糖尿病の治療で薬を服用している中で、「最近、異常に喉が渇く」「トイレの回数がかなり増えた」と感じていませんか。

それは、血糖コントロールを目的とした薬が影響している可能性があります。特にSGLT2阻害薬などの特定の薬は、その作用から多飲・多尿を引き起こすことがあります。

この記事では、糖尿病の薬物療法が原因で起こる多飲・多尿について、その背景から医療機関での検査、具体的な治療法、ご自身でできるケアまでを詳しく解説します。

糖尿病の薬が多飲・多尿を引き起こす理由

糖尿病治療薬の中には、血糖値を下げる作用の一環として、尿の量を増やすものがあります。尿量が増えれば、体内の水分が減るため、喉が渇きやすくなります。

これが、薬物療法に伴う多飲・多尿の基本的な成り立ちです。すべての薬が原因となるわけではなく、特定の種類の薬で起こりやすい傾向があります。

SGLT2阻害薬の作用

多飲・多尿の主な原因として挙げられるのが「SGLT2阻害薬」です。

この薬は、腎臓の近位尿細管という場所で、血液中に再吸収されるはずのブドウ糖(グルコース)を、尿と一緒に体外へ排出させることで血糖値を下げます。

ブドウ糖が尿中に多く排出される際、浸透圧の働きで水分も一緒に排出されます。結果として尿量が増加し、頻尿や多尿につながります。

体内の水分量が減少するため、脱水を防ごうと体は水分を欲し、多飲の症状が現れます。

多飲・多尿を誘発する可能性のあるSGLT2阻害薬の例

一般名(製品名)特徴注意点
イプラグリフロジン(スーグラ)日本で最初に承認されたSGLT2阻害薬の一つ。服用初期に尿量の変化を感じやすい。
ダパグリフロジン(フォシーガ)血糖降下作用に加え、心不全や腎臓保護の効果も期待される。利尿作用が比較的強いとされる。
エンパグリフロジン(ジャディアンス)心血管イベントのリスクを減少させる効果が示されている。他のSGLT2阻害薬と同様に脱水に注意が必要。

その他の血糖降下薬の影響

SGLT2阻害薬ほど顕著ではありませんが、他の血糖降下薬が間接的に多飲・多尿に関わることもあります。

例えば、薬の効果が強すぎて低血糖になった場合、その反動で血糖値が急上昇する「ソモジー効果」が起こることがあります。

血糖値が急激に高くなると、高血糖そのものが原因で多飲・多尿の症状が出ることがあります。これは薬の直接的な副作用とは少し異なりますが、薬物療法が関連している一例です。

高血糖自体が原因の場合との見分け方

糖尿病の薬を飲んでいても、血糖コントロールがうまくいっていない場合、高血糖が原因で多飲・多尿が起こります。薬の副作用か、高血糖が原因かを見分けることは重要です。

一つの目安は、薬の服用開始や変更のタイミングと症状が出始めた時期が一致するかどうかです。

また、家庭用の血糖測定器で血糖値を測り、高い数値が続いている場合は、高血糖が原因である可能性を考えます。

見分けるためのポイント

  • 薬の服用を開始・変更した直後から症状が始まったか
  • 血糖値が安定しているにもかかわらず症状が続くか
  • 体重が急激に減少していないか(SGLT2阻害薬でも起こるが高血糖でも顕著)

自己判断で服薬を中断する危険性

多飲・多尿がつらいからといって、ご自身の判断で薬の服用を中止することは絶対に避けてください。服薬を中断すると、血糖コントロールが急激に悪化し、高血糖による様々な合併症のリスクを高めます。

特に、シックデイ(発熱や下痢、嘔吐など、他の病気にかかった状態)でないにもかかわらずSGLT2阻害薬を急にやめると、ケトアシドーシスという危険な状態に陥る可能性も指摘されています。

必ず医師や薬剤師に相談し、指示を仰ぐことが大切です。

多飲・多尿の治療を開始する前の準備

症状について医師に正確に伝え、適切な診断と治療につなげるためには、事前の準備が重要です。ご自身の状態を客観的に把握し、整理しておくことで、診察がスムーズに進みます。

症状の記録をつける

いつから、どのような症状があるのかを具体的に記録しておくと、医師が診断する上で非常に役立つ情報となります。

「トイレが近い」というだけでなく、「日中何回、夜間何回」「1回の尿量は多いか少ないか」「どのくらい水分を飲んでいるか」などを記録します。排尿日誌をつけることも有効な方法です。

症状記録の項目例

記録項目記録内容の例ポイント
飲水量ペットボトル2本分(約1L)と、お茶を5杯(約1L)で合計2L程度何を飲んだかも記録すると良い。
排尿回数日中10回、夜間3回時間帯を分けて記録する。
1回の尿量毎回コップ1杯分くらいは出る「多い」「普通」「少ない」など感覚でも良い。

服用中の薬のリストアップ

現在服用しているすべての薬(糖尿病の薬以外も含む)をリストアップしておくことが必要です。お薬手帳を持参するのが最も確実です。

サプリメントや健康食品を摂取している場合も、相互作用の可能性があるため、忘れずに医師に伝えてください。

薬の名前、用法、用量を正確に伝えることで、原因となっている薬を特定しやすくなります。

医師に伝えたいことの整理

診察の限られた時間の中で、伝えたいことを漏れなく話せるように、あらかじめメモにまとめておくと安心です。

症状による生活への影響(例:夜中に何度も起きて眠れない、仕事に集中できないなど)や、治療に対する希望、不安に思っていることなどを書き出しておきましょう。

医師に伝えるべきこと

  • 最も困っている症状は何か
  • 症状はいつから始まったか
  • 生活にどのような支障が出ているか
  • 治療について不安な点や質問したいこと

何科を受診するべきか

まずは、糖尿病の治療でかかっている主治医(内分泌内科、糖尿病内科、または一般内科)に相談するのが第一選択です。主治医はあなたの血糖コントロールの状態や処方している薬を最もよく把握しています。

もし、頻尿の症状が特に強く、泌尿器科的な問題(前立腺肥大症や過活動膀胱など)も考えられる場合は、主治医から泌尿器科を紹介されることもあります。

医療機関で行う検査と診断

医療機関では、多飲・多尿の原因を正確に突き止めるために、いくつかの検査を行います。問診で詳しく話を聞くことから始まり、血液検査や尿検査などを通じて総合的に診断します。

問診で確認する項目

問診は診断の第一歩であり、非常に重要です。事前に準備した症状の記録や薬のリストをもとに、医師からの質問に答えます。

医師は、症状の具体的な内容、始まった時期、生活への影響、既往歴、家族歴などを詳しく確認します。

問診でよく確認される項目

カテゴリ確認内容の例質問の意図
症状について1日の飲水量、排尿回数(昼・夜)、尿意の強さ症状の程度とパターンを把握するため。
生活習慣食事内容、カフェインやアルコールの摂取量症状を増悪させる因子がないか確認するため。
服用中の薬お薬手帳の確認、サプリメントの有無薬物性の原因を特定するため。

血液検査と尿検査

血液検査と尿検査は、体の状態を客観的に評価するために行います。

血液検査では、血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)で血糖コントロールの状態を確認するほか、腎機能や電解質(ナトリウムなど)のバランスを調べ、脱水がないかなどを評価します。

尿検査では、尿中の糖やケトン体の有無、尿の濃さ(浸透圧)などを測定し、SGLT2阻害薬がどの程度効いているか、あるいは高血糖の状態でないかを確認します。

血液検査・尿検査の主な項目

検査種類主な項目調べること
血液検査血糖値、HbA1c、血中電解質、腎機能(eGFR)血糖コントロール状態、脱水の有無、腎臓への負担
尿検査尿糖、尿ケトン体、尿比重、尿浸透圧高血糖の程度、体の水分バランス、ケトアシドーシスの兆候

水分制限試験の概要

多飲・多尿の原因が、心因性のものか、あるいは腎臓での水分再吸収に異常がある「尿崩症」という病気かなどを鑑別するために、水分制限試験を行うことがあります。

これは、一定時間水分を摂るのをやめて、体重や尿の量・濃さの変化を調べる検査です。通常は入院して行いますが、薬物性が強く疑われる場合は、必ずしも実施するわけではありません。

その他の必要な検査

症状や診察の結果によっては、他の病気が隠れていないか調べるために追加の検査を行うことがあります。

例えば、夜間頻尿が著しい場合は、泌尿器科的な観点から腹部超音波(エコー)検査で膀胱や前立腺の状態を確認することがあります。

原因を多角的に探ることが、適切な治療につながります。

薬物療法が原因の多飲・多尿に対する治療法

検査で薬が原因であると判断された場合、治療は主に薬の調整と生活習慣の見直しによって行います。

血糖コントロールを維持しながら、いかに生活の質(QOL)を損なう症状を軽減できるかが治療の目標となります。

薬の種類の変更や用量の調整

最も直接的な治療法は、原因となっている薬の調整です。SGLT2阻害薬が原因であれば、医師の判断のもと、減量するか、あるいは他の系統の血糖降下薬に変更・追加することを検討します。

例えば、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬など、利尿作用の少ない薬への切り替えが一つの選択肢です。ただし、薬の変更は血糖値の変動に影響を与えるため、慎重に行う必要があります。

薬の変更・調整パターンの例

調整パターン内容期待される効果
用量の減量SGLT2阻害薬の1日の服用量を減らす。利尿作用を弱め、症状を緩和する。
薬剤の変更SGLT2阻害薬をDPP-4阻害薬などに切り替える。利尿作用のない薬で血糖コントロールを目指す。
他剤の併用SGLT2阻害薬を減量し、他の系統の薬を追加する。複数の作用で血糖を管理し、副作用を軽減する。

生活習慣の見直しによるアプローチ

薬の調整と並行して、生活習慣の見直しも重要です。特に水分や食事の摂り方を工夫することで、症状をコントロールしやすくなります。

医師や管理栄養士と相談しながら、ご自身の生活スタイルに合った方法を見つけることが大切です。

脱水症状への対策

SGLT2阻害薬を服用している間は、脱水に注意することが基本です。特に夏場や運動時、発熱時などは意識して水分を補給する必要があります。

ただし、やみくもに大量の水を飲むと、かえって頻尿を悪化させることもあります。水分補給は計画的に行い、脱水のサイン(口の渇き、めまい、だるさなど)を見逃さないようにしましょう。

治療目標の設定

治療を進めるにあたり、医師と患者が共通の目標を持つことが重要です。「夜、トイレに起きる回数を1回にしたい」「日中のトイレの不安をなくしたい」など、具体的な目標を設定します。

その目標に向かって、薬の調整やセルフケアを行い、定期的に効果を評価しながら治療方針を修正していきます。

治療と並行して行うセルフケア

医療機関での治療に加え、日常生活での工夫も症状の緩和に役立ちます。ご自身でできるケアを実践することで、より快適な生活を送ることが可能になります。

水分補給の適切なタイミングと量

水分の摂り方は非常に重要です。一度にがぶ飲みするのではなく、こまめに少しずつ飲むのが基本です。

特に、就寝前に大量の水分を摂ると夜間頻尿の原因になるため、寝る2〜3時間前からは水分を控えるように心がけます。

カフェインやアルコールは利尿作用を強めるため、摂りすぎに注意が必要です。

水分補給のポイント

タイミング飲み方の工夫注意点
起床時コップ1杯の水を飲む。睡眠中に失われた水分を補給する。
日中喉が渇く前に、こまめに補給する。一度に大量に飲まない。
就寝前2〜3時間前から水分摂取を控える。カフェインやアルコールは避ける。

食事内容の工夫

食事も水分バランスに影響します。塩分の多い食事は喉の渇きを誘発するため、減塩を心がけることが大切です。

また、カリウムを多く含む野菜や果物(ただし、腎機能に問題がある場合は注意が必要)は、体内のナトリウム排出を助けます。バランスの取れた食事は、血糖コントロールの安定にもつながります。

食事で注意したい点

  • 塩分の多い加工食品や汁物を控える
  • 香辛料や酸味をうまく利用して薄味に慣れる
  • 食物繊維の多い野菜や海藻を積極的に摂る

体重や血圧のモニタリング

SGLT2阻害薬は、体内の余分な水分や塩分を排出することで、体重減少や血圧低下の効果も期待できます。毎日の体重や血圧を測定・記録することは、薬の効果や脱水の兆候を把握する上で役立ちます。

急激な体重減少が見られる場合は、脱水が進んでいる可能性もあるため、医師に相談してください。

夜間の頻尿対策

夜中に何度もトイレに起きるのは、睡眠の質を大きく低下させます。就寝前の水分制限に加え、体を冷やさないようにすることも有効です。

軽い運動や入浴で体を温め、リラックスして眠りにつく環境を整えましょう。

夜間頻尿対策の具体例

対策具体的な方法目的
夕方以降の運動ウォーキングなどの軽い有酸素運動を行う。下半身のむくみを改善し、夜間の尿量を減らす。
入浴就寝1〜2時間前にぬるめのお湯にゆっくり浸かる。体を温め、リラックス効果で入眠しやすくする。
寝室の環境体を冷やさないように寝具や室温を調整する。冷えによる尿意の刺激を防ぐ。

治療にかかる期間と費用の目安

治療を始めるにあたり、どのくらいの期間がかかり、費用はどの程度になるのかは、多くの方が気にする点です。ここでは一般的な目安について解説します。

治療期間の一般的な見通し

治療期間は、原因や症状の重さ、治療への反応によって個人差が大きいため、一概には言えません。薬の調整がうまくいけば、数週間から数ヶ月で症状が改善することが多いです。

生活習慣の改善も伴うため、ある程度の期間、継続して取り組むことが必要になります。血糖コントロールの状態を見ながら、医師と相談し、長期的な視点で治療を続けます。

医療費の概算

糖尿病治療は基本的に健康保険が適用されます。診察料、検査料、薬剤費などがかかります。

3割負担の場合、月に数千円から一万円程度が目安となりますが、処方される薬の種類や量、行う検査の内容によって変動します。

医療費の目安(3割負担の場合)

項目費用の目安(月額)備考
再診料・処方箋料1,000円〜2,000円程度通院ごとに発生。
検査費用1,000円〜3,000円程度血液検査など。毎回行うとは限らない。
薬剤費2,000円〜7,000円程度薬の種類や量によって大きく異なる。

利用できる医療費助成制度

医療費の負担が大きくなる場合には、いくつかの助成制度を利用できる可能性があります。代表的なものに「高額療養費制度」があります。

これは、1ヶ月の医療費の自己負担額が上限を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。ご自身の所得によって上限額は異なります。

不明な点は、加入している健康保険組合や市町村の窓口、医療機関の相談員に問い合わせてみましょう。

よくある質問

最後に、薬が原因の多飲・多尿治療に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
治療中も薬は飲み続けるのですか?
A

はい、基本的には糖尿病の治療薬は飲み続けます。

多飲・多尿の症状を緩和するために、薬の種類を変更したり、量を調整したりすることはありますが、血糖コントロールを良好に保つことが最も重要だからです。

自己判断で中断せず、必ず医師の指示に従ってください。

Q
症状が改善したら治療はやめても良いですか?
A

症状が改善しても、ご自身の判断で治療をやめることはできません。症状の改善は、薬の調整や生活習慣の工夫がうまくいっている証拠です。

治療を中断すると、再び症状が現れたり、血糖コントロールが悪化したりする可能性があります。治療の継続や終了については、医師が体の状態を総合的に判断します。

Q
治療によって血糖コントロールが悪化しませんか?
A

医師は、血糖コントロールを悪化させないことを大前提として治療方針を決定します。SGLT2阻害薬を減量・中止する際には、他の薬で効果を補うなど、血糖値が不安定にならないように細心の注意を払います。

治療の前後で定期的に血液検査を行い、血糖コントロールの状態を確認しながら進めるので、過度な心配は不要です。

Q
家族ができるサポートはありますか?
A

ご家族の理解とサポートは、患者さんにとって大きな力になります。まず、多飲・多尿が薬の影響で起こりうることを理解し、本人のつらさに寄り添うことが大切です。

食事面で減塩に協力したり、夜間頻尿で眠れていない様子があれば休息を促したりするなど、日常生活の中での気配りが助けになります。

また、可能であれば一緒に診察に同席し、医師の説明を聞くことも良いでしょう。

以上

参考にした論文

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