アレルギー性鼻炎で鼻水や鼻づまりに悩んでいるのに、なぜか咳まで止まらない。そんな経験はありませんか。

「鼻の症状だから」と耳鼻科の薬を飲んでも咳だけが残る場合、その原因は単なる鼻水ではないかもしれません。

その咳は鼻水が喉に流れる「後鼻漏」や、気道に炎症が広がった「咳喘息」のサインである可能性があります。

この記事ではアレルギー性鼻炎で咳が止まらなくなる理由と、その背後にある病気、そして鼻と気道の両方からアプローチする根本的な治療法について、呼吸器内科の視点から詳しく解説します。

アレルギー性鼻炎で咳が止まらない主な理由

アレルギー性鼻炎の症状は鼻だけにとどまりません。鼻と喉、そして気管支は一つにつながっており、鼻で起きた問題が咳という形で気道に現れることは非常に多いのです。

咳の直接的な原因「後鼻漏(こうびろう)」

後鼻漏とは鼻水が喉の奥に垂れ流れてしまう状態のことです。アレルギー性鼻炎によって過剰に作られた鼻水、特に粘り気の強い鼻水が喉に流れ落ちると、それが刺激となって咳反射を引き起こします。

これがアレルギー性鼻炎の患者さんに咳が多い最大の理由です。特に横になる就寝時や朝起きた時に症状が悪化しやすくなります。

鼻づまりによる口呼吸の影響

アレルギー性鼻炎で鼻が詰まると無意識のうちに口で呼吸するようになります。

鼻には吸い込んだ空気を加温・加湿し、ホコリなどを取り除くフィルターの役割があります。

しかし、口呼吸ではその機能が働かないため、冷たく乾燥した空気が直接気道を刺激し、咳を誘発したり、気道の炎症を悪化させたりします。

鼻呼吸と口呼吸の気道への影響

項目鼻呼吸口呼吸
温度・湿度適切に加温・加湿される冷たく乾燥した空気が直接届く
異物の除去鼻毛や粘膜がフィルターとなる異物が直接気道に入る
気道への刺激少ない多く、炎症を悪化させやすい

気道全体に広がるアレルギー性の炎症

アレルギー性鼻炎は鼻だけの局所的な病気ではありません。アレルギー反応は鼻だけでなく気道全体で起こる可能性があります。

鼻の炎症を放置していると、その炎症が下気道である気管支にまで波及し、気道全体が過敏な状態になって咳が出やすくなります。

これは「ワンエアウェイ・ワンディジーズ」という考え方に基づいています。

後鼻漏の症状と見分け方

咳の原因が後鼻漏である場合、特有の症状が見られます。ご自身の症状と照らし合わせてみましょう。

喉の違和感と頻繁な咳払い

後鼻漏の最も特徴的な症状は、喉の奥に常に何かが張り付いているような不快感です。この違和感を取り除こうとして、無意識に「ン、ン」と咳払いを繰り返すことが多くなります。

また、痰が絡むように感じることもありますが、実際には鼻水である場合がほとんどです。

咳が出やすいタイミング

後鼻漏による咳は体勢の変化によって症状が出やすいのが特徴です。

仰向けに寝ると鼻水が喉に流れ込みやすくなるため、就寝時や起床時に咳き込むことが多くなります。また、日中でも会話中や食後に咳が出やすくなることがあります。

後鼻漏が疑われるサイン

症状・状況解説
喉のイガイガ・ネバネバ感常に喉に何かが絡んでいるような感覚がある
頻繁な咳払い喉の不快感を取ろうとして無意識に行う
就寝時・起床時の咳横になることで鼻水が喉に流れやすくなるため

鼻症状が軽くても咳は出る

意外に思われるかもしれませんが、くしゃみや鼻水といった自覚的な鼻症状がそれほど強くなくても後鼻漏が起きていることがあります。

「鼻はそれほど悪くないのに咳だけが続く」という場合、後鼻漏が隠れた原因である可能性を考える必要があります。

咳が長引くなら「咳喘息」の可能性も

アレルギー性鼻炎に伴う咳が後鼻漏だけを原因とせず、気道の炎症が主体となっている場合、「咳喘息」を発症している可能性があります。

咳喘息とはどんな病気か

咳喘息は気管支喘息のような「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という喘鳴や呼吸困難はなく、乾いた咳だけが長期間(8週間以上)続く病気です。

気道が過敏になっており、冷たい空気や会話、タバコの煙など、ささいな刺激で激しい咳発作が起こります。

アレルギー性鼻炎との深い関係

アレルギー性鼻炎の患者さんは、咳喘息を合併するリスクが非常に高いことが知られています。

鼻で起きているアレルギー性の炎症が気管支にまで広がり、気道全体を過敏な状態にしてしまうためです。鼻炎の治療だけでは、この気管支の炎症は治まりません。

後鼻漏の咳と咳喘息の咳の違い

項目後鼻漏による咳咳喘息
咳の性質痰が絡むような湿った咳が多い痰の絡まない乾いた咳が多い
主な症状喉の違和感、咳払い発作的で激しい咳、夜間の悪化
治療薬の効果鼻炎の薬で改善することがある気管支拡張薬が効果的

放置すると本格的な喘息へ移行するリスク

咳喘息は気管支喘息の前段階ともいえる状態です。適切な治療を行わずに放置すると、患者さんのおよそ3割が喘鳴や呼吸困難を伴う本格的な気管支喘息に移行するとされています。

咳が長引く場合は単なる咳と軽視せず、早期に診断・治療を開始することが重要です。

なぜ鼻の治療だけでは咳が治まらないのか

アレルギー性鼻炎に伴う咳に対して耳鼻咽喉科で処方された薬や市販の鼻炎薬を飲んでも改善しない場合、そのアプローチだけでは不十分であるサインです。

気道全体の炎症を抑える必要がある

咳の原因が後鼻漏だけでなく、気管支の炎症(咳喘息)にまで及んでいる場合、鼻の治療だけでは気管支の炎症は治まりません。

この状態では鼻炎の薬で鼻水を減らしても気管支の過敏性は残ったままなので咳が続きます。そのため鼻と気管支、両方の炎症を同時に抑える治療が必要です。

咳を我慢することの悪影響

咳は非常に体力を消耗します。長引く咳は睡眠不足や集中力の低下を招き、日常生活の質を大きく損ないます。

また、激しい咳を繰り返すことで胸や喉を痛めたり、肋骨にひびが入ったりすることさえあります。

呼吸器内科での専門的なアプローチ

呼吸器内科では鼻から気管支までを一つの連続した気道として捉え、咳の原因を総合的に診断します。

後鼻漏が原因なのか、咳喘息を合併しているのか、あるいは他の病気が隠れていないかを専門的な検査で見極め、根本原因にアプローチする治療を行います。

咳の原因を特定する専門的な検査

呼吸器内科では問診で詳しくお話を伺った上で、咳の原因を客観的に評価するための検査を行います。

原因アレルゲンの特定検査

まず、何に対するアレルギーが原因なのかを特定するために、血液検査(特異的IgE抗体検査)を行います。

ダニ、ハウスダスト、各種花粉、ペット、カビなど、原因アレルゲンを突き止めることで具体的な対策を立てるのに役立ちます。

気道の炎症を評価する呼気NO検査

咳喘息や気管支喘息ではアレルギーによって気道に好酸球という細胞が集まり、炎症が起きています。

呼気NO(一酸化窒素)検査は吐いた息に含まれるNO濃度を測定することで、このアレルギー性の気道炎症の程度を数値で評価できる非常に有用な検査です。

呼吸器内科で行う主な検査とその目的

検査名検査方法わかること
血液検査採血アレルギーの原因物質(アレルゲン)
呼気NO検査装置に息を吹き込む気道のアレルギー性炎症の程度
呼吸機能検査息を吸ったり吐いたりする気道が狭くなっていないか

気管支の状態を調べる呼吸機能検査

スパイロメトリーとも呼ばれる検査で、息を吸ったり吐いたりして肺の機能を調べます。

気管支が狭くなっているかどうかを評価でき、咳喘息や気管支喘息の診断に役立ちます。

鼻炎による咳への根本的な治療法

アレルギー性鼻炎に伴う咳の治療は原因に応じて鼻と気管支の両方にアプローチします。

後鼻漏と鼻炎に対する治療

後鼻漏が咳の主な原因である場合は、まず鼻の治療を強化します。アレルギー反応を抑える抗ヒスタミン薬の飲み薬や、鼻の炎症を強力に抑える鼻噴霧用ステロイド薬を使用します。

これらの治療で鼻水や鼻づまりが改善し、後鼻漏が減ることで咳も軽快します。

咳喘息を合併している場合の治療

咳喘息を合併している場合は、鼻の治療に加えて気管支の炎症を抑える治療が必要です。

治療の中心となるのは吸入ステロイド薬です。この薬を毎日吸入することで気道の炎症と過敏性を根本から改善し、咳発作を予防します。

症状を速やかに改善するために、気管支拡張薬を併用することもあります。

  • 抗ヒスタミン薬
  • 鼻噴霧用ステロイド薬
  • 吸入ステロイド薬
  • 気管支拡張薬

体質改善を目指すアレルゲン免疫療法

薬で症状を抑えるだけでなく、アレルギー体質そのものを改善する治療法として、アレルゲン免疫療法があります。

原因アレルゲンを少量ずつ投与して体を慣らすことで長期的にアレルギー症状を和らげたり、治したりすることが期待できます。

スギ花粉やダニが原因の場合、舌の下に薬を含む舌下免疫療法が可能です。

治療法ごとのアプローチ対象

治療法主なアプローチ対象
鼻炎治療薬鼻の炎症、後鼻漏
吸入ステロイド薬気管支の炎症(咳喘息)
アレルゲン免疫療法アレルギー体質そのもの

日常生活でできるセルフケア

治療と並行して、ご自身でできる対策を行うことも症状のコントロールに役立ちます。

アレルゲン対策と環境整備

原因となるアレルゲンを生活環境からできるだけ取り除くことが基本です。こまめな掃除や換気、空気清浄機の使用、寝具の防ダニ対策などが有効です。

花粉の季節にはマスクや眼鏡を着用し、帰宅時に衣服や髪についた花粉を払い落としましょう。

鼻うがいと加湿

鼻うがいは鼻の中のアレルゲンや鼻水を洗い流すのに役立ちます。

また、空気が乾燥すると気道粘膜の防御機能が低下するため、特に乾燥しやすい季節は加湿器などを使って室内の湿度を適切に保つことが大切です。

咳を悪化させないための生活習慣

項目具体的な工夫
睡眠枕を少し高くして後鼻漏の影響を軽減する
食事香辛料などの刺激物は避ける
体調管理過労やストレスを避け、風邪をひかないようにする

アレルギー性鼻炎と咳に関するよくある質問

最後に、アレルギー性鼻炎に伴う咳について患者さんからよくいただく質問にお答えします。

Q
呼吸器内科と耳鼻咽喉科、どちらを受診すればよいですか?
A

くしゃみ・鼻水・鼻づまりといった鼻の症状が主体であれば耳鼻咽喉科、咳が主体であったり、息苦しさを感じたりする場合は呼吸器内科が専門です。

アレルギー性鼻炎と咳の両方に悩んでいる場合は、両方の科が連携して治療にあたることもあります。

どちらを受診すべきか迷う場合は、まず咳の症状を重視して呼吸器内科にご相談ください。

Q
市販薬を飲んでも咳が治まりません。なぜですか?
A

市販の鼻炎薬はくしゃみや鼻水を一時的に抑える効果はありますが、後鼻漏を完全に止めたり、気管支の炎症を治したりする効果は限定的です。

咳の原因が気管支の炎症(咳喘息)にある場合、市販薬では効果がありません。

症状が改善しない場合は自己判断で薬を続けるのではなく、専門医の診断を受けることが重要です。

Q
この咳はうつりますか?
A

アレルギー性鼻炎や咳喘息による咳はウイルスや細菌が原因ではないため、他人にうつることはありません。

ただし、咳エチケットとして、咳やくしゃみをする際はマスクを着用したり、ティッシュや腕の内側で口・鼻を覆ったりする配慮は大切です。

Q
治療すれば咳は完全に治りますか?
A

適切な治療によって咳の症状をコントロールし、日常生活に支障がない状態にすることは十分に可能です。

後鼻漏が原因であれば鼻の治療で、咳喘息が原因であれば吸入治療で、多くの場合咳は改善します。

ただし、アレルギー体質自体がなくなるわけではないため、症状が良くなっても自己判断で治療を中断せず、医師と相談しながら継続することが再発防止につながります。

以上

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