大きないびきを指摘され、特に「鼻づまり」が原因ではないかと考える方は少なくありません。「いびきを治すために鼻の手術をしたい」というご相談も増えています。

確かに、鼻づまりは口呼吸を誘発し、いびきの大きな原因となります。この記事では、なぜ鼻づまりがいびきを引き起こすのか、鼻づまりを解消する手術の種類、その効果や費用について詳しく解説します。

ご自身のいびきが鼻の手術で改善する可能性があるのか、ぜひ参考にしてください。

いびきと鼻づまりの深い関係

なぜ鼻づまりがいびきを引き起こすのか

私たちは本来、鼻で呼吸(鼻呼吸)をします。鼻には、吸い込んだ空気の加湿・加温や、異物を取り除くフィルターの役割があります。

しかし、鼻づまりがあると鼻呼吸が妨げられ、無意識のうちに口で呼吸(口呼吸)をするようになります。 口呼吸になると、舌が喉の奥(気道)に落ち込みやすくなります。

この落ち込んだ舌や軟口蓋(のどちんこの周辺)が、呼吸のたびに振動することで「いびき」の音が発生します。つまり、鼻づまりが口呼吸を招き、その結果としていびきが引き起こされるのです。

鼻づまりの原因となる主な鼻の疾患

慢性的な鼻づまりを引き起こす鼻の疾患は様々です。いびきの原因となりやすい代表的な疾患には、アレルギー性鼻炎、鼻中隔弯曲症、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)などがあります。

鼻づまりの原因となる代表的な疾患

疾患名主な症状鼻づまりの特徴
アレルギー性鼻炎くしゃみ、鼻水、鼻づまりハウスダストや花粉などのアレルゲンにより鼻の粘膜(下鼻甲介)が腫れる。
鼻中隔弯曲症左右どちらかの鼻づまり、いびき左右の鼻を仕切る「鼻中隔」という軟骨が曲がり、鼻の通り道が狭くなる。
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)色のついた鼻水、後鼻漏、頭痛鼻の奥にある「副鼻腔」に膿がたまり、鼻茸(ポリープ)ができると鼻を塞ぐ。

鼻づまりを放置するリスク

鼻づまりを「いつものこと」と放置すると、いびきが悪化するだけでなく、睡眠の質が著しく低下します。

口呼吸が続くと喉が乾燥して炎症を起こしやすくなるほか、十分な酸素を取り込めず、浅い眠りが続きます。

このため、日中の強い眠気、集中力の低下、倦怠感など、日常生活に支障をきたすことがあります。

いびきが睡眠時無呼吸症候群のサインである可能性

特に注意が必要なのは、いびきが「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」のサインである場合です。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が浅くなったり、一時的に止まったりすることを繰り返す病気です。

鼻づまりによる口呼吸は、気道を狭めやすく、SASの発症や悪化に深く関わります。

激しいいびきや、睡眠中に呼吸が止まっていると指摘された場合は、単なる鼻づまりの問題として片付けず、専門医に相談することが重要です。

鼻の手術でいびきは本当に改善する?

鼻手術がいびき改善に与える影響

鼻づまりが原因でいびきが発生している場合、その原因(鼻中隔弯曲症やアレルギー性鼻炎など)を解消する鼻の手術は、いびきの改善に大きな効果が期待できます。

手術によって鼻の通り(鼻腔)が広がると、鼻呼吸が楽になります。これにより、いびきの原因であった口呼吸が減少し、舌の落ち込みが改善するため、いびきの音量や頻度が軽減します。

鼻手術だけでいびきが治るケース

いびきの主な原因が「鼻づまりによる口呼吸」のみである場合、鼻の手術によって鼻呼吸がスムーズになれば、いびきが大幅に改善したり、治まったりする可能性があります。

特に、肥満がなく、喉や顎の骨格に大きな問題がない方で、明確な鼻の疾患(重度の鼻中隔弯曲症など)がある場合は、鼻の手術が非常に有効な治療選択肢となります。

鼻手術によるいびき改善効果の比較

いびきの主な原因鼻手術の効果補足
鼻づまり(鼻疾患)高い効果が期待できる鼻呼吸が改善し、口呼吸が減少するため。
喉の狭窄・肥満限定的(または効果なし)鼻の通りが良くなっても、喉の閉塞が残るため。
上記の両方(合併)いびき軽減に寄与するSAS治療(CPAPなど)と併用することで効果が高まる。

鼻手術だけでは不十分なケース

注意したいのは、いびきの原因が鼻だけにあるとは限らない点です。例えば、肥満によって喉(上気道)の周りに脂肪がつき、気道そのものが狭くなっている場合、鼻の通りを良くしても喉の閉塞は改善しません。

また、扁桃腺が大きい、顎が小さい、舌が大きいといった生まれつきの骨格や形態が原因の場合も、鼻の手術だけではいびきの根本的な解決にならないことがあります。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の合併

鼻の手術は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を根本的に治す手術ではありません。しかし、重度の鼻づまりがSASを悪化させているケースは非常に多く見られます。

鼻の手術で鼻呼吸を改善することは、SASの代表的な治療法である「CPAP(シーパップ:経鼻的持続陽圧呼吸療法)」の効果を高める上で非常に重要です。

CPAPは鼻から空気を送る治療法であるため、鼻が詰まっていると治療の継続が難しくなります。鼻の手術は、SAS治療を円滑に進めるための重要な土台作りとも言えます。

【種類別】鼻づまりを解消する主な手術方法

鼻中隔弯曲症の手術(鼻中隔矯正術)

左右の鼻を仕切る鼻中隔の曲がりを矯正する手術です。曲がっている軟骨や骨の一部を切除し、鼻中隔をまっすぐにすることで、鼻の通りを物理的に広げます。

多くの耳鼻咽喉科で広く行われている手術です。

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の手術(内視鏡下鼻副鼻腔手術)

「ESS」とも呼ばれる手術で、内視鏡(カメラ)を鼻に入れ、モニターで見ながら副鼻腔にたまった膿や病的な粘膜、鼻茸(ポリープ)を取り除きます。

副鼻腔の換気を良くし、炎症を鎮めることを目的とします。

主な鼻の手術の概要

手術名対象疾患手術の目的
鼻中隔矯正術鼻中隔弯曲症曲がった鼻中隔をまっすぐにし、鼻の通り道を広げる。
内視鏡下鼻副鼻腔手術 (ESS)慢性副鼻腔炎(蓄膿症)副鼻腔の膿や鼻茸を除去し、換気を改善する。
下鼻甲介手術アレルギー性鼻炎、肥厚性鼻炎腫れた鼻の粘膜(下鼻甲介)を縮小させ、鼻腔を広げる。

アレルギー性鼻炎や肥厚性鼻炎の手術(下鼻甲介手術)

アレルギーなどで慢性的に腫れている鼻の粘膜(下鼻甲介)を縮小させる手術です。レーザーや高周波(ラジオ波)で粘膜の表面や内部を焼灼する方法、または粘膜の下にある骨を切除する方法などがあります。

いびき治療を目的とする場合、鼻中隔矯正術と同時に行うことも多い手術です。

鼻中隔矯正術(鼻中隔弯曲症)

手術の概要と目的

鼻中隔弯曲症は、鼻の内部にある仕切り(鼻中隔)が強く曲がっている状態を指します。

これにより、どちらか一方の鼻が詰まりやすくなります。 鼻中隔矯正術は、この曲がった鼻中隔の軟骨と骨の一部を取り除き、まっすぐ矯正する手術です。

鼻の穴の中からすべて行うため、顔の表面に傷が残ることはありません。

鼻中隔弯曲症の主な症状

  • 慢性的な鼻づまり(特に片側)
  • 口呼吸、いびき
  • 匂いが分かりにくい
  • 鼻血が出やすい

期待できる効果

最も期待できる効果は、物理的に狭くなっていた鼻腔が広がり、鼻呼吸が格段にしやすくなることです。鼻の通りが良くなることで、いびきや口呼吸の改善、睡眠の質の向上につながります。

また、鼻づまりに伴う頭痛や集中力の低下が改善することもあります。

手術の対象となる人

CT検査などで明確な鼻中隔の弯曲が認められ、薬物療法などでは改善しない慢性的な鼻づまりや、それに伴ういびきに悩んでいる方が対象です。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者さんで、CPAP治療の妨げになるほどの鼻づまりがある場合にも推奨されます。

費用や入院期間の目安

鼻中隔矯正術は、健康保険が適用される治療です。手術費用や入院の必要性は、同時に行う手術(下鼻甲介手術など)の有無や、施設の方針によって異なります。

鼻中隔矯正術の費用・入院目安(保険適用)

項目目安(3割負担の場合)備考
手術費用(片側)約3万円~高額療養費制度の対象となる場合があります。
入院期間日帰り~約1週間全身麻酔の場合は数日間の入院を要することが多いです。

※上記はあくまで目安です。麻酔方法や他の手術との組み合わせにより変動します。

内視鏡下鼻副鼻腔手術(慢性副鼻腔炎)

手術の概要と目的

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)は、副鼻腔という顔の骨の中にある空洞に炎症が続き、膿がたまったり、鼻茸(ポリープ)ができたりする病気です。

内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)は、内視鏡を用いて鼻の中から副鼻腔の入口を広げ、たまった膿や鼻茸を除去します。この手術により、副鼻腔の換気が良くなり、炎症が治まりやすくなります。

期待できる効果

鼻づまりの改善はもちろん、慢性的な色のついた鼻水、後鼻漏(鼻水が喉に落ちる感覚)、頭痛、嗅覚障害(匂いがわからない)といった症状の大幅な改善が期待できます。

鼻茸によって鼻呼吸が妨げられていた場合は、いびきの軽減にもつながります。

手術の対象となる人

薬物療法(抗生物質や点鼻薬など)を一定期間行っても改善しない慢性副鼻腔炎や、大きな鼻茸がある方が主な対象です。

ESSの主な対象

  • 薬で治らない慢性副鼻腔炎
  • 鼻茸(鼻ポリープ)がある
  • 好酸球性副鼻腔炎

費用や入院期間の目安

ESSも健康保険が適用されます。炎症の範囲(片側か両側か、いくつの副鼻腔か)によって手術の規模が変わり、費用や入院期間も変動します。

ESSの費用・入院目安(保険適用)

項目目安(3割負担の場合)備考
手術費用約5万円~15万円炎症の範囲や重症度によって変動します。
入院期間約3日~10日間全身麻酔で行うことが一般的です。

※上記は目安であり、高額療養費制度の対象となります。

下鼻甲介手術(アレルギー性鼻炎・肥厚性鼻炎)

手術の概要と目的

鼻の中には下鼻甲介(かびこうかい)という粘膜のヒダがあり、アレルギー性鼻炎や慢性的な刺激によってこの粘膜が腫れると、慢性的な鼻づまり(肥厚性鼻炎)を引き起こします。

下鼻甲介手術は、この腫れた粘膜を縮小させ、鼻の通り道(鼻腔)を広げることを目的とします。

レーザー、高周波、切除術の違い

粘膜を縮小させる方法にはいくつか種類があり、それぞれ特徴が異なります。クリニックによって採用している方法が異なります。

下鼻甲介手術の主な種類

手術方法特徴麻酔・入院
レーザー焼灼術粘膜の表面をレーザーで焼く。出血が少ない。局所麻酔・日帰りが一般的。
高周波(ラジオ波)焼灼術粘膜の内部に針を刺し、高周波で内部から凝固・縮小させる。局所麻酔・日帰りが一般的。
粘膜下下鼻甲介骨切除術粘膜の内部にある骨を切除し、粘膜全体を縮小させる。効果が高い。局所または全身麻酔。入院が必要な場合もある。

期待できる効果

鼻づまりの劇的な改善が期待できます。特にレーザーや高周波治療は、アレルギーによるくしゃみや鼻水に対しても一定の効果が見込めます。

鼻の通りが良くなることで口呼吸が減り、いびきの改善にもつながります。ただし、アレルギー体質そのものが治るわけではないため、効果が永続的でない場合もあります。

費用や日帰りの可能性

レーザー治療や高周波治療は、多くの場合、局所麻酔による日帰り手術が可能です。費用は保険適用(3割負担)で、両側で1万円~3万円程度が目安となります。

鼻中隔矯正術など他の手術と同時に行う場合は、入院や全身麻酔が必要となることが多く、費用も変わってきます。

鼻の手術を受ける前に知っておきたいこと

手術のリスクと合併症

鼻の手術は比較的安全性が確立されていますが、医療行為である以上、リスクや合併症の可能性はゼロではありません。

主なものとしては、術後の出血、感染、鼻の中の癒着、一時的な嗅覚の低下などが挙げられます。

特に手術後数日間は、鼻に詰め物(ガーゼなど)を入れるため、一時的に鼻呼吸が全くできなくなり、つらい時期があります。

術後の一般的な注意点

  • 術後の出血
  • 鼻の痛みや頭痛
  • 鼻への詰め物による不快感
  • 激しい運動や飲酒の制限

術後の回復期間とダウンタイム

手術の種類や麻酔方法によって大きく異なります。日帰りのレーザー治療などでは、翌日から通常の仕事に復帰できることもあります。

一方、鼻中隔矯正術やESSなどを全身麻酔で行った場合、数日間の入院が必要です。退院後も、鼻の中の粘膜が完全に落ち着くまでには1~3ヶ月程度かかります。

その間は、定期的な通院(鼻の中の清掃)が必要です。

手術以外の鼻づまり治療(保存療法)

すべての鼻づまりに手術が必要なわけではありません。まずは薬物療法などの保存療法を試みることが一般的です。

手術以外の主な鼻づまり治療

治療法対象内容
薬物療法アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎抗ヒスタミン薬の内服、ステロイド点鼻薬の使用。
鼻洗浄(鼻うがい)副鼻腔炎、後鼻漏生理食塩水で鼻の中を洗い流し、膿やアレルゲンを除去する。
生活習慣の改善アレルギー性鼻炎アレルゲン(ハウスダストなど)の除去、部屋の掃除。

専門医の診断の重要性

「いびき=鼻の手術」と短絡的に考えるのは危険です。

いびきの原因は多岐にわたり、鼻づまりが原因だと思っていても、実際には喉の狭窄や肥満、あるいは睡眠時無呼吸症候群が主たる原因であることも少なくありません。

まずは耳鼻咽喉科、特にいびきや睡眠時無呼吸症候群の治療に詳しい専門医の診察を受けることが重要です。

CT検査や睡眠検査(終夜睡眠ポリグラフ検査)などで、いびきの本当の原因を正確に突き止めた上で、ご自身にとって適切な治療法(手術、CPAP、マウスピースなど)を選択しましょう。

よくある質問(Q&A)

Q
手術は痛いですか?麻酔はしますか?
A

手術中は麻酔(局所麻酔または全身麻酔)を行いますので、痛みを感じることはありません。

日帰りのレーザー治療などは局所麻酔(鼻の中の粘膜に麻酔薬を浸したガーゼを入れる、または注射)で行うことが多いです。

入院して行う手術の場合は、全身麻酔で行うことが一般的です。術後は、麻酔が切れると痛みが出ることがありますが、鎮痛剤を処方しますのでコントロールが可能です。

Q
手術後、いびきはすぐになくなりますか?
A

すぐになくなるわけではありません。手術直後は、鼻の中に詰め物を入れたり、粘膜が腫れたりするため、一時的に術前よりも鼻づまりがひどくなります。

この期間はいびきも悪化することがあります。

鼻の中の腫れが引き、詰め物が取れて鼻呼吸がスムーズになるまで(術後数週~1ヶ月程度)は、いびき改善の効果を実感しにくいかもしれません。

Q
子供でも鼻の手術を受けられますか?
A

鼻中隔弯曲症の手術は、体の成長(特に顔面の骨格)がほぼ完了する16~18歳以降に行うのが一般的です。それ以前に行うと、顔の成長に影響を与える可能性があるためです。

ただし、アレルギー性鼻炎に対するレーザー治療などは、年齢が低くても可能な場合があります。

お子様のいびきや鼻づまりについては、小児の治療経験が豊富な耳鼻咽喉科医にご相談ください。

Q
鼻の手術でいびきが再発することはありますか?
A

鼻中隔矯正術や骨を伴う下鼻甲介手術の効果は半永久的なことが多いです。

しかし、アレルギー性鼻炎に対するレーザー治療などは、数年で粘膜が再生し、再び腫れて鼻づまりが再発することがあります。

また、手術後に体重が増加し、喉が狭くなると、鼻の通りが良くてもいびきが再発(または悪化)することがあります。

Q
鼻の手術と睡眠時無呼吸症候群の治療は同時にできますか?
A

治療方針によります。

重度の睡眠時無呼吸症候群(SAS)があり、CPAP治療が必要な場合、まずは鼻の手術で鼻呼吸を改善し、CPAPを使いやすくしてからSAS治療を開始することがあります。

また、SASが軽症~中等症で、鼻づまりが主な原因と判断される場合は、鼻の手術を優先することもあります。どの治療をどの順番で行うかは、専門医による総合的な診断が重要です。

参考にした論文