在宅酸素療法(HOT)を受けている方や肺気腫などで酸素ボンベを使用している方にとって、日常生活における様々な制約は大きな課題です。

この記事では呼吸機能障害による身体障害者手帳の取得条件、申請方法、そして手帳を持つことで受けられる医療費助成や税金の控除などの支援内容について詳しく解説します。

適切な情報を得て利用できる制度を活用し、より安心した生活を送るための一助となれば幸いです。

在宅酸素療法と身体障害者手帳

在宅酸素療法を必要とする呼吸器疾患の患者さんの中には身体障害者手帳の交付対象となる方がいます。

手帳を取得することで様々な福祉サービスや経済的支援を受けることが可能になります。

なぜ身体障害者手帳の取得を検討するのか

呼吸機能の低下は日常生活に大きな影響を及ぼします。息切れによる活動の制限、医療費の負担、就労の困難など様々な問題が生じることがあります。

身体障害者手帳はこれらの困難を軽減し、社会参加を支援するための制度です。

呼吸機能障害とは

呼吸機能障害とは肺や気道などの呼吸器系の病気により、酸素の取り込みや二酸化炭素の排出がうまくいかなくなる状態を指します。肺気腫、慢性気管支炎、間質性肺炎、肺がんなどが原因となり得ます。

この状態が一定の基準以上に達すると身体障害者手帳の交付対象となります。

呼吸機能障害の主な原因疾患

疾患群代表的な疾患名主な症状
慢性閉塞性肺疾患(COPD)肺気腫、慢性気管支炎慢性の咳・痰、労作時呼吸困難
間質性肺疾患特発性肺線維症など乾性咳嗽、労作時呼吸困難
その他重症喘息、肺結核後遺症、肺がん疾患に応じた呼吸器症状

身体障害者手帳を持つことの意義

身体障害者手帳を持つことは単に支援を受けるためだけでなく自身の状態を社会的に認められ、必要な配慮を得やすくするという側面もあります。

医療費の助成や税金の控除、公共料金の割引など経済的な負担軽減に繋がる支援は治療の継続や生活の安定に大きく貢献します。

在宅酸素療法と手帳取得の関連性

在宅酸素療法を受けていること自体が直ちに障害者手帳の交付に結びつくわけではありません。重要なのは呼吸機能の障害の程度です。

医師が診察や検査結果に基づいて手帳の申請に必要な診断書を作成します。

特に、COPDなどでHOT導入に至った方は対象となる可能性があります。

障害者手帳(呼吸機能障害)の等級と基準

呼吸機能障害による身体障害者手帳には障害の程度に応じて等級が定められています。等級によって受けられる支援の内容や範囲が異なる場合があります。

障害等級の概要(1級・3級・4級)

呼吸機能障害の等級は主に1級、3級、4級に区分されます(2級は内部障害全般の最重度等級で、呼吸機能障害単独では通常該当しにくいです)。

数値が小さいほど障害の程度が重いことを示します。認定は医師の診断書に基づいて行われます。

各等級の具体的な認定基準

等級の認定は動脈血酸素分圧(PaO2)や予測肺活量1秒率(FEV1.0%)などの検査数値に基づいて行われます。

安静時の検査結果だけでなく、運動負荷試験の結果が考慮されることもあります。

呼吸機能障害の等級認定基準(概要)

等級動脈血酸素分圧の目安 (PaO2)その他の指標例
1級50mmHg以下など著しい呼吸困難、常時介助が必要
3級50mmHgを超え60mmHg以下など中等度の呼吸困難、日常生活に支障
4級60mmHgを超え70mmHg以下など軽度の呼吸困難、社会生活に一定の制約

※上記はあくまで目安であり、詳細な基準は自治体や医師にご確認ください。

等級判定に必要な検査項目

等級判定には主に以下の検査が行われます。

  • 動脈血ガス分析(PaO2、PaCO2など)
  • スパイロメトリー(肺活量、1秒量、1秒率など)
  • 運動負荷試験(6分間歩行試験など、必要に応じて)

これらの検査結果を総合的に評価し、医師が診断書を作成します。

等級による支援内容の違い

障害等級によって受けられる医療費助成の範囲、税金の控除額、公共交通機関の割引率などが異なる場合があります。一般的に等級が重いほど、より手厚い支援が受けられます。

具体的な内容は、お住まいの市区町村の福祉担当窓口で確認することが大切です。

身体障害者手帳の申請手続き

身体障害者手帳の申請はお住まいの市区町村の福祉担当窓口で行います。手続きにはいくつかの書類が必要となり、医師の診断書が特に重要です。

申請に必要な主な書類

申請には一般的に以下の書類が必要です。自治体によって異なる場合があるため、事前に確認しましょう。

  • 身体障害者手帳交付申請書
  • 指定医師が作成した診断書・意見書
  • 本人の写真(縦4cm×横3cm程度)
  • マイナンバーカードまたは通知カード、本人確認書類

診断書(身体障害者診断書・意見書)の入手方法

診断書は都道府県知事が指定した「指定医」に作成してもらう必要があります。かかりつけの医師が指定医であるか確認し、指定医でない場合は紹介してもらうなどの対応が必要です。

診断書の作成には費用がかかる場合があります。

診断書作成の注意点

項目注意点
医師の選定都道府県指定の「指定医」であること
検査時期症状が安定している時期に検査を受ける
記載内容日常生活の支障度なども具体的に伝える

申請窓口と提出方法

申請書類一式は、お住まいの市区町村の役所(福祉課、障害福祉担当課など)の窓口に提出します。郵送での申請を受け付けている自治体もあります。

提出前に書類に不備がないかよく確認しましょう。

申請から手帳交付までの期間

申請書類を提出してから手帳が交付されるまでの期間は自治体や申請時期によって異なりますが、一般的には1ヶ月から2ヶ月程度かかることが多いです。

審査状況によってはさらに時間がかかる場合もあります。

障害者手帳で受けられる主な支援やサービス

身体障害者手帳を取得すると医療費の助成、税金の控除・減免、公共料金の割引など様々な支援やサービスを利用できるようになります。

医療費助成制度(自立支援医療など)

障害の程度や所得に応じて医療費の自己負担分が助成される制度があります。例えば自立支援医療(更生医療)の対象となれば、呼吸器疾患の治療にかかる医療費の自己負担が軽減されます。

お住まいの自治体によって制度内容が異なるため確認が必要です。

税金の控除・減免

所得税や住民税において、障害者控除や特別障害者控除が適用され、税負担が軽減されます。

また、自動車税や軽自動車税、自動車取得税の減免を受けられる場合もあります。

これらの手続きは税務署や市区町村の税務担当課で行います。

主な税制優遇措置

税金の種類優遇措置の例主な窓口
所得税・住民税障害者控除、特別障害者控除税務署、市区町村役場
自動車税・軽自動車税減免(条件あり)都道府県税事務所、市区町村役場
相続税障害者控除税務署

公共料金などの割引サービス

JRなどの公共交通機関の運賃割引、携帯電話料金の割引、NHK放送受信料の減免、上下水道料金の割引など様々な公共料金やサービスの割引が受けられる場合があります。

利用条件や割引率は事業者や自治体によって異なります。

その他の福祉サービス

上記以外にも補装具(車椅子など)の購入費用の助成、日常生活用具の給付、公営住宅への優先入居、駐車禁止等除外標章の交付など様々な福祉サービスがあります。

どのようなサービスが利用できるか積極的に情報を集め、活用しましょう。

障害者手帳取得後の注意点と更新

身体障害者手帳を取得した後もいくつかの注意点があり、また、障害の状態によっては更新手続きが必要になる場合があります。

手帳の適切な管理と携帯

身体障害者手帳は各種サービスを受ける際に提示を求められることがあるため大切に保管し、外出時には携帯するようにしましょう。

紛失や破損した場合は速やかに再交付の手続きを行います。

住所や氏名変更時の届出

引越しで住所が変わった場合や結婚などで氏名が変わった場合は手帳を発行した市区町村の窓口に届け出る必要があります。

この届出を怠ると必要な情報が届かなかったり、サービスが受けられなくなったりする可能性があります。

障害程度の変化と再認定

病状の変化により障害の程度が変わった場合は再認定の申請を行うことができます。

障害が悪化した場合は等級が変更される可能性があり、逆に軽快した場合は等級が変更されたり非該当となったりすることもあります。

医師とよく相談の上で手続きを進めましょう。

再認定申請を検討するケース

ケース対応
症状が悪化し、日常生活の支障が増えた医師に相談し、等級変更の可能性があるか確認
治療により症状が大幅に改善した医師に相談し、現状の等級が適切か確認

手帳の更新手続き(有期認定の場合)

障害の種類や状態によっては手帳に有効期限が設けられ、更新手続きが必要となる「有期認定」の場合があります。

その場合は有効期限が切れる前に再度診断書を取得し、更新申請を行う必要があります。手帳の有効期限を確認して忘れずに手続きを行いましょう。

日常生活における工夫と心構え

在宅酸素療法を行いながら、また障害者手帳を利用しながら日常生活を送る上で、いくつかの工夫や心構えが大切になります。

酸素ボンベ使用と手帳の活用

障害者手帳を携帯すると、外出先で必要な配慮を受けやすくなります。

公共交通機関で優先席を利用しやすくなったり、施設の利用時に休憩場所の案内を受けやすくなったりするため、遠慮せずに手帳を提示し、必要なサポートを求めることも大切です。

周囲への理解と協力を求める

家族や職場、友人など周囲の人々に自身の病状や必要な配慮について理解してもらうことは、安心して生活を送る上で重要です。

無理のない範囲で状況を伝え、協力を得られるように努めましょう。

利用できる社会資源の積極的な活用

障害者手帳を持つことで利用できるサービスは多岐にわたります。

市区町村の福祉窓口、保健所、患者会、ソーシャルワーカーなどに相談し、利用できる社会資源について積極的に情報を収集して活用しましょう。

相談できる主な窓口

  • 市区町村の福祉担当課
  • 保健所・保健センター
  • かかりつけの医療機関(医師、看護師、ソーシャルワーカー)
  • 患者会・支援団体

前向きな気持ちで治療と向き合う

病気や障害と向き合うことは容易ではありませんが、利用できる制度やサービスを活用し、周囲のサポートを得ながら前向きな気持ちで治療や日常生活に取り組むことが大切です。

趣味や楽しみを見つけることも心の安定に繋がります。

よくある質問 (FAQ)

身体障害者手帳の申請や利用に関して多くの方が疑問に思う点をまとめました。

Q
障害者手帳を申請すれば必ず取得できますか?
A

必ず取得できるとは限りません。身体障害者手帳の交付は医師の診断書に基づいて定められた認定基準に該当するかどうかを審査機関が判断します。

まずは主治医とよく相談し、ご自身の状態が基準に該当するかどうかを確認することが大切です。

Q
申請や手帳の交付に費用はかかりますか?
A

身体障害者手帳の申請手続き自体や手帳の交付には費用はかかりません。

ただし、申請に必要な診断書の作成には、医療機関ごとに定められた文書作成料が必要になります。

申請関連の費用について
項目費用
申請書・手帳交付無料
診断書作成料医療機関により異なる(自己負担)
写真代実費(自己負担)
Q
手帳を持っていることを他人に知られたくないのですが
A

身体障害者手帳の情報を本人の同意なく第三者に開示することはありません。

手帳の提示はサービスを受ける際に必要となる場合が主であり、提示するかどうかはご本人の判断によります。

ただし、必要な支援を受けるためには適切な場面で提示することが求められます。

Q
障害等級の認定結果に納得がいかない場合はどうすればよいですか?
A

認定結果に不服がある場合は不服申し立て(審査請求)を行うことができます。

審査請求の期限や手続きについては手帳の交付決定通知書などに記載されていますので、よく確認してください。

まずは申請した市区町村の窓口や主治医に相談することをおすすめします。

身体障害者手帳は在宅酸素療法を必要とする患者さんの生活を支えるための一つの大切な制度です。正しい情報を理解して適切に活用することで、より安心して療養生活を送ることができます。

ご不明な点は遠慮なく医師や専門機関にご相談ください。

以上

参考にした論文

DOI, Yoko. Psychosocial impact of the progress of chronic respiratory disease and long-term domiciliary oxygen therapy. Disability and rehabilitation, 2003, 25.17: 992-999.

KIDA, Kozui, et al. Long-term oxygen therapy in Japan: history, present status, and current problems. Advances in Respiratory Medicine, 2013, 81.5: 468-478.

OHBE, Hiroyuki, et al. One-year functional outcomes after invasive mechanical ventilation for older adults with preexisting long-term care-needs. Critical care medicine, 2023, 51.5: 584-593.

HAMADA, Satoshi, et al. A summary of the Japanese White Paper on Home Respiratory Care 2024. Respiratory Investigation, 2025, 63.4: 585-591.

ISHIGAKI, Yasunori. Home respiratory management: from COPD to neurological diseases. Japan Medical Association Journal: JMAJ, 2015, 58.1-2: 36.

YOKOBAYASHI, Kenichi, et al. Prospective cohort study of fever incidence and risk in elderly persons living at home. BMJ open, 2014, 4.7: e004998.

KAMEI, Tomoko. Information and communication technology for home care in the future. Japan Journal of Nursing Science, 2013, 10.2: 154-161.

SHIMIZU, Utako, et al. Dialysis patients’ utilization of health care services covered by long-term care insurance in Japan. The Tohoku Journal of Experimental Medicine, 2015, 236.1: 9-19.

ISHIKAWA, Yuka; TATARA, Katsunori; ISHIHARA, Hideki. Long-Term Ventilation: The Japanese Perspective. In: Ventilatory Support for Chronic Respiratory Failure. CRC Press, 2008. p. 587-594.