「こんこん」と小刻みに続く、乾いた咳。熱や痰はないけれど、一度出始めると止まりにくく、仕事中や静かな場所で気まずい思いをしていませんか。

軽い症状だからと放置しがちですが、その咳は体が発する重要なサインかもしれません。

この記事では、なぜ「こんこん」という咳が続くのか、その背景にある日常生活の原因から、注意すべき病気の可能性、そしてご自身でできるセルフケアの方法までを詳しく解説します。

「こんこん」と続く咳の正体と特徴

咳は、気道内に入った異物や過剰な分泌物を体外に排出しようとする、人間の体に備わった大切な防御反応です。しかし、その出方や性質によって、体の状態を推測できます。

特に「こんこん」という表現が当てはまる咳には、いくつかの共通した特徴があります。

乾いた咳と湿った咳

咳は大きく分けて、痰が絡まない「乾いた咳(乾性咳嗽)」と、痰が絡む「湿った咳(湿性咳嗽)」の2種類に分類します。こんこんと続く咳の多くは、このうちの乾性咳嗽に該当します。

喉のイガイガ感やむずがゆさを伴うことが多く、気道に炎症や過敏な状態があることを示唆します。

乾いた咳と湿った咳の主な原因比較

咳の種類主な特徴考えられる原因の例
乾いた咳(乾性咳嗽)痰が絡まない、コンコン・コホコホという音咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症、初期の風邪
湿った咳(湿性咳嗽)痰が絡む、ゴホゴホ・ゼロゼロという音気管支炎、肺炎、風邪の回復期、副鼻腔気管支症候群

「こんこん」という咳が示す状態

このタイプの咳は、気管や気管支の粘膜が何らかの刺激に対して過敏になっている状態を示します。例えば、冷たい空気、タバコの煙、会話などのささいなきっかけで咳のスイッチが入ってしまうのが特徴です。

強い咳発作というよりは、一度出るとしばらく続く、しつこさが問題となります。

咳が続く期間による分類

咳は、症状が持続する期間によっても分類し、原因を特定する上で重要な手がかりとします。

3週間未満で治まるものを「急性咳嗽」、3週間以上8週間未満続くものを「遷延性咳嗽」、そして8週間以上続くものを「慢性咳嗽」と呼びます。

「こんこん」という咳が長引く場合は、遷延性咳嗽や慢性咳嗽に該当し、単なる風邪ではない可能性を考える必要があります。

咳の期間による分類と主な原因

分類期間主な原因
急性咳嗽3週間未満ウイルス・細菌感染(風邪、インフルエンザなど)
遷延性咳嗽3週間~8週間感染後咳嗽(風邪の後の咳)、咳喘息、副鼻腔炎
慢性咳嗽8週間以上咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症、COPD

なぜ咳は小刻みに出るのか

気道の粘膜が過敏になっていると、わずかな刺激でも咳反射が誘発されます。しかし、肺の奥から痰を出すような強い咳ではないため、一度の咳で刺激が解消されません。

そのため、刺激が続く限り、体を守るための反射として小刻みな咳が何度も繰り返されるのです。

日常生活に潜む咳の原因

病気が背景になくても、日々の生活習慣や環境が「こんこん」という咳を引き起こす原因になることがあります。長引く咳に悩む場合、まずはご自身の生活を見直すことが大切です。

風邪やインフルエンザの後遺症(感染後咳嗽)

風邪やインフルエンザのウイルス感染によって気道の粘膜がダメージを受けると、熱や喉の痛みといった主な症状が治まった後も、気道の過敏な状態だけが残ることがあります。

これが「感染後咳嗽」です。他の症状がないのに咳だけが数週間続く場合に、この可能性を考えます。

アレルギー反応

特定の物質(アレルゲン)に対するアレルギー反応として、咳が出ることがあります。気道にアレルゲンが付着することで炎症が起き、咳を引き起こします。

アレルギー性鼻炎を持つ人に多く見られ、鼻水が喉に流れる「後鼻漏(こうびろう)」が咳の原因となることも少なくありません。

主なアレルゲンの例

  • ハウスダスト
  • ダニの死骸やフン
  • スギやヒノキなどの花粉
  • ペットの毛やフケ
  • カビ(真菌)

空気の乾燥や寒暖差

特に冬場やエアコンの効いた室内では、空気が乾燥しがちです。乾燥した空気は気道の粘膜から潤いを奪い、防御機能を低下させて刺激に弱くします。

また、暖かい場所から寒い場所へ移動した際の急激な温度変化も、気道を刺激して咳を誘発する一因となります。

ストレスや心因性の要因

意外に思われるかもしれませんが、精神的なストレスが咳の原因となることもあります。「心因性咳嗽(しんいんせいがいそう)」と呼ばれ、緊張する場面やストレスを感じた時に咳が出やすくなるのが特徴です。

他の身体的な原因が見当たらない場合に疑われ、何かに集中している時や就寝中には咳が出ない傾向があります。

注意したい咳を伴う病気

「こんこん」と続く咳は、特定の病気のサインである可能性も否定できません。市販薬で改善しない、あるいは咳が徐々に悪化する場合は、医療機関で正確な診断を受けることが重要です。

咳喘息(せきぜんそく)

気管支喘息の前段階ともいわれる病気で、喘息特有の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難はなく、乾いた咳だけが長期間続くのが特徴です。

特に夜間から早朝にかけて、また、会話や運動、冷たい空気を吸った時などに咳が悪化しやすい傾向があります。

アトピー咳嗽(がいそう)

アトピー素因(アレルギーを起こしやすい体質)を持つ人に見られる咳です。咳喘息と症状が似ていますが、気管支拡張薬が効かない点で区別します。

喉のイガイガ感やかゆみを伴うことが多く、アレルギーを抑える薬やステロイド吸入薬で治療します。

咳喘息とアトピー咳嗽の特徴比較

項目咳喘息アトピー咳嗽
主な症状長引く乾いた咳のみ長引く乾いた咳、喉のイガイガ感
悪化する時間帯夜間、早朝就寝時、起床時、会話時
効果のある薬気管支拡張薬、吸入ステロイド薬ヒスタミンH1拮抗薬、吸入ステロイド薬

胃食道逆流症(GERD)

胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで、食道の粘膜に炎症が起きる病気です。

胸やけや呑酸(どんさん:酸っぱいものが上がってくる感じ)が主な症状ですが、逆流した胃酸が喉や気管を刺激して、慢性的な咳を引き起こすことがあります。特に食後や横になった時に咳が出やすいのが特徴です。

咳を誘発しやすい生活習慣(胃食道逆流症)

分類具体的な行動理由
食事食べ過ぎ、高脂肪食、食後すぐに横になる胃酸の分泌を増やし、逆流しやすくする
嗜好品アルコール、炭酸飲料、コーヒー胃酸分泌の促進や食道下部括約筋を緩める
姿勢前かがみの姿勢、腹部を締め付ける服装腹圧を上昇させ、胃の内容物を押し上げる

副鼻腔気管支症候群

慢性的な副鼻腔炎(蓄膿症)と気管支炎を合併した状態です。副鼻腔で生じた粘り気のある鼻水が喉に落ちる「後鼻漏」によって気道が刺激され、湿った咳が続きます。

咳払いを頻繁にしたくなるのが特徴で、適切な抗菌薬の服用で改善を目指します。

さらに警戒が必要な病気の可能性

頻度は低いものの、「こんこん」という咳が重篤な病気の初期症状である可能性も知っておく必要があります。咳以外の症状にも注意を払い、気になる点があればためらわずに医療機関を受診してください。

気管支炎・肺炎

通常は発熱や黄色い痰を伴う湿った咳が特徴ですが、非定型肺炎(マイコプラズマ肺炎など)では、乾いたしつこい咳が続くことがあります。

全身の倦怠感や頭痛を伴うこともあり、聴診や胸部X線検査で診断します。

肺結核

結核菌の感染によって起こる病気です。過去の病気というイメージがあるかもしれませんが、現在でも新たな患者が発生しています。

初期症状は風邪と似ており、2週間以上続く咳や微熱、寝汗、体重減少などが見られる場合は注意が必要です。

肺がん

肺がんの最も多い初期症状は、長引く咳や痰です。

特に喫煙者や家族に肺がんの既往歴がある方で、咳の性質が変わった、血痰が出る、胸の痛みがあるといった症状が見られる場合は、専門医による精密検査が大切です。

警戒すべき咳以外の症状

症状考えられる病気補足
発熱、黄色い痰気管支炎、肺炎咳とともにこれらの症状があれば感染症を疑う
血痰、胸痛、体重減少肺がん、肺結核危険なサイン。速やかな受診が必要
息切れ、呼吸困難COPD、間質性肺炎、心不全体を動かした時に息苦しさを感じる場合は注意

間質性肺炎

肺の中で酸素交換を担う「肺胞」の壁(間質)に炎症や線維化が起こる病気の総称です。乾いた咳(乾性咳嗽)と、体を動かした時の息切れ(労作時呼吸困難)が主な症状です。

原因は様々で、専門的な診断と治療が重要になります。

自宅でできるセルフケアと対策

医療機関での診断と並行して、咳を和らげるためにご自身でできる対策も多くあります。気道への刺激を減らし、体の防御機能を高める工夫を取り入れましょう。

室内の湿度を保つ工夫

気道の粘膜を乾燥から守ることは、咳の予防と緩和に非常に効果的です。特に空気が乾燥する季節や、冷暖房を使用する環境では意識的な加湿を心がけます。

室内の適切な湿度を保つ方法

方法ポイント注意点
加湿器の使用湿度は50~60%を目安に設定するカビの発生を防ぐため、こまめな清掃が必要
洗濯物の室内干し手軽に湿度を上げることができる生乾きの臭いに注意し、換気も行う
濡れタオルを干す就寝時に枕元に干すと喉の乾燥を防ぐ毎日清潔なタオルを使用する

こまめな水分補給の重要性

体内の水分が不足すると、喉の粘膜も乾燥しやすくなります。また、痰が絡む咳の場合でも、水分を十分に摂ることで痰が柔らかくなり、排出しやすくなります。

一度にたくさん飲むのではなく、こまめに少しずつ飲むのが効果的です。

水分補給に適した飲み物

  • 常温の水または白湯
  • カフェインの入っていない麦茶
  • ハーブティー(カモミールなど)

刺激物を避けた食生活

香辛料を多く使った辛い食べ物や、極端に熱い・冷たい食べ物は、喉や食道の粘膜を直接刺激し、咳を誘発することがあります。咳が続く期間は、消化が良く、喉に優しい食事を心がけると良いでしょう。

刺激となりうる食品の例

  • 唐辛子、コショウなどの香辛料
  • アルコール飲料
  • 炭酸飲料
  • かんきつ類や酢の物などの酸味が強いもの

マスクの着用と効果的な使い方

マスクの着用は、咳やくしゃみによる飛沫の飛散を防ぐだけでなく、ご自身の喉を守る上でも有効です。吸い込む空気に湿度と温度を与え、気道への直接的な刺激を和らげます。

また、花粉やホコリといったアレルゲンの吸入を防ぐ効果も期待できます。

医療機関を受診するタイミングと準備

セルフケアを試しても咳が改善しない場合や、特定の症状が見られる場合は、自己判断で様子を見ずに医療機関を受診することが大切です。適切な診断が、効果的な治療への第一歩となります。

こんな症状があれば早めに受診を

咳の期間や強さに加え、他の症状の有無が受診の重要な判断材料となります。以下のような症状が一つでも見られる場合は、早めに医師に相談してください。

受診を推奨する症状

症状の分類具体的な症状
期間と程度3週間以上咳が続く、咳で眠れない、日常会話に支障がある
伴う症状発熱、呼吸困難、息切れ、胸の痛み、血痰、体重減少
その他市販薬を1週間使っても改善しない、咳がどんどん悪化する

何科を受診すればよいか

まずはかかりつけの内科や、呼吸器内科を受診するのが一般的です。

アレルギーが疑われる場合はアレルギー科、鼻の症状が強い場合は耳鼻咽喉科、胸やけなど消化器症状を伴う場合は消化器内科が選択肢になることもあります。

どこを受診すべきか迷う場合は、まず総合的に診察してくれる内科に相談すると良いでしょう。

医師に伝えるべき情報

限られた診察時間内で的確な診断を受けるためには、ご自身の症状を正確に伝える準備が重要です。事前に情報を整理しておくと、診察がスムーズに進みます。

医師に伝えるべき情報リスト

項目伝える内容の例
いつから「約1ヶ月前から」「風邪をひいた後から」など
どんな咳か「痰の絡まない乾いた咳」「こんこん、という感じ」など
どんな時に出るか「夜中と朝方」「話すと出る」「寒い所に行くと出る」など
他の症状「熱はない」「鼻水が出る」「胸やけがする」など
これまでの経過「だんだん酷くなっている」「市販の薬を飲んだが効かない」など

受診時に行われる可能性のある検査

問診や聴診の結果、医師が必要と判断した場合には、原因を特定するためにいくつかの検査を行います。胸部X線検査(レントゲン)は、肺炎や肺がん、結核などの有無を確認するために広く行われます。

その他、呼吸機能検査(スパイロメトリー)や血液検査(アレルギー項目など)、喀痰検査などがあります。

こんこんと続く咳に関するよくある質問

最後に、長引く咳に関して多くの方が抱く疑問についてお答えします。

Q
子どもの咳も同じように考えますか
A

基本的な考え方は大人と同じですが、子どもは大人よりも気道が狭く、体力も未熟なため、症状が急変しやすい傾向があります。

咳き込んで顔色が悪くなる、呼吸が苦しそう、水分が摂れないといった場合は、早めに小児科を受診してください。

また、クループ症候群(ケンケンという特徴的な咳)や百日咳など、子どもに特有の病気も考慮する必要があります。

Q
市販の咳止め薬を飲んでも大丈夫ですか
A

一時的に咳を和らげる目的で市販薬を使用すること自体は問題ありません。しかし、咳は体の防御反応でもあるため、無理に止めない方が良い場合もあります。

特に痰が絡む咳を強力に止めると、痰が気道に溜まり、かえって症状を悪化させる可能性があります。

市販薬はあくまで対症療法であり、1週間程度使用しても改善が見られない場合は、根本的な原因を探るために受診を検討してください。

Q
咳で眠れない時の対処法はありますか
A

就寝時の咳はつらいものです。まずは部屋の加湿を徹底し、枕元に水を置いていつでも飲めるようにしておきましょう。

上半身を少し高くして眠ると、気道への刺激や胃酸の逆流が軽減され、楽になることがあります。クッションや重ねた布団で背中を支え、緩やかな傾斜を作るのがポイントです。

ハチミツ(※1歳未満の乳児には与えないでください)をスプーン一杯なめるのも、喉の炎症を和らげるといわれています。

Q
タバコは咳にどう影響しますか
A

タバコの煙は、気道の粘膜にダメージを与え、咳を悪化させる最大の要因の一つです。ご自身が吸う「能動喫煙」はもちろん、他人の煙を吸う「受動喫煙」も同様に有害です。

長引く咳に悩んでいる場合、禁煙は治療の第一歩であり、最も効果的なセルフケアです。加熱式タバコも、有害物質が含まれており、咳の原因となりえます。

以上

参考にした論文

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