睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断され、CPAP(シーパップ)療法を勧められたけれど、「毎晩マスクを着けて寝るのが苦痛」「装置の音が気になって眠れない」などCPAPを使いたくないと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

CPAP療法はSAS治療の有効な手段ですが、継続が難しいと感じる方がいるのも事実です。

この記事ではCPAPを使いたくないと感じる主な理由とその対処法、CPAP以外の治療選択肢、そしてどうしてもCPAPが必要な場合に治療を少しでも快適に続けるためのコツについて詳しく解説します。

ご自身に合った治療法を見つけるための一助となれば幸いです。

目次

なぜCPAPを使いたくないと感じるのか 主な理由と対処法

CPAP療法は睡眠時無呼吸症候群に対して高い治療効果を示しますが、一部の患者さんにとっては継続が難しい場合があります。その理由を理解し、適切な対処法を見つけることが治療継続の第一歩です。

まずはどのような理由でCPAPを使いたくないと感じるのか、具体的なケースとその対応策を見ていきましょう。

マスク装着時の不快感や圧迫感

CPAPを使いたくないと感じる最も一般的な理由の一つが、マスク装着時の不快感や顔への圧迫感です。

顔に異物を固定することへの抵抗感、マスクの締め付けによる痛み、皮膚のかぶれや痒みなどが挙げられます。

これらの問題は、使用しているマスクの種類やサイズがご自身の顔に合っていない場合に起こりやすいです。

マスク関連の主な不快感と対策の方向性

不快感の種類考えられる主な原因対策のヒント
圧迫感・痛みマスクの締め付け過ぎ、サイズ不適合適切なサイズへの交換、フィッティングの再調整
皮膚のかぶれ・痒みマスクの素材、汗や皮脂による汚れ異なる素材のマスク試用、こまめな清掃、保護シートの利用
空気漏れによる不快音や目の乾燥フィッティング不良、マスクの劣化再フィッティング、マスクや部品の交換、ストラップ調整

現在では鼻全体を覆うタイプ、鼻の穴に直接差し込むピロータイプ、顔面への接触面が少ないタイプなど、様々な種類のマスクがあります。

医師や医療スタッフに相談し、複数の種類を試着して、ご自身に最もフィットするものを見つけることが重要です。

送られてくる空気の圧や乾燥感

CPAP装置から送られてくる空気の圧力が強すぎると感じたり、逆に弱すぎて効果を実感できなかったりすることも治療の継続を妨げる要因となります。

また、空気が乾燥していると鼻や喉の粘膜が乾いてヒリヒリしたり、朝起きた時に不快感を覚えたりすることがあります。

空気の圧力については治療効果を見ながら医師が適切に調整します。使用していて違和感がある場合は自己判断で設定を変えたりせず、必ず医師に相談しましょう。

乾燥感に対してはCPAP装置に加湿器を取り付けることで大幅に改善することが期待できます。特に冬場など空気が乾燥しやすい季節には有効です。また、寝室の湿度を適切に保つことも乾燥対策の一つです。

装置の作動音や持ち運びの負担

以前のCPAP装置は作動音が大きいものもありましたが、近年の装置は静音化が進んでいます。しかし、それでも音が気になって眠れないという方もいらっしゃいます。

また、旅行や出張が多い方にとっては、毎回の装置の持ち運びが大きな負担になることもあります。

装置の作動音に関しては、装置の設置場所を工夫する(例えば、ベッドから少し離れた場所に置く、防振マットを敷くなど)、あるいは耳栓を使用するといった方法があります。

持ち運びについては、最近では従来のものより小型軽量化されたポータブルタイプのCPAP装置も登場しています。

ご自身のライフスタイルに合わせて、どのような選択肢があるか医師に相談してみるとよいでしょう。

治療に対する心理的な抵抗感

毎晩装置を装着して眠ることに対する心理的な抵抗感もCPAPを使いたくないと感じる大きな理由の一つです。

「見た目が気になる」「機械に繋がれているようで束縛感がある」「パートナーに気を使う」といった感情が、治療へのモチベーションを低下させることがあります。

このような心理的な側面も一人で抱え込まずに医師や家族と話し合い、理解と協力を得ることが大切です。治療の必要性や効果を改めて理解することも、心理的な抵抗感を和らげるのに役立ちます。

CPAP以外の睡眠時無呼吸症候群の治療選択肢

CPAP療法がどうしても合わない、あるいは症状が比較的軽度であるなどの理由で他の治療法を検討したい場合、いくつかの選択肢があります。

ただし、これらの治療法が全ての人に適しているわけではないため、それぞれの特徴を理解し、医師との十分な相談のもとで決定することが重要です。

マウスピース(スリープスプリント)治療

歯科で作製するオーダーメイドのマウスピース(スリープスプリントとも呼ばれます)を就寝中に装着する方法です。

この装置は下顎を前方にわずかに突き出させた状態で固定することにより、舌の根元が沈み込むのを防ぎ、気道を広げていびきや無呼吸を軽減します。

主に軽症から中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の方に適しています。

マウスピース治療の概要

特徴主な利点主な欠点・注意点
下顎を前方に固定し気道を確保持ち運びが容易、電源不要、比較的安価(保険適用の場合)顎関節への負担、歯や歯茎への影響の可能性、効果に個人差、定期的な調整が必要

CPAP装置のような大掛かりな機器が不要で、旅行などにも携帯しやすいという利点があります。

しかし全ての歯がない方や重度の歯周病の方、顎関節に問題がある方などは適用が難しい場合があります。また、作製には専門の歯科医の診察が必要です。

外科的治療(UPPP、LAUPなど)

扁桃肥大やアデノイド、軟口蓋の形態異常など気道を狭くしている物理的な原因が明らかな場合に検討される治療法です。

代表的な手術には、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)やレーザーによる口蓋垂軟口蓋形成術(LAUP)などがあります。これらの手術は気道を物理的に広げることを目的とします。

外科的治療は根本的な改善が期待できる場合もありますが、その効果には個人差があり、全ての方に適応となるわけではありません。

手術には入院が必要となることが多く、術後の痛みや出血、感染といったリスクも考慮に入れる必要があります。また、効果が永続的でない場合もあります。

体位療法(横向き寝の推奨)

仰向けで寝ると、重力の影響で舌根が喉の奥に沈下しやすく、気道が狭窄しやすくなります。そのため横向きで寝ることでいびきや無呼吸を軽減する方法を体位療法と呼びます。

特に、仰向け寝の時に無呼吸が悪化するタイプの「体位依存性睡眠時無呼吸症候群」の患者さんに有効な場合があります。

背中に枕やクッションを置いたり、専用のベストを着用したりして自然と横向き寝を維持できるように工夫します。

体位療法は手軽に試せる方法ですが、睡眠中に無意識に体勢が変わってしまうこともあり、効果の持続が難しい場合もあります。

他の治療法と組み合わせて行うこともあります。

生活習慣の改善(減量、禁煙、節酒など)

睡眠時無呼吸症候群の治療において、生活習慣の改善は非常に重要です。特に肥満はSASの大きなリスク因子であり、減量することで症状が大幅に改善することがあります。

また、禁煙や寝る前のアルコール摂取を控えることも気道の状態を良好に保つために大切です。

生活習慣改善で取り組むべき主なポイント

  • バランスの取れた食事と適度な運動習慣による減量
  • 禁煙(喫煙は気道の炎症を引き起こしSASを悪化させます)
  • 就寝前のアルコール摂取を控える(アルコールは筋肉を弛緩させ気道を狭めます)
  • 睡眠薬の使用は医師に相談(種類によっては呼吸抑制を強める可能性があります)

これらの生活習慣の改善はSASの症状軽減だけでなく、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の予防・改善にもつながり、全身の健康維持に貢献します。

CPAP以外の治療法が適しているケース・適していないケース

CPAP以外の治療法はそれぞれに利点と欠点があり、効果が期待できる病状や患者さんの状態が異なります。ご自身にどの治療法が合っているのか医師とよく相談して判断することが大切です。

ここではそれぞれの治療法がどのような場合に適し、どのような場合に注意が必要かを見ていきます。

マウスピース治療の適応と限界

マウスピース治療は主に軽症から中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI:無呼吸低呼吸指数が概ね30未満)で、特に下顎が小さい、あるいは後退しているといった骨格的な特徴を持つ方に良い適応となることがあります。

また、CPAP療法に抵抗がある方や出張や旅行が多くCPAP装置の持ち運びが困難な方にも選択肢の一つとなります。

一方で重症のSAS(AHIが30以上)の方にはマウスピース治療だけでは効果が不十分な場合があります。

また、残っている歯が極端に少ない方、重度の歯周病を患っている方、顎関節に痛みや開口障害などの問題がある方、鼻閉が強く口呼吸が主体となっている方などは適用が難しいことがあります。

治療効果にも個人差があることを理解しておく必要があります。

外科的治療の適応とリスク

外科的治療は扁桃腺やアデノイドの著しい肥大、鼻中隔の高度な弯曲、軟口蓋の形態異常など、気道を狭窄させる解剖学的な原因が明確な場合に、その原因を除去することで効果が期待できます。

CPAPやマウスピースといった対症療法ではなく、根本的な改善を目指せる可能性がある点が特徴です。

しかし手術には入院が必要であり、術後の痛みや出血、感染といったリスクも伴います。

また、全ての手術がSASを完治させるわけではなく、効果が限定的な場合や、時間とともに症状が再発する可能性も考慮に入れる必要があります。

手術の適応については耳鼻咽喉科医などの専門医が慎重に判断します。

外科的治療を検討する際の主な考慮点

検討事項内容
解剖学的異常の有無と程度手術によって改善が見込める明確な原因が存在するか
SASの重症度他の保存的治療法との効果やリスクを比較検討
手術のリスクと期待される効果患者さんごとの利益と不利益のバランスを評価

体位療法や生活習慣改善の効果と限界

体位療法は特に仰向けで寝た時に無呼吸が悪化する「体位依存性SAS」の患者さんには有効な場合があります。特別な装置を必要とせず、手軽に始められるという利点があります。

一方で睡眠中に無意識に寝返りを打ってしまい体位を維持することが難しい場合や、体位依存性が低いSASの方には効果が限定的です。

生活習慣の改善、特に減量は多くのSAS患者さんにとって症状改善に繋がる重要な取り組みです。数キログラムの減量でも、いびきや無呼吸の回数が減少し、日中の眠気が改善することがあります。

しかし減量だけでSASが完全に治癒するとは限らず、特に中等症以上の方や肥満以外の要因(骨格など)が大きい方では、他の治療法との併用が必要となることが多いです。

また、減量には本人の強い意志と継続的な努力が必要です。

医師との相談の重要性

どの治療法がご自身に適しているかはSASの重症度、原因(閉塞部位の特定など)、全身状態、合併症の有無、さらには患者さんのライフスタイルや治療に対する希望などを総合的に評価して判断する必要があります。

自己判断せずに必ず睡眠医療を専門とする医師に相談し、各治療法のメリット・デメリット、期待できる効果、潜在的なリスクについて十分な説明を受け、納得した上で治療法を選択することが重要です。

どうしてもCPAPが必要な場合 治療を続けるための工夫

他の治療法を検討した結果、やはりCPAP療法が最も適切であると判断される場合もあります。あるいは、CPAP以外の治療と併用する場合もあるでしょう。

その際は治療をできるだけ快適に、そして効果的に続けるための工夫を試みることが大切です。諦めずに、いくつかのポイントを見直してみましょう。

マスクの種類の見直しとフィッティングの再調整

CPAP治療の快適性を左右する最も大きな要素の一つがマスクです。マスクが顔に合っていないと空気漏れや圧迫感、皮膚トラブルの原因となり、治療継続の妨げになります。

マスクには様々な形状、サイズ、素材のものがあります。

主なマスクの種類とそれぞれの特徴

マスクタイプ特徴向いている方(一例)
ネーザルマスク鼻全体を覆うタイプ。比較的安定性が高い。主に鼻呼吸をする方、ある程度の圧が必要な方。
ネーザルピロー(プロング)マスク鼻孔に直接差し込むか、鼻の下にクッションを当てるタイプ。顔への接触面が小さい。閉所恐怖感がある方、顔に跡がつきにくいものを好む方、髭がある方。
フルフェイスマスク鼻と口の両方を覆うタイプ。口呼吸が多い方、鼻閉がある方、高い圧が必要な方。

現在使用しているマスクが合わないと感じる場合は遠慮なく医師や医療スタッフ(看護師、臨床工学技士など)に相談し、他の種類を試してみましょう。

医療機関によっては複数のマスクを試着できる場合があります。

また、マスクのストラップの締め方など適切なフィッティング調整も、空気漏れや圧迫感を減らすために重要です。

加湿器やチューブカバーの活用

CPAP装置から送られてくる空気による鼻や喉の乾燥は多くの患者さんが経験する不快感の一つです。

この乾燥感は加温加湿器を使用することで大幅に軽減できます。ほとんどのCPAP装置には専用の加湿器を接続できるようになっています。医師に相談して、加湿器の使用を検討しましょう。

また、特に冬場など室温が低い環境ではCPAPのチューブ内で結露が発生し、その水滴がマスクに流れ込んで不快な思いをすることがあります。

これを防ぐためにチューブを布製のカバー(ホースカバー)で覆うのも有効な対策です。保温効果により結露を抑えることができます。

空気圧設定の再調整

治療開始時に設定された空気の圧が現在の状態に合わなくなっている可能性もあります。体重の増減や体調の変化、あるいは治療の進行によって必要な圧が変わることがあります。

圧が強すぎると感じて息苦しい、あるいは弱すぎて無呼吸が十分に改善されていないと感じる場合は、医師に相談し、再度圧の評価(タイトレーション検査など)や調整を行ってもらうことを検討しましょう。

最近のCPAP装置には呼吸の状態に合わせて自動で圧を調整するオートCPAP機能が搭載されているものもあります。

段階的な慣らし方と継続のメリット再確認

初めてCPAPを使用する場合や、一度治療を中断して再開する場合には最初から一晩中完璧に装着しようとせず、短い時間から徐々に慣らしていくという方法も有効です。

例えば、まずは日中のリラックスしている時間に数十分装着してみる、就寝時も最初は数時間だけ装着し、徐々に装着時間を延ばしていく、といったやり方です。

無理強いせず少しずつCPAPに慣れていくことが大切です。

また、CPAP治療を継続することで得られるメリット(日中の眠気の改善、集中力の向上、いびきの消失、生活習慣病リスクの低減など)を改めて認識することも、治療へのモチベーション維持につながります。

治療効果を実感できるようになると、CPAPの多少の不快感も許容しやすくなることがあります。

CPAP治療のメリットを再確認する

「CPAPを使いたくない」という気持ちがあるかもしれませんが、CPAP療法が睡眠時無呼吸症候群の治療において多くのメリットをもたらすことを再確認してみましょう。

その効果を理解することが治療継続の動機付けになることもあります。

CPAP療法は単に睡眠中の呼吸を助けるだけでなく、日中の活動性や長期的な健康に良い影響を与えます。

睡眠の質の向上と日中の眠気改善

CPAP療法の最も直接的で体感しやすい効果は睡眠中の無呼吸や低呼吸をなくし、安定した呼吸を確保することです。

このことにより夜間の頻繁な覚醒がなくなり、睡眠が深くなります。断片化されていた睡眠が連続的なものへと改善し、質の高い睡眠が得られるようになります。

結果として日中の耐え難い眠気や倦怠感が軽減され、集中力や注意力が向上し、仕事や学業の効率も上がることが期待できます。

生活習慣病リスクの低減効果

睡眠時無呼吸症候群は高血圧、糖尿病、心疾患(心不全、不整脈、狭心症、心筋梗塞など)、脳卒中といった生活習慣病の独立した危険因子であることが多くの研究で示されています。

CPAP療法によって睡眠中の低酸素状態や交感神経の過緊張が改善されると、これらの生活習慣病の発症リスクを低減したり、既にこれらの病気に罹患している場合にはそのコントロールを助けたりする効果が期待できます。

CPAP治療による健康への好影響が期待される点

  • 血圧の安定化、特に夜間高血圧や早朝高血圧の改善
  • インスリン抵抗性の改善による血糖コントロールの向上
  • 心臓への負担軽減、不整脈の減少

QOL(生活の質)の総合的な向上

日中の眠気や疲労感が軽減し、集中力や活力が回復することで、仕事や学業のパフォーマンスが向上するだけでなく、趣味や社会活動への参加意欲も高まります。

気分の落ち込みやイライラ感が改善されることもあり、精神的な安定にもつながります。パートナーからのいびきの指摘がなくなることで、良好な関係を維持できるといった声も聞かれます。

これらの様々な変化は、生活全体の質(QOL)の向上に大きく貢献します。

長期的な健康維持と予後改善への貢献

CPAP療法を適切に継続することは単に睡眠中の呼吸を楽にするだけでなく、長期的な健康維持に繋がります。

生活習慣病の予防や改善を通じて将来的な心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクを低減し、健康寿命の延伸にも貢献する可能性があります。

睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置した場合と比較して、生命予後が改善することも報告されています。

医師への相談で解決の糸口を見つける

CPAP治療に関する悩みや「使いたくない」という気持ちは一人で抱え込まずに、まずは主治医に相談することが大切です。

医師との良好な信頼関係を築き、治療に関する疑問や不安を率直に話し合うことが治療を円滑に進め、より良い解決策を見つける上で重要になります。

「使いたくない」という気持ちを正直に伝えること

CPAP治療に対して否定的な感情を持っていることや実際に使用していて困っている点を、正直に医師に伝えることが第一歩です。

なぜ使いたくないのか、具体的にどのような点が苦痛なのかを伝えることで医師も患者さんの状況をより深く理解し、個別の対応策を一緒に考えることができます。

遠慮せずにありのままの気持ちを話してみましょう。「こんなことを言っては駄目なのでは」とためらう必要はありません。

治療目標の共有と疑問点の解消

医師と治療の目標を共有することも重要です。CPAP治療によってどのような状態を目指すのか、どのような効果が期待できるのかを改めて確認しましょう。

例えば「日中の眠気をなくして仕事に集中したい」「いびきを改善して家族に迷惑をかけたくない」「将来の心臓病のリスクを減らしたい」など具体的な目標を持つことで、治療への取り組み方が変わってくることもあります。

また、治療に関する疑問点や不安な点があればどんな些細なことでも質問し、納得のいく説明を受けるようにしましょう。理解を深めることが治療への前向きな姿勢につながります。

定期的なフォローアップの重要性

CPAP治療は装置を導入したら終わりではありません。

定期的な受診を通じて治療効果の確認(CPAP装置に記録された使用データや症状の変化など)、装置の使用状況のチェック、マスクの適合性の再評価、副作用の有無の確認などを行います。

このフォローアップの機会を利用して治療中に新たに生じた問題点や疑問点を相談し、その都度解決していくことが治療継続の鍵となります。

医師や医療スタッフは患者さんが治療を続けられるようにサポートする存在です。

定期フォローアップでの主な確認事項と相談内容

確認項目相談できる内容の例
自覚症状の変化日中の眠気、いびき、起床時の爽快感、集中力など
CPAP使用データ平均使用時間、AHI(無呼吸低呼吸指数)、マスクからの空気漏れの程度など
マスク・装置の状態マスクのフィット感、破損の有無、加湿器の水の減り具合、異音など
副作用・困りごと皮膚トラブル、鼻や喉の乾燥感、圧の不快感、装置の操作方法など

セカンドオピニオンも選択肢の一つとして考える

現在の主治医との間で、どうしても治療方針やコミュニケーションに納得がいかない場合にはセカンドオピニオンを求めることも考えてみましょう。

他の睡眠医療専門医の意見を聞くことで新たな視点や異なる治療法の提案、あるいは現在の治療法に対する別の角度からのアドバイスが得られることもあります。

セカンドオピニオンを希望する場合は現在の主治医にその旨を伝え、紹介状(診療情報提供書)やこれまでの検査データなどを提供してもらうとスムーズに受診できます。

よくある質問

ここではCPAP治療やその他の睡眠時無呼吸症候群の治療法に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。治療法選択の際の参考にしてください。

Q
CPAPの代わりに市販のいびき防止グッズでは治療になりませんか?
A

市販されているいびき防止グッズ(鼻腔拡張テープ、口閉じテープ、顎固定サポーター、特殊な形状の枕など)は、一部の軽いいびきに対して一時的な効果を示すことがあるかもしれません。

しかし睡眠時無呼吸症候群は単なるいびきとは異なり、睡眠中に呼吸が頻繁に止まったり浅くなったりする病気であり、放置すると高血圧や心臓病、脳卒中など様々な健康リスクを高めます。

市販のグッズはSASの根本的な治療にはなりません。

自己判断で市販グッズのみに頼るのではなく、必ず専門医の診断を受け、医学的根拠に基づいた適切な治療法について相談してください。

Q
マウスピース治療は誰でも効果がありますか?また、どこで作れますか?
A

マウスピース治療は主に軽症から中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の方に効果が期待できる治療法です。

重症の方や中枢性の睡眠時無呼吸症候群の方には一般的に適していません。

また、残っている歯が極端に少ない方、重度の歯周病がある方、顎関節に重篤な問題がある方、重度の鼻閉がある方などはマウスピース治療が難しい場合があります。効果にも個人差があります。

マウスピースは睡眠時無呼吸症候群の治療に精通した歯科医師が作製します。

まずは睡眠専門医に相談し、マウスピース治療が適しているかどうかの判断と適切な歯科医師の紹介を受けるのが一般的です。

Q
CPAPを使わないで放置すると具体的にどのようなリスクがありますか?
A

睡眠時無呼吸症候群の診断を受け、CPAP治療が必要と判断されたにもかかわらず治療を行わないで放置した場合、様々な健康上の問題が進行する可能性があります。

具体的には日中の強い眠気による交通事故や労災事故のリスク増加、集中力や記憶力の低下による仕事や学業への支障、高血圧の発症・悪化、不整脈、心不全、心筋梗塞、脳卒中といった心血管系疾患のリスク上昇などが挙げられます。

また、糖尿病の悪化や長期的には認知機能の低下、うつ症状などとの関連も指摘されています。

医師からCPAP治療を勧められた場合はその必要性をよく理解し、真剣に治療に取り組むことが大切です。

Q
CPAPのレンタル費用は月々どれくらいかかりますか?また、購入はできますか?
A

日本では医師の診断に基づき睡眠時無呼吸症候群と診断され、一定の基準(一般的にAHIが20以上など)を満たせばCPAP療法は健康保険の適用となります。

保険適用の場合CPAP装置本体は医療機関からのレンタルとなり、患者さんの自己負担は月額で数千円程度(3割負担の場合、一般的には4,500円前後ですが、定期的な診察料や管理料などが含まれるため、医療機関や診療内容により多少異なります)が目安です。

CPAP装置を個人で購入することも可能ですが、その場合は保険適用外となり全額自己負担となるため高額になります。通常は保険診療でのレンタルが一般的です。

詳細な費用については治療を受ける医療機関にご確認ください。

以上

参考にした論文

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