市中肺炎とは呼吸器疾患の一種で、病院や医療施設以外の場所で発症した肺炎のことを指します。
この肺炎は細菌やウイルスなどの病原体が肺に侵入し、炎症を引き起こすことによって発症するのです。
市中肺炎の原因となる病原体は多岐にわたり、いくつかの症状が同時に発症することが多いのも特徴です。
高齢者、喫煙や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの基礎疾患をお持ちのかたは感染リスクが高いだけでなく、重症化しやすく入院治療が必要になるケースもあります。
市中肺炎の病型分類とその特徴について
市中肺炎は原因微生物や重症度によって、いくつかの病型に分類されます。
原因微生物による分類
市中肺炎の原因微生物は多岐にわたりますが、主なものは以下の通りです。
- 肺炎球菌
- インフルエンザ菌
- マイコプラズマ
- レジオネラ菌
重症度による分類
市中肺炎は重症度によって、以下のように分類されます。
病型 | 概要 |
軽症 | 外来治療が可能な肺炎 |
中等症 | 入院治療が必要な肺炎 |
重症 | 集中治療が必要な肺炎 |
重症度は年齢や基礎疾患の有無、バイタルサインなどを考慮して判断されるのです。
病型に応じて薬の選択や治療期間、入院の必要性などが判断されるため、正確な病型の診断をしなければなりません。
主要な症状と注意すべき点について
市中肺炎の主症状は発熱、咳、痰、呼吸困難、胸痛などが代表的だと言えます。
ただ、患者さんの年齢や基礎疾患の有無によって異なるケースがあり、高齢者や免疫力の低下した患者さんは典型的な症状が出現しないこともあるため、注意深い観察が必要です。
発熱
市中肺炎では38℃以上の発熱を伴うことが多く、高熱が数日間持続する場合があります。
ただし、高齢者や免疫力の低下した患者さんでは発熱が軽度であったり、全くみられないこともあるため注意が必要です。
年齢 | 発熱の特徴 |
若年者 | 高熱が持続することが多い |
高齢者 | 発熱が軽度または無熱の場合がある |
咳と痰
市中肺炎では咳が主要な症状の一つであり、湿性の咳が特徴的です。痰は白色、黄色、緑色など様々な色調を呈することがあり、膿性痰を伴う際は細菌感染を疑います。
また、血痰を伴うケースは重症化の兆候である可能性も考えなければなりません。
呼吸困難と胸痛
市中肺炎が進行すると呼吸困難や胸痛を訴えることがあります。
呼吸困難は肺炎による肺の炎症や肺胞内の浸出液貯留によって引き起こされ、安静時にも息切れを感じるようになるでしょう。
また、胸膜の炎症が起こると胸痛の症状が生じ、深呼吸や咳をすると増悪する傾向があります。
以下は市中肺炎の重症度を評価する指標の一つであるCURB-65スコアの項目です。
- 意識障害
- 尿素窒素上昇
- 呼吸数増加
- 低血圧
- 65歳以上
これらの項目に該当する症状がある際は、重症化のリスクが高いと判断されます。
その他の症状
市中肺炎では上記の主要症状以外にも、以下のような症状が起こる可能性もあります。
症状 | 概要 |
倦怠感 | 全身の脱力感や疲労感 |
食欲不振 | 食事への興味の低下 |
関節痛 | 全身の関節の痛み |
これらの症状は非特異的であるため単独では肺炎の診断根拠にはなりませんが、他の症状と合わせて評価することが大切です。
市中肺炎の原因と発症のメカニズムについて
市中肺炎は主に細菌やウイルスなどの病原体が呼吸器に侵入し、肺の組織に炎症を引き起こすことで発症すると言えます。
細菌による市中肺炎
市中肺炎の原因となる主な細菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、レジオネラ菌などです。
これらの細菌は飛沫感染や接触感染によって呼吸器に侵入し、肺胞内で増殖することで炎症を引き起こします。
細菌 | 特徴 |
肺炎球菌 | 市中肺炎の最も一般的な原因菌 |
インフルエンザ菌 | 小児や高齢者に多い |
マイコプラズマ | 若年者に多く、非定型肺炎の原因となる |
レジオネラ菌 | 空調設備などを介して感染する |
ウイルスによる市中肺炎
市中肺炎の原因となるウイルスはインフルエンザウイルス、respiratory syncytial virus(RSV)、パラインフルエンザウイルスなどです。
これらのウイルスは上気道感染症を引き起こした後、下気道に感染が広がることで肺炎を発症させます。
ウイルス | 特徴 |
インフルエンザウイルス | 季節性インフルエンザに伴う肺炎の原因となる |
RSV | 乳幼児に多く、細気管支炎や肺炎を引き起こす |
パラインフルエンザウイルス | クループや肺炎の原因となる |
発症のリスク因子
市中肺炎の発症に対するリスク因子関与は以下の通りです。
- 高齢者
- 慢性呼吸器疾患(COPD、気管支喘息など)
- 免疫抑制状態(糖尿病、ステロイド使用など)
- 喫煙
- アルコール多飲
- 誤嚥のリスク(脳血管障害、認知症など)
これらのリスク因子を持つ人は市中肺炎に罹患しやすく、重症化のリスクも高くなると考えられます。
発症のメカニズム
市中肺炎の発症メカニズムは、以下のようなステップで進行します。
- 病原体の呼吸器への侵入
- 肺胞内での病原体の増殖
- 炎症性サイトカインの放出
- 肺胞内への浸出液貯留
- ガス交換能の低下
このように、病原体の侵入から炎症反応の波及によって肺の正常な機能が障害されることで、市中肺炎の症状が出現するのです。
市中肺炎の原因は多岐にわたりますが、いずれも病原体が呼吸器に感染することが発症の出発点となります。
市中肺炎における画像診断の特徴的所見について
市中肺炎の画像診断では胸部X線検査とCT検査が中心となり、特徴的な所見を捉えることが大切です。
胸部X線検査所見
胸部X線検査は市中肺炎の診断において初期に行われる画像検査です。典型的な所見としては、以下のようなものがあります。
所見 | 特徴 |
浸潤影 | 肺野にスリガラス状または斑状の濃度上昇 |
気管支壁肥厚 | 気管支壁の不整な肥厚 |
胸水 | 胸腔内への液体貯留 |
ただし、胸部X線検査の感度は高くなく、早期の肺炎や軽症例では異常所見を捉えられないことがあるのです。
所見:右中肺野に浸潤影の広がりを認め、細菌性肺炎が疑われる。
CT検査所見
CT検査は胸部X線検査で異常が疑われる際や、重症例の評価に用いられます。
以下は市中肺炎のCT所見の特徴的なものです。
所見 | 特徴 |
すりガラス影 | 肺野のスリガラス状の濃度上昇 |
浸潤影 | 肺胞内への液体貯留による濃度上昇 |
小葉中心性粒状影 | 小葉中心性の粒状影 |
気管支壁肥厚 | 気管支壁の不整な肥厚 |
所見:右上中葉に非区域性の浸潤影を認め、肺炎球菌性肺炎として合致する性状である。
画像所見と原因微生物の関係
市中肺炎の画像所見は原因微生物によって異なる特徴を示すことがあります。
以下は主な原因微生物と関連する画像所見です。
原因菌 | 特徴 |
肺炎球菌 | 肺胞性肺炎、浸潤影 |
マイコプラズマ | すりガラス影、小葉中心性粒状影 |
レジオネラ菌 | 浸潤影、胸水 |
インフルエンザウイルス | すりガラス影、浸潤影 |
このように、すりガラス影に特徴的な画像所見が見られるのはウイルス性肺炎や非定型肺炎で、浸潤影では細菌性肺炎で多く見られます。
また、マイコプラズマ肺炎では小葉中心性粒状影に特徴的な所見が見えるのことが多いです。
ただし、画像所見のみで原因微生物を特定することは困難であり、臨床所見や検査結果と合わせて総合的に判断する必要があります。
画像診断の役割
以下のような役割として、市中肺炎の画像診断が行われるのです。
- 診断の確定
- 重症度の評価
- 合併症の検出
- 治療効果の判定
特に重症例や合併症が疑われるケースでは、適切な画像診断が求められます。
また、治療開始後の画像検査では肺炎の改善状況を評価し、治療方針の決定につなげることができるでしょう。
治療戦略と回復までの経過について
市中肺炎の治療は原因微生物に応じた抗菌薬の投与が中心となり、重症度に応じて酸素投与や補助療法を行っていきます。
治療効果を適切に判定し、必要に応じて治療方針を見直すことが大切です。
抗菌薬治療
市中肺炎の治療において抗菌薬の選択は重要な役割を果たします。
経験的治療で使用される抗菌薬の種類は以下の通りです。
重症度 | 主な抗菌薬 |
軽症 | アモキシシリン、マクロライド系 |
中等症 | レスピラトリーキノロン、ベータラクタム系+マクロライド系 |
重症 | ベータラクタム系+マクロライド系または レスピラトリーキノロン |
この際に原因微生物が判明した場合は、感受性のある抗菌薬に変更します。
- ペニシリン系:アモキシシリン、アンピシリン
- マクロライド系:クラリスロマイシン、アジスロマイシン
- レスピラトリーキノロン:モキシフロキサシン、レボフロキサシン
抗菌薬の投与期間は症状の改善状況や原因微生物によって異なりますが、通常は5〜7日間程度です。
酸素投与と補助療法
中等症以上の市中肺炎では低酸素血症を伴うことがあるため、酸素投与が必要になります。
酸素投与の方法としては次の通りです。
方法 | 特徴 |
経鼻カニューレ | 低流量の酸素投与に適する |
マスク | 中等度の酸素投与に適する |
リザーバー付きマスク | 高濃度の酸素投与が可能 |
さらに重症例では人工呼吸管理が必要になることもあります。また、症状に応じて輸液療法や栄養管理などの補助療法も考慮されるでしょう。
治療効果の判定
市中肺炎の治療効果は以下のような指標で判定します。
臨床症状の改善 | 発熱、咳、痰、呼吸困難などの症状の改善 |
炎症反応の改善 | CRPやプロカルシトニンなどの炎症マーカーの低下 |
画像所見の改善 | 胸部X線やCTでの肺炎像の改善 |
治療開始後48〜72時間で効果判定を行い、改善が乏しい際は抗菌薬の変更や追加検査を検討するのが一般的です。
回復までの期間
市中肺炎の回復までの期間は、重症度や基礎疾患の有無などによって異なります。
軽症例では治療開始後3〜5日程度で症状が改善し、1〜2週間程度で回復することが多いです。
中等症以上のケースでは治療開始後1週間程度で症状が改善し、2〜3週間程度で回復することが多いですが、高齢者や基礎疾患を有する患者さんでは回復までに数週間以上を要することもあります。
また、肺炎球菌性肺炎では治療後も咳や倦怠感が遷延することがあり、完全な回復までに時間を要することも稀ではありません。
市中肺炎の治療に伴う副作用とリスクについて
市中肺炎の治療に用いられる抗菌薬や補助療法には副作用やリスクが伴うケースがあるため、注意深いモニタリングが求められます。
抗菌薬の副作用
市中肺炎の治療に使用される抗菌薬で考えられる副作用は以下の通りです。
抗菌薬 | 主な副作用 |
ペニシリン系 | アレルギー反応、消化器症状 |
マクロライド系 | 消化器症状、QT延長 |
レスピラトリーキノロン | 消化器症状、中枢神経系症状、アキレス腱炎 |
これらの副作用は通常は軽度ですが、重篤な際もあるため患者さんの症状の確認が求められます。
特に次のような患者さんは副作用のリスクが高くなるため、抗菌薬の選択や用量調節に一層の注意が必要です。
- 高齢者
- 腎機能障害を有する患者
- 肝機能障害を有する患者
- 多剤併用中の患者
薬剤耐性菌の出現
抗菌薬の使用に伴うリスクの一つに薬剤耐性菌の出現があります。
不必要な抗菌薬の使用や不適切な用量・期間の投与は耐性菌の選択を促進し、将来的な治療効果を低下させる可能性も否めません。
特に肺炎球菌やインフルエンザ菌においては、ペニシリン耐性株やマクロライド耐性株が問題となっています。
薬剤耐性菌の出現を防ぐためには、以下のような対策をしてください。
- 抗菌薬の適正使用(必要な場合にのみ使用する)
- 適切な用量と期間の遵守
- 感染予防対策の徹底(手指衛生、標準予防策など)
酸素投与と人工呼吸管理のリスク
重症の市中肺炎では酸素投与や人工呼吸管理が必要になることがありますが、これらの治療にもリスクが伴います。
酸素投与では高濃度の酸素暴露による肺傷害(酸素毒性)や二酸化炭素ナルコーシスなどの合併症が起こる可能性も考えられるのです。
また、人工呼吸管理では人工呼吸器関連肺炎(VAP)や人工呼吸器関連肺傷害(VALI)などの合併症リスクがあります。
合併症 | 概要 |
酸素毒性 | 高濃度の酸素暴露による肺傷害 |
二酸化炭素ナルコーシス | 高二酸化炭素血症による意識障害 |
VAP | 人工呼吸器関連肺炎 |
VALI | 人工呼吸器関連肺傷害 |
これらのリスクを最小限に抑えるためには、適切な呼吸管理と感染予防対策が不可欠です。
基礎疾患の悪化
市中肺炎の治療中は基礎疾患の悪化も見逃せません。
特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)や心不全を有する患者さんでは、感染による呼吸状態の悪化が基礎疾患の急性増悪を引き起こすことがあります。
また、糖尿病患者さんでは感染に伴うインスリン需要の増大によって、血糖コントロールが悪化する可能性もあるのです。
基礎疾患を有する患者さんは感染症の治療と並行して、基礎疾患のコントロールにも注意を払ってください。
再発予防と対策について
市中肺炎は適切な治療により治癒しますが、一定の割合で再発することがあるため再発予防が大切だと言えます。
感染のリスクを下げるためには、手洗いの徹底や咳エチケットなどの予防策が大切です。
また、リスク因子を持つ人は予防接種を受けるなど、より積極的な予防策を講じることが求められます。
再発のリスク因子
市中肺炎の再発に対して関与しているのは以下のようなリスク因子で、これらのリスク因子を持つ人は市中肺炎の再発リスクが高くなるでしょう。
リスク因子 | 再発リスク |
高齢者 | 高い |
COPD | 高い |
免疫抑制状態 | 高い |
喫煙 | 中等度 |
アルコール多飲 | 中等度 |
誤嚥のリスク | 高い |
再発予防のための生活習慣の改善
市中肺炎の再発を予防するためには、以下のような生活習慣の改善が有効です。
- 禁煙
- 適量飲酒
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- 十分な睡眠
- ストレス管理
特に喫煙は呼吸器の防御機能を低下させて肺炎のリスクを高めるため、禁煙が強く推奨されます。
ワクチン接種による予防
市中肺炎の予防にはワクチン接種が有効です。
なかでも以下のワクチンが推奨されています。
- 肺炎球菌ワクチン(PPSV23、PCV13)
- インフルエンザワクチン
肺炎球菌ワクチンは侵襲性肺炎球菌感染症や肺炎球菌性肺炎の予防に効果的です。
特に65歳以上の高齢者や基礎疾患を有する患者では接種が推奨されます。
インフルエンザワクチンは、インフルエンザ感染とそれに伴う二次性細菌性肺炎の予防に有効です。
ワクチン | 対象 |
PPSV23 | 65歳以上、基礎疾患を有する患者 |
PCV13 | 65歳以上 |
インフルエンザワクチン | 全ての年齢層 |
基礎疾患の管理
市中肺炎の再発予防には、基礎疾患の適切な管理が不可欠だと言えます。
特に以下の疾患さんは注意が必要です。
- COPD
- 気管支喘息
- 糖尿病
- 心不全
これらの疾患では病状のコントロールを適切に行い、急性増悪を予防することが重要です。
また、定期的な医療機関の受診と処方薬の適切な使用が求められます。
市中肺炎における治療費の概要について
市中肺炎の治療費は重症度や治療内容によって大きく異なりますが、一般的に数十万円から数百万円程度になるでしょう。
治療費が高額になることがありますが、早期発見と適切な治療が大切だと考えられます。
診察料
初診料は医療機関によって異なりますが2,880円~5,380円程度が一般的で、 再診料は750円~2,640円程度です。
項目 | 費用 |
初診料 | 2,880円~5,380円 |
再診料 | 750円~2,640円 |
検査費
市中肺炎の診断には血液検査、喀痰検査、胸部X線検査、CT検査などが行われます。
これらの検査費用は数千円から数万円程度です。
処置費
市中肺炎の治療では抗菌薬の投与や酸素投与などの処置が行われます。
これらの処置費用は数千円(外来)から数十万円(入院)程度です。
処置 | 費用 |
抗菌薬投与 | 数千円(外来)から数十万円(入院) |
酸素投与 | 1日あたり650円~数千円 |
入院費
重症の市中肺炎では入院治療が必要になることがあります。
入院費は1日あたり数万円から10万円程度になることがあり、入院期間によっては数百万円に及ぶこともあるでしょう。
公的医療保険や高額療養費制度を活用することで、自己負担を軽減することができます。
以上
- 参考にした論文