咳が続くけれど、何科を受診すればいいのか迷った経験はありませんか。「とりあえず、いつもの内科でいいだろうか」「いきなり専門の病院に行くべきか」と悩む方は少なくありません。

多くの場合、咳の初期対応は一般内科で問題ありません。しかし、咳が長引いたり、特定の症状が見られたりする場合は呼吸器の専門医による診断が必要です。

この記事では咳で内科を受診した際にできる検査や治療、そしてどのような場合に呼吸器内科などの専門医への紹介が必要になるのかについて、分かりやすく解説します。

咳が出たら、まずは「かかりつけ内科」が基本

多くの咳は身近な「かかりつけ内科」で対応が可能です。なぜ最初の窓口として内科が適しているのか、その役割を理解しましょう。

なぜ最初は一般内科で良いのか

咳の原因は非常に多岐にわたりますが、その大半は風邪(かぜ症候群)やそれに伴う気管支炎など、一般内科で十分に対応可能な疾患です。

身近なかかりつけ医は患者さんの普段の健康状態や生活背景を把握しているため、総合的な視点から初期診断を行うのに適しています。

プライマリ・ケアを担う内科の役割

内科は地域医療の入り口として「プライマリ・ケア」を担っています。プライマリ・ケアとは、日常的な病気や健康上の問題に対して、総合的・継続的に対応する医療のことです。

咳という一つの症状から、呼吸器の問題だけでなく、心臓や消化器などあらゆる可能性を視野に入れて診察し、必要に応じて適切な専門科へつなぐ「水先案内人」の役割を果たします。

どんな症状なら内科を受診すべきか

基本的には咳に加えて発熱や喉の痛み、鼻水、体のだるさといった全身症状を伴う場合は、まず一般内科を受診するのが良いでしょう。

これらの症状は、風邪やインフルエンザなどの感染症でよく見られるものです。

咳の期間による一般的な分類

分類持続期間主な原因
急性咳嗽3週間未満風邪、インフルエンザ、急性気管支炎など
遷延性咳嗽3週間~8週間感染後咳嗽、咳喘息、副鼻腔炎など
慢性咳嗽8週間以上咳喘息、COPD、肺がん、結核など

一般内科で考えられる咳の主な原因

一般内科を受診する患者さんの咳の原因として、頻度の高いものを紹介します。

最も多い「かぜ症候群」

咳の原因として最も多いのが、ウイルス感染による「かぜ症候群」です。

ライノウイルスやコロナウイルスなど、様々なウイルスが鼻や喉の粘膜に感染し、炎症を起こすことで咳が出ます。

通常は1〜2週間で自然に軽快します。

咳が長引く「感染後咳嗽」

風邪は治ったはずなのに、咳だけが数週間にわたって続く状態を「感染後咳嗽」と呼びます。ウイルスはいなくなっても、気道に残った炎症や過敏性が原因です。

遷延性咳嗽(3週間以上続く咳)の主な原因の一つであり、自然に治ることが多いですが、咳喘息との鑑別が重要になります。

急性気管支炎

ウイルス感染が気管支まで及ぶと急性気管支炎となります。激しい咳と共に、色のついた痰が出ることがあります。

多くはウイルス性が原因ですが、細菌感染を合併している場合は抗菌薬(抗生物質)による治療が必要になることもあります。

一般内科でよく見られる咳の原因疾患

疾患名主な特徴
かぜ症候群発熱、鼻水、喉の痛みなどを伴うことが多い
感染後咳嗽風邪の後、他の症状は消えて咳だけが残る
急性気管支炎激しい咳、色のついた痰が出ることがある

一般内科でできる検査と診断

一般内科では問診や診察に加え、いくつかの基本的な検査を行って咳の原因を探ります。

基本となる問診と身体診察

医師はまず、咳の性質(乾いているか、湿っているか)、始まった時期、悪化する時間帯、他の症状の有無などを詳しく聞きます(問診)。

その後、聴診器で胸の音を聞き、異常な音がないか、喉は赤くないかなどを確認します(身体診察)。

胸部X線(レントゲン)検査

胸部X線検査は肺の状態を画像で確認する基本的な検査です。肺炎を起こしていないか、肺に異常な影がないかなどを調べることができます。

これにより、重篤な病気を見逃すリスクを減らします。

胸部X線検査で評価できること

所見疑われる病気の一例
肺の白い影肺炎、肺がん、結核
心臓の拡大心不全
胸水肺炎、心不全、がんなど

血液検査でわかること

血液検査では体内で炎症が起きているかどうか(CRP値や白血球数)、またアレルギー反応の有無などを調べることができます。

細菌感染が疑われる場合や、アレルギー性の病気が考えられる場合に役立ちます。

迅速検査(インフルエンザ・新型コロナなど)

高熱を伴う場合など特定の感染症が疑われる際には、鼻や喉の粘液を採取して行う迅速検査が有効です。

インフルエンザや新型コロナウイルス、溶連菌などの感染を短時間で診断できます。

一般内科で行われる咳の治療

検査で診断がついたら、原因に応じた治療を開始します。多くは症状を和らげる対症療法が中心となります。

症状を和らげる対症療法

ウイルス感染が原因の咳には特効薬がないため、つらい症状を和らげるための薬を処方します。

咳を鎮める「鎮咳薬」、痰を出しやすくする「去痰薬」、気管支を広げる薬などが用いられます。発熱や痛みがあれば解熱鎮痛薬も使います。

細菌感染が疑われる場合の抗菌薬

診察や検査の結果、細菌による二次感染が強く疑われる場合に限り、抗菌薬(抗生物質)を処方します。

ウイルスには効果がないため、通常の風邪で抗菌薬を処方することは推奨されません。不必要な抗菌薬の使用は、薬剤耐性菌を生む原因にもなります。

一般内科で処方される主な咳の薬

薬の種類主な目的
鎮咳薬咳中枢に作用し、咳反射を抑える
去痰薬痰の粘り気を減らし、排出しやすくする
抗ヒスタミン薬アレルギー反応を抑え、鼻水や咳を緩和する

生活習慣に関する指導

十分な休息と水分補給、部屋の加湿、禁煙など、セルフケアに関する指導も重要な治療の一部です。

これらの生活改善は体の回復を助け、咳の悪化を防ぎます。

咳が長引くとき 専門医への紹介が必要なケース

一般内科での治療を受けても咳が改善しない場合や、特定の症状が見られる場合は、より専門的な診断・治療が可能な呼吸器内科への紹介を検討します。

3週間以上続く咳は要注意

咳が3週間以上続く「遷延性・慢性咳嗽」の場合、単なる風邪や感染後咳嗽ではない可能性が高まります。

咳喘息や気管支喘息、あるいは他の呼吸器疾患が隠れていることも考えられるため、専門的な評価が必要です。

一般内科の治療で改善しない

処方された薬をきちんと飲んでも一向に咳が良くならない、あるいは一度良くなったのにまたぶり返すといった場合は、診断や治療方針の見直しが必要です。

呼吸器の専門医による、より踏み込んだ検査や治療が求められます。

危険なサインを見逃さない

以下のような症状を伴う咳は重篤な病気のサインである可能性があります。これらの症状があれば速やかに専門医の診察を受ける必要があります。

  • 呼吸困難、息切れ
  • 血痰(血の混じった痰)
  • 胸の痛み
  • 急な体重減少

呼吸器内科ではどんな病気を診るのか

呼吸器内科は、気管・気管支・肺など呼吸に関わる臓器の病気を専門とする診療科です。一般内科からの紹介で、より詳細な診断と治療を行います。

咳喘息・気管支喘息

長引く咳の代表的な原因疾患です。呼吸機能検査や呼気NO検査などを行い、気道の炎症や過敏性の状態を評価して診断します。

治療には気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬が中心となります。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

主に長年の喫煙が原因で肺に障害が起きる病気で、「タバコ病」とも呼ばれます。慢性的な咳や痰、労作時の息切れが特徴です。

呼吸機能検査で診断し、禁煙指導と気管支拡張薬による治療を行います。

呼吸器内科で扱う主な疾患

疾患名主な症状
気管支喘息・咳喘息長引く咳、喘鳴、呼吸困難
COPD慢性の咳・痰、労作時息切れ
間質性肺炎乾いた咳、労作時息切れ

肺炎・肺結核・肺がんなど

胸部X線検査で異常な影が見つかった場合、その原因を詳しく調べるのも呼吸器内科の役割です。

CT検査や気管支鏡検査など、より高度な画像診断や組織検査を行い、確定診断と治療方針の決定につなげます。

よくある質問

最後に、咳で内科を受診する際のよくある質問にお答えします。

Q
最初から呼吸器内科に行ってはだめですか?
A

もちろん、最初から呼吸器内科を受診しても問題ありません。

特に「咳が何週間も続いている」「息苦しさがある」など、呼吸器の病気を強く疑う症状がある場合は、直接専門医に相談する方がスムーズな場合があります。

しかし、発熱など他の症状もある場合は、まずはお近くの内科で総合的に診てもらうのが一般的です。

Q
紹介状がないと専門医に診てもらえませんか?
A

紹介状がなくても専門医の診察を受けることは可能です。

しかし、かかりつけ医からの紹介状があれば、これまでの治療経過や検査結果が専門医に伝わるため、よりスムーズで的確な診療につながります。

また、大きな病院では紹介状がないと追加料金がかかる場合もあります。

Q
 咳で他の科(耳鼻咽喉科など)に行くべき場合は?
A

咳に加えて、鼻水・鼻づまり・喉の痛みや違和感が強い場合は耳鼻咽喉科が専門となります。特に、鼻水が喉に流れる「後鼻漏」は長引く咳の大きな原因の一つです。

咳と鼻の症状がどちらも強い場合は、呼吸器内科と耳鼻咽喉科が連携して治療することもあります。

Q
子供の咳は何科を受診すればよいですか?
A

お子さんの場合は、まずはかかりつけの小児科を受診してください。小児科医は子供の病気を総合的に診る専門家です。

診察の結果、より専門的な診断や治療が必要と判断されれば、小児専門の呼吸器科やアレルギー科に紹介されます。

以上

参考にした論文

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