睡眠時無呼吸症候群の治療のためにCPAPを始めたのに、かえって咳が出て眠れない。そんな悩みを抱えていませんか。

CPAP治療中に咳が出るのは決して珍しいことではありません。その原因の多くは鼻や喉の「乾燥」、マスクからの「空気漏れ」、設定された「圧の強さ」にあります。

この記事ではCPAPで咳が出る主な原因を一つずつ解き明かし、ご自身で今すぐできる対策や、医師への相談ポイントを詳しく解説します。原因を正しく理解し、快適な治療を続けましょう。

CPAP治療で咳が出る4つの主な原因

CPAP治療中に咳が出る場合、その原因は一つとは限りません。複数の要因が絡み合っていることもあります。

まずは、考えられる主な原因を理解することが解決への第一歩です。

喉や鼻の「乾燥」による刺激

CPAPは室内の空気を常時送り込むため、鼻や喉の粘膜が乾燥しやすくなります。粘膜が乾燥するとわずかな刺激にも敏感になり、防御反応として咳が出やすくなります。

特に空気が乾燥する冬場やエアコンを使用した部屋で寝ている場合に起こりやすいです。

マスクからの「空気漏れ(リーク)」

マスクが顔に合っておらず隙間があると、そこから空気が漏れてしまいます。この漏れた空気が目や顔に当たって不快なだけでなく喉の乾燥をさらに助長し、咳の原因となります。

また、空気漏れは治療効果そのものを低下させてしまいます。

設定された「圧の強さ」による違和感

CPAPの空気の圧が強すぎると感じると喉に違和感を覚えたり、息を吐きにくく感じたりすることがあります。

この圧の刺激や息を吐く時の抵抗感が咳を誘発する場合があります。治療を始めたばかりの時期に感じやすい問題です。

咳の主な原因と対策の方向性

原因主な症状対策のポイント
乾燥喉のイガイガ、乾いた咳加湿、水分補給
空気漏れシューという音、目の乾きマスクのフィッティング調整
圧の強さ息苦しさ、喉の違和感圧設定の見直し(医師相談)

「乾燥」が原因の咳とその対策

CPAPによる咳の原因として最も多いのが鼻や喉の乾燥です。しかし、これは適切な対策で大幅に改善できます。

なぜCPAPで喉や鼻が乾燥するのか

CPAP装置は部屋の空気をそのまま取り込んで送り出します。そのため部屋の空気が乾燥していると、乾いた空気が直接鼻や喉の粘膜に当たり続け、粘膜の水分を奪ってしまうのです。

鼻マスク使用時に口呼吸をしてしまう「口漏れ」も口内の乾燥を著しく悪化させます。

加温加湿器の重要性と正しい使い方

この乾燥問題を解決する最も有効な手段が「加温加湿器」の使用です。CPAP装置にセットし、送り出す空気を温めて湿らせることで鼻や喉への刺激を和らげます。

多くのCPAP装置に標準で付属、またはオプションで追加できます。加湿レベルは季節や室内の環境に合わせて調整することが大切です。

加温加湿器の設定目安

季節・環境推奨設定(一例)ポイント
冬場、乾燥時中~高レベル結露に注意しつつ湿度を上げる
夏場、多湿時低レベルまたはオフ不快に感じない範囲で調整

室内の湿度管理と水分補給

CPAPの加湿器だけに頼るのではなく、寝室自体の湿度を適切に保つことも重要です。加湿機能付きの空気清浄機などを使用し、室内の湿度を50〜60%に保つことを目指しましょう。

また、就寝前にコップ一杯の水を飲むなど、体の中から水分を補給することも忘れないようにしてください。

「空気漏れ(リーク)」による咳とその対策

マスクのフィッティングが不適切だと空気漏れが起こり、咳だけでなく様々な問題を引き起こします。

空気漏れが咳を引き起こす仕組み

マスクの隙間から漏れた空気が喉や口周りの乾燥を引き起こし、咳の原因となります。

また、空気漏れがあるとCPAP装置は設定された圧を保とうとして、さらに多くの空気を送り込もうとします。このことにより圧が不安定になり、咳を誘発することがあります。

マスクのフィッティング再確認

咳が出る場合、まずはマスクが顔に正しくフィットしているか確認しましょう。

鏡を見ながらマスクのクッションが均等に顔に当たっているか、特に鼻の周りや頬に隙間がないかチェックします。

寝た状態と座った状態では顔の肉のつき方が変わるため、実際に寝る姿勢で確認することが重要です。

マスクのフィッティングチェックポイント

チェック項目確認内容
装着位置マスクが顔の中心にあり、ずれていないか
密着度鼻の付け根や頬に隙間がないか
ストラップの締め付け締めすぎて痛みや跡がついていないか

ヘッドギア(ストラップ)の正しい締め方

空気漏れを恐れてストラップをきつく締めすぎるのは逆効果です。締めすぎるとクッションが歪んでかえって隙間ができたり、皮膚に痛みや跡がついたりする原因になります。

ストラップは指が1〜2本スムーズに入るくらいのゆとりを持たせるのが基本です。

マスクの劣化と交換時期

マスクのクッション部分はシリコン製で毎日使用するうちに皮脂や洗浄によって劣化し、弾力性を失っていきます。弾力がなくなると顔にフィットしにくくなり、空気漏れの原因となります。

一般的にマスクやその部品は、半年に1回から1年に1回程度の交換が推奨されます。

「圧」が原因の咳とその対策

CPAPから送られてくる空気の圧が刺激となって咳を引き起こすこともあります。

圧の強さが刺激になる場合

特に治療を始めたばかりの頃は空気が送り込まれる感覚に慣れず、喉が刺激されて咳が出ることがあります。

また、息を吐き出す時に圧の抵抗を感じ、息苦しさから咳き込んでしまうこともあります。

圧の自動調整機能(Auto CPAP)

最近のCPAP装置には患者さんの呼吸状態に合わせて必要な圧を自動で調整してくれる機能(Auto CPAP)を持つものがあります。

常に一定の高い圧がかかるのではなく、無呼吸が起きた時だけ圧を上げるため体への負担が少なく、咳が出にくいという利点があります。

呼気圧減圧機能の活用

多くの装置には息を吐くタイミングに合わせて空気の圧を少し下げてくれる機能(EPR、FLEXなどメーカーにより呼称は異なる)が搭載されています。

この機能を使うと息を吐き出すのが楽になり、圧による息苦しさや咳を軽減する効果が期待できます。

  • Auto CPAP: 睡眠中の呼吸状態に応じて圧を自動調整する
  • 呼気圧減圧機能: 息を吐く時に圧を少し下げる

圧の変更は必ず医師に相談

圧が原因で咳が続く場合でも自己判断で設定を変更してはいけません。圧は治療効果に直結する重要な設定です。

必ず主治医や担当の技師に相談し、CPAP装置のデータを確認した上で適切な設定に変更してもらいましょう。

衛生状態と咳の関係

見落としがちですが、CPAP装置やマスクの衛生状態も咳の原因となりえます。

装置やマスクの汚れとカビのリスク

マスクやチューブ、加湿器のタンクは毎日呼気に触れ、湿った環境にあるため、細菌やカビが繁殖しやすい場所です。

汚れたまま使用すると雑菌やカビの胞子を吸い込んでしまい、アレルギー反応や気管支の炎症を引き起こし、咳の原因となることがあります。

毎日の簡単なお手入れ方法

清潔を保つために毎日の簡単なお手入れを習慣にしましょう。

マスクのクッション部分は顔の皮脂が付着するため、毎朝中性洗剤で優しく洗い、よく乾かします。加湿器の水は毎日交換し、タンク内を洗浄します。

CPAPの清掃スケジュール例

頻度対象部品お手入れ方法
毎日マスククッション、加湿器タンク中性洗剤で洗浄、乾燥
週に1回チューブ、ヘッドギア中性洗剤で洗浄、陰干し

定期的な部品交換の重要性

洗浄していてもチューブの内部やマスクの細かい部分には汚れが蓄積していきます。

治療効果と衛生を保つためにも、マスクやチューブ、フィルターなどの消耗品は推奨される交換時期に従って定期的に新しいものに交換することが大切です。

よくある質問

最後に、CPAP治療中の咳に関して患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。

Q
咳が出始めたらすぐに使用を中止すべきですか?
A

まずは、加湿器の使用やマスクのフィッティング調整など、ご自身でできる対策を試してみてください。

それでも咳が改善しない場合やひどくなる場合は自己判断で中止せず、できるだけ早く主治医や医療機関に連絡し、相談してください。

咳の原因を特定し、適切な対処法を見つけることが重要です。

Q
風邪をひいた時のCPAP使用はどうすればいいですか?
A

高熱がある場合や咳や鼻水がひどく、CPAPの使用が苦痛に感じる場合は無理して使用する必要はありません。数日間、使用を休みましょう。

ただし、症状が長引く場合は治療の中断期間が長くなるため、主治医に相談してください。

Q
加湿器の水は水道水でもいいですか?
A

加湿器には不純物やミネラル分が含まれていない「精製水」の使用を推奨します。

水道水を使用するとミネラル分が固まって水垢となり、装置の故障の原因になったり、雑菌が繁殖しやすくなったりするためです。

精製水は薬局やドラッグストアなどで購入できます。

以上

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