「睡眠時無呼吸症候群は太っている人の病気」だと思っていませんか。

しかし、実際には痩せている方や標準体型の方でも、いびきや無呼吸に悩まされているケースは少なくありません。その原因は肥満ではなく、日本人にも多い「顎の骨格」や「扁桃腺の大きさ」などにあります。

この記事では痩せ型の方が睡眠時無呼吸症候群になる理由を詳しく解説し、ご自身でできる対策や専門的な治療法について紹介します。

体型に関わらず、症状の改善は可能です。

睡眠時無呼吸症候群は肥満だけの病気ではない

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の最大の原因が肥満であることは事実ですが、それが全てではありません。

特にアジア人、中でも日本人は体型に関わらずSASを発症しやすい人種であることが知られています。

痩せ型でも起こるSASの実態

クリニックを訪れる患者さんの中には「自分は痩せているから無関係だと思っていた」と話す方が多くいます。

しかし検査をしてみると重症のSASと診断されることも珍しくありません。日中の強い眠気や倦怠感、大きないびきといった症状は体型に関係なく現れる危険なサインです。

日本人に多い痩せ型SASの特徴

欧米人と比較して日本人はもともと顎が小さく、気道が狭くなりやすい骨格的特徴を持っています。

そのため、少しの体重増加や加齢による筋力の低下でもすぐに気道が塞がってしまい、SASを発症しやすいのです。肥満が主な原因である欧米のSASとは発症の背景が異なります。

肥満型SASと痩せ型SASの比較

特徴肥満型(欧米人に多い)痩せ型(日本人に多い)
主な原因首周りの脂肪による気道圧迫顎の骨格、扁桃腺の大きさ
発症のきっかけ大幅な体重増加わずかな体重増、加齢
見た目の印象体格が良い、首が太い痩せている、顎が小さい

なぜ「肥満が原因」というイメージが強いのか

メディアなどでSASが取り上げられる際、肥満との関連性が強調されることが多いため、「SAS=肥満」というイメージが定着しています。

このことにより、痩せ型の方はご自身の症状をSASと結びつけにくく、発見が遅れてしまう傾向にあります。しかし、原因が何であれ、無呼吸が体に与えるダメージは同じです。

痩せ型の人がSASになる主な原因

痩せ型の方のSASは主に気道そのものの物理的なスペースの狭さに関連しています。

主な原因として骨格、喉の組織、加齢の3つの要素が挙げられます。

顎の骨格的な特徴

生まれつきの骨格が気道の広さに大きく影響します。特に下顎が小さい、または後方に引っ込んでいる「下顎後退症」の方は仰向けで寝た時に舌が喉の奥に落ち込みやすく、気道を塞いでしまいます。

これは「小顔」と表現されることもあり、見た目では長所と捉えられがちですが、SASのリスク要因となります。

扁桃腺やアデノイドの肥大

喉の奥にあるリンパ組織である扁桃腺(口蓋扁桃)やアデノイド(咽頭扁桃)が大きいと、それだけで空気の通り道が狭くなります。特に子どもや若者のSASでは、これが主な原因となるケースが多く見られます。

アレルギー性鼻炎などで口呼吸が習慣になっていると、さらに悪化することがあります。

気道を狭める物理的な要因

原因具体的な状態影響
骨格下顎が小さい、後退している舌が収まるスペースが狭い
喉の組織扁桃腺やアデノイドが大きい空気の通り道を物理的に塞ぐ
舌が大きい、または筋力が低い睡眠中に喉の奥に落ち込む(舌根沈下)

加齢による筋力の低下

年齢を重ねると全身の筋力が低下するのと同様に、喉や舌の周りの筋肉も衰えてきます。これらの筋肉は睡眠中に気道が開いた状態を保つ役割を担っています。

筋力が低下すると睡眠中に舌や軟口蓋が喉の奥に落ち込みやすくなり(舌根沈下)、気道を塞いでしまうのです。

若い頃は問題がなくても、加齢とともにSASを発症する方は少なくありません。

骨格が原因となるSASの特徴

ご自身の顔立ちや横顔をチェックすることで骨格的なリスクがあるかどうかをある程度推測することができます。

小さな顎や下顎後退症とは

下顎が小さい、または上顎に比べて下顎が後ろに位置している状態を指します。

正面から見ると「小顔」や「顎がシャープ」に見えますが、横から見ると鼻先と下顎の先端を結んだ線(Eライン)よりも唇が前に出ていることが多いです。

このような骨格の方は舌が収まるスペースが元々狭いというハンディキャップを抱えています。

気道が狭くなる仕組み

下顎の骨のスペースが狭いと、その中にある舌は行き場を失い、上や後ろ方向(喉の奥)に押しやられます。

起きている間は意識して舌を前方に保てますが、睡眠中は筋肉が弛緩するため、重力に従って舌が喉の奥に沈み込み、空気の通り道を完全に塞いでしまうのです。

骨格によるSASのリスクチェック

チェック項目該当する場合のリスク
下顎が小さい、または後退している舌が喉に落ち込みやすい
歯並びが悪い、歯が重なっている顎のスペースが狭い可能性がある
二重あごになりやすい(痩せているのに)下顎が後退しているサインの場合がある

横顔でわかるセルフチェック

鏡の前で横を向き、人差し指を鼻先と顎の先端に当ててみてください。

このとき唇が人差し指に強く触れる、または指よりも前に出てしまう場合は下顎が後退している可能性があります。

これはあくまで簡易的な目安ですが、骨格的なリスクを考える上での参考になります。

痩せ型の人のための対策とセルフケア

骨格などの問題は根本的な解決が難しいですが、日々の工夫で症状を和らげることは可能です。専門的な治療と並行して、ご自身でできる対策を取り入れましょう。

横向き寝を習慣にする

仰向けで寝ると重力で舌が喉の奥に落ち込みやすくなります。横向きで寝ることで舌の落ち込みを防ぎ、気道を確保しやすくなります。

抱き枕を利用したり、背中にクッションを置いたりして自然に横向きを維持できる工夫をしてみましょう。

横向き寝をサポートする工夫

アイテム使い方ポイント
抱き枕抱きかかえるようにして寝る体にフィットし、安定感がある
背中のクッション背中とベッドの間に挟む仰向けに戻るのを防ぐ
専用の寝具横向き寝を促す設計の枕やマットレスより快適な横向き寝を追求できる

枕の高さを見直す

枕が高すぎると首が圧迫されて気道が狭くなり、低すぎると頭が下がりすぎて口が開きやすくなります。横向きに寝たときに首の骨が背骨と一直線になる高さが理想的です。

タオルケットなどを重ねて、ご自身に合った高さを探してみるのも良い方法です。

口周りの筋肉を鍛えるトレーニング

舌や口の周りの筋肉を鍛えることで舌の落ち込みを防ぎ、気道の確保に役立ちます。

「あいうべ体操」などが有名で、手軽に始めることができます。毎日続けることが、筋力アップにつながります。

  • 「あー」と口を大きく開く
  • 「いー」と口を横に広げる
  • 「うー」と唇を前に突き出す
  • 「べー」と舌を思い切り出す

痩せ型のSASに対する専門的な治療法

セルフケアだけでは改善が難しい場合や中等症以上のSASと診断された場合は専門的な治療が必要です。痩せ型の方には特有の治療選択肢があります。

マウスピース(口腔内装置)治療の選択

痩せ型で特に顎の骨格に原因がある軽症から中等症のSASに対してはマウスピース治療が第一選択となることが多いです。

睡眠中に装着することで下顎を数ミリ前方に移動させ、舌の落ち込みを防ぎ気道を広げます。CPAPに比べて違和感が少なく持ち運びも便利なため、受け入れやすい治療法です。

CPAP療法は痩せ型でも有効か

CPAP療法は重症度に関わらずSASに対する最も効果的な治療法です。痩せ型の方でも重症の場合やマウスピースの効果が不十分な場合にはCPAP療法が適用されます。

鼻から空気を送り込むことで物理的に気道の閉塞を防ぐため原因を問わず確実な効果が期待できます。

痩せ型SASの主な治療法

治療法主な対象特徴
マウスピース軽症~中等症(骨格に原因)違和感が少ない、歯科で作製
CPAP療法中等症~重症効果が最も高い、毎月の通院が必要
外科手術扁桃肥大などが原因の場合根本的な解決が期待できる場合がある

外科手術が選択肢になる場合

扁桃腺やアデノイドの肥大が気道閉塞の明らかな原因である場合はそれらを切除する手術が根本的な治療となることがあります。特に小児のSASではこの手術が非常に有効です。

また、骨格に著しい問題がある場合には顎の骨を移動させる外科手術が検討されることもありますが、これは非常に専門的な治療となります。

よくある質問

最後に、痩せ型の睡眠時無呼吸症候群に関して、患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。

Q
痩せている場合、減量の効果はありますか?
A

痩せている方がさらに減量してもSASの改善効果は限定的です。

ただし標準体重であっても、数キログラムの体重増加が症状を悪化させることはあります。これ以上体重を増やさないように現在の体重を維持することが重要です。

Q
女性でも痩せ型SASになりますか?
A

はい、なります。

特に閉経後の女性は女性ホルモンの減少により上気道の筋力が低下し、SASを発症しやすくなります。

もともと顎が小さいなどの骨格的な特徴を持っている場合、閉経を機に症状が現れることがあります。

Q
子どものいびきもSASの可能性がありますか?
A

はい、その可能性は十分にあります。

子どものいびきは正常な状態ではありません。多くは扁桃腺やアデノイドの肥大が原因です。

子どものSASは成長や発達、学力にも影響を与える可能性があるため、「たかがいびき」と軽視せずに小児科や耳鼻咽喉科に相談してください。

以上

参考にした論文

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