「最近、異常に喉が渇く」「トイレに行く回数が増えた気がする」。こうした症状に心当たりはありませんか。それは「多飲多尿」のサインかもしれません。

この記事では、多飲多尿の具体的な症状や、正常な排尿回数・尿量との比較、頻尿との違いを分かりやすく解説します。

また、背景に隠れている可能性のある糖尿病や尿崩症といった病気についても触れていきます。

多飲・多尿の基準となる排尿回数と量

多飲多尿を考える上で、まず「正常な範囲」を知ることが重要です。

日々の水分摂取量や体格、活動量によって個人差はありますが、一般的な目安を理解することで、ご自身の状態を客観的に判断する手助けになります。

正常な排尿回数と尿量

健康な成人の場合、1日の排尿回数や尿量にはおおよその基準があります。もちろん、これはあくまで目安であり、季節や生活習慣によって変動します。

一般的な排尿の目安

項目一般的な目安(成人)備考
1日の排尿回数日中:4~7回就寝中は0~1回が一般的です。
1回の尿量200~400mLコップ1杯からペットボトル小1本分弱の量です。
1日の総尿量1,000~2,000mL1.5Lのペットボトル1本分前後が目安です。

多尿の定義

医学的に「多尿」とは、1日の尿量が著しく増加した状態を指します。体重によって基準値は異なりますが、一般的な成人における定義を把握しておきましょう。

多尿と判断される尿量の基準

対象1日の尿量
成人3,000mL以上2Lのペットボトル1.5本分を超える量です。
小児体重1kgあたり100mL以上体重20kgの子供なら2,000mL以上です。

この基準を超える尿量が持続する場合、何らかの原因によって体内の水分調節がうまく機能していない可能性が考えられます。

頻尿との違い

「多尿」と「頻尿」は混同されやすいですが、意味は異なります。頻尿は排尿の「回数」が多い状態を指し、多尿は尿の「量」が多い状態を指します。

両者の違いを正しく理解することが大切です。

多尿と頻尿の主な違い

項目多尿頻尿
主な問題尿の総量が多い排尿の回数が多い
1回の尿量正常または多い少ないことが多い
1日の総尿量3,000mL以上など明らかに多い正常範囲内(2,000mL以下)のことが多い

ただし、多尿が原因で結果的に頻尿になることもあります。重要なのは、1回あたりの尿量が多いのか少ないのか、そして1日のトータルの尿量はどうなのか、という点です。

夜間頻尿について

夜間に排尿のために1回以上起きる状態を「夜間頻尿」と呼びます。加齢とともに増える傾向にありますが、多尿が原因で生じることもあります。

夜間の尿量が多い場合は「夜間多尿」といい、1日の総尿量のうち夜間の尿量が占める割合が高い状態を指します。これも多尿の一つのサインとして注意が必要です。

多飲が引き起こす多尿の関連性

多くの場合、多尿は多飲(異常に多くの水分を摂取すること)と密接に関連しています。

喉の渇きを覚えて水分を多く摂るから尿量が増えるのか、それとも尿として水分が過剰に排出されるから喉が渇くのか、その関係性を理解することが原因を探る上で役立ちます。

水分摂取と尿量の関係

私たちの体は、体内の水分バランスを一定に保つための精巧な仕組みを持っています。通常、水分を多く摂取すれば尿量は増え、摂取が少なければ尿は濃縮されて尿量が減ります。

これは腎臓の働きによる正常な反応です。しかし、多飲多尿の状態では、このバランスが崩れています。

心因性多飲と水中毒

病的な原因がないにもかかわらず、精神的な要因(ストレスや不安など)から大量に水分を摂取してしまう状態を「心因性多飲症」と呼びます。

水分を過剰に摂取するため、結果として尿量も増えます(二次的な多尿)。

通常は体の調節機能が働きますが、腎臓の処理能力を超えるほどの水分(例:1時間に1L以上)を摂取し続けると、「水中毒」という危険な状態に陥ることがあります。

体内のナトリウム濃度が極端に低下し、頭痛、嘔吐、意識障害などを引き起こす可能性があります。

多飲につながる生活習慣

病気ではなくても、特定の生活習慣が多飲のきっかけになることがあります。無意識のうちに水分を摂りすぎていないか、ご自身の生活を見直してみましょう。

  • 健康志向による過度な水分補給
  • 習慣的な清涼飲料水やジュースの摂取
  • 口の中の乾燥感(ドライマウス)
  • 利尿作用のある飲料(コーヒー、緑茶、アルコール)の多飲

多尿の主な種類とそれぞれの特徴

多尿は、その発生要因によって大きく二つの種類に分けられます。「水利尿」と「浸透圧利尿」です。どちらの種類に当てはまるかによって、考えられる原因や病気が異なります。

水利尿

水利尿は、腎臓での水分再吸収を担う「抗利尿ホルモン(ADH)」の分泌が低下するか、腎臓がこのホルモンに反応しなくなることで生じます。

簡単に言うと、体にとって必要な水分まで尿として排出してしまう状態です。尿は薄く、色は水のように透明に近くなります。心因性多飲による多尿も、結果的にはこの水利尿の状態になります。

浸透圧利尿

浸透圧利尿は、血液中に糖やナトリウム、カルシウムといった物質(浸透圧物質)が増えすぎ、それらが尿中に排出される際に、水分も一緒に引き連れて出て行ってしまうことで生じます。

代表的な原因は、血糖値が高くなる糖尿病です。尿中に糖が漏れ出ることで尿の浸透圧が高まり、尿量が増加します。

水利尿と浸透圧利尿の比較

項目水利尿浸透圧利尿
主な原因水分の過剰摂取、抗利尿ホルモンの異常血糖、ナトリウムなどの過剰
尿の性状薄く、水に近い(低張尿)成分が溶け込み、濃い(高張尿)
代表的な疾患中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症糖尿病、高カルシウム血症

混合性の多尿

場合によっては、水利尿と浸透圧利尿の両方の要素が関与することもあります。

例えば、慢性腎臓病では、尿を濃縮する力が低下する(水利尿に近い状態)と同時に、体内の老廃物が尿中に多く排出される(浸透圧利尿に近い状態)ことがあり、複雑な病態を示します。

多飲・多尿から考えられる病気(内分泌・代謝疾患)

持続する多飲・多尿は、単なる水分の摂りすぎではなく、体の内部で起きている病気のサインである可能性があります。

特にホルモンの異常や代謝の異常が原因となることが多いです。

糖尿病

多飲・多尿の最も代表的な原因疾患が糖尿病です。血糖値が高い状態が続くと、尿中に糖が溢れ出ます。この糖が水分を引っ張るため、尿量が増加します(浸透圧利尿)。

体から水分が失われるため、強い喉の渇き(口渇)を覚え、さらに多くの水分を摂取するという悪循環に陥ります。

糖尿病の主な初期症状

症状特徴
多飲・多尿特に甘い飲み物を好むようになります。
体重減少食べているのに痩せていきます。
全身の倦怠感体がだるく、疲れやすくなります。

中枢性尿崩症

脳の下垂体から分泌される抗利尿ホルモン(ADH)の量が不足することで発症します。

このホルモンは腎臓に働きかけて水分の再吸収を促す役割があるため、不足すると腎臓が水分を再吸収できなくなり、大量の薄い尿が排出されます(水利尿)。

原因は、頭部の外傷や手術、脳腫瘍など多岐にわたりますが、原因不明のことも少なくありません。

腎性尿崩症

抗利尿ホルモンは正常に分泌されているにもかかわらず、腎臓(特に尿細管)がそのホルモンにうまく反応できない状態です。結果として中枢性尿崩症と同様に、大量の薄い尿が出ます。

遺伝的な要因や、特定の薬剤(リチウムなど)の副作用、腎臓自体の病気が原因で起こります。

中枢性尿崩症と腎性尿崩症の違い

項目中枢性尿崩症腎性尿崩症
原因抗利尿ホルモンの分泌不足腎臓の抗利尿ホルモンへの反応不良
血中ADH濃度低い正常または高い
治療法ホルモン補充療法(デスモプレシン)原因疾患の治療、食事療法、利尿薬

高カルシウム血症

血液中のカルシウム濃度が異常に高くなる状態です。

カルシウムには利尿作用があり、また腎臓の尿濃縮機能を障害するため、多尿を引き起こします(浸透圧利尿と水利尿の混合)。副甲状腺機能亢進症や悪性腫瘍などが原因となります。

  • 副甲状腺機能亢進症
  • 悪性腫瘍(骨転移など)
  • ビタミンD過剰症

多飲・多尿から考えられる病気(腎臓の疾患)

多飲・多尿は、腎臓そのものの機能が低下しているサインである場合もあります。腎臓は尿を作るだけでなく、体内の水分やミネラルのバランスを調整する重要な臓器です。

慢性腎臓病(CKD)

さまざまな原因によって腎臓の機能が慢性的に低下した状態です。病気が進行すると、腎臓の尿を濃縮する能力が落ちてきます。

そのため、体内の老廃物を排出するために多くの水分が必要となり、結果として尿量が増えることがあります。特に夜間多尿が初期のサインとして現れることもあります。

低カリウム血症性腎症

血液中のカリウム濃度が低い状態が長く続くと、腎臓の機能に障害が出ることがあります。これを低カリウム血症性腎症と呼びます。

この状態では、腎臓が尿を濃縮する力が低下し、腎性尿崩症に似た症状(多尿)が現れます。下剤の乱用や特定のホルモン異常などが原因で低カリウム血症になることがあります。

尿細管間質性腎炎

腎臓の中の尿細管やその周囲の組織(間質)に炎症が起こる病気です。薬剤アレルギーや自己免疫疾患などが原因となります。

尿細管の機能が損なわれるため、尿の濃縮ができなくなり、多尿をきたすことがあります。

自分でできる症状の記録と観察

医療機関を受診する際に、ご自身の症状を正確に伝えることは、的確な診断に繋がる非常に重要な情報です。そのために、「排尿日誌」をつけることを強く推奨します。

排尿日誌の重要性

排尿日誌は、客観的なデータに基づいて医師が診断を下すための強力なツールです。記憶に頼るだけでなく、実際の記録があることで、多尿の程度やパターン、頻尿との区別などが明確になります。

2~3日間記録するだけでも、非常に有益な情報が得られます。

排尿日誌に記録する項目

スマートフォンアプリやノートなどを利用して、以下の項目を記録してみましょう。

排尿日誌の記録項目例

記録項目記録内容の例ポイント
排尿した時刻「8:15」「10:30」など24時間の行動パターンを把握します。
1回ごとの尿量計量カップで測定。「350mL」など正確な量が診断に役立ちます。
水分を摂取した時刻と量・種類「8:00 水 200mL」「12:30 緑茶 150mL」飲んだものが尿量にどう影響するかを見ます。

症状を伝える際のポイント

医師に症状を伝える際は、排尿日誌をもとに、以下の点を整理しておくとスムーズです。

  • いつから症状が始まったか
  • 喉の渇きはどの程度か
  • 他に気になる症状(体重減少、だるさなど)はあるか
  • 現在服用している薬やサプリメント

医療機関を受診する目安

多飲・多尿は放置すべきでない症状です。特に、急に始まった場合や他の症状を伴う場合は、早めに専門医に相談することが大切です。

受診を推奨する具体的な症状

以下のような症状が見られる場合は、医療機関の受診を考えてください。

  • 1日の尿量が明らかに3Lを超えている
  • 異常な喉の渇きが続く
  • 急激な体重減少がある
  • 原因不明の強い倦怠感がある
  • 夜中に何度もトイレに起きることで睡眠が妨げられている

何科を受診すればよいか

多飲・多尿の原因は多岐にわたるため、どの診療科を受診すればよいか迷うかもしれません。症状に応じて適切な診療科を選ぶことが、早期診断・治療への近道です。

症状に応じた受診先の目安

主な症状・状況推奨される診療科考えられる主な疾患
喉の渇き、体重減少、倦怠感を伴う内分泌内科糖尿病内科、一般内科糖尿病、尿崩症、高カルシウム血症
排尿回数が多い、残尿感がある泌尿器科頻尿を主症状とする疾患(過活動膀胱など)
むくみや血圧の上昇を伴う腎臓内科、一般内科慢性腎臓病

最初にどこへ行けばよいか分からない場合は、まずはかかりつけ医や一般内科に相談し、必要に応じて専門の診療科を紹介してもらうのが良いでしょう。

検査の流れと内容

医療機関では、問診や排尿日誌の確認に加え、原因を特定するためにいくつかの検査を行います。主に血液検査と尿検査が中心となります。

  • 血液検査: 血糖値、電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム)、腎機能(クレアチニンなど)、ホルモン値などを調べます。
  • 尿検査: 尿の量、比重(濃さ)、尿糖、尿タンパクなどを調べます。
  • 水制限試験: 尿崩症が疑われる場合に行う専門的な検査です。一定時間水分摂取を制限し、尿や血液の変化を観察します。

これらの検査によって、多尿の原因がどこにあるのかを突き止め、適切な治療方針を決定します。

よくある質問

多飲・多尿に関して、排尿回数や尿量についてよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
1日の排尿回数が8回以上だと頻尿ですか?
A

一般的に、日中の排尿回数が8回以上の場合を「頻尿」の一つの目安とします。

しかし、これはあくまで目安です。水分摂取量や体格、汗をかく量などによって個人差が大きいため、回数だけで一概に異常とは言えません。

重要なのは、1日の総尿量も増えているかどうかです。総尿量が変わらずに回数だけが多い場合は「頻尿」、総尿量自体が3Lを超えるなど明らかに多い場合は「多尿」を考えます。

Q
1回の尿量が少ないのに回数だけ多いのはなぜですか?
A

これは「多尿」ではなく、「頻尿」の典型的な症状です。膀胱に十分に尿が溜まっていないにもかかわらず、強い尿意を感じてトイレに行く状態です。

原因としては、膀胱が過敏になる「過活動膀胱」、細菌感染による「膀胱炎」、男性の場合は「前立腺肥大症」などが考えられます。

これらの疾患では、膀胱が刺激されたり、残尿感があったりするため、頻繁にトイレに行きたくなります。

Q
記録をつけたら、日によって尿量が1Lも違うのですが異常ですか?
A

日によって尿量が大きく変動することは珍しくありません。

その日の水分摂取量、食事内容(スープや果物など)、運動による発汗、気温、アルコールやカフェインの摂取など、多くの要因が影響します。

1日だけの尿量で判断するのではなく、数日間記録を続けてみることが大切です。

もし、継続して毎日3Lを超えるような状態が続くのであれば、多尿の可能性を考えて医療機関に相談することをお勧めします。

Q
夜間の尿量だけが多い気がします。これも多尿の一種ですか?
A

はい、それは「夜間多尿」と呼ばれる状態の可能性があります。1日の総尿量は正常範囲内でも、夜間に作られる尿の割合が不相応に多くなる状態を指します。

加齢に伴い、夜間の抗利尿ホルモンの分泌が低下することが一因です。

また、就寝前の水分や利尿作用のある飲み物の過剰摂取、高血圧、心不全、睡眠時無呼吸症候群といった病気が背景にあることもあります。

夜間の頻尿で睡眠が妨げられる場合は、一度専門医に相談してみましょう。

以上

参考にした論文

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