「最近、異常に喉が渇いて水分をたくさん摂ってしまう」「トイレに行く回数が明らかに増えた」と感じていませんか。その症状は、もしかすると糖尿病が原因で起きているサインかもしれません。

多飲・多尿は、血糖値が高い状態が続くことで体に現れる代表的な変化です。

この記事では、糖尿病による多飲・多尿がなぜ起こるのか、そしてその根本的な解決につながる治療法について、診断から食事、運動、薬物療法に至るまで、段階を追って詳しく解説します。

糖尿病による多飲・多尿はなぜ起こるのか

多飲・多尿の症状は、体からのSOSサインです。特に糖尿病においては、高血糖という体の内部環境の変化が直接的な原因となります。

ここでは、その背景にある体の働きについて解説します。

高血糖と浸透圧利尿の関係

健康な状態では、腎臓は血液をろ過し、体に必要な糖分を再吸収して尿中にはほとんど排出されません。

しかし、糖尿病によって血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が異常に高くなると、腎臓の再吸収能力を超えてしまいます。行き場を失った過剰な糖は、尿と一緒に排出するしかありません。

このとき、糖は水分を引き連れて排出される性質を持っています。これを「浸透圧利尿」と呼びます。

血液中の糖濃度が高まることで尿の浸透圧も上昇し、結果として大量の水分が尿として体外へ出て行ってしまうのです。

体内の水分バランスの乱れ

浸透圧利尿によって尿量が増えると、体は水分不足、つまり脱水状態に陥ります。体が水分不足を感知すると、脳にある口渇中枢が刺激され、「喉が渇いた」という強い感覚(口渇感)が生じます。

この口渇感に応じて水分を大量に摂取するため、「多飲」という症状が現れます。つまり、「多尿」が原因で脱水状態になり、それを補うために「多飲」が起こるという一連の流れが形成されるのです。

これは、体の水分バランスを必死に保とうとする防御反応でもあります。

放置するリスクと合併症

多飲・多尿は単なる不快な症状ではありません。これは高血糖が続いている証拠であり、放置すると深刻な事態を招く可能性があります。

高血糖の状態は、全身の血管、特に細い血管にダメージを与え続けます。その結果、糖尿病特有の合併症を引き起こすリスクが高まります。

主な三大合併症

  • 糖尿病網膜症(失明の原因)
  • 糖尿病腎症(人工透析の原因)
  • 糖尿病神経障害(足の壊疽やしびれの原因)

これらの合併症は、一度進行すると元の状態に戻すことが困難な場合が多く、生活の質を大きく損ないます。

多飲・多尿のサインに気づいた時点で、速やかに原因である高血糖の治療を開始することが、将来の健康を守る上で極めて重要です。

治療の第一歩 医療機関での診断

「もしかして糖尿病かもしれない」と感じたら、自己判断で様子を見るのではなく、専門の医療機関を受診することが大切です。

正確な診断を受けることが、適切な治療への最短ルートとなります。

受診すべき診療科

多飲・多尿や高血糖が疑われる場合、まずはかかりつけの内科医に相談するのが一般的です。より専門的な診断や治療が必要な場合は、糖尿病内科や内分泌・代謝内科を紹介されることもあります。

どの科を受診すればよいか迷う場合は、まずはお近くの内科クリニックに電話で問い合わせてみるのも良いでしょう。

診断のために行われる検査

糖尿病の診断は、主に血液検査と尿検査によって行います。これらの検査で血糖値の状態を客観的に評価し、診断を確定します。

診断で行われる主な検査

検査項目目的内容
血液検査(血糖値)現在の血糖値を確認する空腹時または食後に採血し、血液中のブドウ糖濃度を測定します。
血液検査(HbA1c)過去1〜2ヶ月の血糖平均値を知る赤血球中のヘモグロビンとブドウ糖が結合したものの割合を測定します。
尿検査(尿糖)尿中に糖が漏れ出ているか確認する試験紙を使って、尿中のブドウ糖の有無を調べます。

医師に伝えるべき症状

診察時には、ご自身の症状をできるだけ具体的に医師に伝えることが、正確な診断の助けになります。事前にメモを準備しておくと、伝え忘れを防ぐことができます。

伝えるべき症状の例

  • いつから多飲・多尿の症状が始まったか
  • 1日にどのくらいの水分を飲むか、何回くらいトイレに行くか
  • 体重の増減(特に意図しない体重減少)
  • 疲れやすさ、だるさの有無
  • その他気になる体の変化(視力、手足のしびれなど)

糖尿病治療の基本方針

糖尿病治療の最終的な目標は、合併症の発症や進行を防ぎ、健康な人と変わらない生活の質を維持することです。

そのために、高血糖の状態を改善し、良好な血糖コントロールを続けることが治療の基本となります。

血糖コントロールの目標設定

治療を開始するにあたり、医師は患者さん一人ひとりの年齢、合併症の有無、生活状況などを考慮して、個別の血糖コントロール目標を設定します。

目標を明確にすることで、治療への意欲も維持しやすくなります。

血糖コントロール目標値の例(成人の場合)

指標目標値備考
HbA1c7.0%未満合併症予防のための目標。
空腹時血糖値130mg/dL未満食事前の血糖値。
食後2時間血糖値180mg/dL未満食後の血糖値の上昇を抑えることも重要。

これらの数値はあくまで一般的な目標であり、個々の患者さんの状態によって調整します。

特に高齢者の場合や、重い低血糖を起こす危険がある場合は、より緩やかな目標を設定することもあります。

治療計画の立て方

治療計画は、食事療法、運動療法、薬物療法の3つを柱として組み立てます。

基本的には、まず食事療法と運動療法から開始し、それだけでは血糖コントロールの目標達成が難しい場合に薬物療法を追加・調整していくのが一般的です。

患者さんのライフスタイルや考え方を尊重しながら、無理なく継続できる計画を一緒に立てていきます。

チーム医療の重要性

糖尿病治療は、医師だけでなく、看護師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士など、多くの専門家が連携して患者さんを支える「チーム医療」が重要です。

それぞれの専門家が専門的な知識や技術を活かして関わることで、より質の高い、きめ細やかな治療を提供できます。患者さん自身もチームの一員として、積極的に治療に参加する姿勢が大切です。

食事療法による血糖コントロール

食事療法は、糖尿病治療の根幹をなす最も重要な要素です。毎日の食事を見直すことで、食後の血糖値の急上昇を抑え、安定した血糖コントロールを目指します。

エネルギー摂取量の調整

まず基本となるのが、自分に適したエネルギー摂取量を知ることです。エネルギーの摂り過ぎは血糖値を上げる直接的な原因となります。

適切なエネルギー量は、年齢、性別、身長、体重、そして日常の活動量によって決まります。

医師や管理栄養士が、個々の状態に合わせて「1日あたり〇〇キロカロリー」といった具体的な目標を設定します。

栄養バランスの考え方

エネルギー量だけでなく、栄養素のバランスも非常に重要です。

特定の栄養素に偏ることなく、主食(炭水化物)、主菜(たんぱく質)、副菜(ビタミン・ミネラル)をそろえたバランスの良い食事を心がけます。

三大栄養素のバランスの目安

栄養素エネルギー比率の目安主な食品
炭水化物50~60%ごはん、パン、麺類、いも類
たんぱく質15~20%肉、魚、卵、大豆製品
脂質20~25%油、バター、ナッツ類

食事のタイミングと回数

食事を抜いたり、まとめ食いをしたりすると、次の食事で血糖値が急激に上昇しやすくなります。できるだけ毎日同じような時間に、1日3食を規則正しく摂ることが、血糖値の安定につながります。

また、よく噛んでゆっくり食べることも、満腹感を得やすくし、血糖値の急上昇を緩やかにする効果が期待できます。

血糖値を上げにくい食品の選択

同じ炭水化物でも、食後の血糖値の上がりやすさには違いがあります。この指標を「GI(グリセミック・インデックス)」と呼びます。

GI値が低い食品は、血糖値の上昇が緩やかであるため、食事に取り入れることが推奨されます。

主な食品のGI値分類の例

分類特徴食品例
高GI食品食後血糖値が上がりやすい白米、食パン、じゃがいも、菓子類
中GI食品中程度の上昇パスタ、うどん、かぼちゃ
低GI食品食後血糖値が上がりにくい玄米、全粒粉パン、そば、葉物野菜、きのこ類

食物繊維が豊富な野菜やきのこ、海藻類を食事の最初に食べる「ベジファースト(野菜先食べ)」も、血糖値の急上昇を抑えるのに有効な方法です。

運動療法がもたらす効果

運動療法は、食事療法と並ぶ糖尿病治療の重要な柱です。定期的な運動は、血糖値を下げるだけでなく、体質そのものを改善する多くの良い効果をもたらします。

運動が血糖値に与える影響

運動を行うと、筋肉がエネルギー源として血液中のブドウ糖を直接消費するため、血糖値が下がります。さらに、運動を継続することで、「インスリン抵抗性」が改善します。

インスリン抵抗性とは、インスリンが効きにくくなっている状態のことです。この状態が改善されると、少ないインスリンでも効率よく血糖値を下げられるようになり、血糖コントロールが全体的に安定します。

推奨される運動の種類と強度

糖尿病の運動療法では、主に「有酸素運動」と「レジスタンス運動(筋力トレーニング)」を組み合わせて行うことが効果的です。

運動療法の種類と特徴

運動の種類特徴具体例
有酸素運動比較的軽い負荷で長時間継続する運動。ブドウ糖や脂肪を燃焼させる。ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリング
レジスタンス運動筋肉に抵抗をかける動作を繰り返す運動。筋肉量を増やし、基礎代謝を上げる。スクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操

運動の強度は、「ややきつい」と感じる程度が目安です。週に3~5日、合計で150分以上の有酸素運動と、週に2~3回のレジスタンス運動を組み合わせることが推奨されています。

まずは無理のない範囲で、日常生活にウォーキングを取り入れるなど、できることから始めるのが長続きのコツです。

運動を行う上での注意点

安全に運動療法を続けるためには、いくつかの注意点を守る必要があります。特に薬物療法を行っている方は、低血糖に注意が必要です。

運動時の主な注意点

  • 運動前後に血糖値を測定する
  • 空腹時の運動は避ける
  • 低血糖に備えてブドウ糖などを携帯する
  • 脱水を防ぐため、こまめに水分補給を行う
  • 足に傷やタコがないか、運動前後にチェックする

運動を始める前には、必ず主治医に相談し、ご自身の体の状態に合った運動の種類や強度について指導を受けてください。

心臓や腎臓に合併症がある場合は、運動が制限されることもあります。

薬物療法によるアプローチ

食事療法や運動療法を十分に行っても血糖コントロールの目標が達成できない場合、薬物療法を併用します。

糖尿病の薬には様々な種類があり、それぞれの患者さんの病状や体の状態に合わせて最適な薬を選択します。

経口血糖降下薬の種類と働き

経口血糖降下薬は、飲み薬タイプの糖尿病治療薬です。作用の仕方によっていくつかのグループに分けられ、単独で使われたり、複数を組み合わせて使われたりします。

主な経口血糖降下薬の種類と作用

薬の種類主な作用備考
ビグアナイド薬肝臓で糖が作られるのを抑え、インスリンの効きを良くする。古くから使われている基本的な薬です。
SGLT2阻害薬尿中に過剰な糖を排出させることで血糖値を下げる。多尿の症状が一時的に強まることがあります。
DPP-4阻害薬血糖値に応じてインスリンの分泌を促す。低血糖を起こしにくいのが特徴です。

この他にも、α-グルコシダーゼ阻害薬(食後の血糖上昇を緩やかにする)、チアゾリジン薬(インスリンの効きを良くする)、SU薬(インスリンの分泌を強力に促す)など、多くの種類の薬があります。

医師はこれらの薬の特徴を理解した上で、患者さん一人ひとりに合った処方を行います。

インスリン療法の概要

インスリン療法は、体内で不足したり、働きが弱まったりしているインスリンを、注射によって直接補う治療法です。

インスリン製剤には、効果が現れるまでの時間や持続時間によって、いくつかの種類があります。

インスリン製剤の種類と作用時間の例

種類作用主な使用タイミング
超速効型注射後すぐに効き始め、食後の血糖上昇を抑える。毎食直前
持効型溶解1日中、安定して基礎的なインスリンを補う。1日1回、決まった時間
混合型超速効型と中間型などを組み合わせたもの。1日1~2回

「インスリン注射は一度始めたらやめられない」「糖尿病の末期」といったイメージを持つ方もいますが、それは誤解です。

早期からインスリン療法を始めることで、疲弊した膵臓を休ませ、その機能を長持ちさせる効果も期待できます。インスリンは、血糖コントロールのための強力で安全な選択肢の一つです。

薬物療法の副作用と対策

どんな薬にも副作用の可能性があります。糖尿病治療薬で最も注意すべき副作用は「低血糖」です。低血糖とは、血糖値が下がりすぎてしまう状態で、冷や汗、動悸、手の震えなどの症状が現れます。

重症化すると意識を失うこともあるため、正しい知識と対処法を身につけておくことが重要です。

薬を服用し始めたら、医師や薬剤師から副作用について十分な説明を受け、気になる症状があればすぐに相談してください。

治療中のセルフモニタリング

治療の効果を確認し、日々の血糖コントロールをより良くしていくためには、自分自身の体の状態を把握する「セルフモニタリング」が重要になります。

特に血糖自己測定は、治療の道しるべとなる貴重な情報源です。

血糖自己測定(SMBG)の意義

血糖自己測定(Self-Monitoring of Blood Glucose, SMBG)は、専用の測定器を使って、患者さん自身が指先などから少量の血液を採取し、その時点での血糖値を測定することです。

これにより、医療機関での検査だけでは分からない、日常生活の中での細かい血糖値の変動を知ることができます。

食事や運動、ストレスなどが血糖値にどう影響するかを具体的に知ることで、生活習慣の改善にも役立ちます。

測定結果の記録と活用法

測定した血糖値は、必ずノートなどに記録しておきましょう。食事の内容や時間、運動、体調なども一緒に記録すると、血糖値の変動の原因がより明確になります。

この記録は、診察時に医師が治療方針を判断するための非常に重要な情報となります。記録を見ながら医師や看護師と一緒に振り返ることで、次の目標や改善点が見えてきます。

血糖自己測定のタイミングの例

測定タイミング目的
起床時・空腹時基礎的な血糖値の状態を把握する。
食前食事前の血糖値を確認し、インスリン量を調整する際の参考にする。
食後2時間食事内容が血糖値に与える影響を確認する。

測定の回数やタイミングは、治療内容や病状によって異なりますので、主治医の指示に従ってください。

体調変化に気づくためのポイント

血糖値の記録だけでなく、日々の体調の変化に注意を払うことも大切です。多飲・多尿の症状が改善してきたか、あるいは逆に悪化していないか。疲れやすさや体重の変化はどうか。

足にしびれや傷はないか。こうした日々の小さな変化に気づくことが、合併症の早期発見や治療法の適切な調整につながります。自分の体の声に耳を傾ける習慣をつけましょう。

よくある質問

糖尿病の治療に関して、多くの方が抱く疑問についてお答えします。

Q
治療を始めたら多飲・多尿はすぐに治まりますか?
A

治療を開始して血糖値が良好にコントロールされ始めると、多飲・多尿の症状は比較的速やかに改善することが多いです。

血糖値が正常範囲に近づくことで、尿中に糖が過剰に排出される「浸透圧利尿」が収まり、それに伴う喉の渇きも軽減されるためです。

ただし、効果の現れ方には個人差があります。焦らずに、医師の指示に従って治療を続けることが大切です。

Q
薬を一度始めたらやめられませんか?
A

必ずしも一生やめられないわけではありません。

薬物療法を開始した後でも、食事療法や運動療法をしっかり行い、体重の減少などによって血糖コントロールが大幅に改善した場合は、薬を減らしたり、やめたりできる可能性は十分にあります。

ただし、自己判断で薬を中断するのは非常に危険です。薬の調整は、必ず医師と相談の上で行ってください。

Q
治療にかかる費用はどのくらいですか?
A

治療にかかる費用は、治療内容(検査、薬の種類など)や通院頻度、加入している健康保険の負担割合によって大きく異なります。

一般的には、定期的な診察、検査、薬の処方で、3割負担の場合、月に数千円から1万円以上になることが多いです。インスリン療法や新しい薬を使用する場合は、さらに費用がかかることもあります。

医療費の負担を軽減するための制度(高額療養費制度など)もありますので、不安な場合は病院の相談窓口やソーシャルワーカーに相談してみましょう。

Q
食事制限が辛いのですが、どうすればよいですか?
A

糖尿病の食事療法は「禁止食」ではなく「管理食」です。食べてはいけないものは基本的にありません。大切なのは、量とバランスです。

食事制限が辛いと感じる場合は、我慢しすぎるのではなく、管理栄養士に相談することをお勧めします。

代替食品を提案してもらったり、調理法を工夫したり、間食の摂り方を工夫したりすることで、食事の楽しみを維持しながら治療を続ける方法を見つけることができます。

一人で抱え込まず、専門家のサポートを活用しましょう。

以上

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