喘息の症状が長引き、咳や息苦しさがなかなか改善しないと感じている患者さんにとって、治療の新たな一手となるのが「ビレーズトリ」です。

この薬は3種類の異なる有効成分をひとつの吸入器に収めたトリプル製剤であり、それぞれの成分が連携して気道の炎症を抑えながら空気の通り道を広げます。

特に注目すべきは、独自の「エアロスフィア技術」を採用している点です。この技術のおかげで、薬剤が肺の奥深くにある末梢気道までしっかりと届き、効率よく効果を発揮できるのです。

既存の吸入薬を使っていても「夜中に目が覚める」「動くと息切れがする」という悩みが解消されない方に対し、なぜビレーズトリが選ばれているのでしょうか。

その具体的な効果や副作用、そして効果を最大限に引き出すための正しい吸入テクニックについて、詳しく解説していきます。

咳や息苦しさが続く毎日に終止符を打つために

ビレーズトリは、従来の2剤配合薬などではコントロールが難しかった中等症から重症の喘息に対し、3つの成分が強力に連携して症状を改善に導く薬剤です。

3つの成分が連携して気道を広げる仕組み

この薬の最大の特徴は、吸入ステロイド薬(ICS)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)、そして長時間作用性抗コリン薬(LAMA)という3つの成分が配合されていることです。

喘息の根本原因である「気道の炎症」をステロイドが鎮めると同時に、2種類の気管支拡張薬がそれぞれ異なるスイッチを押すようにして気道を広げます。

炎症で腫れた粘膜を静めつつ、筋肉の収縮を解いて空気の通り道を確保するため、単独の薬を使うよりもはるかに楽に呼吸ができるようになるのです。

これまでの吸入薬では物足りなかった方へ

多くの患者さんが使用しているステロイドとβ2刺激薬の2剤配合(ICS/LABA)は非常に有効ですが、それだけでは気道の収縮を完全には防げないケースがあります。

ビレーズトリはそこに「抗コリン薬」を加えることで、副交感神経による気道の収縮もブロックし、もう一段階深いレベルでの症状改善を目指します。

この「あと一押し」の拡張作用が加わるため、階段の上り下りや少しの運動で感じていた息切れが軽減され、日常生活の質が大きく向上することが期待できます。

どのような症状の方が対象になるのか

基本的には、現在2剤配合の吸入薬を使っているにもかかわらず、日中に咳が出る、夜間に息苦しさで目覚めるといった症状が残っている方が対象となります。

また、発作止め(リリーバー)を使う頻度が減らない場合も、治療のステップアップとしてビレーズトリへの切り替えが検討されるタイミングと言えるでしょう。

ビレーズトリの基本スペック

項目内容特徴
製品名ビレーズトリエアロスフィア1缶で120回吸入可能
タイプ加圧噴霧式(pMDI)霧状に噴射される
使用回数1回2吸入を1日2回朝と夜の習慣にする

なぜ3剤配合だと呼吸が楽になるのか

喘息の苦しさは、気道の「炎症」と「収縮」が複雑に絡み合って起こります。ビレーズトリに含まれる3つの成分は、この複雑な病態に対して多角的に働きかけられるよう厳選されています。

炎症の火種を消すステロイドの力

配合されているブデソニドは、長年の使用実績があり、世界中で信頼されている吸入ステロイド薬です。

喘息患者さんの気道では常にボヤのような炎症が起きていますが、ブデソニドはこの火種を強力に抑え込み、粘膜の腫れを引かせる役割を果たします。

気道が過敏になるのを防ぐ効果もあるため、冷たい空気やホコリなどのちょっとした刺激で発作が起きるのを予防する上でも欠かせない成分です。

2つのルートから気管支を確実に広げる

ホルモテロール(LABA)は気管支の筋肉を直接緩める働きがあり、グリコピロニウム(LAMA)は気管支を縮めようとする神経の命令をブロックします。

これらは全く異なるルートを通って気管支に働きかけるため、片方だけでは広がりきらなかった気道も、両方から攻めることでしっかりと拡張さられます。

成分名役割期待できる効果
ブデソニド炎症止め気道の腫れと過敏性を改善
グリコピロニウム拡張(神経遮断)収縮命令をブロックして広げる
ホルモテロール拡張(筋肉弛緩)筋肉を直接ゆるめて広げる

肺の奥まで薬を届ける独自技術

ビレーズトリが優れているのは成分だけではありません。「エアロスフィア」という技術により、薬剤の粒子が非常に軽く、かつ均一な大きさになるよう設計されています。

従来の重たい粒子だと喉や太い気管支にぶつかって止まってしまうときがありましたが、この技術により、炎症が起きている肺の末梢部分まで薬がふわっと届きます。

細い気管支までしっかりと薬が行き渡るため肺全体の空気の通りが良くなり、より自然で楽な呼吸を取り戻す手助けをしてくれるのです。

発作の不安を減らす確かなデータと実績

新しい薬に変える際、最も気になるのは「本当に効くのか」「発作は起きなくなるのか」という点ではないでしょうか。臨床試験のデータは、その効果を裏付ける確かな証拠となります。

呼吸機能の数値が示す明らかな変化

肺活量検査などで測定される「1秒量(1秒間に吐き出せる息の量)」は、気道がどれくらい開いているかを示す重要な指標です。

大規模な臨床試験において、ビレーズトリを使用した患者さんは、従来の2剤配合薬を使用した患者さんと比べて、この数値が明らかに改善したという結果が出ています。

数値が良くなるということは、それだけ呼吸がスムーズになり、日常生活での動作が楽になることを意味しており、生活の質の向上に直結します。

突然の発作リスクをどれだけ下げられるか

喘息治療のゴールは、普段の症状を無くすだけでなく、命に関わるような大きな発作(増悪)を未然に防ぐことにあります。

研究データによると、ビレーズトリは中等度から重度の喘息発作が起きる頻度を有意に低下させることが確認されました。

特に、過去1年以内に発作を起こした経験があるようなリスクの高い患者さんにとって、この予防効果は日々の安心感につながる大きなメリットと言えます。

  • 発作頻度の低下:2剤併用に比べて有意に減少。
  • 呼吸機能の向上:1秒量の改善幅が大きい。
  • 生活の質の改善:症状スコアが良くなり活動的に。

長く使い続ける上での安全性

52週間にわたる長期投与試験においても、新たな副作用の懸念は見当たらず、長期的に使用しても安全性が高いことが示されています。

もちろん薬には相性がありますが、多くの患者さんにとって、効果と安全性のバランスが取れた使いやすい薬剤であると評価されています。

薬を肺の奥まで届けるための吸入テクニック

ビレーズトリは「プシュッ」と霧が出るスプレータイプ(pMDI)の吸入器です。タイミングよく吸い込まないと口の中に薬が残ってしまい、効果が半減してしまいます。

基本の吸入手順をマスターしよう

まずはキャップを外し、容器をよく振るのがスタートです。中の薬剤とガスを均一に混ぜるために、数回しっかりと振ってください。

次に、吸入する前に肺の中の空気を「ふーっ」と吐き出します。これにより、新しい空気を吸い込むためのスペースを肺の中に作れます。

吸入口を唇で隙間なくくわえ、ゆっくりと深く息を吸い始めると同時に、ボンベの底を1回強く押して薬剤を噴射させます。

ここが一番のポイントですが、吸い終わったらすぐに息を吐かず、3秒から5秒以上、しっかりと息を止めてください。この「息止め」の時間に、薬が気管支に沈着します。

うがいが副作用予防の鍵になる

吸入が終わったら、必ず「うがい」をしましょう。これは口の中に残った余分なステロイド成分を洗い流すためです。

喉の奥を洗う「ガラガラうがい」と、口の中全体をゆすぐ「ブクブクうがい」を組み合わせるのがベストです。

これにより、声が枯れたり、口の中にカビが生えたりするトラブルを大幅に防げます。面倒でも毎回の習慣にしてください。

苦手な方は補助器具を使ってみよう

噴射と吸い込みのタイミングを合わせるのが難しいと感じる方や、ご高齢の方には「スペーサー」という筒状の補助器具がおすすめです。

スペーサーの中に一度薬を溜めてから、自分のペースでゆっくりと吸い込めるため、失敗が少なく、肺への到達率もアップします。

知っておけば怖くない副作用への対処法

どんなに良い薬でも副作用のリスクはゼロではありませんが、事前に知っておくと冷静に対処でき、重症化を防げます。

口や喉のトラブルは予防できる

最も多いのは、声がれ(嗄声)や口腔カンジダ症といった口周りの症状です。これらはステロイドの影響ですが、前述の「うがい」でかなり防げます。

もし舌が白くなったり痛みを感じたりした場合は、自己判断で薬を止めず、早めに医師に相談してください。うがい薬やシロップで治療可能です。

動悸や震えが出たときの考え方

気管支を広げる成分の影響で、使い始めに心臓がドキドキしたり、指先が震えたりする場合があります。

多くの場合、体が薬に慣れてくると自然に治まりますが、生活に支障が出るほど強い場合や、長く続く場合は医師に伝えて調整してもらいましょう。

すぐに受診すべきサインとは

稀にですが、おしっこが出にくくなる(排尿困難)ことや、緑内障が悪化するケースがあります。

特に前立腺肥大や緑内障の持病がある方は、診察の際に必ず医師に伝えておき、違和感があればすぐに相談できる体制を作っておくことが大切です。

気になる症状原因となりうる成分まず行うべき対策
声がれ、口内炎ステロイド吸入直後の丁寧なうがい
動悸、手の震えβ2刺激薬様子を見て、続くなら相談
口の乾き、尿閉抗コリン薬水分補給、医師へ報告

他の薬と比較して見えてくる強み

「テリルジー」や「エナジア」など、他にもトリプル製剤は存在します。その中でなぜビレーズトリが選ばれるのか、使い勝手や生活スタイルの視点から比較してみましょう。

粉末タイプとの使い分けのポイント

他の多くの薬は粉末を吸い込むドライパウダー製剤(DPI)ですが、ビレーズトリは霧状のスプレー製剤(pMDI)です。

粉末タイプはある程度の勢いで吸い込む力が必要ですが、スプレータイプは吸う力が弱くなっている高齢者や、呼吸機能が低下している方でも確実に吸入しやすいという利点があります。

1日2回吸入するメリット

ビレーズトリは朝と夜の1日2回使用します。1日1回の薬の方が楽だと感じる方もいますが、2回に分けることには大きな意味があります。

常に一定の薬効を体内に保ちやすいため、薬の効果が切れやすい夜間や早朝の症状(モーニングディップ)を抑えるのに適しているのです。

  • 吸う力が弱い方:スプレー式のビレーズトリが有利。
  • 吸入忘れが心配な方:1回忘れても夜にカバーできる安心感。
  • 夜間の症状が強い方:1日2回タイプで安定した効果を持続。

治療を続けるための費用と支援制度

毎日使う薬だからこそ、経済的な負担は無視できません。少しでも負担を減らし、治療を継続するための情報を整理しておきましょう。

1ヶ月あたりの治療費の目安

ビレーズトリは新薬であるため、ジェネリック医薬品はまだありません。3割負担の方で、薬剤費は1ヶ月あたり数千円程度が目安となります。

決して安くはありませんが、発作を起こして入院することになれば、その何倍もの費用と時間がかかってしまいます。

安定した状態を保つ取り組みは、長い目で見れば最も経済的な選択と言えるでしょう。長期処方を活用すれば、通院回数を減らして再診料を節約することも可能です。

使える公的制度を確認しよう

喘息治療だけで高額療養費制度の上限に達するケースは少ないですが、他の病気と合算すると対象になる場合があります。

また、自治体によっては独自の助成制度を設けているところもありますので、費用のことで治療を中断する前に、一度病院の窓口や薬剤師に相談してみてください。

よくある質問

Q
ビレーズトリはどのような喘息患者に効果がありますか?
A

ビレーズトリは、吸入ステロイド薬と長時間作用性β2刺激薬を併用しても症状が残る中等症から重症の喘息患者さんに特に効果が期待されます。

気道の炎症を抑えながら強力に気管支を広げるため、息切れや咳が続く方に適しています。

Q
ビレーズトリの副作用で声が枯れることはありますか?
A

ビレーズトリに含まれるステロイド成分が声帯に付着することで、声が枯れる(嗄声)場合があります。

これを防ぐためには、吸入直後にガラガラうがいとブクブクうがいを十分に行い、喉や口に残った薬剤を洗い流すことが非常に大切です。

Q
ビレーズトリとテリルジーの違いは何ですか?
A

ビレーズトリとテリルジーはどちらも3成分配合のトリプル製剤ですが、ビレーズトリは1日2回の吸入でガス式のスプレータイプ(pMDI)、テリルジーは1日1回の吸入で粉末タイプ(DPI)という違いがあります。

吸う力が弱い方にはビレーズトリが推奨されるケースがあります。

Q
ビレーズトリをやめるタイミングはいつですか?
A

ビレーズトリを使用して症状が数ヶ月以上安定し、発作も起きない状態が続けば、医師の判断で薬を減らす(ステップダウン)ことが検討されます。

しかし、喘息は慢性疾患であり、自己判断で急にやめると再発するリスクが高いため、必ず医師と相談して決定してください。

参考にした文献