呼吸器疾患の一種である肺扁平上皮癌(はいへんぺいじょうひがん)とは、肺の気管支や肺胞を覆う上皮細胞が異常に増殖する悪性腫瘍です。
主に喫煙者や高齢者に多く見られ、初期段階では症状が現れにくいのが特徴です。
肺扁平上皮癌は他の肺癌と比べて進行が遅いとされていますが、進行すると様々な症状が現れることがあり、個人差も大きいため定期的な検診が推奨されます。
肺扁平上皮癌の主症状
肺扁平上皮癌の主症状は、持続的な咳、血痰、胸痛、呼吸困難などです。これらの症状は初期段階では軽微であることが多く、進行するにつれて顕著になります。
早期発見が5年生存率を大幅に向上させるため、これらの症状に注意を払うことが極めて重要です。
持続的な咳:一般的な初期症状と見逃されやすい特徴
肺扁平上皮癌患者の約70%が経験する最初の症状は長引く咳です。この咳は通常の風邪とは異なり、3週間以上続くことが特徴的です。
初期段階では乾いた咳であることが多いですが、病状の進行に伴い粘稠度の高い痰を伴う咳に変化していくことがあります。この変化は腫瘍の成長と気道の炎症反応を反映しています。
特筆すべきはこの咳が間欠的に改善することがあり、そのために患者が受診を遅らせてしまうケースが少なくないという点です。
咳の特徴 | 初期段階 | 進行段階 |
持続期間 | 3週間以上 | 数ヶ月以上 |
性質 | 乾性 | 湿性(粘稠痰を伴う) |
頻度 | 間欠的 | 持続的 |
強度 | 軽度〜中等度 | 中等度〜重度 |
血痰:重要な警告サインと誤解されやすい特徴
血痰は肺扁平上皮癌の重要な症状の一つで、約25%の患者が経験します。痰に少量の血が混じる程度から鮮血を吐き出すまでその程度は様々です。
血痰は腫瘍が気道の血管を侵食することによって生じますが、初期段階では非常に少量で痰の色がわずかにピンク色を帯びる程度のこともあります。
注意すべきは血痰が必ずしも持続的ではなく、一時的に出現しては消失することがあるという点です。このため一度だけの出現で安心せず、再発の有無を注意深く観察することが大切になります。
- 血痰の特徴と注意点
- 量:微量(ピンク色の痰)から多量(鮮血)まで様々
- 頻度:間欠的に出現することがある
- 併存症状:咳や胸痛を伴うことが多い
- 誤解されやすい点:歯茎からの出血と間違えられることがある
胸痛:進行のサインと特異的パターン
胸痛は肺扁平上皮癌が進行した段階でよく見られる症状で、約40%の患者が経験します。この痛みは腫瘍が胸膜や胸壁に浸潤することによって引き起こされるのです。
痛みの性質は鈍痛から鋭い痛みまで様々で呼吸や体位によって増強することがあります。特徴的なのは痛みが肩や背中に放散することがあり、これが筋肉痛と誤解される原因となることです。
胸痛の特徴 | 詳細 | 注意点 |
部位 | 胸部全体または局所的 | 肩や背中への放散痛に注意 |
性質 | 鈍痛から鋭痛 | 運動や外傷と無関係な痛みに注意 |
増悪因子 | 呼吸、体位変換 | 安静時の痛みにも注意 |
持続時間 | 数時間から持続的 | 間欠的な痛みでも油断しない |
呼吸困難:進行性の症状と生活への影響
呼吸困難は進行が進むにつれて現れる症状で約60%の患者さんが経験します。初期段階では運動時にのみですが、病状の進行とともに日常生活でも感じられるようになるでしょう。
この症状は腫瘍による気道閉塞や肺実質の破壊、さらには胸水貯留によって起こります。特に注意すべきは呼吸困難が徐々に進行するため患者さん自身が気づきにくいことです。
呼吸困難の進行と日常生活への影響は以下の通りです。
- 初期:階段昇降や速歩で息切れを感じる
- 中期:通常の歩行や着替えで息切れを感じる
- 後期:安静時や会話中でも息切れを感じる
- 影響:仕事の継続が困難になる、社会活動が制限される
全身症状
肺扁平上皮癌が進行すると全身症状が現れることがありますが、非特異的であるため初期段階では見逃されやすいという特徴があります。
全身症状 | 頻度 | 初期の特徴 | 進行期の特徴 |
倦怠感 | 80% | 休息で改善 | 持続的で改善しない |
体重減少 | 60% | 軽度(3%未満) | 顕著(10%以上) |
食欲不振 | 50% | 間欠的、味覚の変化 | 持続的 |
発熱 | 20% | 微熱(37.5℃未満) | 中等度の発熱 |
原因とリスク要因
肺扁平上皮癌の主な原因は長期にわたる喫煙習慣です。しかし近年の研究により、喫煙以外にも複数のリスク要因が複雑に関与していることが明らかになっています。
これらの要因が単独または複合的に作用し、肺の上皮細胞に遺伝子変異を引き起こすことで癌化のプロセスが始まるのです。
喫煙:最大のリスク要因とその分子メカニズム
喫煙は肺扁平上皮癌の最も重要な原因として知られています。タバコの煙に含まれる4000種類以上の化学物質のうち少なくとも60種類が発癌性を持つことが確認されているのです。
これらが長期間にわたって肺の組織に直接的な損傷を与えることで癌化のリスクを著しく高めてしまいます。
喫煙者は非喫煙者と比較して肺扁平上皮癌を発症するリスクが約20倍も高いとされていて、さらに喫煙期間や1日の喫煙本数が増えるほどリスクは上昇します。
最新の研究では喫煙による発癌メカニズムがより詳細に解明されつつあります。例えばタバコ煙中のベンゾ[a]ピレンが、p53遺伝子の特定の部位に変異を引き起こすことが分かっているのです。
また、ニコチンが細胞の生存シグナルを活性化して細胞死を抑制することで、異常細胞の蓄積を促進することも明らかになっています。
喫煙状況 | 相対リスク | 主な発癌物質 |
非喫煙者 | 1.0 | – |
軽度喫煙者 (1-10本/日) | 5.0 | ベンゾ[a]ピレン、ニトロソアミン |
中度喫煙者 (11-20本/日) | 15.0 | 上記 + アクロレイン、ホルムアルデヒド |
重度喫煙者 (21本以上/日) | 25.0以上 | 上記 + 放射性物質(ポロニウム-210) |
職業性曝露
職業上の環境因子も肺扁平上皮癌の重要な原因の一つです。特に以下のような物質に曝露される機会の多い職種に従事するかたは、肺扁平上皮癌のリスクが高いです。
職業性曝露物質 | 主な関連職種 | 相対リスク |
アスベスト | 建設業、造船業 | 3.0-5.0 |
ラドン | 鉱業、地下作業 | 1.5-3.0 |
金属(ヒ素、クロム等) | 金属加工業 | 2.0-4.0 |
シリカ(結晶質シリカ) | 採石業、窯業 | 1.5-2.5 |
ディーゼル排気微粒子 | 運輸業、建設業 | 1.3-2.0 |
大気汚染:都市化と気候変動の影響
大気汚染も肺扁平上皮癌の発症リスクを高める要因として注目されています。
特に工業地帯や交通量の多い都市部ではPM2.5などの微小粒子状物質や二酸化窒素、オゾンなどの有害物質への曝露機会が増加するのです。
そしてこれらの汚染物質は長期間にわたって肺の組織に炎症や酸化ストレスを引き起こし、遺伝子変異の蓄積を促進する可能性があります。
世界保健機関(WHO)の最新の報告によると、大気汚染は肺癌全体の発症リスクを約20%増加させるとされています。
さらに気候変動に伴う大気質の悪化が将来的に肺癌リスクをさらに高める可能性も指摘されているのです。
大気汚染物質 | 相対リスク |
PM2.5 | 1.1-1.5 |
二酸化窒素 | 1.2-1.4 |
オゾン | 1.1-1.3 |
ベンゼン | 1.3-1.6 |
遺伝的要因
遺伝的要因も肺扁平上皮癌の発症リスクに重要な影響を与えます。
特定の遺伝子変異や多型が発癌物質への感受性を高めたり、DNA修復能力を低下させたりすることで癌化のリスクを増大させる可能性があるのです。
最新のゲノムワイド関連解析研究では肺扁平上皮癌のリスクと関連する多数の遺伝子座が同定されています。
主要な関連遺伝子とその機能は以下の通りです。
遺伝子 | 関連する機能 | リスク増加 |
p53 | 細胞周期制御、アポトーシス | 2-3倍 |
EGFR | 細胞増殖シグナル | 1.5-2倍 |
KRAS | 細胞増殖、生存 | 1.5-2倍 |
CHRNA3/5 | ニコチン依存性 | 1.3-1.8倍 |
CYP1A1 | 発癌物質代謝 | 1.2-1.5倍 |
炎症性疾患とウイルス感染:新たなリスク因子
近年の研究により慢性炎症性肺疾患や特定のウイルス感染が肺扁平上皮癌の発症リスクを高める可能性が指摘されています。
慢性閉塞性肺疾患や肺線維症などの慢性炎症性肺疾患は持続的な炎症と組織のリモデリングを引き起こし、癌化のリスクを高めます。COPDを持つ患者さんは肺癌全体のリスクが2~4倍増加するのです。
炎症性疾患 | リスク増加 |
COPD | 2-4倍 |
肺線維症 | 3-5倍 |
気管支拡張症 | 1.5-2.5倍 |
また、ヒトパピローマウイルス(HPV)やエプスタイン・バーウイルス(EBV)など特定のウイルス感染も肺扁平上皮癌のリスク因子として注目されています。
これらのウイルスは肺の上皮細胞に感染して細胞の遺伝子発現を変化させることで癌化のプロセスを促進する可能性があるのです。
複合的リスク要因の相互作用
肺扁平上皮癌の発症には上記の要因が複雑に絡み合って影響を与えています。
特に重要なのはこれらの要因が単独で作用するだけでなく、相互に影響し合うことでリスクを相乗的に高める可能性があるという点です。
例えば喫煙とアスベスト曝露の組み合わせは単独の場合よりもはるかに高いリスクをもたらします。
リスク要因の組み合わせ | 相対リスク |
喫煙 + アスベスト曝露 | 50-100倍 |
喫煙 + ラドン曝露 | 20-30倍 |
喫煙 + 遺伝的感受性 | 30-50倍 |
職業性曝露 + 大気汚染 | 5-10倍 |
診察と診断
肺扁平上皮癌の診察と診断は段階的に進められます。早期発見と正確な診断が生存率向上の鍵となるため、これらの診断プロセスを迅速かつ精密に行うことが極めて重要です。
病歴聴取
診察の最初のステップは患者さんからの詳細な病歴聴取で、症状の経過、喫煙歴、職業歴、家族歴などを慎重に聞き取ります。
聴取項目 | 具体例 |
症状 | 咳、血痰、胸痛 |
喫煙歴 | 本数/日、喫煙年数 |
職業歴 | 建設業、鉱業など |
家族歴 | 肺癌、他の悪性腫瘍 |
病歴聴取はその後の検査の方向性を決定する上で不可欠な情報源となり、個別化された診断戦略の立案に直結するのです。
身体診察
病歴聴取に続いて詳細な身体診察を行います。
胸部の聴診では呼吸音の変化や異常音の有無を確認したり、リンパ節の腫大やばち指(指先が太鼓バチ状に肥大する症状)の定量的評価、皮膚の色調変化も診察が必要です。
画像検査
画像検査は肺扁平上皮癌の診断において中心的な役割を果たします。主に次のような検査が行われるでしょう。
検査法 | 特徴 |
低線量CT | 高精細、低被曝 |
PET-CT | 代謝活性評価、転移検索 |
MRI | 軟部組織コントラスト優秀 |
画像所見
肺扁平上皮の画像所見は、胸部X線検査、CT検査、PET-CT検査を行います。これらの画像所見は腫瘍の位置、大きさ、形状、周囲組織との関係など診断と病期分類に不可欠な多層的な情報を提供してくれるのです。
胸部X線検査
胸部X線検査は肺扁平上皮癌の初期スクリーニングとして重要な役割を果たします。典型的な所見としては肺野辺縁部の不整陰影や腫瘤影が挙げられるでしょう。
陰影は周囲の正常な肺組織との境界が不明瞭であることが特徴的で、時として周囲の組織を引き込むような様相を呈することもあります。
研究によると胸部X線写真の感度は約70%、特異度は約90%とされており、初期スクリーニングとして有用な手法です。
胸部X線所見 | 出現頻度 |
辺縁不整陰影 | 約80% |
肺門部腫大 | 約30% |
胸水貯留 | 約15% |
所見:右上肺野・肺門部中心に浸潤影が認められ、気管が右側に移動している。胸膜縁が逆S字を呈しており、いわゆるGolden S signを呈しており、肺門部肺癌による無気肺を疑う。
CT検査
CTスキャンは肺扁平上皮癌の診断において中核的役割を果たし、腫瘍の詳細な形態や周囲組織との関係を明らかにします。
高分解能CT(HRCT)を用いることで1mm以下の微細な構造も評価できる可能性があり、早期発見の助けになることも多いでしょう。
典型的なCT画像での特徴は以下の通りです。
- 辺縁不整な充実性腫瘤(約90%の症例で観察)
- 内部の不均一な濃度(約70%の症例で観察)
- 空洞形成(進行例の約20%で観察)
CT所見 | 特徴 | 診断的意義 |
スピキュラ | 放射状の線状影 | 悪性を示唆 |
胸膜陥入 | 腫瘤に向かう胸膜の陥凹 | 悪性を示唆 |
血管収束 | 腫瘤周囲の血管集中 | 悪性を示唆 |
これらの所見は腫瘍の進行度や周囲組織への浸潤の程度を反映していることがあります。
所見:(左) 胸部X線写真では縦隔拡大と右肺門部や上肺野縦隔側に浸潤影が目立つ。右) 造影CTでは右肺門部~縦隔に広がる腫瘤と右鎖骨上窩・縦隔リンパ節の転移が認められる。
PET-CT検査
PET-CT検査は肺扁平上皮癌の代謝活性を評価し、病期診断や転移検索に有用です。
FDG(フルオロデオキシグルコース)を用いたPET-CT検査では肺扁平上皮癌は通常高いSUV(Standardized Uptake Value)を示すことがあります。
PET-CT所見 | 数値 | 臨床的意義 |
SUVmax | >2.5 | 悪性を強く示唆 |
感度 | 約96% | 高い検出能 |
特異度 | 約78% | 良悪性の鑑別に有用 |
このような所見からCTだけでは判断が難しい小さな病変や遠隔転移の検出が可能となる場合もあるのです。
所見:偏平上皮癌の症例。(a) CTでは左上葉に腫瘍を認める。(b) FDG-PET/CTでは、SUVmax = 11.9の高いFDG集積亢進を認める。病理所見でリンパ節転移およびリンパ管浸潤が認められた。
MRI検査
MRI検査は軟部組織のコントラスト分解能が高いため、肺扁平上皮癌の胸壁浸潤や縦隔浸潤の評価に有用です。
特に、拡散強調画像(DWI)を用いることで腫瘍細胞密度の高い領域を高信号として描出し、良悪性の鑑別に役立つことがあります。
MRI適応 | 利点 | 臨床的意義 |
軟部組織評価 | 高いコントラスト分解能 | 浸潤範囲の詳細評価 |
脳転移検索 | 造影剤なしでも高感度 | 早期転移発見 |
機能的評価 | 灌流・拡散の評価可能 | 治療効果予測 |
所見:(a)非造影T1強調像、(b)Gd造影T1強調像。肺癌病変は辺縁中心にGd造影あり、胸壁浸潤が認められる。(矢印)
治療戦略と治癒への展望
肺扁平上皮癌の治療は、病期分類と患者の全身状態に基づいて個別化されますが、主に手術、放射線療法、化学療法、免疫療法を組み合わせた集学的アプローチが用いられます。
早期発見・早期治療が行われた場合、完治の可能性が高まりますが、治癒までの期間は個人差が大きく、数ヶ月から数年にわたることがあります。
手術療法:根治を目指す第一選択
早期の肺扁平上皮癌(臨床病期I期およびII期)では手術による完全切除が治癒を目指す上で重要な選択肢となります。
手術方法には肺葉切除術や区域切除術などがあり、腫瘍の位置や大きさや患者さんの肺機能に応じて適切な術式が選択されるでしょう。
手術方法 | 5年生存率 | 適応 |
肺葉切除術 | 60-70% | 標準的手術 |
区域切除術 | 50-60% | 小型腫瘍、低肺機能 |
楔状切除術 | 40-50% | 高齢者、重度合併症例 |
手術後の経過観察期間は通常5年間とされ、この期間無再発で経過すれば治癒と判断されるのが一般的です。
放射線療法:局所制御と機能温存
放射線療法は手術不能例や手術拒否例に対する根治的治療として、また手術後の補助療法としても用いられます。
放射線療法の種類と目的は次の通りです。
- 根治的放射線療法:局所進行癌に対する単独治療
- 術後補助放射線療法:再発リスク低減
- 定位放射線療法:早期肺癌に対する低侵襲治療
放射線療法の種類 | 総線量 | 局所制御率 |
根治的照射 | 60-70Gy | 50-60% |
術後補助照射 | 50-60Gy | 70-80% |
定位放射線療法 | 48-60Gy | 80-90% |
放射線療法による治療効果の判定には照射終了後2〜3ヶ月を要することがあります。
化学療法:全身治療と生存期間延長
進行期の肺扁平上皮癌(臨床病期III期およびIV期)や術後再発例では化学療法が治療の中心となるでしょう。
標準的な化学療法レジメンと治療成績は以下の通りです。
- シスプラチン+ゲムシタビン:奏効率30-40%、無増悪生存期間4-6ヶ月
- カルボプラチン+パクリタキセル:奏効率25-35%、無増悪生存期間3-5ヶ月
化学療法の目的 | 期待される効果 | 治療期間 |
根治 | 完全寛解 | 4-6サイクル |
延命 | 生存期間延長 | 4-6サイクル以上 |
症状緩和 | QOL改善 | 症状に応じて |
化学療法中は定期的な画像検査と腫瘍マーカー測定により効果判定が行われ、治療方針の見直しが検討されることがあります。
免疫治療法
免疫治療法と他の治療法を組み合わせることで、特に進行期肺扁平上皮癌の治療成績が飛躍的に向上しています。
主な免疫治療法の薬剤と治療成績は次の通りです。
薬剤名 | PD-L1発現率 | 推奨投与期間 | 奏効率 | 5年生存率 |
ニボルマブ | 問わない | 2年間 | 20% | 約15% |
ペムブロリズマブ | 50%以上 | 2年間 | 20-30% | 約20% |
免疫治療法では効果が現れるまでに時間を要することがありますが、効果が得られた場合には長期間持続する可能性があります。
副作用とリスク
肺扁平上皮癌の治療に伴う副作用やリスクは患者さんの生活の質に多大な影響を及ぼす可能性があります。これらを適切に理解し、管理することが治療継続と患者さんのQOL維持において重要です。
手術療法に関連する副作用とリスク
手術療法は肺組織の一部を切除するため、呼吸機能の低下や術後合併症のリスクがあります。
短期的な合併症と発生頻度は次の通りです。
- 術後肺炎:8-15%
- 不整脈:10-20%
- 気漏:5-10%
長期的なリスクには以下のようなものがあります。
長期的影響 | 発生頻度 | QOLへの影響 |
慢性疼痛 | 20-30% | 日常活動制限 |
呼吸機能低下 | 30-50% | 労作時息切れ |
胸郭変形 | 5-10% | 身体イメージの変化 |
これらの副作用を軽減するためには術前のリハビリテーションや禁煙指導、術後の早期離床が重要です。
放射線療法に伴う急性および晩期有害事象
放射線療法では照射部位周辺の正常組織にも影響を与える可能性があり、急性期と晩期の有害事象が生じることが考えられます。
急性期には次のような有害事象が起こりやすく、それに対しての管理が必要です。
- 放射線性肺臓炎 → ステロイド療法、酸素療法
- 放射線性食道炎 → 鎮痛薬、栄養サポート
- 放射線性皮膚炎 → 保湿ケア、感染予防
一方で晩期では以下のような有害事象を発症しやすくなるため定期的な画像検査や肺機能検査によるモニタリングが重要となることがあります。
晩期有害事象 | 発生頻度 | 発症時期 |
肺線維症 | 5-15% | 6ヶ月以降 |
心膜炎 | 1-3% | 1年以降 |
二次発がん | 0.5-1% | 5-10年後 |
化学療法による全身性の副作用
化学療法はがん細胞だけでなく正常細胞にも影響を与えるため、様々な全身性の副作用が生じる確率も高まるのです。
例えば骨髄抑制によって感染リスク上昇、疲労感増強が起こりますし、消化器症状のリスクとしては栄養状態悪化や社会活動制限が、さらに末梢神経障害として手足のしびれ、日常動作困難が現れることもあります。
また、化学療法でよく知られいる副作用として次のようなものがあるでしょう。
副作用 | 発生頻度 | 予防・対処法 |
悪心・嘔吐 | 60-80% | 制吐剤の予防投与 |
脱毛 | 80-100% | 頭皮冷却法、ウィッグ |
倦怠感 | 70-90% | 運動療法、休息 |
免疫治療法特有のリスク
免疫治療法で使われる薬剤は免疫系を活性化させる一方で特有の副作用(免疫関連有害事象)を引き起こすリスクも考慮しなければなりません。
免疫関連有害事象の特徴
- 発症時期が予測困難
- 多臓器に及ぶ可能性
- 重症化すると治療中断の要因に
具体的な症状や疾患は次の通りで、気づいたらすぐに医療機関に相談することが大切です。
有害事象 | 発生頻度 | 重症度別頻度 |
間質性肺炎 | 3-5% | G3-4: 1-2% |
下痢・大腸炎 | 5-10% | G3-4: 1-3% |
肝機能障害 | 5-10% | G3-4: 1-2% |
再発リスクの実態と予防戦略
肺扁平上皮癌の再発は患者さんの予後に多大な影響を与える重要な問題です。再発への備えと正しい生活習慣を持ちつつ、前向きな姿勢で日々の生活を送ることが長期的な健康維持につながる可能性があります。
再発の実態と生存率への影響
肺扁平上皮癌の再発率は病期や治療方法によって異なりますが、全体として高いでしょう。
病期 | 5年再発率 | 5年生存率(初回治療後) | 5年生存率(再発後) |
I期 | 20-30% | 70-80% | 20-30% |
II期 | 40-50% | 50-60% | 10-20% |
III期 | 60-70% | 30-40% | 5-10% |
これらのデータは再発予防の重要性と再発後の早期対応の必要性を示しています。
年齢と病期による再発リスクの差
再発リスクは以下のように患者さんの年齢や病期によって大きく異なることがあります。
- 65歳未満のI期:5年再発率15-20%
- 65歳以上のI期:5年再発率25-30%
- 65歳未満のII期:5年再発率35-40%
- 65歳以上のII期:5年再発率45-50%
上記のようなリスク評価に基づいて、患者さんひとりひとりに向けたフォローアップ計画を立てることが大切です。
再発予防のための医学的介入
再発リスクを低減するための医学的介入には主に以下のようなものをを含め、様々なアプローチがあります。
介入方法 | 適応 | 期待される効果 |
補助化学療法 | II-IIIA期 | 5年生存率5-15%改善 |
分子標的薬維持療法 | 特定遺伝子変異陽性例 | 無再発生存期間延長 |
免疫療法強化 | PD-L1高発現例 | 再発リスク20-30%低減 |
これらの医学的介入は、患者さんの状態や腫瘍の特性に応じて選択されることがあるでしょう。
早期発見のための自己チェック
患者さん自身による定期的な自己チェックは再発の早期発見に寄与する可能性が高いです。特に以下の症状に注意して自己チェックを習慣化させてください。
- 持続する咳や痰の増加
- 息切れや胸痛の出現
- 原因不明の体重減少や倦怠感
症状 | チェック頻度 | 対応 |
呼吸器症状 | 毎日 | 2週間以上持続で受診 |
全身症状 | 週1回 | 1ヶ月で3%以上の体重減少で受診 |
神経症状 | 月1回 | 突然の頭痛やめまいで即受診 |
再発後の治療オプション
再発が確認された場合はその再発パターンによって様々な治療オプションが考えられます。
再発パターン | 治療オプション | 期待される効果 |
局所再発 | 救済手術 | 5年生存率20-30% |
孤立性転移 | 定位放射線治療 | 局所制御率70-80% |
多発転移 | 全身薬物療法 | 生存期間中央値12-18ヶ月 |
再発後の治療選択は、再発部位や範囲、前治療歴、全身状態などを考慮して慎重に行われるでしょう。
肺扁平上皮癌の治療費
肺扁平上皮癌の治療費は診断から治療、経過観察まで多岐にわたり、患者さんの経済的負担が大きくなることがあります。
治療内容や期間によって費用は変動しますが、適切な情報と準備により経済的な不安を軽減できるでしょう。
初診・再診料
初診料は2,910円程度、再診料は750円程度ですが、専門医療機関では別途特定療養費が加算されることがあります。
検査費用
CT検査は1回あたり14,700円~20,700円、PET-CT検査は86,250円です。
検査項目 | 費用(円) |
胸部CT | 14,700円~20,700円 |
PET-CT | 86,250円 |
治療費用・入院費用
施設によってかなり異なりますが、手術の場合と化学療法+放射線療法の場合の治療+放射線療法の場合入院費用を下記に例として示します。
詳しく述べると、日本の入院費計算方法は、DPC(診断群分類包括評価)システムを使用しています。
DPCシステムは、病名や治療内容に基づいて入院費を計算する方法です。以前の「出来高」方式と異なり、多くの診療行為が1日あたりの定額に含まれます。
主な特徴:
- 約1,400の診断群に分類
- 1日あたりの定額制
- 一部の治療は従来通りの出来高計算
表:DPC計算に含まれる項目と出来高計算項目
DPC(1日あたりの定額に含まれる項目) | 出来高計算項目 |
投薬 | 手術 |
注射 | リハビリ |
検査 | 特定の処置 |
画像診断 | (投薬、検査、画像診断、処置等でも、一部出来高計算されるものがあります。) |
入院基本料 | |
計算式は下記の通りです。
「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数※」+「出来高計算分」
例えば、14日間入院とした場合は下記の通りとなります。
【手術のみの場合】
DPC名: 肺の悪性腫瘍 肺悪性腫瘍手術 肺葉切除又は1肺葉を超えるもの等 手術処置等2-1あり 定義副傷病名なし
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥373,310 +出来高計算分
+胸腔鏡下肺切除術
1 肺嚢胞手術(楔状部分切除によるもの)398,300円
2 部分切除453,000円
3 区域切除726,000円
4 肺葉切除又は1肺葉を超えるもの810,000円
【化学療法+放射線療法の場合】
DPC名: 肺の悪性腫瘍 その他の手術あり 手術処置等2-3あり
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥408,660 +出来高計算分
保険適用となると1割~3割の自己負担であり、更に高額医療制度の対象となるため、実際の自己負担はもっと安くなります。
なお、上記値段は2024年6月時点のものであり、最新の値段を適宜ご確認ください。
以上
- 参考にした論文