最近、のどが異常に渇く、尿の回数や量が増えた、体がだるいといった症状を感じていませんか。

これらのサインは、血液中のカルシウム濃度が正常範囲を超えている「高カルシウム血症」が原因かもしれません。

高カルシウム血症は、それ自体が様々な不調を引き起こすだけでなく、背景に何らかの病気が隠れている可能性を示唆しています。

しかし、原因を正しく突き止め、適切な治療を行うことで、症状を和らげ、健やかな毎日を取り戻すことは可能です。

この記事では、高カルシウム血症の治療法について、原因ごとのアプローチ、具体的な治療薬、入院の必要性、そしてご自身でできる食事や生活の注意点まで、分かりやすく解説します。

高カルシウム血症とはどのような状態か

高カルシウム血症の治療を理解するためには、まずこの状態が何を意味するのかを正確に知ることが大切です。

カルシウムは骨や歯を丈夫にするだけでなく、筋肉の収縮や神経の伝達、血液の凝固など、生命維持に重要な役割を担っています。

しかし、その量が多すぎると、体に様々な悪影響を及ぼします。

血中カルシウムの正常値

血液中のカルシウム濃度は、厳密に調整されています。健康な人の血清カルシウム濃度は、通常8.5~10.4mg/dL(デシリットルあたりミリグラム)の範囲に保たれています。

この値は、食事から摂取するカルシウム量や、骨からの出し入れ、腎臓からの排泄量などが複雑に関わり合って維持されます。このバランスが崩れることで、高カルシウム血症が起こります。

高カルシウム血症の定義

一般的に、血清カルシウム濃度が10.5mg/dL以上になった状態を「高カルシウム血症」と定義します。

ただし、血液中のカルシウムの約半分はアルブミンというタンパク質と結合しているため、アルブミン値が低いと、実際のカルシウム濃度が見かけ上低く出ることがあります。

そのため、正確な評価にはアルブミン値で補正した「補正カルシウム値」を用います。

血中カルシウム濃度の基準

状態補正カルシウム値 (mg/dL)主な特徴
正常8.5~10.4症状はほとんどない。
軽度10.5~11.9無症状か、軽い倦怠感など。
中等度12.0~13.9多飲・多尿、食欲不振などが出やすい。
重度14.0以上意識障害など緊急対応が必要な場合がある。

症状の重症度とカルシウム値の関係

高カルシウム血症の症状は、カルシウム値の高さや、数値が上昇する速さによって異なります。

軽度の場合は自覚症状がないことも多いですが、数値が高くなるにつれて、多飲・多尿、便秘、食欲不振、吐き気、筋力低下、倦怠感といった多彩な症状が現れます。

さらに重症化すると、錯乱や傾眠といった意識障害を引き起こし、「高カルシウム血症クリーゼ」と呼ばれる生命に危険が及ぶ状態になることもあります。

高カルシウム血症を引き起こす主な原因

高カルシウム血症の治療は、その原因を特定することから始まります。なぜなら、原因によって治療法が大きく異なるからです。

高カルシウム血症の約90%は、「副甲状腺機能亢進症」と「悪性腫瘍」の2つが原因であると考えられています。

副甲状腺機能亢進症

副甲状腺は、甲状腺の裏側にある米粒ほどの小さな臓器で、副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌します。

PTHは、骨からカルシウムを血液中に放出させたり、腎臓でのカルシウム再吸収を促したりして、血中カルシウム濃度を上げる働きがあります。

この副甲状腺に腫瘍(ほとんどが良性)などができてPTHが過剰に分泌される状態が、原発性副甲状腺機能亢進症です。これにより、血中カルシウム値が慢性的に高くなります。

悪性腫瘍(がん)

がん細胞が骨に転移して骨を破壊し、カルシウムが血液中に溶け出すこと(骨転移)で高カルシウム血症が起こります。

また、がん細胞自身がPTHによく似た物質(PTHrP)などを産生し、血中カルシウム値を上昇させることもあります。

肺がん、乳がん、腎がん、多発性骨髄腫などで見られることが多いです。悪性腫瘍による高カルシウム血症は、症状の進行が速い傾向があります。

原因の比較

項目副甲状腺機能亢進症悪性腫瘍
進行の速さ緩やか(年単位)急速(週~月単位)
主な症状無症状~軽度の症状が多い倦怠感や意識障害など重い症状が出やすい
PTH値高い、または正常上限低い(抑制される)

その他の原因

まれですが、以下のような原因でも高カルシウム血症は起こり得ます。治療法を決定する上で、これらの可能性も考慮することが重要です。

  • ビタミンDやビタミンAの過剰摂取
  • 特定の薬剤(サイアザイド系利尿薬、炭酸リチウムなど)
  • 長期間の寝たきり状態(不動)
  • サルコイドーシスなどの肉芽腫性疾患
  • 家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)

原因特定のための検査

原因を突き止めるために、血液検査や尿検査、画像検査などを行います。血液検査では、補正カルシウム値に加えて、PTH、リン、腎機能などを測定します。

PTHの値は、原因を鑑別する上で非常に重要な手がかりとなります。

原因特定のための主な検査

検査の種類主な目的検査内容の例
血液検査原因の鑑別、重症度の評価補正Ca、リン、PTH、腎機能、電解質
尿検査腎臓からのCa排泄量の評価24時間蓄尿によるCa測定
画像検査副甲状腺や悪性腫瘍の特定頸部エコー、CT、骨シンチグラフィ

高カルシウム血症の治療の基本的な考え方

高カルシウム血症の治療は、単にカルシウム値を下げるだけではありません。

「現在の症状を和らげる治療」と「根本的な原因を取り除く治療」の2つを、患者さんの状態に合わせて組み合わせて進めます。

治療の2つの柱

第一の柱は、高すぎるカルシウム値を下げて、脱水や意識障害といった危険な症状から体を守ることです。

これは特に、カルシウム値が非常に高い場合や、症状が強く出ている場合に優先されます。

第二の柱は、高カルシウム血症を引き起こしている大元の病気、すなわち原因疾患(副甲状腺機能亢進症や悪性腫瘍など)に対する治療です。

原因を取り除かなければ、カルシウム値は再び上昇してしまうため、これが根本的な解決策となります。

緊急性の判断基準

治療の緊急性は、血中カルシウム値の高さと症状の強さによって判断します。

一般的に、補正カルシウム値が14.0mg/dLを超えるような重度の高カルシウム血症や、意識障害、重度の脱水、腎不全などを伴う場合は、緊急の治療が必要な「高カルシウム血症クリーゼ」と判断し、速やかに入院して治療を開始します。

軽度で無症状の場合は、外来で原因を調べながら、治療方針を慎重に検討します。

原因疾患の治療の重要性

高カルシウム血症の治療において、原因疾患の治療は最も重要です。例えば、副甲状腺の良性腫瘍が原因であれば、手術で腫瘍を摘出することで根本的に治癒することが期待できます。

悪性腫瘍が原因の場合は、がんそのものに対する化学療法や放射線治療などが、カルシウム値をコントロールする上でも中心的な役割を果たします。

【緊急】重度の高カルシウム血症(高カルシウム血症クリーゼ)への対応

意識障害や急激な腎機能の悪化を伴う重度の高カルシウム血症は、命に関わる危険な状態です。

この場合、直ちに入院し、集中的な治療で血中カルシウム値を安全なレベルまで下げることを目指します。

入院による初期治療

入院後の初期治療の目標は、まず脱水状態を改善し、体内の過剰なカルシウムを尿として排泄させることです。

高カルシウム血症では、腎臓での尿の濃縮がうまくいかなくなり、大量の尿が出ることで脱水状態に陥りやすくなっています。

この脱水がさらに腎臓の働きを悪くし、カルシウムの排泄を妨げるという悪循環を生み出します。

緊急治療の目的

  • 重度の脱水状態の補正
  • 腎臓の血流を改善し、機能を保護する
  • 尿からのカルシウム排泄を促進する
  • 骨からのカルシウム放出を抑制する

生理食塩水の大量輸液

初期治療の基本は、生理食塩水の点滴(輸液)です。1日に3~6リットルもの大量の輸液を行い、脱水を補正すると同時に、尿量を増やして尿中へのカルシウム排泄を促します。

これにより、血中カルシウム濃度が希釈される効果も期待できます。輸液中は、心臓への負担や電解質バランスの乱れに注意しながら、慎重に管理します。

尿量を増やす薬(ループ利尿薬)の使用

十分な輸液で脱水が改善された後に、フロセミドなどのループ利尿薬を使用することがあります。この薬は、腎臓でのカルシウムの再吸収を抑制し、尿への排泄をさらに促進する効果があります。

ただし、脱水状態で使用すると腎臓の機能をかえって悪化させる危険があるため、使用するタイミングと量の判断が重要です。

カルシトニン製剤の投与

カルシトニンは、骨を壊す破骨細胞の働きを直接抑制し、骨からカルシウムが溶け出すのを防ぐホルモンです。また、腎臓からのカルシウム排泄を促進する作用もあります。

効果が現れるのが比較的速いため、緊急性の高い状況で、血中カルシウム値を迅速に下げる目的で使用します。ただし、数日で効果が弱まる(タキフィラキシー)という特徴があります。

原因に応じた高カルシウム血症の治療法

緊急的な対応でカルシウム値が安定した後は、根本的な原因に対する治療へと移行します。原因によって治療のアプローチは大きく異なります。

副甲状腺機能亢進症の場合

原発性副甲状腺機能亢進症が原因の場合、最も根本的な治療法は手術です。PTHを過剰に分泌している副甲状腺の腫瘍を摘出します。手術の成功率は非常に高く、多くの場合は手術によって治癒します。

ただし、カルシウム値がそれほど高くない、無症状、高齢である、他の病気で手術が難しいといった場合には、すぐに手術を行わず、定期的に経過を観察することもあります。

悪性腫瘍が原因の場合

悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症では、がん自体の治療(化学療法、放射線治療、分子標的薬など)が最も重要です。がんの勢いを抑えることが、カルシウム値をコントロールする上で根本的な解決策となります。

それに加えて、骨からのカルシウム放出を抑える薬物療法を並行して行います。

薬物療法(ビスホスホネート製剤など)

薬物療法は、特に悪性腫瘍による高カルシウム血症や、手術ができない場合の副甲状腺機能亢進症などで中心的な役割を果たします。

主な治療薬の種類と特徴

薬剤の種類主な働き代表的な薬剤
ビスホスホネート製剤破骨細胞の働きを強力に抑制する。ゾレドロン酸、パミドロン酸
抗RANKL抗体薬破骨細胞の形成・活性化を阻害する。デノスマブ
カルシトニン製剤即効性があるが、効果の持続は短い。エルカトニン

ビスホスホネート製剤は、骨に吸着して破骨細胞の働きを強力に抑えることで、骨からのカルシウム放出を長期間にわたって抑制します。点滴で投与し、その効果は数週間から数ヶ月持続します。

デノスマブ(抗RANKL抗体薬)も同様に破骨細胞の働きを抑える薬で、特に腎機能が低下している患者さんにも使いやすいという特徴があります。

手術療法(副甲状腺摘出術など)

副甲状腺機能亢進症に対する手術(副甲状腺摘出術)は、原因となっている副甲状腺だけを摘出するものです。

手術前には、超音波検査やシンチグラフィといった画像検査で、腫大した副甲状腺の場所を正確に特定することが重要です。

手術は全身麻酔で行い、首の前面を小さく切開して行います。多くの場合、術後速やかにPTH値とカルシウム値は正常化します。

治療中の食事と生活における注意点

高カルシウム血症の治療中は、薬物療法や手術だけでなく、日々の生活習慣を見直すことも症状の管理や再発予防につながります。

水分補給の重要性

最も大切なことは、十分な水分を摂ることです。水分を多く摂ることで尿量が増え、尿からのカルシウム排泄が促されます。また、高カルシウム血症によって起こりやすい脱水を防ぐ効果もあります。

特に夏場や運動後など汗をかきやすい場面では、意識して水分を補給することが重要です。1日に2リットル程度の水分摂取を目安にするとよいでしょう。

カルシウム摂取の考え方

高カルシウム血症だからといって、極端にカルシウムを多く含む食品を避ける必要は、通常はありません。日本の一般的な食事でカルシウムが過剰になることはまれです。

むしろ、過度な制限は栄養バランスを崩す可能性があります。ただし、カルシウムのサプリメントや、カルシウムが強化された健康食品の利用は、治療中は控えるべきです。

医師や管理栄養士の指示に従うことが大切です。

カルシウムを比較的多く含む食品の例

食品カテゴリ食品名特記事項
乳製品牛乳、チーズ、ヨーグルト吸収率が良い。
小魚類ししゃも、干しエビ骨ごと食べられるもの。
大豆製品・野菜豆腐、小松菜、水菜バランス良く摂取する。

ビタミンDとの関係

ビタミンDは、腸管からのカルシウム吸収を助ける働きがあります。そのため、ビタミンDを過剰に摂取すると、高カルシウム血症を悪化させる可能性があります。

ビタミンDのサプリメントを自己判断で摂取することは避けましょう。通常の食事に含まれるビタミンDまで制限する必要はありませんが、どのような食品に多く含まれるかを知っておくとよいでしょう。

ビタミンDを比較的多く含む食品の例

食品カテゴリ食品名特記事項
魚類サケ、サンマ、イワシ特に青魚に多い。
きのこ類きくらげ、干ししいたけ天日干しで増加する。
卵類鶏卵(特に卵黄)手軽な供給源。

日常生活で気をつけること

治療中は、体調の変化に注意しながら、無理のない範囲で日常生活を送ることが大切です。

  • 長期間動かないでいると骨からカルシウムが溶け出しやすくなるため、適度な運動を心がける。
  • 市販の風邪薬やサプリメントを服用する際は、必ず医師や薬剤師に相談する。
  • 定期的な受診を続け、血液検査などでカルシウム値をチェックする。
  • 多飲・多尿、倦怠感などの症状が強くなった場合は、早めに医療機関に連絡する。

高カルシウム血症の治療に関するよくある質問

最後に、高カルシウム血症の治療に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
治療はどのくらいの期間かかりますか?
A

治療期間は、高カルシウム血症の原因と治療法によって大きく異なります。副甲状腺の手術が成功すれば、根本的に治癒し、長期的な投薬は不要になることが多いです。

一方、悪性腫瘍が原因の場合は、がんの治療が続く限り、カルシウム値を管理するための治療も継続する必要があります。

慢性的な病気が原因の場合は、生涯にわたって定期的な検査や治療が必要になることもあります。

Q
治療費はどのくらいかかりますか?
A

治療費は、入院の有無、手術の種類、使用する薬剤などによって大きく変動します。

高額な治療になることもありますが、日本には高額療養費制度があり、所得に応じて1ヶ月の医療費の自己負担額に上限が設けられています。

また、がんの治療などでは、さらに別の公的助成が受けられる場合もあります。費用について心配な点は、病院のソーシャルワーカーや相談窓口に問い合わせてみましょう。

Q
どの診療科を受診すればよいですか?
A

健康診断などで高カルシウム血症を指摘された場合、まずはかかりつけ医に相談するのが第一歩です。専門的な検査や治療が必要な場合は、原因に応じて適切な診療科を紹介してもらえます。

  • 内分泌内科(副甲状腺などのホルモンの病気が疑われる場合)
  • 腎臓内科(腎機能や電解質の管理が必要な場合)
  • 腫瘍内科・血液内科(悪性腫瘍が疑われる場合)
  • 総合診療科(原因がはっきりしない場合)

多飲・多尿の症状が強い場合は、これらの診療科が連携して治療にあたることが多いです。

Q
治療しないとどうなりますか?
A

高カルシウム血症を治療せずに放置すると、様々な合併症のリスクが高まります。腎臓にカルシウムが沈着して腎機能が低下したり、尿路結石ができやすくなったりします。

また、骨からカルシウムが失われ続けることで、骨がもろくなる骨粗しょう症が進行し、骨折しやすくなります。

最も危険なのは、カルシウム値が急激に上昇して意識障害などを引き起こす高カルシウム血症クリーゼです。

この状態は命に関わるため、適切な治療を受けることが非常に重要です。

以上

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