胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)とは、生殖細胞に由来する悪性腫瘍の総称です。

生殖細胞は、受精によって新しい生命を生み出す卵子や精子となる細胞ですが、その形成過程で突然変異が生じると、腫瘍化することがあります。

胚細胞腫瘍は、主に性腺である精巣や卵巣に発生しますが、まれに性腺以外の部位、特に縦隔や後腹膜にも発生することがわかっています。

胚細胞腫瘍は、病理学的に複数の組織型に分類され、それぞれ臨床的特徴が異なります。

胚細胞腫瘍の病型と特徴

胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)は、発生部位によって精巣胚細胞腫瘍、卵巣胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍の3つの病型に分類されます。

それぞれの病型は、臨床的特徴や組織型が異なるため、専門的な知識を持って診断し、適切な治療方針を立てることが重要です。

精巣胚細胞腫瘍

精巣胚細胞腫瘍は、若年男性に多く見られる腫瘍で、20〜30代に好発します。組織型としては、セミノーマと非セミノーマに大別されます。

セミノーマは比較的予後が良好ですが、非セミノーマは進行が速く、転移しやすい傾向があります。

組織型特徴
セミノーマ予後良好
非セミノーマ進行が速い、転移しやすい

卵巣胚細胞腫瘍

卵巣胚細胞腫瘍は、若年女性に多く見られ、10〜20代に好発します。組織型は多岐にわたりますが、以下のようなものがあります。

  • 未熟奇形腫
  • 卵黄嚢腫瘍
  • 胎児性癌
  • 絨毛癌

未熟奇形腫は比較的予後が良好ですが、卵黄嚢腫瘍や胎児性癌は進行が速く、転移しやすい傾向があります。

性腺外胚細胞腫瘍

性腺外胚細胞腫瘍は、性腺以外の部位に発生する胚細胞腫瘍で、主に縦隔や後腹膜に発生します。性腺外胚細胞腫瘍は、精巣や卵巣の胚細胞腫瘍と比べると予後が悪く、進行が速いことが知られています。

発生部位特徴
縦隔予後不良、進行が速い
後腹膜予後不良、進行が速い

組織型と予後の関係

胚細胞腫瘍の予後は、組織型によって大きく異なります。セミノーマや未熟奇形腫は比較的予後が良好ですが、非セミノーマや卵黄嚢腫瘍、胎児性癌は進行が速く、転移しやすいため、予後が悪くなる傾向があります。

また、性腺外胚細胞腫瘍は、性腺原発の胚細胞腫瘍と比べると予後が悪いことが知られています。

胚細胞腫瘍の主症状と早期発見の重要性

胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)は、発生部位によって症状が異なるため、自覚症状だけでは早期発見が難しい場合があります。

しかし、早期発見と適切な治療が予後を大きく左右するため、定期的な検診と異変を感じた際の速やかな受診が大切です。

精巣胚細胞腫瘍の主症状

精巣胚細胞腫瘍の主な症状は、精巣の腫大や硬結、精巣の重苦しさや鈍痛などです。これらの症状は、腫瘍の増大に伴って徐々に現れることが多いため、自己検診で早期発見することが可能です。

症状特徴
精巣の腫大・硬結片側の精巣が腫れる、硬くなる
精巣の重苦しさ・鈍痛精巣に重苦しさや鈍痛を感じる

卵巣胚細胞腫瘍の主症状

卵巣胚細胞腫瘍の主な症状は、下腹部の膨満感や痛み、月経異常、腹部腫瘤などです。

これらの症状は、他の婦人科疾患でも見られるため、早期発見が難しい場合があります。定期的な婦人科検診が重要です。

性腺外胚細胞腫瘍の主症状

性腺外胚細胞腫瘍の症状は、発生部位によって異なります。

縦隔に発生した場合は、咳嗽や呼吸困難、胸痛などの症状が現れることがあります。後腹膜に発生した場合は、腹部膨満感や腹痛、背部痛などが見られることがあります。

  • 縦隔発生:咳嗽、呼吸困難、胸痛
  • 後腹膜発生:腹部膨満感、腹痛、背部痛

早期発見のための方策

胚細胞腫瘍の早期発見のためには、以下のような方策が重要です。

方策内容
自己検診精巣や卵巣の自己検診を定期的に行う
定期検診婦人科検診や健康診断を定期的に受ける
異変時の速やかな受診症状を感じたら速やかに医療機関を受診する

原因

胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)の正確な原因はまだ解明されていませんが、胚細胞の分化と成熟の過程で生じる遺伝子異常が関与していると考えられています。

また、環境因子や家族歴なども発症リスクを増加させる可能性があります。

胚細胞の分化と成熟における異常

胚細胞腫瘍は、精子や卵子になるはずの胚細胞が、正常な分化と成熟の過程から逸脱し、腫瘍化することで発生します。この過程では、以下のような遺伝子異常が関与していると考えられています。

遺伝子異常影響
癌遺伝子の活性化細胞増殖の促進
癌抑制遺伝子の不活性化細胞増殖の抑制機能の低下

これらの遺伝子異常により、胚細胞が無秩序に増殖し、腫瘍を形成すると考えられています。

環境因子の影響

胚細胞腫瘍の発症には、環境因子も関与している可能性があります。例えば、以下のような因子が発症リスクを増加させることが示唆されています。

  • 放射線被曝
  • 化学物質への暴露
  • ウイルス感染

ただし、これらの因子と胚細胞腫瘍の関連性については、さらなる研究が必要です。

家族歴の影響

胚細胞腫瘍の発症には、家族歴も関与している可能性があります。特に、性腺外胚細胞腫瘍では、家族内発症例が報告されています。

腫瘍型家族歴の影響
精巣胚細胞腫瘍一部で家族内発症例が報告されている
卵巣胚細胞腫瘍家族歴との関連性は不明確
性腺外胚細胞腫瘍家族内発症例が報告されている

家族歴がある場合は、胚細胞腫瘍の発症リスクが高まる可能性があるため、定期的な検診が重要です。

発生メカニズムの解明に向けて

胚細胞腫瘍の正確な原因と発生メカニズムは、まだ十分に解明されていません。今後、以下のような研究が進むことで、病態の理解が深まり、予防法や治療法の開発につながることが期待されます。

  • 遺伝子異常の解析
  • 環境因子の影響の解明
  • 家族歴の影響の解明

胚細胞腫瘍の原因と発生メカニズムを理解することは、この疾患の予防と治療において重要な意味を持ちます。今後の研究の進展が期待されます。

診察と診断

胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)は、早期発見と適切な治療が予後を大きく左右する疾患であるため、症状を感じた際には速やかに医療機関を受診し、専門医による診察と診断を受けることが重要です。

問診と身体診察

胚細胞腫瘍の診察では、まず問診により症状や経過、家族歴などを詳しく聴取します。続いて、身体診察を行います。

腫瘍型身体診察
精巣胚細胞腫瘍精巣の触診、リンパ節の触診
卵巣胚細胞腫瘍腹部の触診、骨盤内診
性腺外胚細胞腫瘍発生部位に応じた触診

身体診察では、腫瘍の存在や進行度を評価するとともに、転移の有無も確認します。

画像検査

胚細胞腫瘍の診断には、以下のような画像検査が用いられます。

  • 胸部レントゲン
  • CT検査
  • MRI検査
  • PET-CT検査

これらの検査により、腫瘍の大きさや広がり、転移の有無などを詳細に評価することができます。

検査法評価項目
胸部レントゲン腫瘍の大きさ、性状
CT検査腫瘍の広がり、転移の有無
MRI検査腫瘍の広がり、転移の有無
PET-CT検査腫瘍の広がり、転移の有無、活動性

血液検査

胚細胞腫瘍の診断には、腫瘍マーカーの測定が有用です。以下のような腫瘍マーカーが用いられます。

  • AFP(α-フェトプロテイン)
  • hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)
  • LDH(乳酸脱水素酵素)

これらの腫瘍マーカーは、腫瘍の存在や進行度、治療効果の評価に役立ちます。

病理検査

確定診断には、腫瘍の一部を採取して行う病理検査が不可欠です。病理検査では、腫瘍の組織型や悪性度を評価し、適切な治療方針を決定します。

胚細胞腫瘍の画像所見と診断における重要性

胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)の診断において、画像検査は腫瘍の存在や広がりを評価するために不可欠です。

各種画像検査の特徴を理解し、適切に組み合わせることが、正確な診断につながります。

胸部レントゲンの所見

胸部レントゲンは、簡便かつ低被曝で腫瘍を評価するために有用です。

健診など一般的に最も多く検査される画像検査であり、無症状の胚細胞腫瘍が偶然見つかることも多いです。

また、治療前後の比較で、再発などのチェックも可能であり、よく施行されます。

Case courtesy of Frank Gaillard, Radiopaedia.org. From the case rID: 8918

所見:縦隔に腫瘤影が認められる。下行大動脈がはっきりと透けて見えるため、前縦隔腫瘍が疑われる。

CT検査の所見

CT検査は、腫瘍の広がりや転移の評価に有用です。精巣胚細胞腫瘍では、精巣の腫大や不均一な造影効果を示す腫瘤として描出されます。

卵巣胚細胞腫瘍では、充実性や嚢胞性の腫瘤として描出され、時に石灰化を伴います。性腺外胚細胞腫瘍では、発生部位に応じた腫瘤影として描出されます。

  • 縦隔発生:前縦隔を中心とした腫瘤影
  • 後腹膜発生:後腹膜を中心とした腫瘤影

CT検査では、腫瘍の広がりとともに、リンパ節転移や遠隔転移の有無も評価します。

Ong, Ching Ching, and Lynette L S Teo. “Imaging of anterior mediastinal tumours.” Cancer imaging : the official publication of the International Cancer Imaging Society vol. 12,3 506-15. 2 Nov. 2012,

所見:前縦隔右側に内部不均一な低吸収呈する巨大な腫瘤を認め、胚細胞腫瘍として合致する所見である。腫瘤が右心房に接しており、心膜及び心外膜脂肪への浸潤が疑われる。

MRI検査の所見

MRI検査は、腫瘍の性状評価に優れており、特に軟部組織のコントラストに優れています。

精巣胚細胞腫瘍では、T2強調画像で高信号を示す腫瘤として描出されることが多く、卵巣胚細胞腫瘍では、充実性や嚢胞性の腫瘤として描出されます。

撮像法所見
T1強調画像腫瘍は筋肉と等信号〜低信号
T2強調画像腫瘍は高信号を示すことが多い

MRI検査は、腫瘍の性状評価に加え、周囲組織への浸潤の評価にも有用です。

Ong, Ching Ching, and Lynette L S Teo. “Imaging of anterior mediastinal tumours.” Cancer imaging : the official publication of the International Cancer Imaging Society vol. 12,3 506-15. 2 Nov. 2012,

所見:前縦隔右側に内部不均一な高信号腫瘤(*)を認め、胚細胞腫瘍として合致する所見である。腫瘍は心膜と接している(点線の白矢印)が、心外膜脂肪は保たれている(白矢印)。

PET-CT検査の所見

PET-CT検査は、腫瘍の代謝活性を評価することができ、転移巣の検出に優れています。

胚細胞腫瘍では、原発巣や転移巣に一致してFDGの集積亢進を示します。ただし、PET-CT検査の所見は、腫瘍の組織型によって異なることがあり、注意が必要です。

組織型FDGの集積
セミノーマ比較的低い
非セミノーマ高い

PET-CT検査は、全身の転移巣の評価に有用であり、治療効果の判定にも用いられます。

Hart, Adam et al. “The clinical impact of 18F-FDG PET/CT in extracranial pediatric germ cell tumors.” Pediatric radiology vol. 47,11 (2017): 1508-15

所見:前縦隔右側に巨大な低吸収腫瘤を認め、PET/CTでは辺縁のみ軽度の集積亢進を伴い、内部には集積が目立たない腫瘤あり、中心壊死伴う胚細胞腫瘍として合致する所見である。

胚細胞腫瘍の治療方法と予後

胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)の治療は、腫瘍の病期や組織型、発生部位によって異なりますが、一般的には手術療法、化学療法、放射線療法を組み合わせた集学的治療が行われます。

早期発見と適切な治療により、多くの症例で長期生存が可能となっています。

手術療法

手術療法は、胚細胞腫瘍の治療の基本であり、腫瘍を完全に切除することを目的とします。精巣胚細胞腫瘍では高位精巣摘除術が、卵巣胚細胞腫瘍では患側卵巣の摘出術が行われます。

性腺外胚細胞腫瘍では、発生部位に応じた腫瘍切除術が行われます。

腫瘍型手術方法
精巣胚細胞腫瘍高位精巣摘除術
卵巣胚細胞腫瘍患側卵巣摘出術
性腺外胚細胞腫瘍腫瘍切除術

手術療法は、腫瘍の完全切除を目指すことが重要であり、必要に応じてリンパ節郭清も行われます。

化学療法

化学療法は、進行期の胚細胞腫瘍や手術後の再発リスクが高い症例に対して行われます。

代表的なレジメンとしては、BEP療法(ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン)やVIP療法(エトポシド、イホスファミド、シスプラチン)などがあります。

  • BEP療法:ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンの3剤併用療法
  • VIP療法:エトポシド、イホスファミド、シスプラチンの3剤併用療法

化学療法は、通常3〜4コースが行われ、治療期間は3〜4ヶ月程度です。化学療法による副作用対策も重要であり、支持療法を適切に行うことが求められます。

放射線療法

放射線療法は、セミノーマなどの放射線感受性の高い胚細胞腫瘍に対して行われることがあります。

精巣胚細胞腫瘍では、縦隔や鎖骨上リンパ節転移に対する放射線療法が行われることがありますが、近年では化学療法が主体となっています。

腫瘍型放射線療法の適応
セミノーマ縦隔や鎖骨上リンパ節転移
非セミノーマ限定的

放射線療法は、1日1回、週5日の照射が行われ、総線量は20〜30Gy程度です。放射線療法による副作用対策も重要です。

治癒までの期間と予後

胚細胞腫瘍の治癒までの期間は、病期や組織型、治療法によって異なります。

早期の胚細胞腫瘍では、手術療法のみで治癒が得られることも多く、治療期間は比較的短期間です。一方、進行期の胚細胞腫瘍では、手術療法に加え、化学療法や放射線療法が行われるため、治療期間は長期に及ぶことがあります。

胚細胞腫瘍の予後は、病期や組織型によって異なりますが、全体としては比較的良好です。特に、早期の精巣胚細胞腫瘍や卵巣胚細胞腫瘍では、5年生存率は90%以上と報告されています。

一方、進行期の胚細胞腫瘍や性腺外胚細胞腫瘍では、予後は悪くなる傾向があります。

治療に伴う副作用とリスク

胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)の治療は、手術療法、化学療法、放射線療法を組み合わせた集学的治療が行われますが、これらの治療には副作用やリスクが伴います。

治療の副作用を理解し、適切な対策を講じることが、患者のQOL(生活の質)維持に重要です。

手術療法の副作用とリスク

手術療法の副作用とリスクは、手術部位や術式によって異なります。

精巣胚細胞腫瘍に対する高位精巣摘除術では、術後の合併症として、出血、感染、陰嚢血腫などがあります。また、片側の精巣を失うことによる精神的な影響も無視できません。

卵巣胚細胞腫瘍に対する卵巣摘出術では、術後の合併症として、出血、感染、イレウスなどがあります。また、妊孕性(妊娠する力)の低下が問題となることがあります。

腫瘍型手術の副作用とリスク
精巣胚細胞腫瘍出血、感染、陰嚢血腫、精神的影響
卵巣胚細胞腫瘍出血、感染、イレウス、妊孕性の低下

性腺外胚細胞腫瘍に対する腫瘍切除術では、発生部位によって副作用やリスクが異なります。縦隔発生例では、呼吸機能への影響が、後腹膜発生例では、下肢の浮腫などが問題となることがあります。

化学療法の副作用とリスク

化学療法の副作用は、使用する薬剤や投与量、患者の全身状態によって異なります。代表的な副作用としては、以下のようなものがあります。

  • 骨髄抑制:白血球減少、貧血、血小板減少
  • 消化器症状:悪心、嘔吐、食欲不振、下痢
  • 脱毛
  • 末梢神経障害
  • 腎機能障害
  • 聴力障害

これらの副作用は、支持療法によってコントロールすることが重要です。また、化学療法による二次がんの発生や、生殖機能への影響も長期的なリスクとして知られています。

薬剤主な副作用
ブレオマイシン肺線維症、皮膚症状
エトポシド骨髄抑制、肝機能障害
シスプラチン腎機能障害、聴力障害、末梢神経障害

放射線療法の副作用とリスク

放射線療法の副作用は、照射部位や線量によって異なります。胚細胞腫瘍に対する放射線療法では、照射部位の皮膚炎や粘膜炎が生じることがあります。

また、照射部位に応じて、以下のような副作用が生じる可能性があります。

  • 縦隔照射:肺臓炎、心臓障害
  • 骨盤部照射:下痢、頻尿、性機能障害

放射線療法による二次がんの発生も長期的なリスクとして知られています。

副作用とリスクへの対策

胚細胞腫瘍の治療に伴う副作用やリスクに対しては、以下のような対策が重要です。

支持療法制吐剤、輸血、Growth Factor製剤などによる副作用対策
定期的なモニタリング血液検査、心機能評価、聴力検査などによる早期発見
生殖機能の保護精子や卵子の凍結保存、ホルモン療法などによる妊孕性の維持
長期フォローアップ二次がんや晩期合併症の早期発見と対策

再発リスクと予防策

胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)は、適切な治療により高い治癒率が得られる一方で、再発のリスクを有する疾患でもあります。

再発リスクは、腫瘍の病期や組織型、治療法によって異なりますが、長期的なフォローアップと再発予防策が重要です。

再発リスクの評価

胚細胞腫瘍の再発リスクは、病期や組織型によって大きく異なります。一般的に、早期の胚細胞腫瘍は再発リスクが低く、進行期の胚細胞腫瘍は再発リスクが高くなります。

病期再発リスク
I期低い
II期中等度
III期高い

また、組織型によっても再発リスクが異なります。セミノーマは非セミノーマに比べて再発リスクが低いことが知られています。

組織型再発リスク
セミノーマ低い
非セミノーマ中等度〜高い

再発リスクの評価には、病理学的因子や腫瘍マーカーの推移なども考慮されます。再発リスクに応じて、適切なフォローアップ計画を立てることが重要です。

再発の早期発見

胚細胞腫瘍の再発を早期に発見するためには、定期的なフォローアップが不可欠です。フォローアップの頻度や内容は、再発リスクに応じて個別に設定されます。一般的には、以下のような検査が行われます。

  • 身体診察
  • 腫瘍マーカーの測定(AFP、hCG、LDHなど)
  • 画像検査(CT、MRIなど)

再発の早期発見には、患者自身による自己検診も重要です。精巣胚細胞腫瘍では、残存精巣の自己検診を習慣づけることが推奨されています。

再発予防策

胚細胞腫瘍の再発を予防するためには、以下のような対策が考えられます。

  • 適切な治療の実施:病期や組織型に応じた標準治療の実施
  • 支持療法の徹底:副作用対策や全身管理による治療完遂率の向上
  • リスク因子の管理:喫煙や肥満などの生活習慣の改善

また、再発リスクが高い症例では、予防的化学療法が検討されることもあります。ただし、予防的化学療法の適応や効果については、十分なエビデンスが得られていないのが現状です。

長期フォローアップの重要性

胚細胞腫瘍の再発は、治療終了後長期間を経て生じることもあります。そのため、長期的なフォローアップが重要です。

フォローアップ期間は、再発リスクや患者の年齢などを考慮して個別に設定されます。

精巣胚細胞腫瘍少なくとも5年間のフォローアップが推奨される
卵巣胚細胞腫瘍少なくとも2年間のフォローアップが推奨される
性腺外胚細胞腫瘍少なくとも2年間のフォローアップが推奨される

長期フォローアップでは、再発の早期発見だけでなく、治療による晩期合併症の評価や対策も重要です。患者の生活の質(QOL)を維持しながら、再発と晩期合併症の両面から支援することが求められます。

治療費

検査費と処置費

胚細胞腫瘍の診断には、血液検査や画像検査などが必要となります。これらの検査費は、1回あたり数万円から数十万円程度かかることがあります。

また、手術などの処置を行う場合は、数十万円から数百万円の費用がかかることがあります。

検査・処置費用の目安
血液検査4,200円(血液一般+生化学5-7項目の場合)~数万円程度(各種マーカーあり)
CT検査14,700円~20,700円
手術縦隔腫瘍摘出術 388,5000円
性腺摘出術 1 開腹によるもの 62,800円 2 腹腔鏡によるもの 185,900円

入院費

胚細胞腫瘍の治療では、手術や化学療法のために入院が必要となることがあります。

現在基本的に日本の入院費は「包括評価(DPC)」にて計算されます。
各診療行為ごとに計算する今までの「出来高」計算方式とは異なり、病名・症状をもとに手術や処置などの診療内容に応じて厚生労働省が定めた『診断群分類点数表』(約1,400分類)に当てはめ、1日あたりの金額を基に入院医療費を計算する方式です。
1日あたりの金額に含まれるものは、投薬、注射、検査、画像診断、入院基本料等です。
手術、リハビリなどは、従来どおりの出来高計算となります。
(投薬、検査、画像診断、処置等でも、一部出来高計算されるものがあります。)

計算式は下記の通りです。
「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数※」+「出来高計算分」

例えば、14日間入院するとした場合は下記の通りとなります。

DPC名: 縦隔悪性腫瘍、縦隔・胸膜の悪性腫瘍 縦隔悪性腫瘍手術等 手術処置等2なし
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥312,780 +出来高計算分

ただし、保険適用となると1割~3割の自己負担であり、高額医療制度の対象となるため、実際の自己負担はもっと安くなります。

以上

参考にした論文