

睡眠の質が低下すると…

項目具体的な影響
日中の活動強い眠気、集中力・記憶力の低下、イライラ
身体的な健康免疫力の低下、生活習慣病のリスク上昇
精神的な健康気分の落ち込み、うつ症状のリスク上昇

睡眠時無呼吸症候群(SAS)への移行

疲れやストレスがきっかけで始まったいびきでも、常態化すると睡眠時無呼吸症候群(SAS)に繋がる危険性があります。

SASは睡眠中に何度も呼吸が止まる病気で、高血圧や心疾患、脳卒中などの重篤な合併症のリスクを大幅に高めることがわかっています。

今日から始める いびき改善のためのセルフケア

疲れやストレスが原因のいびきは生活習慣を見直すことで改善が期待できます。専門的な治療を考える前に、まずはご自身でできる対策から始めてみましょう。

質の高い睡眠を確保する工夫

睡眠の質を高めることは疲労回復とストレス軽減の基本です。毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる習慣をつけ、体内時計を整えましょう。

就寝前のスマートフォンやパソコンの使用は脳を覚醒させてしまうため、控えるのが賢明です。

効果的なストレス解消法を見つける

ストレスを溜め込まないことも、いびき対策には重要です。自分に合った方法で心身をリラックスさせる時間を作りましょう。

おすすめのストレス解消法

  • ぬるめのお湯にゆっくり浸かる(入浴)
  • 軽いウォーキングやストレッチ
  • 好きな音楽を聴く、読書をする
  • 信頼できる人と話す

寝姿勢と寝室環境の見直し

仰向け寝は舌が落ち込みやすいため、横向きで寝ることを意識するだけで、いびきが軽減することがあります。抱き枕を使うと自然な横向き寝を維持しやすくなります。

また、枕の高さが合っていないといびきの原因になるため、自分に合った高さのものを選びましょう。

寝室環境のチェックポイント

項目改善のポイント
枕の高さ横向きになった時、首の骨がまっすぐになる高さが理想
湿度空気が乾燥すると鼻やのどの粘膜が刺激されるため、加湿器などで50~60%に保つ
アルコール就寝前の飲酒は筋肉を弛緩させるため、控える

セルフケアで改善しない危険ないびきのサイン

様々な対策を試してもいびきが改善しない、または以下のような症状が見られる場合は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があります。早めに専門の医療機関を受診しましょう。

家族に指摘される睡眠中の無呼吸

「いびきが急に止まって、しばらくしてまた大きな呼吸ととも再開する」といった症状は、無呼吸の典型的なサインです。

自分では気づくことができないため、ご家族やパートナーからの指摘は非常に重要です。

大きないびきと日中の耐えがたい眠気

会議中や運転中など通常では考えられない状況で強い眠気に襲われる場合は、睡眠の質が著しく低下している証拠です。

大きないびきを伴う場合は、SASを強く疑います。

受診を検討すべき症状

タイミング主な症状
睡眠中呼吸が止まっている、息苦しさで目が覚める
起床時口が渇いている、頭痛、熟睡感がない
日中強い眠気、倦怠感、集中力の低下

医療機関での相談

いびきや睡眠時無呼吸症候群の診療は睡眠外来を設けている呼吸器内科や耳鼻咽喉科が専門です。

問診や簡易検査、精密検査を通して、いびきの原因や重症度を正確に診断し、適切な治療法を提案します。

疲れやストレスによるいびきのよくある質問

最後に、疲れやストレスに関連したいびきについて患者様からよく寄せられる質問にお答えします。

Q
ストレスがなくなればいびきは治りますか?
A

ストレスが主な原因で一時的にいびきが出ている場合は、ストレスが軽減されることで改善する可能性は十分にあります。

しかし、いびきが習慣化している場合や、肥満や骨格など他の要因が複合的に関わっている場合は、ストレス解消だけでは治まらないこともあります。

Q
疲れている時だけ市販のいびき対策グッズを使うのは有効ですか?
A

鼻腔を広げるテープや、口を閉じるテープなどの市販グッズは、一時的ないびきの軽減に役立つことがあります。しかし、これらは根本的な解決にはなりません。

特に睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、これらのグッズで症状を覆い隠してしまうと、適切な診断・治療の機会を逃すことに繋がるため注意が必要です。

いびき対策グッズの種類と特徴

種類主な目的注意点
鼻腔拡張テープ鼻の通りを良くし、鼻呼吸を促す鼻づまりが原因のいびきに有効
口閉じテープ口呼吸を防ぎ、鼻呼吸を促す鼻に疾患がある場合は使用できない
マウスピース下顎を前方に固定し、気道を確保する歯科での作成が望ましい。自己判断での使用はリスクも。
Q
女性のいびきは何科を受診すれば良いですか?
A

女性のいびきも基本的には男性と同じく、呼吸器内科や耳鼻咽喉科が専門となります。特に睡眠に関する悩み全般を扱う「睡眠外来」を標榜しているクリニックに相談するのが良いでしょう。

更年期などホルモンバランスの変化が気になる場合は、婦人科で相談した上で、専門医を紹介してもらうという方法もあります。

以上

参考にした論文

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