吃逆(しゃっくり)は呼吸器疾患の一種で、横隔膜の不随意的な収縮によって引き起こされる突発的で反復性のある呼吸障害です。

皆さんがよく体験するしゃっくりのほとんどの場合は一時的で自然に治まりますが、時として長期間続くことがあり日常生活に支障をきたすケースもあります。

吃逆の原因は多岐にわたり、単純な食事の食べ過ぎやストレスから重篤な脳疾患や代謝性疾患まで様々です。

吃逆(しゃっくり)にみられる主な症状とその特徴

吃逆(しゃっくり)は、横隔膜の不随意的な収縮によって引き起こされる突発的で反復性のある呼吸障害であり、特徴的な音を伴う呼気とそれに続く吸気が繰り返し出現します。

吃逆の症状は多くの場合は短時間で自然に治まりますが、時として長期間持続して日常生活に支障をきたすことがあります。

特徴的な呼吸パターン

吃逆の最も典型的な症状は突発的に出現する特徴的な呼吸パターンです。

吃逆では横隔膜の不随意的な収縮によって短く強い呼気が生じ、それに引き続いて急激な吸気が起こります。

この一連の呼吸パターンが規則的に繰り返されるのが特徴です。

呼吸パターン特徴
呼気短く強い呼気音を伴う
吸気呼気直後に急激に起こる

吃逆に伴う音

しゃっくりでは特徴的な呼吸パターンに伴って、「ヒック」という音が聞こえることがあります。

この音は吃逆の呼気相で声門が急激に閉鎖されることによって生じます。

吃逆の音は周囲の人にも聞こえるほど大きいことがあり、社会生活上の支障となる場合があります。

吃逆の音特徴
「ヒック」という音呼気相で声門の閉鎖により生じる
大きさ周囲の人にも聞こえることが多い

持続時間と頻度

吃逆の持続時間は、数分から数時間のことが多いですが、中には数日から数週間にわたって持続する場合もあります。

吃逆の頻度も様々、で1分間に数回から数十回の吃逆が出現することがあります。

持続時間が長く、頻度が高い吃逆は、食事や会話、睡眠などの日常生活に大きな影響を与えます。

以下のような症状を伴うことがあります。

随伴症状

吃逆には様々な随伴症状を伴うことがあります。

  • 睡眠障害
  • 胸痛や腹痛、嘔気などの消化器症状
  • 頭痛やめまいなどの神経症状
  • 食事摂取量の低下
  • 脱水
  • 全身倦怠感

また、吃逆が長期間持続する際は不安や抑うつなどの心理的な症状を発症することもあります。

吃逆(しゃっくり)における発症原因と病型

吃逆の発症メカニズム

しゃっくりは以下のようなメカニズムで発症すると考えられています。

発症メカニズム説明
吃逆中枢の刺激延髄にある吃逆中枢が刺激されることで、横隔膜の不随意的な収縮が生じる
横隔神経の障害横隔神経の障害により、横隔膜の不随意的な収縮が生じる

また、迷走神経や舌咽神経などの脳神経の刺激や障害も、しゃっくりの発症に関与していると考えられています。

さらに吃逆はその持続時間や原因によって2つに大別され、その原因は多岐にわたります。

急性(一過性)しゃっくり

急性しゃっくりは健康な人でもよく経験する数分から数時間で自然に軽快する一過性のしゃっくりです。

一過性吃逆の原因

一過性の吃逆は以下のような要因が誘因となることが多いです。

誘因説明
食事中の飲食物の詰まり食道や喉の粘膜刺激により吃逆が誘発される
炭酸飲料の摂取胃の膨張や食道の刺激により吃逆が誘発される

また、ストレスや興奮、疲労などの心理的・身体的な要因も一過性の吃逆の原因となることがあります。

特徴説明
持続時間数分から数時間
自然軽快多くの場合、特別な治療なしで自然に治まる

難治性しゃっくり

難治性しゃっくりは48時間以上持続するしゃっくりと定義され、中枢神経系の障害や代謝性疾患、薬剤の副作用などが原因となることがあります。

しゃっくりが長期間持続することでQOLを著しく低下させます。

難治性の吃逆の原因

難治性の吃逆は中枢神経系の障害や全身性疾患、薬剤の副作用などが原因となることがあります。

特に以下のような疾患や病態が難治性の吃逆の原因として知られています。

  • 脳血管障害
  • 脳腫瘍
  • 脳炎・髄膜炎
  • 末期がん
  • 電解質異常
  • ステロイド、バルビツール酸系薬剤など

これらの基礎疾患や病態は延髄にある吃逆中枢や横隔神経、迷走神経などを刺激・障害することで、吃逆を引き起こすと考えられています。

特徴説明
持続時間48時間以上
治療抵抗性治療に難渋することが多い

吃逆(しゃっくり)の診察と診断において重要な点

吃逆(しゃっくり)の診察では患者さんの症状や持続時間などを丁寧に聴取し、身体所見や検査結果と合わせて総合的に評価することが重要です。

問診

吃逆の診察では、まず問診を行います。吃逆の持続時間や頻度、随伴症状の有無などを確認し、症状の重症度を評価します。

また、吃逆の誘因となる経験や基礎疾患の有無、服用中の薬剤についても聴取します。

病歴聴取のポイント
吃逆の持続時間と頻度
随伴症状の有無
誘因となる経験
基礎疾患の有無
服用中の薬剤

身体診察

吃逆の身体診察ではバイタルサインの評価や、胸部・腹部の聴診、神経学的所見の確認などを行います。

特に難治性の吃逆では、中枢神経系の障害を示唆する所見の有無を丁寧に観察することが肝要です。

身体診察のポイント
バイタルサインの評価
胸部・腹部の聴診
神経学的所見の確認

検査

吃逆の診断に有用な検査としては、血液検査や画像検査などがあります。

血液検査では電解質異常や炎症反応の有無を評価し、画像検査では脳血管障害や脳腫瘍などの中枢神経系の異常を検索します。

しゃっくりでは以下のような検査が行われることがあります。

  • 血液検査(電解質、炎症反応など)
  • 胸部X線検査
  • 頭部CT・MRI検査

難治性の吃逆ではこれらの検査に加えて上部消化管内視鏡検査や神経伝導検査なども考慮されます。

いずれも原因となる器質的疾患がないかをチェックする目的です。

鑑別診断

吃逆の鑑別診断では、以下のような疾患や病態を考慮する必要があります。

鑑別疾患
胃食道逆流症
脳血管障害
脳腫瘍
末期がん
電解質異常
薬剤性

これらの疾患や病態を適切に評価し、除外することが吃逆の正確な診断と治療方針の決定に不可欠です。

吃逆に対する治療方針と治癒までの期間について

しゃっくりの治療はその原因や持続時間によって異なりますが、一過性の吃逆では対症療法が中心となり、難治性の吃逆では複数の治療法を組み合わせることがあります。

多くの場合は短時間で自然に軽快しますが、難治性の吃逆では中長期的な治療を要することがあります。

一過性の吃逆の治療

一過性の吃逆は多くの場合は特別な治療を必要とせず、自然に軽快します。

民間療法として息こらえや砂糖水の飲用、舌の牽引などが行われることがありますが、その効果は限定的です。

民間療法効果
息こらえ一時的な症状の改善
砂糖水の飲用一時的な症状の改善

難治性の吃逆の薬物療法

難治性の吃逆に対しては薬物療法が行われることがあります。

バクロフェンやガバペンチンなどの中枢性筋弛緩薬、プロトンポンプ阻害薬、抗精神病薬などが用いられます。

これらの薬剤は吃逆の中枢や末梢の神経伝達を抑制することで症状を改善させます。

また、基礎疾患がある場合は、原因となる疾患の治療と並行して行われます。

薬剤作用機序
バクロフェンGABA作動性神経伝達の促進
ガバペンチン神経伝達物質の放出抑制

神経ブロック療法

難治性の吃逆に対しては神経ブロック療法が行われることがあります。

横隔神経や迷走神経などの神経をブロックすることで吃逆の原因となる神経伝達を遮断します。

神経ブロックには局所麻酔薬の注射や神経破壊剤の使用などがあります。

以下のような方法が用いられることがあります。

  • 横隔神経ブロック
  • 迷走神経ブロック
  • 星状神経節ブロック

治療期間と予後

一過性の吃逆は多くの場合は数分から数時間で自然に軽快します。

難治性の吃逆でも原因疾患の治療や適切な対症療法により、数日から数週間で症状が改善することが多いです。

ただし、難治性の吃逆では治療に抵抗性を示す場合があり、長期間の治療を必要とすることがあります。

吃逆の治療に伴う副作用とそのリスクについて

しゃっくりの治療に用いられる薬物療法や神経ブロック療法は症状の改善に有効ですが、副作用やリスクも伴います。

薬物療法の副作用

吃逆の治療に用いられる薬剤は中枢神経系に作用するものが多く、鎮静作用や錐体外路症状などの副作用を引き起こすことがあります。

特に高齢者や基礎疾患を有する患者さんでは副作用のリスクが高くなります。

薬剤主な副作用
バクロフェン眠気、めまい、筋力低下
ガバペンチン眠気、めまい、浮動性めまい

これらの副作用は多くの場合は軽微であり、薬剤の減量や中止により改善します。

しかし、重篤な副作用が生じた際は入院治療を必要とすることがあります。

神経ブロック療法のリスク

神経ブロック療法は局所麻酔薬や神経破壊剤を用いて神経伝達を遮断する治療法ですが、以下のようなリスクが伴います。

  • 感染
  • 出血
  • 神経損傷
  • 局所麻酔薬中毒

これらのリスクは手技の熟練度や患者の全身状態によって異なりますが、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

合併症リスク因子
感染免疫力の低下、糖尿病など
神経損傷解剖学的変異、手技の未熟さ

吃逆が再発する可能性とその予防方法

吃逆(しゃっくり)は多くの場合は一過性で自然に治まりますが、一部の患者では再発を繰り返すことがあります。

特に難治性の吃逆では原因疾患の治療後も再発するリスクがあり、予防策を講じることが重要です。

再発のリスク因子

吃逆の再発リスクは以下のような因子によって高くなります。

リスク因子説明
中枢神経系の障害脳血管障害、脳腫瘍、脳炎・髄膜炎など
代謝性疾患電解質異常、尿毒症など
薬剤性ステロイド、バルビツール酸系薬剤など

これらのリスク因子を有する患者さんは吃逆の再発に注意が必要です。

生活習慣の改善

吃逆の再発を防ぐためには生活習慣の改善が有効で、特に以下のような点に留意することが推奨されます。

  • 食事中の会話や笑いを控える
  • 炭酸飲料の摂取を控える
  • 十分な睡眠をとる
  • ストレスを避ける

これらの生活習慣の改善で吃逆の誘因となる要因を減らすことで、再発のリスクを下げることができます。

生活習慣改善方法
食事食事中の会話や笑いを控える
飲料炭酸飲料の摂取を控える

薬物療法の継続

難治性の吃逆では症状が改善した後も一定期間の薬物療法の継続が推奨されます。

バクロフェンやガバペンチンなどの中枢性筋弛緩薬を症状が安定した後も数週間から数ヶ月間継続することで再発のリスクを下げることができます。

ただし、長期の薬物療法では副作用のリスクも高くなるため、定期的なモニタリングと患者さんの状態に応じた薬剤の調整が必要です。

基礎疾患の管理

吃逆の再発を防ぐためには原因となる基礎疾患の適切な管理が不可欠です。

特に以下のような疾患では治療と並行して吃逆の予防策を講じることが重要です。

  • 脳血管障害
  • 脳腫瘍
  • 電解質異常
  • 胃食道逆流症

これらの疾患では原因疾患の治療と吃逆の予防策を組み合わせることで、再発のリスクを最小限に抑えることができます。

吃逆(しゃっくり)に対する治療費の概要

一過性吃逆の場合治療費はかかりませんが、難治性吃逆(しゃっくり)の治療費はその原因や治療内容によって大きく異なります。

初診料と再診料

初診料は医療機関を初めて受診した際に発生する費用で2,880円です。それに加え、各種加算などが加わりますが、クリニックか病院かなどによって異なり、合計3,000円強~5,000円程度となります。

再診料は2回目以降の受診時に発生する費用で初診料よりも低く設定されており、それ自体は730円程度となります。

検査費

吃逆の診断に用いられる検査として血液検査や画像検査などがあります。

これらの検査費用はそれぞれ数千円から数万円程度で、合計すると1万円~5万円程度となることがあります。

検査項目費用目安
血液検査1,500円~10,000円
頭部CT検査7,500円~9,000円+診断料など

処置費

難治性吃逆の治療では薬物療法や神経ブロック療法などの処置が行われます。 これらの処置費用は使用する薬剤や手技によって異なりますが、数千円~数万円程度となる場合もあります。

処置内容費用目安
薬物療法2,000円~5,000円+その他処方箋料など
神経ブロック療法6,000円~20,000円+その他各種加算や入院費

入院費

非常に稀ですが基礎疾患などがある場合は入院治療を必要とするケースもあります。

入院費は1日あたり数万円~10万円以上と高額になることがあり、入院期間によっては総額が数十万円~100万円以上に及ぶこともあります。

以上

参考にした論文