咽頭結膜熱とは呼吸器疾患の一種で、アデノウイルスの感染によって引き起こされる急性上気道感染症です。

プールでの感染が多いことから「プール熱」とも呼ばれ、学校や施設での集団発生が問題となることがあります。

咽頭結膜熱にみられる主要症状について

咽頭結膜熱を発症すると主に咽頭炎と結膜炎を引き起こします。

咽頭炎の症状

咽頭結膜熱(プール熱)における咽頭炎の症状は急性に発症し、高熱、喉の痛み、嚥下痛などが特徴的です。

発熱は39℃以上に達することもあり、数日間持続します。

激しい喉の痛みで食事や飲み込みが困難になるケースがあります。

また、咽頭の発赤や腫脹、リンパ節の腫れなども認められます。

症状詳細
高熱39℃以上に達することもある
喉の痛み激しい痛みで飲み込みが困難
咽頭の発赤・腫脹咽頭粘膜の炎症による
リンパ節の腫れ頸部リンパ節の腫脹を認める

結膜炎の症状

咽頭結膜熱に伴う結膜炎は以下のような症状を呈します。

  • 眼の充血や結膜の浮腫
  • 眼脂や涙目などの分泌物増加
  • 異物感や軽度の眼痛
  • まぶしさや光過敏

これらの症状は通常片眼から始まり、数日後に反対側の眼にも感染が広がります。

その他の症状

咽頭結膜熱では上記の主症状に加えて、以下のような全身症状を伴うことがあります。

症状詳細
倦怠感全身のだるさや疲労感
頭痛発熱に伴う頭痛が多い
筋肉痛体のあちこちの筋肉痛
食欲不振高熱と喉の痛みによる

咽頭結膜熱を引き起こす原因と感染経路について

咽頭結膜熱(プール熱)は、アデノウイルスの感染によって引き起こされる急性ウイルス性疾患です。

アデノウイルスとは

アデノウイルスは非常に感染力の強いウイルスで、私たちに様々な疾患を引き起こします。

咽頭結膜熱(プール熱)の原因となるのは主にアデノウイルス3型、7型、8型などです。

これらのウイルスは呼吸器や眼の粘膜に感染し、炎症反応を引き起こします。

ウイルス型主な症状
アデノウイルス3型咽頭炎、結膜炎
アデノウイルス7型重症の咽頭炎、結膜炎
アデノウイルス8型流行性角結膜炎

感染経路

咽頭結膜熱(プール熱)の主な感染経路は以下の通りです。

  • 感染者との直接接触(握手、ハグなど)
  • 感染者の咳やくしゃみによる飛沫感染
  • 感染者との間接接触感染
  • プールや公衆浴場などの共有設備を介した感染

特に学校やデイケア施設、スポーツクラブなどでの集団感染が問題となっています。

感染リスクの高い場所と時期

咽頭結膜熱(プール熱)の感染リスクは以下のような場所や時期に高くなります。

場所・時期リスク因子
学校、保育園子供同士の密な接触
スポーツクラブ、プール共有設備の使用
夏季プールでの感染増加
冬季室内での感染増加

咽頭結膜熱の診察と診断の流れについて

咽頭結膜熱(プール熱)の診察と診断では、特徴的な症状と身体所見、検査所見を総合的に評価することが重要です。

問診と身体診察

咽頭結膜熱(プール熱)が疑われる患者さんには以下のような問診と身体診察が行われます。

  • 発熱、咽頭痛、結膜充血などの症状の有無と程度
  • 眼脂、咳、鼻汁などの随伴症状の確認
  • 頸部リンパ節腫脹の有無
  • 咽頭の発赤、腫脹、滲出物の有無
  • 結膜の充血、浮腫、濾胞の有無

検査所見

咽頭結膜熱(プール熱)の確定診断には以下のような検査が用いられます。

検査目的
アデノウイルス迅速抗原検査咽頭拭い液、結膜拭い液からのウイルス抗原の検出
ウイルス分離・同定咽頭拭い液、結膜拭い液からのウイルスの分離・同定
血清抗体価の測定ペア血清での抗体価の有意な上昇の確認

これらの検査によりアデノウイルスの感染を証明し、確定診断を行います。

鑑別診断

咽頭結膜熱(プール熱)と類似した症状を呈する疾患として以下のようなものがあります。

  • 急性咽頭炎(溶連菌、ウイルスなど)
  • 伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19)
  • 突発性発疹(ヒトヘルペスウイルス6型)
  • 麻疹、風疹、水痘などのウイルス感染症

診断基準

咽頭結膜熱(プール熱)の診断基準として、以下のような項目が挙げられます。

項目基準
主要症状発熱、咽頭痛、結膜充血のうち2つ以上
身体所見咽頭の発赤・腫脹、結膜の充血・浮腫
検査所見アデノウイルス感染の証明(抗原検査、ウイルス分離、血清抗体価の上昇)
除外項目他の疾患の可能性が低いこと

咽頭結膜熱にみられる特徴的な身体所見

咽頭所見

咽頭結膜熱(プール熱)では以下のような咽頭所見が認められることが多いです。

  • 咽頭粘膜の発赤と腫脹
  • 口蓋扁桃の腫大と発赤
  • 咽頭後壁のリンパ濾胞の腫大
  • 粘液性あるいは膿性の分泌物の付着

これらの所見は咽頭の炎症反応を反映しています。

特にアデノウイルス感染に特徴的な所見として口蓋扁桃の腫大と発赤、咽頭後壁のリンパ濾胞の腫大が挙げられます。

部位所見
咽頭粘膜発赤、腫脹
口蓋扁桃腫大、発赤
咽頭後壁リンパ濾胞の腫大
分泌物粘液性または膿性

結膜所見

咽頭結膜熱(プール熱)では、結膜にも特徴的な所見が認められます。

  • 結膜充血と浮腫
  • 濾胞の腫大と増生
  • 眼脂の増加
  • 結膜下出血(時に認める)

結膜充血はアデノウイルス感染による結膜の炎症反応を反映しています。

また、濾胞の腫大と増生はアデノウイルス感染に特徴的な所見の一つです。

所見詳細
結膜充血びまん性の充血
結膜浮腫結膜の腫脹
濾胞腫大濾胞の腫大と増生
眼脂増加粘液性または膿性の眼脂

頸部リンパ節所見

咽頭結膜熱(プール熱)では以下のような頸部リンパ節の腫脹を認めることがあります。

  • 耳介後リンパ節の腫脹
  • 顎下リンパ節の腫脹
  • 後頸部リンパ節の腫脹

これらのリンパ節腫脹は咽頭や結膜の炎症に伴うリンパ節炎を反映しています。

リンパ節腫脹の程度は軽度から中等度であることが多く、圧痛を伴う際があります。

その他の所見

咽頭結膜熱(プール熱)では稀に以下のような全身所見を伴うことがあります。

  • 発疹
  • 肝脾腫
  • 関節炎

これらの所見はアデノウイルス感染に伴う全身症状を反映しています。

咽頭結膜熱に対する治療法と治癒までの期間について

咽頭結膜熱(プール熱)はアデノウイルスによる自然治癒傾向の強い疾患であり、治療は対症療法が中心となります。

一般的な治療方針

咽頭結膜熱(プール熱)の治療では、以下のような対症療法が行われます。

  • 安静と十分な休養
  • 適切な水分補給と栄養管理
  • 解熱鎮痛薬の使用(アセトアミノフェンなど)
  • 咽頭痛に対するトローチや含嗽剤の使用
  • 結膜炎に対する人工涙液や抗菌点眼薬の使用

これらの対症療法により症状の緩和と合併症の予防を図ります。

抗ウイルス薬は一般的には使用されません。

症状治療方法
発熱、全身倦怠感安静、解熱鎮痛薬
咽頭痛トローチ、含嗽剤
結膜炎人工涙液、抗菌点眼薬

重症例への対応

咽頭結膜熱(プール熱)の中には重症化したり合併症を伴う際があります。

そのような際には以下のような治療が必要となることがあります。

  • 高熱や脱水に対する輸液療法
  • 二次細菌感染に対する抗菌薬の投与
  • ステロイド点眼薬の使用(結膜偽膜形成例など)

重症例では入院治療が必要となる可能性もあります。

合併症の早期発見と適切な治療介入が重要です。

治癒までの期間

咽頭結膜熱(プール熱)の症状は通常7〜10日程度で自然に軽快していきます。

ただし、倦怠感や咽頭痛などの症状が2〜3週間程度遷延することもあります。

結膜炎の症状は1〜2週間程度で改善することが多いですが、時に数週間以上持続することもあります。

症状治癒までの期間
発熱、全身症状7〜10日程度
咽頭痛2〜3週間程度
結膜炎1〜2週間程度

感染予防の重要性

咽頭結膜熱(プール熱)は感染力が強く、集団発生のリスクが高い疾患です。

そのため以下のような感染予防対策を講じることで、プール熱の感染拡大を防ぐことができます。

  • 手洗いの徹底
  • マスクの着用と咳エチケットの励行
  • 患者との接触機会の制限
  • 共有物の消毒と清掃

治療に伴う副作用とリスクについて

咽頭結膜熱(プール熱)の治療は対症療法が中心となりますが、使用される薬剤によっては副作用やリスクを伴う可能性があります。

解熱鎮痛薬の副作用

発熱や全身倦怠感に対して処方される解熱鎮痛薬でアセトアミノフェンは比較的安全な薬剤ですが、過量投与により肝障害を引き起こす可能性があります。

アスピリンはライ症候群と呼ばれる重篤な合併症を引き起こすリスクがあるため、小児では使用を避ける必要があります。

薬剤主な副作用
アセトアミノフェン肝障害(過量投与時)
アスピリンライ症候群(小児での使用時)

抗菌薬の副作用

二次細菌感染が疑われる際に処方される抗菌薬として、 ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬はアレルギー反応を引き起こす可能性があります。

また、広域スペクトルの抗菌薬を長期間使用した際は耐性菌の出現や菌交代現象のリスクがあります。

薬剤主な副作用
ペニシリン系アレルギー反応
セフェム系アレルギー反応
広域スペクトル抗菌薬耐性菌の出現、菌交代現象

ステロイド点眼薬の副作用

重症の結膜炎や結膜偽膜形成に処方されるステロイド点眼薬は、長期間使用すると眼圧上昇や白内障、緑内障などの眼合併症を引き起こす可能性があります。

また、ステロイド点眼薬の使用中は眼の感染症のリスクが高くなることにも注意が必要です。

その他の治療に伴うリスク

重症例に対する 輸液療法に伴う合併症として、以下のようなものが挙げられます。

  • 電解質異常
  • カテーテル関連血流感染などの感染症
  • 肺水腫や心不全(過剰輸液時)

これらの合併症を予防するためには、適切な輸液管理と厳重なモニタリングが重要です。

咽頭結膜熱における再発の可能性と予防方法について

咽頭結膜熱(プール熱)の原因となるアデノウイルスには多くの血清型が存在します。

一度特定の血清型のアデノウイルスに感染しても他の血清型のウイルスに対する免疫は獲得できないため、再感染のリスクがあります。

また、免疫力が低下した際やウイルスに長時間曝露された際にも再発する可能性があります。

再発リスク因子説明
異なる血清型のウイルス他の血清型への感染リスクあり
免疫力の低下免疫力低下時に再発リスクあり
ウイルスへの長時間曝露長時間の曝露で再感染リスクあり

予防策の重要性

咽頭結膜熱(プール熱)の再発を防ぐためには、以下のような感染予防策を徹底することが不可欠です。

手洗いの徹底

プール熱の予防において手洗いは最も基本的かつ重要な対策です。

外出後や感染者との接触後、食事前後、トイレ使用後などに石鹸と流水で丁寧に手を洗うことで、ウイルスの伝播を防ぐことができます。

アルコールベースの手指消毒薬を使用することも効果的です。

咳エチケットの励行

咽頭結膜熱(プール熱)の感染者が咳やくしゃみをする際にウイルスを含む飛沫が飛散し、周囲の人に感染を広げる可能性があります。

感染者は咳やくしゃみをする際にマスクを着用し、飛沫が拡散しないように注意する必要があります。

また、感染者との距離を保つことも重要です。

予防策具体的な方法
手洗いの徹底石鹸と流水での手洗い、アルコール手指消毒薬の使用
咳エチケットの励行マスク着用、咳やくしゃみ時の注意、感染者との距離確保

その他の予防策

咽頭結膜熱(プール熱)の予防には、以下のような対策も有効です。

  • 人混みや密閉空間を避ける
  • 免疫力を維持するための健康管理
  •  共有物の消毒と清掃
  • 感染者の隔離と学校・施設の一時閉鎖

咽頭結膜熱にかかる治療費用について

咽頭結膜熱の治療費は症状の重症度や治療方法によって異なりますが、一般的な治療費の目安は以下の通りです。

初診料と再診料

初診料は初めて医療機関を受診した際に支払う費用で、3,000円から5,000円程度が相場です。

再診料は2回目以降の受診時に支払う費用で、600円から1,500円程度が一般的です。

項目費用
初診料2,880円~5,380円
再診料750円~2,640円程度

検査費と処置費

咽頭結膜熱の診断や経過観察のために血液検査や細菌培養検査などが行われる際があります。

これらの検査費用はそれぞれ数千円から数万円程度です。

また、重症例では点滴治療や入院治療が必要となることがあり、これらの処置費用は数万円から数十万円に及ぶこともあります。

検査・処置費用
血液検査1,500~5,000円
細菌培養検査3,000円 ~ 5,000円
点滴治療10,00円 ~ 50,00円
入院治療100,000円 ~ 500,000円

その他の費用

プール熱の治療には市販の解熱鎮痛薬や点眼薬などの薬剤費も必要となる場合があります。

これらの薬剤費は数百円から数千円程度が一般的です。

以上

参考にした論文